メインシステム、戦闘モード起動   作:留式

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新たな脅威

コード15(騒乱発生)。排除目標を視認』

 

『年貢の納めどきだ』

 

 立ち上る煙の向こうから、声が聞こえた。おそらくペアだ。封鎖機構の新手が到着したようだった。煙が晴れると、作戦開始地点だった高台にその姿が見えた。

 

 1機は細部こそ異なっているが、「壁」で交戦したHC。もう1機は不明。LCをベースにブースタと装甲を増設した、おそらくは新型機。

 

 2対1。エクドロモイも2対1だったが、HCは特務機体よりも耐久力がある。しかしそれさえ何とかすれば殺れる。

 算段をつけた621はターゲットアシストを起動しようとして、上空を飛行する1機のACを認めた。

 

『ふむ、封鎖機構の上級尉官を引いたか……』

 

 空を飛ぶための威嚇的なシルエット、シュナイダー製軽量二脚フレーム「ナハトライアー」。BAWS中心の武装。アーキバスらしくない、内燃式ジェネレータによるオレンジのバーナー。

 

『待たせてすまない』

 

 紺と黒で塗装された機体の左肩には、口輪をはめた狼のエンブレム。

 AC「スティールヘイズ」。コールサイン、V.Ⅳ ラスティ。

 

『私が背中を守ろう、戦友(バディ)。君は私を手助けしてほしい』

 

 巡行モードのアサルトブーストを解除したスティールヘイズが621の隣に着地。ガスを噴き出して排熱、カバーが閉じる。

 

「了解」

 

 これで2対2。久々の協働作戦としては、むしろ上々の相手だった。

 

 戦闘が始まる。まずラスティが左腕にバーストライフルを持って挨拶。621はアサルトブーストでいつも通り突撃する。

 敵機はLCからミサイルがけん制に飛んできた。もちろん当たるものではない。

 

コード44(要求)。各排除目標の情報を回してくれ』

 

『システムより回答。企業AC、V.Ⅳ ラスティ。独立傭兵、レイヴン。傭兵に関するデータは登録情報との誤差を再照合中』

 

 621、ラスティ共にHCを狙った。別に打ち合わせたわけでもないが、両者の思考は一致していた。

 

『妙な組み合わせだ』

 

『企業も選り好みする余裕はないということだ。……くっ⁉』

 

『驚いたな、君と私を前に喋る余裕があるとはね』

 

 ダブルトリガーの、軽快に動く2機のACに対し、重量級のHCは無力だった。断続的な集中砲火により、10秒もすればACS負荷限界に陥ったのである。

 

 621は更にライフルを撃ちこみ、きりの良いところでブレードに持ち替えて連撃。最後にラスティめがけてHCを蹴り飛ばした。

 スタッガー中に蹴りを入れるとACSに負荷が更に加わる──硬直が解けるまで時間がかかる。その時間でラスティが持ち替えたレーザースライサーをフルヒットさせた。

 敵機のジェネレータが損傷。青い炎を上げてHCが吹き飛ぶ。

 

『システムに……報告を……。コード78(応援要請)……脅威レベルE……』

 

《執行機、あと1機です》

 

『……コード78(応援要請)を受領。システムに上申』

 

 LCの新型機は、やはり空中戦が得意だった。しかし空中戦ならスティールヘイズの方に分がある。

 LCとラスティが空中で撃ち合うところに、621も下から弾を送り込む。

 

 ラスティがレーザースライサーに持ち替え、連打。弾き飛ばされたところに621がもう1発ぶち込んでスタッガーをとった。直後にプラズマミサイルを発射しつつアサルトアーマーを発動、直撃させる。

 

《敵機、損傷拡大しています!》

 

『やるな、戦友(バディ)。背中を預けるに相応しい』

 

「そちらもだ。上手い」

 

『お褒めにあずかり光栄だ』

 

 2機でプラズマミサイルを、タイミングをずらしながら発射。一度着地したLCをプラズマの網が捉える。そこにラスティがレーザースライサーで切り込み、スタッガーをとった。

 入れ替わるように621が飛び込む。左腕は既にパルスブレードに持ち替えてあった。Xを描くように、2度、叩き切る。胴体のところで敵機がパックリと割れた。

 

『これは……我々では……。コード……コード78、E(応援要請:脅威E)……』

 

 青白い閃光がLCを包んだ。衝撃で浮き上がったLCは仰向けのまま地面に叩き付けられ、動かなくなった。

 

《執行機の撃破を確認》

 

『……システムの判断を通達します。コード78E(応援要請:脅威E)を承認』

 

 ……なんだ? 621は未だ流れる敵のCOM音声の内容に、戦いがまだ終わっていないことを予感する。

 

『惑星封鎖に対する脅威現出と見なし──IA-02の起動を許可します』

 

 

 

 

 

 

《何らかの反応を検知しました!》

 

 コーション。方位050、射点左側の何もない氷原の方向だ。距離はおよそ4800m。

 

《マーカー情報を送信しました。そこに何かが……》

 

 地響き。マーカーの位置からして……地中。

 

 再びマーカーが更新。今度は方位063、距離3413。

 これが「IA-02」? いったいどういう代物なのか、621には想像がつかない。

 

 高台の影から飛び出して氷原を目視で確認すべく、621は移動を開始。

 その間にもマーカーが更新されていく。速い。距離の数字がどんどん減っていく。

 

 氷原が見えた。宇宙港から連なる、何かの電波装置を支える鉄塔の間から来ている。氷塊が飛び、土煙が立ち上っていた。

 それが見る見るうちに接近してきて、地鳴りが一層激しさを増した。

 

「V.Ⅳ。方位082、アンノウン──」

 

《……地中からです!》

 

 激しい揺れ、轟音。居住区画の隅で、地中から飛び出した「何か」をFCSが捉えた。ほんの数瞬で捕捉が途切れる。また地中に戻ったようだ。巨大な氷塊がすぐそこまで飛んできた。

 飛行していた621が着地したのと、激しい土煙も相まって、それが何かは分からなかった。

 むっ⁉ と、事態を静観していたウォルターも声を漏らした。

 

『なんだ……何なんだあれは⁉』

 

 ラスティも──今までより若干声が高い。

 

『これも……封鎖機構の兵器なのか⁉』

 

 621は氷をいとわず──この程度でACは傷つかない──、土煙に接近する。

 敵。敵の姿の一部が見えた。蛇というか、(ぜん)虫。巨大なミミズのような姿だった。もちろんミミズではない。表面は乾燥しているように見えた。

 

 突然FCSが目標を捉える。頭なのだろうが、それが貯蔵タンクを突き破って突進してきた。621は上昇して避ける。

 真下をこの──デスワームの巨体がのたくる。それだけで地上は散々に掘り返されていった。大地を耕すミミズのように、だ。

 

 それにしても巨大だった。断面は円形というより、五角形に近い。下の3辺が長く、底辺を除く2辺は緩やかなアールがついていた。

 全体的に赤茶けており、特に体節は紅かった。まるでコーラルのようだ。

 

《このコーラル反応……有人ではあり得ません。自律型のC兵器です!》

 

「人が乗るタイプじゃない……この挙動では」

 

『読めん! これはまずいな!』

 

 強化人間をもってしても、この形状の機体で本物らしい動きはできないだろう。ミミズの感覚は621だって持ち合わせていない。

 

 ラスティがバーストハンドガンとバーストライフルを撃ち込んだが、外殻によって跳弾している。FCSで捕捉される以上、頭部ならダメージが入るはずだ。しかし肝心の頭部を狙えるタイミングが読めない。

 C兵器といえば、浮遊前は蜘蛛のような動きをシースパイダーが見せていたが、今度のはそれ以上に生物的な動きだった。

 

『生き延びることだけを考えろ、621!』

 

 首をもたげたデスワームが、じろりと621を見やった。

 

 デスワームと目が合う(・・・・)。もちろん目ではない。頭部に三角形を描いて設置された、掘削機がそう見えるだけだ。

 節ごとの胴体下部にもドリルが回転しており、こちらはまるで脚のように見えた。

 

 紅い光が弱まり、これらドリルの回転が突然止まった。それに気づいたウォルターが、警戒心をあらわにする。

 

『……待て。何か様子がおかしい』

 

 全ておかしいだろう、あれは。

 なんともとんちき(・・・・)な見た目だが、しかし621は様子を見守ることしかできない。

 

《行動パターンを変化させています……より優先の指令に応じている……》

 

 621から「視線」を外したデスワームはもと来た方向へ向き直り、直後、身体を紅く輝かせながら地面へと消えた。そのまま何度か顔を出しつつ、宇宙港から遠ざかっていく。

 

《集積コーラルの……防衛……?》

 

 辺り一面が掘り起こされ、荒れ果てていた。

 

『……封鎖機構が技研の遺産を抱えていたとはな』

 

 ウォルターの口調からは、どこか軽蔑するような意図が感じられた。ほんのわずか、621が若干の違和感を覚える程度に。

 次の瞬間それは霧消し、ウォルターはいつもの調子で告げた。

 

『621、戻って休め。俺は新しい友人を片付ける算段を立てる』

 

 

 

 

 

 

 それから数日後。

 

「状況はこうだ、621」

 

 621はウォルターと現状を確認していた。短い間に大きな変化があったのだ。

 

「封鎖機構がけしかけてきた技研兵器を前に、アーキバスとベイラムは手を結ぶ方向で動いている」

 

 妥当な判断だった。生き残りたければ、ここは手を結ぶタイミングだろう。

 

「IA-02……通称、「アイスワーム」。あれはC兵器の──コーラルを守るために作られた、自律した抑止力だ。排除しない限り、誰ひとりとして集積コーラルにたどり着くことはできない。激しい戦いとなるだろう──誰もが巻き込まれていくような」

 

 ウォルターが言葉を切った。

 

「……621」

 

 そして念を押すように告げた。

 

「俺たちにはルビコンでやるべき仕事があるな。伊達にお前をここまで連れて来たのではない」

 

 最後まで付き合ってもらうぞ。ウォルターはそう言い残して雑務に戻った。まだ死ぬな、と。

 

 

 

 

 

 

 621もメッセージを処理する。なんと3件も来ていた。

 まずは1件目から。

 

『話は聞いてるよ、ツーリスト。アイスワーム、ね。あんた、いつも技研の遺産に絡まれてるんじゃないか? さて、そんなあんたに耳寄りな話を持ってきた。ブリーフィングを確認しておきな』

 

 ふたつめ。

 

『V.Ⅷ ペイターです。宇宙港襲撃でのご活躍、見事なものでした。第2および第4隊長から言伝がありますが……そんなことよりあの化け物です。アーキバスとベイラムは停戦協定を結び、さしあたりは──協力を模索しているところです。正式な合意に至るまでは時間を要します。今しがた、発行した依頼を消化ください』

 

 結局言伝の内容は分からずじまいだった。問い合わせるか考えたが、621は必要ないと判断した。

 

 最後。

 

『登録番号Rb23、コールサイン、レイヴン。貴方の実績情報が更新されました。アリーナにおいてBランク帯の仮想戦闘が開放されています。いよいよ上位ランカーです。戦闘技能の弛まぬ研鑽に、お役立てください』

 

 傭兵支援システムには現実の混乱など、どこ吹く風といった感じであった。

 

 アーキバス・ベイラム間の協力体制が整うまでは、アイスワームそのものをどうにかすることができない。新たな脅威こそ現れたものの、それほど切迫しているわけではないのが現状だった。

 それはつまり、今のうちにアリーナランクを上げ、機体を強化するべきということ。621はアリーナにアクセスした。




 収入:644,400
 
 基本報酬:320,000
 報酬加算:324,400
 詳細
   汎用兵器の撃破:1,600
   砲台の撃破:28,000
   軽MTの撃破:40,800
   LC機体の撃破:164,000
   LC新型機体の撃破:40,000
   HC新型機体の撃破:50,000
 
 支出:57,792
 
 修理費:20,592
 弾薬費:37,200
 報酬減算:0
 
 収支:586,608
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