中央氷原に戻ったハンドラー・ウォルターは、次の仕事を取り付けるべく売り込みを行っていた。621がベリウスから戻ってきたとき、すぐに依頼を確認できるようにしておきたかったのだ。
今回の相手はアーキバスだった。封鎖機構に強襲作戦を仕掛けるというので、一枚噛ませてもらう。
『また貴方ですか? 私は忙しいのですが。駄犬の飼い主と違って暇ではないのですよ』
通信が繋がった。相手はV.Ⅱ スネイル。
621を駄犬呼ばわりされてもウォルターはこらえる。我慢だ。ここで話を遮っては仕事を取れない。
「……らしいな。ヴェスパーズ副長ともなれば心労も多いようだ」
『ご要件を』
短く、やや焦燥したスネイルの声が返ってきた。無理もない。
ヴェスパーズ、ひいては企業が忙しくしているのは本当だった。封鎖機構への対処がルビコン全土で行われており、人手も物質も不足していた。621の予定が狂ったのもその影響なのだから。
「封鎖機構への襲撃計画。手駒が足りていないのだろう」
『……そうですか。浅ましくも涙ぐましい営業努力です』
そこに入り込む余地がある。
損得勘定を終えたのか、スネイルが言った。嫌そうに。
『仕方ありませんね。あなたの
流石に看過出来なかった。ウォルターは思わず口走った。
「もうひとつ……俺の猟犬には敬意を表せ。第4世代はどの
何も言わずにスネイルが通信を切った。
その日のうちに詳細な資料が送られてきた。第2隊長はいけ好かない男だが、有能ではあった。
中央氷原に帰還した621は、ウォルターから新たな依頼が来ていることを告げられた。早速ブリーフィングを確認する。
『やあどうも、
まあ聞いてみてくれと、ややうんざりした調子のラスティが映像を再生した。
『V.Ⅱ スネイルです。これより作戦内容を伝達します。私の直属で作戦行動に臨めるのです。光栄に思いなさい』
御託もそこそこに、スネイルが作戦を説明していく。
『惑星封鎖機構の2拠点に対して同時刻かつ秘密裏に急襲をかけます。襲撃目標のひとつはハーロフ通信基地、敵の部隊間通信を中継しています』
ハーロフ通信基地はこれまで戦ってきた入り江から少し離れた、アーレア海に直接面した山地の麓に位置する。ここには中央氷原一帯をカバーするだけの通信能力が備わっていた。
『ふたつめは旧バートラム宇宙港、強襲艦隊の母港として封鎖機構に接収されました』
バートラムは、放置された「アイビスの火」以前のものであろうロケットが目を引く、中央氷原の中心地だ。621の海越え以降、各勢力はこの周囲に拠点を展開してコーラル調査を進めていた。
『ハーロフ基地の方はV.Ⅳ ラスティが受け持ちます。封鎖機構の通信網を混乱に陥れ、精鋭部隊による増援を不可能にする』
通信が回復するまでは、封鎖機構の各拠点は現有戦力で対処しなければならない。この間の「壁」と同じ状況を作り出すのだ。
『レイヴン。その間に、貴方は宇宙港に停泊中の強襲艦を全て破壊してください』
これがスネイルの立てた作戦だった。
『……堅実な計画だ、しかし穴がある。通信網の混乱は一時的なものになるはずだ。こちらの仕事が片付いたら救援に向かおう』
ラスティがそう言って、ブリーフィングを締めくくった。
『この作戦が成功すれば、企業は封鎖機構に大打撃を与えることとなる。V.Ⅱの横柄な態度は放っておけ。お前は自分の仕事をすればいい』
ウォルターとスネイルの間に何かあったのかもしれないと621は思ったが、改めて作戦のことに集中することにした。
『メインシステム、戦闘モード起動』
621はエンゲブレト坑道入口の真上、高台の上に降下した。
『ミッション開始だ。停泊中の強襲艦を全て破壊しろ』
正面にロケットごと放置された発射台が見えた。621の降下地点から発射台までは、即席の居住区画をコの字で囲む高台に設けられている。射点は高台をくり抜いてあり、真下は入り江まで繋がる水路になっていた。
かつては天然の煙道として使われていたが、今は強襲艦隊のブンカーとなっている。事前情報では、ブンカー内に1隻が入渠中という話だった。
621は入渠中の艦を最初の標的に定めた。ブンカーまでは低地に設けられた居住区画を突っ切るのだが、当然敵がいる。従って、まずは居住区画を一掃するところからが仕事だった。
『
621は居住区画を守るパルス砲台やMTを破壊していく。
ラスティから無線が入った。
『ハーロフの近くで待機中だ、
「
『
《惑星封鎖機構のLCです、レイヴン。応戦を》
621はLCを視認。単機だった。球形タンクの隙間に引っかかってもがいている。621は真上からプラズマミサイルとライフルを注ぎこみ、ブレードでタンクごと真っ二つにした。
先へ進む。居住区を横切った先の垂直カタパルトを使い、射点の左側まで到達した。ここにもLCが1機配置についていた。
先ほどのパイロットよりも腕は良かった。盾を効果的に使用し、正確な射撃と的確なミサイル攻撃を行ってきた。そうはいってもLCである。一度スタッガーに追い込めば脆かった。
621は射点正面に移動し、ブンカー入り口を上から守る砲台とMTの排除を始めた。
『排除目標が強襲艦に接近』
『脅威レベル3から4と推定。やらせるな』
ここにはパルスキャノンではなくプラズマキャノンが配備されている。放置すれば厄介だった。
掃除を終えた621はバンカー内部へ突入する。強襲艦は既に稼働しており、機関砲とロケットで621を狙ってきた。アサルトブーストでこれらを振り切り、艦橋に向けてプラズマミサイルとライフルを撃ち込む。艦橋が吹き飛んだ。
『やあ、
艦から噴き出すエネルギーに耐えかねて係留索が切れたのか、艦が水路へ落下していく。
『目標は残り4隻だ』
バンカーから飛び出した621は、射点右側の区画、管制塔エリアに停泊している強襲艦へ接近していく。
先ほどラスティが仕事を始めたという無線が入った。ここからは時間との勝負となる。
LCが2機、時間差で襲ってきた。ミサイルに対しチャフとフレアで妨害してきたが、別の武装を使うまでのことだ。621は2機を各個撃破した。
APが半分近くまで減っていたためリペアキットを使用。
『リペアキット、残数2』
621は停泊している強襲艦の甲板に飛び乗った。
『
『迎撃を開始する』
艦橋にプラズマミサイルを発射、続いて正面より蹴りつける。
強化シールドされた窓が砕け散り、かすかに輝きを放つ。それを暴走したエネルギーが飲み込んでいった。
『順調に進めているようだな、
621は射点の脇を抜けて、残る強襲艦が停泊するエリアを目指す。
『
『脅威レベル4。対処しろ!』
すぐ横からLCが起動、緊急発進しようとする。それを見た621は上を取り一方的に銃撃。スタッガーをとって撃破した。
付近にはもう1機LCがいて、MTと混成チームを組んでいた。ライフルとキックで早急にLCの動きを止め、ブレードでとどめを刺す。
そのまま進路上のMTを掃除しながら、621は移動発射台用レールの上に並べられた強襲艦へ迫った。
《強襲艦はあと3隻です》
『目標が強襲艦に接近中!』
『打ち方始め! 奴を近寄らせるな!』
艦首方向、火器の射角外から接近してホップアップ。艦橋の窓をライフルで狙い、プラズマミサイルで木端微塵にする。
『残り2隻』
今度はライフルのみで艦橋を蜂の巣にする。火花に混じって血煙が上がった。
《あと1隻です。レイヴン》
最後は後ろから艦橋を踏みつけ、潰す。
『全てやったようだな、621』
強襲艦が次々と爆発を起こし、青い炎を噴き上げながら折れていく。
残存艦艇なし。予定された仕事はこなした。
『……いいか、
そこにラスティからの通信が入った。
『強襲艦がそちらへ向かっている。私が着くまで持ちこたえてくれ』
「コピー」
『
ウォルターが封鎖機構の補給網をハック、補給シェルパを使用可能にした。
補給を終えると、上から狙撃型LCが降下してくるのが見えた。2機が移動式発射台の上に着地する。
《敵性反応! 上から狙われています!》
621はアサルトブーストで急上昇、着地して動きが悪いところにプラズマミサイルをぶち込む。
『
『おい……。チッ、本隊到着まで持ちこたえて──』
狙撃型LCは脆い。少数で来るなら更に狩りやすい相手だった。
『増援だ、621。基地正面からだ』
やはり移動式発射台の上に2機、狙撃型LCが降下。すぐに殲滅する。
次の瞬間、エアが叫んだ。
《強襲艦、来ます!》
警告音と共に、HMD上にコーションが出現。わずかながら舞っている雪の中から、2隻の強襲艦がその姿を現した。
『こちらは惑星封鎖機構である』
広域放送による警告を垂れ流しつつ、高速で発射台まで接近してくる。
『武器を捨て、投降せよ──今すぐにだ。抵抗した場合は直ちに強制排除を執行する』
621は先導する艦にアサルトブーストで突撃、チャージしたブレードで艦橋を一刀両断する。
《強襲艦1隻を撃墜》
もう1隻はやや低空を飛行していた。621は降下しながら発砲、艦橋に風穴を開けていく。接近し、蜂の巣になったところを踏み潰した。
《2隻目を撃墜》
『……承認を取得。強制排除執行』
居住区画へ強襲艦が落下し、盛大に爆発する。その最中で、封鎖機構のCOM音声が冷たく響いた。