『
『年貢の納めどきだ』
立ち上る煙の向こうから、声が聞こえた。おそらくペアだ。封鎖機構の新手が到着したようだった。煙が晴れると、作戦開始地点だった高台にその姿が見えた。
1機は細部こそ異なっているが、「壁」で交戦したHC。もう1機は不明。LCをベースにブースタと装甲を増設した、おそらくは新型機。
2対1。エクドロモイも2対1だったが、HCは特務機体よりも耐久力がある。しかしそれさえ何とかすれば殺れる。
算段をつけた621はターゲットアシストを起動しようとして、上空を飛行する1機のACを認めた。
『ふむ、封鎖機構の上級尉官を引いたか……』
空を飛ぶための威嚇的なシルエット、シュナイダー製軽量二脚フレーム「ナハトライアー」。BAWS中心の武装。アーキバスらしくない、内燃式ジェネレータによるオレンジのバーナー。
『待たせてすまない』
紺と黒で塗装された機体の左肩には、口輪をはめた狼のエンブレム。
AC「スティールヘイズ」。コールサイン、V.Ⅳ ラスティ。
『私が背中を守ろう、
巡行モードのアサルトブーストを解除したスティールヘイズが621の隣に着地。ガスを噴き出して排熱、カバーが閉じる。
「了解」
これで2対2。久々の協働作戦としては、むしろ上々の相手だった。
戦闘が始まる。まずラスティが左腕にバーストライフルを持って挨拶。621はアサルトブーストでいつも通り突撃する。
敵機はLCからミサイルがけん制に飛んできた。もちろん当たるものではない。
『
『システムより回答。企業AC、V.Ⅳ ラスティ。独立傭兵、レイヴン。傭兵に関するデータは登録情報との誤差を再照合中』
621、ラスティ共にHCを狙った。別に打ち合わせたわけでもないが、両者の思考は一致していた。
『妙な組み合わせだ』
『企業も選り好みする余裕はないということだ。……くっ⁉』
『驚いたな、君と私を前に喋る余裕があるとはね』
ダブルトリガーの、軽快に動く2機のACに対し、重量級のHCは無力だった。断続的な集中砲火により、10秒もすればACS負荷限界に陥ったのである。
621は更にライフルを撃ちこみ、きりの良いところでブレードに持ち替えて連撃。最後にラスティめがけてHCを蹴り飛ばした。
スタッガー中に蹴りを入れるとACSに負荷が更に加わる──硬直が解けるまで時間がかかる。その時間でラスティが持ち替えたレーザースライサーをフルヒットさせた。
敵機のジェネレータが損傷。青い炎を上げてHCが吹き飛ぶ。
『システムに……報告を……。
《執行機、あと1機です》
『……
LCの新型機は、やはり空中戦が得意だった。しかし空中戦ならスティールヘイズの方に分がある。
LCとラスティが空中で撃ち合うところに、621も下から弾を送り込む。
ラスティがレーザースライサーに持ち替え、連打。弾き飛ばされたところに621がもう1発ぶち込んでスタッガーをとった。直後にプラズマミサイルを発射しつつアサルトアーマーを発動、直撃させる。
《敵機、損傷拡大しています!》
『やるな、
「そちらもだ。上手い」
『お褒めにあずかり光栄だ』
2機でプラズマミサイルを、タイミングをずらしながら発射。一度着地したLCをプラズマの網が捉える。そこにラスティがレーザースライサーで切り込み、スタッガーをとった。
入れ替わるように621が飛び込む。左腕は既にパルスブレードに持ち替えてあった。Xを描くように、2度、叩き切る。胴体のところで敵機がパックリと割れた。
『これは……我々では……。コード……
青白い閃光がLCを包んだ。衝撃で浮き上がったLCは仰向けのまま地面に叩き付けられ、動かなくなった。
《執行機の撃破を確認》
『……システムの判断を通達します。
……なんだ? 621は未だ流れる敵のCOM音声の内容に、戦いがまだ終わっていないことを予感する。
『惑星封鎖に対する脅威現出と見なし──IA-02の起動を許可します』
《何らかの反応を検知しました!》
コーション。方位050、射点左側の何もない氷原の方向だ。距離はおよそ4800m。
《マーカー情報を送信しました。そこに何かが……》
地響き。マーカーの位置からして……地中。
再びマーカーが更新。今度は方位063、距離3413。
これが「IA-02」? いったいどういう代物なのか、621には想像がつかない。
高台の影から飛び出して氷原を目視で確認すべく、621は移動を開始。
その間にもマーカーが更新されていく。速い。距離の数字がどんどん減っていく。
氷原が見えた。宇宙港から連なる、何かの電波装置を支える鉄塔の間から来ている。氷塊が飛び、土煙が立ち上っていた。
それが見る見るうちに接近してきて、地鳴りが一層激しさを増した。
「V.Ⅳ。方位082、アンノウン──」
《……地中からです!》
激しい揺れ、轟音。居住区画の隅で、地中から飛び出した「何か」をFCSが捉えた。ほんの数瞬で捕捉が途切れる。また地中に戻ったようだ。巨大な氷塊がすぐそこまで飛んできた。
飛行していた621が着地したのと、激しい土煙も相まって、それが何かは分からなかった。
むっ⁉ と、事態を静観していたウォルターも声を漏らした。
『なんだ……何なんだあれは⁉』
ラスティも──今までより若干声が高い。
『これも……封鎖機構の兵器なのか⁉』
621は氷をいとわず──この程度でACは傷つかない──、土煙に接近する。
敵。敵の姿の一部が見えた。蛇というか、
突然FCSが目標を捉える。頭なのだろうが、それが貯蔵タンクを突き破って突進してきた。621は上昇して避ける。
真下をこの──デスワームの巨体がのたくる。それだけで地上は散々に掘り返されていった。大地を耕すミミズのように、だ。
それにしても巨大だった。断面は円形というより、五角形に近い。下の3辺が長く、底辺を除く2辺は緩やかなアールがついていた。
全体的に赤茶けており、特に体節は紅かった。まるでコーラルのようだ。
《このコーラル反応……有人ではあり得ません。自律型のC兵器です!》
「人が乗るタイプじゃない……この挙動では」
『読めん! これはまずいな!』
強化人間をもってしても、この形状の機体で本物らしい動きはできないだろう。ミミズの感覚は621だって持ち合わせていない。
ラスティがバーストハンドガンとバーストライフルを撃ち込んだが、外殻によって跳弾している。FCSで捕捉される以上、頭部ならダメージが入るはずだ。しかし肝心の頭部を狙えるタイミングが読めない。
C兵器といえば、浮遊前は蜘蛛のような動きをシースパイダーが見せていたが、今度のはそれ以上に生物的な動きだった。
『生き延びることだけを考えろ、621!』
首をもたげたデスワームが、じろりと621を見やった。
デスワームと
節ごとの胴体下部にもドリルが回転しており、こちらはまるで脚のように見えた。
紅い光が弱まり、これらドリルの回転が突然止まった。それに気づいたウォルターが、警戒心をあらわにする。
『……待て。何か様子がおかしい』
全ておかしいだろう、あれは。
なんとも
《行動パターンを変化させています……より優先の指令に応じている……》
621から「視線」を外したデスワームはもと来た方向へ向き直り、直後、身体を紅く輝かせながら地面へと消えた。そのまま何度か顔を出しつつ、宇宙港から遠ざかっていく。
《集積コーラルの……防衛……?》
辺り一面が掘り起こされ、荒れ果てていた。
『……封鎖機構が技研の遺産を抱えていたとはな』
ウォルターの口調からは、どこか軽蔑するような意図が感じられた。ほんのわずか、621が若干の違和感を覚える程度に。
次の瞬間それは霧消し、ウォルターはいつもの調子で告げた。
『621、戻って休め。俺は新しい友人を片付ける算段を立てる』
それから数日後。
「状況はこうだ、621」
621はウォルターと現状を確認していた。短い間に大きな変化があったのだ。
「封鎖機構がけしかけてきた技研兵器を前に、アーキバスとベイラムは手を結ぶ方向で動いている」
妥当な判断だった。生き残りたければ、ここは手を結ぶタイミングだろう。
「IA-02……通称、「アイスワーム」。あれはC兵器の──コーラルを守るために作られた、自律した抑止力だ。排除しない限り、誰ひとりとして集積コーラルにたどり着くことはできない。激しい戦いとなるだろう──誰もが巻き込まれていくような」
ウォルターが言葉を切った。
「……621」
そして念を押すように告げた。
「俺たちにはルビコンでやるべき仕事があるな。伊達にお前をここまで連れて来たのではない」
最後まで付き合ってもらうぞ。ウォルターはそう言い残して雑務に戻った。まだ死ぬな、と。
621もメッセージを処理する。なんと3件も来ていた。
まずは1件目から。
『話は聞いてるよ、ツーリスト。アイスワーム、ね。あんた、いつも技研の遺産に絡まれてるんじゃないか? さて、そんなあんたに耳寄りな話を持ってきた。ブリーフィングを確認しておきな』
ふたつめ。
『V.Ⅷ ペイターです。宇宙港襲撃でのご活躍、見事なものでした。第2および第4隊長から言伝がありますが……そんなことよりあの化け物です。アーキバスとベイラムは停戦協定を結び、さしあたりは──協力を模索しているところです。正式な合意に至るまでは時間を要します。今しがた、発行した依頼を消化ください』
結局言伝の内容は分からずじまいだった。問い合わせるか考えたが、621は必要ないと判断した。
最後。
『登録番号Rb23、コールサイン、レイヴン。貴方の実績情報が更新されました。アリーナにおいてBランク帯の仮想戦闘が開放されています。いよいよ上位ランカーです。戦闘技能の弛まぬ研鑽に、お役立てください』
傭兵支援システムには現実の混乱など、どこ吹く風といった感じであった。
アーキバス・ベイラム間の協力体制が整うまでは、アイスワームそのものをどうにかすることができない。新たな脅威こそ現れたものの、それほど切迫しているわけではないのが現状だった。
それはつまり、今のうちにアリーナランクを上げ、機体を強化するべきということ。621はアリーナにアクセスした。
収入:644,400
基本報酬:320,000
報酬加算:324,400
詳細
汎用兵器の撃破:1,600
砲台の撃破:28,000
軽MTの撃破:40,800
LC機体の撃破:164,000
LC新型機体の撃破:40,000
HC新型機体の撃破:50,000
支出:57,792
修理費:20,592
弾薬費:37,200
報酬減算:0
収支:586,608