メインシステム、戦闘モード起動   作:留式

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旧宇宙港防衛

 コーラル再発見というニュースが流れて以降、ルビコンには多数の独立傭兵が密航していた。その技量はMT相手に苦戦する者から一騎当千の猛者まで様々だ。もちろん機体整備やオペレーティングなどの環境に違いがあり、こうした環境を整えられるかどうかも独立傭兵の手腕にかかっていた。

 

 封鎖機構の実力行使が始まり、傭兵たちの生存競争は一層激しさを増していた。しかし傭兵たちはしたたかに、仕事を引き受け続けていた。

 今この瞬間もルビコンの一角で、ある独立傭兵がブリーフィングを行っていた。

 

「ミッションの概要を説明します。依頼主はタキガワ。前払い報酬は無し、成功報酬は200万コームよ。ブリーフィングを再生するわね」

 

 コームは企業によって保証され、大金の動く裏社会では頻繫に見られる通貨である。世間一般の通貨より価値が高く、平均的な労働者の月収を換算すると30コームほどになった。

 

『封鎖機構の艦隊を迎撃してくれ。2大星外企業の片割れ、アーキバスが占領した旧バートラム宇宙港に、封鎖機構は残存艦艇による逆襲を企図している』

『ここの連中は商売相手だ。封鎖機構によってこの争いが終わるとなれば損失が大きい。しかし相手が相手だけに、当社からは兵力を出せない。そこで、君のような腕の立つ傭兵に依頼することにした。封鎖機構とは何度もやり合ったと聞いている。報酬はたっぷり出すから、よろしく頼む』

 

「タキガワからの依頼はこんなところ。ついでに私たちからも依頼を出すわ。当然だけど、アーキバス側も艦隊を迎撃しに出てくる。「壁越えの傭兵」もね。これを撃破してください。報酬は100万、別で出すわ。それも踏まえて、契約する?」

 

 この傭兵は依頼を受けるようだ。

 

「そう言うと思ったわ、レイヴン(・・・・)

 

 ブリーフィングを行っていたオペレータが傭兵の意思を確認し、最後にこう言った。

 

「この大地を駆け、空を羽ばたける「レイヴン」はひとりだけ……同時に存在することなどできない。どちらが地上唯一の「レイヴン」として相応しい実力か否か、試させてもらいましょう」

 

 

 

 

 

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

 ハンドラー・ウォルターに雇われた強化人間、C4-621は、今日も仕事にあたっていた。

 内容はアーキバス傘下、シュナイダーから依頼された、旧バートラム宇宙港の防衛である。封鎖機構の残存艦艇を迎撃するのだ。アーキバスからMTを出すので活用しろ、という話だったが……。

 

『ミッション開始──待て。何かがおかしい、621』

 

 配備されたはずのアーキバスMT部隊はすべて鉄屑に姿を変え、炎と煙を上げていた。

 標的の封鎖艦隊はといえば、バートラムの射点から少し離れたところに、やはり煙を上げている強襲艦の残骸が複数見えた。

 

《戦闘が……すでに終わって……?》

 

『……機体反応をひとつ検知した。こちらではACと推定しているが、目視でも確認するんだ。何が起きているか確かめるぞ、621』

 

 移動式発射台用レールがカーブをはじめるところの脇に、強襲艦が1隻落ちている。ウォルターが送ってきたマーカーによれば、不明機はその付近にいるらしい。

 

 621は通常ブーストによる移動で接近を開始。程なくして不明機を視認した。

 

視認した(タリホー)。AC。単独」

 

 強風で巻き上げられた雪の向こうで、墜落して傾斜した強襲艦の残骸が煙を上げている。甲板上、ちょうどロケット砲台のバーベット暴露部の頂に、そのACは立っていた。

 621に背を向け、まるで黄昏れるように、朝日の方を眺めている。

 

 周囲は静かだった。風の吹きすさぶ音、それから残骸から上がる炎のパチパチという音が、おそらくはその張本人の存在を一層際立たせていた。

 

 逆光で機体のシルエットが浮かび上がる。中量二脚機。

 

 宇宙船を思わせる、曲面が強調された背部カバーが特徴的な、やや縦に長いコア。そこには補助スラスタをふたつ備え付けた、古めかしい第1世代のブースタが搭載されている。

 頭部を隠すほど大きな肩にリンクが剝き出しの細い二の腕、その先は取ってつけたような装甲板。強弱のついた簡素な腕部。

 付け根ほど細く、足先ほど太い構造になっている脚部。膝から突き出た突起が印象に残る。

 

 621にとっては見慣れた機体だった。

 RaDの探査ACフレーム「C-2000」そのものだ。自分の機体以外だと、621は1機しかこの構成を知らない。

 

『聞こえる、レイヴン(・・・・)?』

 

 傍受した無線では、相手のパイロットの名が呼ばれていた。「レイヴン」、今の621と同じ名前。

 

 武装は右腕だけ隠れているが残りは判別がついた。左腕はパイルバンカー、肩は右に小型連装グレネード、左に3連双対ミサイル。

 

 パイルバンカーに、「レイヴン」という名前。やはり、これは……。

 

『目標を確認したわ。あれがあなたを騙る傭兵……』

 

 通信を聞いた艦上のACが振り向き、621と相対する。頭部パーツが露わになった。

 

「頭部は……専用品か」

 

 621の頭部は「ファインダーアイ」と名付けられた、大きなメインカメラが特徴のこじんまりとしたパーツだった。頭というより、カメラそのものがコアにちょこんと乗っかる形となっている。

 

 しかし、目の前の機体は違った。人型の頭部パーツだ。621が目にしたのは1度きり。

 密航時に拾ったライセンスの持ち主が、このパーツを探査ACに組み込んでいた。登録番号Rb23、コールサイン、レイヴン。

 あれは予備機か何かだったのだろう。そして若干武装構成が異なっている。任務に合わせて武装を変えるだけの知識と腕を持っている傭兵。

 

 当時は分からなかったが、この頭部パーツ、メインカメラが人間でいう左目の部分にしかないようだ。まるでこちらを射殺すかのような雰囲気を621は感じ取った。

 

『どこまで飛べるか見せてもらいましょう……』

 

 レイヴンのオペレータがオープン回線で話しはじめた。レイヴンと621、双方に向けての言葉だった。

 レイヴンの頭部パーツが変形した。ロックが外れて後頭部からバイザーが回転。顔を覆い、再度ロックされる。バイザー全体に複数設けられたカメラアイが赤く点灯。

 

 相手が戦闘態勢に入ったのを621は察知、ターゲットアシストを起動する。

 

『……借り物の翼で、ね』

 

 敵機の背部カバーが開く。アサルトブースト点火。内燃ジェネレータのオレンジの炎が噴き出す。

 

 ほぼ同じ機体を駆る傭兵ふたりが、同じ名義を巡り、戦いを始めた。

 

 

 

 

 

 

 アサルトブーストで接近するレイヴンに対し、621もアサルトブーストで突撃する。

 

 初撃は互いにミサイルだった。レイヴンは双対ミサイル、621はプラズマミサイル。それぞれがアサルトブースト中に放ち、どちらも命中しなかった。

 直後に2機が交錯。621は蹴りを放とうとしたがかわされた。今度はレイヴンがグレネードを放ち、621がクイックブーストで回避した。

 

『……AC単機で全てを片付けたというのか?』

 

 戦慄した声をあげるウォルターをよそに、2機は銃撃戦に入る。621はバーストライフルのダブルトリガー、レイヴンは高火力アサルトライフル。こちらはシングルトリガー。

 その最中、レイヴンのオペレータが割り込んできた。

 

『強化人間C4-621、レイヴンの名を返せとは言いません』

 

 ただ……、とオペレータは続けた。

 

『あなたにその資格があるか見極めさせてもらいます』

 

『……お前のライセンスの本来の持ち主が見つかったようだな。終わらせるぞ、621』

 

 先にスタッガーをとったのは621だった。バーストライフル2丁による衝撃力が大きかった。

 ブレードで連撃。2発目が外れた。敵機のAPを半分近くまで削ったが、リペアキットにより回復される。

 

『企業の走狗、それともウォルターの猟犬でしょうか? いずれにせよ、羽ばたくことはないでしょう……そのままでは』

 

 レイヴンがグレネードで反撃。爆風は621を絡みとってACS負荷限界に追い込んだ。

 追撃はない。というよりも、できない。ここは621の狙いがはまった。

 パイルバンカーを打ち込むには時間が足りないし、双対ミサイルも同様だ。グレネードは撃ったばかりでリロード中、というわけだった。

 

 硬直から回復した621は、まずレイヴンを蹴りつけた。同時にレイヴンはアサルトアーマーの発動動作に移った。蹴り直後の硬直を狙った、回避不可能なタイミング。

 

『「レイヴン」とは意志の表象』

 

 レイヴン、アサルトアーマー発動。621は直撃を受ける。AP残量30%以下。

 パイルバンカーを装備した敵に対する、至近距離でのスタッガー。致命的な隙だった。

 

『相応しいのは、選び戦う者だけです』

 

 三方向にセーフティを展開し、撃鉄を立てたパイルバンカーを構えるレイヴンの姿が、パルスエネルギーの奔流の中に見えた。

 杭が限界まで引き絞られ、機構から火花が散る。

 

《このAC、強い……》

 

 レイヴンが621にパイルバンカーのチャージ攻撃を叩き込もうとした寸前、621のアサルトアーマーが発動した。

 カウンターが成功。硬直したレイヴンに、621はブレードで連撃を加えた。

 

 お互いにリペアキットを使用して回復。既にレイヴンは最初のリペアを使っているから、621の方が1回分ダメージレースで有利となった。

 

『……集中を続けろ、621』

 

 ライフル弾が飛び交い、ミサイルがあちらこちらで花を咲かせる。機体の進路上にあるMTの瓦礫や建設機械をぐちゃぐちゃにして、2機の探査ACは撃ち合った。

 

 621は灰色で、レイヴンの機体はそれよりもやや明るく、赤みがかった色で塗装されていた。しかし銃弾に込められた殺意に差はなかった。2機の装甲が傷や泥、オイルで覆われていく。

 

『……ええ、レイヴン。私も感じてるわ。この傭兵には可能性がある……』

 

《ふむ……。選び戦う意志……》

 

 621がスタッガーをとった。距離はあったが、ブレードで追撃する。

 硬直が解けたレイヴンは後方にクイックブースト。しかしパルスエネルギーの刃をかわすところまではいかなかった。

 

『レイヴン──私たちはまだ……』

 

 力の抜けたACが後ろに吹き飛び、仰向けになって地面を滑る。爆発。破片が舞った。

 オペレータによる力のないため息が、621にも聞こえた。

 

『……そう。見届けようと言うのね。この翼が……彼らをどこに運ぶのかを』

 

 戦闘が終わる。

 621は帰投すると告げ、後はひたすら無言で回収地点に向かった。

 

 

 

 

 

 

 621がガレージに戻ってしばらくした後、エアが話しかけてきた。

 

《あなたを襲撃した独立傭兵……別の「レイヴン」について調べました》

 

 エアも「レイヴン」に関しては気になっているようだった。

 

《どうやら「レイヴン」とは個人のコールサインではなく……称号──傭兵たちが代々受け継いできた自由意志の象徴にして、旗印こそ「レイヴン」なのです》

 

 何か考えた様子のエアは一度沈黙し、再び話し始めた。

 

《戦う理由を自ら選び、そのために大空へ羽ばたくこと。それが「レイヴン」の証明だと言うのなら……》

 

 ──レイヴン……その称号は。

 

《その名で、私はあなたを呼び続けたいと思います》

 

 ──お前にこそ相応しい。

 

「……エア」

 

《レイヴン》

 

 違う。別に戦う理由などというものがあるわけではないのだ──そう言おうとした621を、エアが遮った。

 

《あなたにひとつ、お願いがあります。聞いていただけませんか?》




 収入:200,000
 
 基本報酬:200,000
 報酬加算:0
 
 支出:25,822
 
 修理費:18,622
 弾薬費:7,200
 報酬減算:0
 
 収支:174,178
 
あの頭部パーツ、マジでかっこいいですよね。
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