メインシステム、戦闘モード起動   作:留式

37 / 79
地中探査・深度2

 ネペンテス撃破から3時間が経過した。予定通り、ウォルターから通信が入る。

 

『続けるぞ、621。ブリーフィングモードにしてくれ』

 

「了解」

 

 メインシステム、ブリーフィングモード起動。

 読み込みが終わると、ウォッチポイントのスキャンデータが表示され、その一部が拡大される。

 

『お前には深度2の探査に行ってもらう。この区画は物資輸送を目的とした広大な鉄道網が敷かれている』

 

 スキャンデータによると、ループ線の途中途中に集積地点が設けられているようだった。

 

『複雑なルートになるぞ……死角も多い。近接戦闘に備えておけ』

 

 ショットガンの方が良かったかもしれないと、621は思う。今回は汎用性を優先して、いつも通りバーストライフルを持ってきた。

 

《レイヴン、こちらからもお伝えしたいことが》

 

 ブリーフィングが終わると、エアが続けて話しかけてきた。

 

《先に突入したベイラム部隊の通信ログを入手しました。彼らは調査任務に含まれていない、まったく別の任務も帯びているようです》

 

 エアは続けた。

 

《防衛兵器だけが脅威ではありません。ベイラムの思惑もやはり危ない》

 

 

 

 

 

 

 ブリーフィングモードから通常モードを挟む。一気に戦闘モードにすると負荷が大きく、マニュアルでは禁じられていた。その間にウォルターが告げる。

 

『……念のためだが、621、以降の深度ではこちらのレーダーが届かん。自分の感覚を信じろ』

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

《行きましょう、レイヴン。ここからが調査の本番です》

 

 深度1、縦穴の底で始まるレールの上に、621はいた。ネペンテスにエネルギーを供給するケーブルの間を進むと、深度2へと出る隔壁に辿り着く。

 開けると、まずは下り坂。降りた先の封鎖兵器を始末する。転車台を経て、右に曲がったところがループ線の起点だ。

 

 原形を留めていない機体の残骸と共に、封鎖兵器が目を光らせていた。621はこれらを撃破しながら線路を進んでいく。

 分厚い隔壁が行く手を阻んでいた。アクセスもできない。

 

《構造図によると、隔壁の先にも線路が続いています。電源が落ちているようです。復旧する手段を探しましょう》

 

「制御盤か」

 

 近辺の小部屋を探る。2層構造になっていたようで、簡素なエレベータ用の穴から下に降りることができた。

 

 621は2機のMTを認め、FCSがこれを捕捉。621はノータイムでプラズマミサイルを発射。一瞬遅れてエアも気づく。

 

《伏兵です!》

 

 視界の左隅にライフルの影を見た621は、敵機が正面の2機だけでないことを察知。

 遮蔽の方にクイックブーストしつつ射線も確保、バーストライフルで1機を消す。

 

『来やがったな、レイ──』

 

『クソが。死んでもらうぞ、裏切り者!』

 

 プラズマミサイルで敵を殺しきれていなかった。物陰に隠れていた機に詰め寄り、ライフルで確実にキル。

 

『ちくしょう、アーキバスめ……』

 

『……ベイラムMT部隊に遭遇したようだな。気を付けて進め。この先も排除して構わん』

 

「コピー」

 

 すぐ隣が制御室だった。621は制御盤にアクセスする。

 薄暗い地下空間に照明が灯り、制御盤のすぐ脇にあった隔壁が開く。これもエレベータだった。

 

《通電が回復しました。上階に戻りましょう。隔壁も開くはずです》

 

 果たして隔壁は開いた。621は曲がりながら下降する線路の上を滑っていく。再び隔壁にぶち当たった。

 

《この先は熱交換室です。ベイラム先遣隊の通信ログはこの付近で途切れています》

 

 アクセス完了。回転式のロックが外れ、隔壁が開く。

 部屋に入ると、下り坂の先に出口がある。それを囲うコンクリートの上に、1機のACがいた。

 

『待ってたぜ……野良犬!』

 

《あのAC……ヘッドブリンガーです。G5 イグアス》

 

「ヘッドブリンガー……? 還流ジェネレータだったか?」

 

 621は弾幕の中をじわりじわりと進み、機を見計らってアサルトブースト。ブースタから青い炎を噴射するヘッドブリンガーに詰め寄り、蹴りを入れる。

 

 半分露出した腕部のアクチュエータが見えた。直線的な形状のメランダーの中で、曲線の多いデザインが浮いている。

 純正のままで、エンブレムすら貼っていなかった。甲虫の頭部を運ぶ、蟻のエンブレムがあるはずなのだが。

 

「マインドα……腕も変えたか」

 

『てめえは地上に戻るための踏み台なんだよ……穴倉生活はもううんざりだ、ガチでな……』

 

 動きが鈍い。それほど視界に入れていなかったが、アイスワームのときよりも明らかに消耗しているのが分かった。

 

『こいつさえ死ねば全て終わる!』

 

「盾じゃない……オービットか。だが使ってこない……」

 

 壁際に追い詰め、スタッガーを取った621は、ブレードで敵機を切りつける。

 APを削りきれなかった。硬直の解けたヘッドブリンガーがリペアキットで回復する。

 

「殺る」

 

 621はヘッドブリンガーのACSが完全回復する前にアサルトアーマーを発動。回復されたAPを帳消しにする。しかし撃破まではいかない。イグアスがうめいた。

 

『ぬァ……! 耳が……なんで今……!』

 

 ヘッドブリンガーは柱と柱の窪みに自ら入り込んだ。

 

『あのヤブ医者やりやがった……! てめえ笑いやがって……野良犬のくせに特別なのかよ⁉』

 

 そこに621はプラズマミサイルを放り込む。

 

『認めねえ……認めねえぞ……!』

 

 敵機撃破。ヘッドブリンガーが壁にもたれかかる。

 

『次こそは、てめえを……』

 

《……G5 イグアスの撃破を確認。ここに長くいるのは……危険です》

 

 ヘッドブリンガーの脱出ポッドが作動するのを、621は見た。

 

「いや、まだ動いている」

 

《彼を撃つのですか?》

 

「ノー。弾がもったいない。また墜とせばいい」

 

 そのとき、イグアスは腕を上げているかもしれない。しかし伸びしろを上回ってやれば、結果は同じだ。

 

 621は近くに未使用の補給シェルパを見つけた。補給を済ませ、先へ進む。

 トンネルの出口に橋が見えた。位置的にはループを4分の3ほど周回した地点だ。

 

 橋の上にMTがいて、何かに向けて曳光弾を放っている。

 

『防衛プログラム、フェーズ2.0』

 

 左から何かが飛んできて、各機を踏みつぶした。それを見た621はすかさずトンネルの影に隠れる。太いレーザービームがすぐ脇に着弾した。

 

『侵入者を確認。脅威レベル、7』

 

 浅葱色をした、大型の機動兵器だ。四脚のようなシルエットが一瞬だけ確認できたが、すぐに右の方へ飛んでいった。

 

《今のは一体……?》

 

「敵だ。距離を詰める」

 

 下方の、少し離れたところにもう1本橋がかかっている。敵機はその上で待ち構え、レーザーで狙い撃ち、ミサイルをばら撒いてきた。

 621は攻撃を搔い潜りながら、岩壁を切り崩し、均しただけの足場を渡って敵機に迫る。

 

《……この深度を守る兵器なのでしょう。情報を集めてみます》

 

 十分に接近し、プラズマミサイルを放った瞬間、トンネルの奥に逃げ込まれた。

 

「追跡する」

 

 アサルトブースト点火。トンネル内を追いかける。621は深追いしているとは思わなかった。

 ブラインドコーナーの向こうに、チャージ済みのレーザーキャノンを構えた敵機がいた。撃ってくる。

 

『防衛プログラム、フェーズ2.5。侵入者の重要区画接近を確認』

 

 621は横にクイックブーストしてレーザーを回避。なおも飛び続けると、隔壁が閉じた。ご丁寧に立入禁止区域と記されている。

 

《……逃げられました。終点はそう遠くありません。制御室を探しましょう。システムをハックして隔壁を開きます》

 

 隔壁手前の小部屋に飛び込むが、封鎖兵器しかいなかった。

 

「一度引き返し、通路を探す」

 

《換気ダクトを探しましょう。ここは地下──必ずどこかにあるはずです》

 

 トンネルの入口まで戻ると、正面左上に円筒形の人工物が見えた。接近すると、閉まっているのがわかった。ここではない。

 この上に技研のACが横たわっていて、情報ログがまだ残っていた。任務後に確認することにして、621はダクトを探す。

 

 改めてスキャンデータを思い出す。岩壁ごと走査したため、この奈落周辺は大変見づらかったが、それなりに高低差があった。

 高度計の数字によると、先の敵機が逃げ込んだトンネルが、深度1の底からおよそ600mほど低いところにある。

 

「もっと……下か」

 

 小さいが足場はあった。足場というよりも、崩落して壁際の構造だけが残ったという雰囲気だったが。エンゲブレト坑道のように、ちぎれた鉄骨が首を垂れている。

 足場を渡り、更に600mほど降りていくと、やがて岩壁からむき出しになったコンクリート壁が見えた。

 

《換気ダクトを確認。制御室へと通じているようです》

 

 中に入ると、垂直カタパルトがあった。飛び乗ろうとすると、上からリペアメカがわらわらと降ってきた。

 それらがレーザーを撃ってくる。621は無視してカタパルトを射出、飛び上がる。

 

 金網が張り巡らされ、無数のファンが回転している中を進む。しばしばレーザーが飛んでくる道中だった。

 

 7機ほどがひと塊になってレーザーを撃ってきたとき、流石に621はプラズマミサイルを撃ち返した。リペアメカがダニのように吹き飛んでいく。

 その上にダクトが口を開けていた。進んだ先が制御室だった。

 

《アクセスポイントを探しましょう》

 

 スキャンすると、反応が多数。起動前の封鎖兵器が、天井に吊られて機体を休めていた。それらの奥に制御盤があった。

 

「この奥だ。先に機体を破壊する」

 

 エアにそう返答し、621はクランプで保持された封鎖兵器を1機1機片付けた。

 

「この先は頼む」

 

 制御盤にアクセス。

 

《お任せを。隔壁およびリフトを強制稼働させました》

 

 サイレンと共に赤色灯が点灯する。

 

《防衛システムには検知されましたが、これで先へと進めるはずです》

 

「……何も出てこない」

 

 防衛システムが仕掛けてくるのを621は待ったが、一向に何も起きない。地下空間にサイレンの音が虚しく響き渡るだけだ。

 

《……先ほど破壊した機体がそうだったのでしょう》

 

「そうか。では先に進む」

 

 エレベータで隔壁の前まで戻る最中、ウォルターから通信が入った。

 

『順風満帆のようだな、621。ひとり手探りとは思えん。いつからそれほど鼻が利くようになった?』

 

「今のところ順調だ、ハンドラー。……終わったらリポートする」

 

『承知した。レーダーは届かんが、こちらはできる限りモニターしている。引き続き進めてくれ』

 

「了解」

 

 今日はウォルターも調子がいいようで、軽く冗談がとんだ。

 621は補給シェルパを借用して補給を済ませ、深度2最奥に出る隔壁にアクセスする。

 

《先ほどの防衛兵器が待ち構えているはずです。ご注意を、レイヴン》

 

 あらかじめターゲットアシストを起動しておく。

 アクセスが完了し、隔壁が開いた。

 

 

 

 

 

 

「……どこだ?」

 

 深度2最奥は地面こそ整地されているが、側面は岩壁のままだった。そのどこにも敵機の姿が見えない。

 

 天井で爆発。621は停止し、様子を見る。落ちてきた瓦礫が散らばった。

 どすんと音を立てて、敵機が着地した。火花が飛ぶ。

 

『封鎖区画への侵入者を検出』

 

 近くで見ると、珍妙な機体だった。四脚に見えるが、二脚だ。

 脚というより、腕で立っているように見えた。人でいえばLシットと呼ばれるような姿勢。

 

『防衛プログラム、フェーズ3.0』

 

 胴体の突き出た部分が分割され、さらに90度回転。続いて地面に垂直になるように別の軸が90度回転、振り下ろされる。

 

『強制執行モードにスイッチング』

 

 振り下ろされた脚が下にスライドし、大腿が露出。機構のロックとその解除が各関節で行われ、火花が散ると共にガスが噴き出す。

 敵機が立ち上がった。右腕にレーザー砲を構えている。左肩で回転している巨大なFCSが目についた。

 

『目標を排除します』

 

 頭部のメインカメラが点灯。中央にひとつだけ灯った赤い眼光が621を睨みつける。

 

「敵機視認。交戦する」

 

 621はアサルトブーストで突撃。敵機はチャージしたレーザー砲で迎撃してきた。回避が一瞬遅れ、621に直撃した。

 

「……引きつけすぎた」

 

 いきなりリペアキットをひとつ使う羽目になった621は、気を取り直してACSに負荷を蓄積させにかかる。

 

《敵機の解析が完了。「エンフォーサー」、封鎖機構の開発した試作無人機です》

 

 エンフォーサーは図体が大きく、密着するように動けば射撃が当たらない。腕が高すぎるのだ。

 ミサイルも垂直式のため、動きを簡単に読めた。

 ただし右腕のパルスシールドが邪魔だった。パルスガンと切り替え式になっているようだ。

 

《ウォッチポイント重要区画の防衛、および侵入者の確実な排除を目的に設計された……この先には彼らが秘匿しておきたかった、何かがあるのです》

 

 スタッガーをとるのも苦ではなかった。ただし、APの絶対量が多い機体なのだろう。1度のスタッガーで25%ほどしか削れなかった。

 

「見た目通り……遅い」

 

《レーザー砲の威力が大きいです。回避に集中してください、レイヴン》

 

「コピー」

 

 射線に引きずり出され、立て続けにレーザーを喰らう。それだけでAPが半分を切った。

 

『リペアキット、残数1』

 

 2度目のスタッガーを取り、エンフォーサーの推定APが半分を下回ったあたりで変化が起きた。

 

『フェーズ3.5、パターンE。出力リミッター解除。各部アクチュエータの駆動コストおよび上限値を再設定。目標を排除します』

 

 目に見えて敵機の素早さが増す。敵機がエネルギーを溜めたレーザー砲を地面に突き刺すと、余波でダメージをもらった。

 

『脅威レベル7……8……。判定、機密封鎖に対する……危険因子……』

 

 パルスガンの圧力も増した。気がつけばAPが再び半分を切っている。

 

『リペアキット、残数なし』

 

 それでも621はスタッガーをとった。ブレードで連撃。倒れない。アサルトブーストを発動。敵機はまだ動いていた。

 

「よく粘る」

 

 相手に比べて小柄な利点を活用する。3次元での高速機動。621はプラズマミサイルをばら撒き、ライフルを送り込む。

 やがて敵機に限界が訪れた。ライフル弾がエンフォーサーの胴体を背中側から貫く。

 

 ブースタ付近で小爆発を起こし、よろめきながら1、2歩進むと、エンフォーサーは膝を突いた。

 次いでジェネレータが爆発。ACSを完全に喪失したエンフォーサーが、うつ伏せに倒れ込む。

 

《敵ユニットの完全停止を確認しました……。次のセクターについてはウォルターにも情報があるはず。ひとまず休息を取りましょう、レイヴン》

 

 621もエアに同意する。

 

「ああ。少し疲労を感じる」

 

 ウォルターに回線をオープン。ミッション完了を報告。

 

『よくやった、621。しっかり休め』




 収入:499,000
 
 基本報酬:300,000
 報酬加算:199,000
 詳細
   汎用兵器の撃破:6,400
   軽MTの撃破:21,600
   封鎖兵器の撃破:126,000
   ACの撃破:45,000
 
 支出:70,222
 
 修理費:37,222
 弾薬費:33,000
 報酬減算:0
 
 収支:428,778
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。