メインシステム、戦闘モード起動   作:留式

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地中探査・深度3

 休息も兼ねて、621は回収した情報ログを読んでいた。

 回収したのはナガイ教授の口述筆記、その最初の部分である。

 

『コーラルは自己増殖が可能な生体物質であり、その増殖速度は個体群密度によって決定される。これを踏まえると、真空状態はコーラルの密度を最大化して増殖を促す、理想的な環境となる。ただし、この密度効果がコーラルにもたらす相変異の兆候を見逃してはならない。こうした相変異は人類には制御できない破綻となるだろう』

 

 621はアメーバや粘菌を連想した。特定の形を持たず、ゆっくりと地上を侵食していくのだ。

 あるいは、相変異は蝗相手によく用いられる言葉である。蝗の大群の映像は621も知っている。あれは確かに破綻だった。

 

《コーラルの集まろうとする特性……私も例外ではないのでしょう。先に進みたい気持ちが……少しだけ逸るのです》

 

『621、聞こえるか? 仕事に戻るぞ』

 

 ここでウォルターが探査再開を告げた。621はブリーフィングモードに切り替える。

 

『次は深度3……構造が把握できているのはここまでだ。この地下空洞では、高出力レーザー障壁が終端を塞いでいる』

 

 区画の底はすり鉢状になっているのだが、映し出された画像ではオレンジのレーザー網で覆われていた。これではさいの目切りにされてしまう。

 

『稼働している限り、この先の深度には何人も立ち入れない』

 

 そこで621の仕事というわけだ。

 

『レーザーの動力源は巨大な原子炉だ。お前はこれを内部から破壊しろ。障壁がなくなれば、以降はアンノウン、未知の領域だ……』

 

 ウォルターがはっきりと告げる。

 

『その先にコーラルはある』

 

 ブリーフィングが終わる。621は機体のチェックに入った。

 

《ウォルターは……まるで集積コーラルの場所を把握しているかのようです。あの確信は一体どこから?》

 

 オールコンプリート。全系統異常なし。

 中央氷原には他にめぼしいところがない。コーラルがあるとすればこの地下空間の先だろうと、621も予想していた。

 

 

 

 

 

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

『ミッション開始だ。原子炉を破壊してレーザー障壁を解除しろ』

 

 前回の反省から、ウォルターに送る映像情報を充実させている。レーダーが届かない分、目で補うことにしたのだ。

 これにより、再びウォルターからの指示が容易にできるようになった。はずだ。

 

《レイヴン、まずは内部への侵入を目指しましょう》

 

 まずは深度2最奥の隔壁を開ける。線路は右にカーブしており、先には例のごとく分厚い隔壁が岩壁に埋まっていた。

 修繕にあたるリペアメカを無視して、621はレールから左に外れる。原子炉建屋でもある縦穴には、岩壁の張り出したところを渡って出ることができた。

 

《……足元に注意を。落下すればレーザー障壁の餌食です》

 

 キロメートル級の、巨大な原子炉。これでもモジュール式になっていて、できる限りの小型化がなされているのが構造図から読み取れた。

 縦穴には支柱が入っており、8つの梁で格納容器を支えていた。下はレーザー障壁が輝いており、上を見ればガラス越しに回転しているタービンを見ることができた。シャフトは上に伸びていき、末端は霞に隠れて見えない。

 

『高度な脅威を検出。脅威レベル8。防衛フェーズ4.0。目標を排除します』

 

《狙撃型の防衛兵器が配備されています。撃ち落とされませんよう》

 

『「高度な脅威」、か。「侵入者」から格上げになったな』

 

 格納容器の周囲に配備されたレーザー砲台が、正確に621を狙ってきた。正面から付き合うわけにはいかない。

 射角の下から接近し、急上昇。狙いをつけさせずに破壊していく。ついでに、付近にいた封鎖兵器も喰らった。

 

《……企業の反応はない。私たちが一番乗りということのようです》

 

 エアの言う通りで、ここにはベイラムのMTはいなかった。

 珍しいものとしては、端の方に技研ACの残骸が転がっていた。ログだけ残っている。やはり読むのは後回しでいいだろう。

 

 一通り破壊した621は、格納容器の入り口へ移動する。進入経路から容器を半周したところ。

 

『外周に沿って……もう見つけたのか。早いな』

 

 隔壁にアクセスし、開ける。

 

『変圧チャンバを見つけろ、621。破壊し、炉心に過負荷をかけて爆発させる』

 

「ウィルコ」

 

 中は鉄骨と配管、金網が縦横無尽に走る閉所だった。

 621はこれをくぐり抜けて圧力容器に侵入、レーザー障壁のジェネレータも兼ねた、一次冷却系の水面に出る。金網の下に無数の燃料棒が浸っていた。

 

『脅威が原子炉に侵入。防衛フェーズ4.5』

 

《応戦を、レイヴン!》

 

 この空間にも封鎖兵器がいた。3機。

 621は攻撃をかわしながら各個撃破する。今更敵ではなかった。

 

『……レーザー障壁ひとつにここまで用意するとは。封鎖機構は何としてでもここを封じておきたかったということか』

 

《変圧チャンバはこの隔壁の向こうです》

 

 621は反対側の隔壁を開けて進む。

 

『それだ、621。目標を破壊しろ』

 

 円筒形の変圧チャンバを蹴りつけ、ぶち抜く。

 

 次の瞬間、621は振動を感じる。あちらこちらで異音が聞こえた。

 チャンバの破壊によって減圧系が狂い、配管がズタズタになったのだ。至るところで熱水と蒸気が噴き出していた。

 

『変圧チャンバを破壊。爆発する前にそこから出るんだ、621』

 

「了解。退避開始」

 

 再び圧力容器へ。既に壁面が吹き飛んでいる箇所があり、発電所としての機能を喪失しつつあるのがわかった。冷却水が沸騰している。

 

 内部を一直線に通り抜けようとすると、隔壁が閉じた。

 エアが声にならない声を出す。

 

《隔壁が!》

 

 同時に上から何かが降ってきて、光波を飛ばしてきた。621はミントグリーンの斬撃を浴びる。

 

「タリホー。罠だ」

 

『防衛プログラム、フェーズ5.0、パターンC。脅威を排除します』

 

 現れたのは中量二脚AC。昆虫のような意匠が目を引いた。

 

《……生体反応がない──無人機体です!》

 

『これは技研の……!』

 

「稼働機か」

 

 エンゲブレトやこのウォッチポイント・アルファに複数転がっていた機体だ。

 武装が分からなかったが、プラズマライフル、何らかのエネルギーミサイル、そして光波ブレードという構成のようだ。

 ブースタから紅い炎が出ている。コーラル駆動だった。

 

『621、爆発まで猶予はない。排除しろ!』

 

「ウィルコ」

 

 621は敵機をスタッガーに追い込み、ブレードとアサルトアーマーでとどめを刺す。確実に殺った感覚があったが、それは裏切られた。

 

《ターミナルアーマー……炉心溶融が進んでいます! 爆発までの時間を計算すると……》

 

 敵機はリペアキットを一気に2個使用し、APを完全に回復した。

 

《レイヴン、あと2分しかありません!》

 

『脅威レベルを9に引き上げ。排除します』

 

 続いて飛んできた光波が命中し、621はACS負荷限界。硬直する。

 ブレードについて、621はウォルターを頼ることにした。何か知っていそうな反応だった。

 

「ハンドラー、光波ブレードの情報を要請」

 

『レーザーとパルスの合成だ。ミサイルも同じだ。出が速いから注意しろ』

 

 ウォルターは続けて言った。

 

『その「エフェメラ」は最初の量産ACだ。ジェネレータの補充性能が低い。そこを突け』

 

 敵の動きが緩慢になったところに蹴りを入れ、ライフルとミサイルを叩き込む。

 そのまま敵機を壁際に押しやり、再びスタッガーをとる。追撃はブレード。今度こそパルスブレードが敵機を切断した。

 

『評決……技研都市……鎖に対する……刻な脅威……』

 

『やったか⁉』

 

 やった。敵機はジェネレータが爆発。球状にコーラルが急反応を起こす。

 変わり種ではあったが、AC同士、それも1対1の戦闘が2分もかかることなど有り得ない。

 

《レイヴン! 隔壁の解錠を!》

 

『強制執……システム……最終プロトコル……常弁……全閉鎖……。炉心溶融……加速……』

 

 621は隔壁をリリース。

 

『排……執行……』

 

 残り90秒。

 

 この原子炉そのものが、強制執行システムの最後の砦だった。

 原子炉の非常弁は全て閉じられ、炉心溶融を防ぐどころか、むしろ加速させた。621を閉じ込め、原子炉もろとも消し飛ばすつもりなのだ。

 

『お前には仕事が残っている、621。失望させてくれるなよ!』

 

 アサルトブーストで鉄骨の間を一気に飛び抜け、621は格納容器から脱出した。

 

《レイヴン! 離れてください!》

 

 正面の梁の上を進み、岩壁の方まで退避する。

 振り返ると、火の手を上げた格納容器の姿があった。火は徐々に激しさを増していった。

 

 70秒後。

 

『吹き飛ぶぞ! 衝撃に備えろ!』

 

 格納容器から真っ赤な溶融物が漏れ出した、次の瞬間。

 閃光と共に、容器が破裂。ダストが舞い上がり、鉄の破片が機体の脇を掠めていった。

 

『やれやれ……際どかったな。見ろ──レーザー障壁が消えていく』

 

 穴の底に張られているオレンジの網が、輝きを失っていく。

 やがて障壁は完全に消失し、穴の底をはっきりと見ることができるようになった。黒いタールのようなものが溜まっている。

 

『コーラルは近い』

 

 ウォルターが言った。

 

『……俺たちの仕事にもひとつ区切りが付く──これからガレージを降ろす、しばらく待て。よくやった、621』

 

 

 

 

 

 

 長いトンネルを飛んできたガレージに、621は機体を戻す。長い1日だった。

 

 除染される機体の中で雑務に入る。メールチェックだ。

 

『新着メッセージ、1件』

 

 1件だけ来ていた。確認する。

 

『登録番号Rb23、コールサイン、レイヴン。貴方の実績情報が更新されました。アリーナにおいてSランク帯の仮想戦闘が開放されています。相手となるのは……ベスト・オブ・ザ・ベスト。戦闘技能の極致の追及に、お役立てください』

 

 アリーナの特例上位ランカーとの戦闘。ルビコン最強格とされる3人が、621を待ち受けていた。

 

 

 

 

 

 

 文書データ:プロフェッサー・ナガイの口述筆記

 

 その声は重々しいものだった。

 

『技研もルビコンも避けることのできない滅びを待つのみだ。今心配すべきはその後のことになる』

 

 録音に混じった吐息はやや粗く、焦燥しているのが分かった。

 

『このデータは変異波形発生の兆候……観測を続けなければ』

 

 しかしその声には、決して折れることのない覚悟があった。

 

『頼れるのはもはや第2助手しかいない。苦渋の決断だが、私にできるのは彼女に──教え子に業を背負わせることだけだ』




 収入:565,600
 
 基本報酬:270,000
 報酬加算:295,600
 詳細
   汎用兵器の撃破:1,600
   砲台の撃破:96,000
   封鎖兵器の撃破:126,000
   ACの撃破:72,000
 
 支出:43,582
 
 修理費:18,582
 弾薬費:25,000
 報酬減算:0
 
 収支:522,018
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