『昔話をしようか、ツーリスト』
カーラもそう言って切り出した。ウォルターのように。
『アイビスの火がこの
カーラはその名を告げた。
『「オーバーシアー」……観測者たちの結社さ』
「最初から組織的なものだったのか」
『その通り。コーラルの増殖傾向を測り……「破綻」が訪れる前に焼き払う。それが使命だ。私たちのね。私に、ウォルター……そして死んでいった友人たちの』
カーラは普段の様子からは想像もつかないような、低い声で話を進めた。
『RaDは退屈しない隠れ蓑──副業だったけどね。そろそろ本業に戻る時が来たってわけさ』
昔話はここまで。話は本題に入る。
『あんたもザイレムには行ったことがあるそうだね? 技研の作った洋上都市だ』
「ああ、ハンドラーとな。霧に包まれていた」
『ま、あんたが晴らしたんだが。秘密が隠されてるんだ──来るべき破綻に備えるためのちょっとした機能さ。そいつが要る、早急にね』
621にザイレムの三次元マップデータが送られてくる。これは621も初めて見るものだ。
市街にはコントロールタワーと銘打たれた、大きな建物がひとつ建っている。調査に行ったとき、最後のECMフォグ制御装置があったところだ。
『RaDハッカーチームの総力を以て、ザイレムのコントロールを奪いに行く。あんたには見物しに来たアーキバスの相手を任せたい』
「了解。早速出よう」
『ほう……それなりに無理がきくと聞いていたが、想像以上だね。いいだろう、ツーリスト。向かうとしようか』
ザイレムへ向かう途中、621は使命のことについて考えていた。
それはエアも同様だったようだ。
《「オーバーシアー」、観測者たちの結社……。彼らは……コーラルを焼こうと……》
621は聞き取れてしまった彼女の言葉を、無意識に聞き流そうとしている自分に気が付く。
おれたちはコーラルを焼こうとしていて、
彼女は「燃え残り」だ。全てに火を点けろ、というのは、決して比喩ではない。根絶やしにする必要があった。
そうでなければ、コーラルは三度増殖を始めることになる。
『着いたよ、ツーリスト。準備は良いかい?』
考え事は終わりにする必要がありそうだ。まずは仕事を終えねばならない。
「チェックコンプリート。降りる」
『メインシステム、戦闘モード起動』
621はザイレムコントロールタワー付近にある、ビルの屋上に降下した。
視界は良好。霧はなし。朝焼けが綺麗だ。
『配置につきな、ツーリスト! 時間だよ!』
「コピー、チーフ」
『チャティ以外にそう呼ばれると、むずがゆいね。さて、こっちが掌握するまでタワーを守ってもらうよ』
『恒常化プロセスK。シールド展開』
そびえ立つコントロールタワーが、パルスシールドに覆われて防護される。
『チーフ、防衛システムをいくつかクラックした』
『よくやった、チャティ。少しこいつで時間を稼ぐとしよう』
それを確認すると、621はザイレム正面の広い幹線道路に沿って真っ直ぐ進み、作戦エリアの端で待機に入る。
『配置についたようだね。チャティ! コントロールまであとどれだけかかるんだい?』
『5分くれ。それで企業勢力は……』
HMDにコーションが出現。3群に分かれている。
《……アーキバスMT部隊が出現しました》
「コンタクト。反応多数。迎撃する」
『……やれ、開店前なんだが』
621は正面を吞気に飛んでいる輸送ヘリをプラズマミサイルでまとめて撃墜した。続いて正面左手の高架へ飛ぶ。
『もう起きているようだね、ツーリスト』
MT2機に再びプラズマミサイルを被せ、黒焦げにした。
『あんたのおもてなしを見せてやるんだ』
《……やり遂げないと。レイヴン……私がサポートします!》
「……頼んだ、エア」
そうだ。考え事は任務が終わってからでいい。
『タワーに近寄らせるんじゃないよ、ツーリスト!』
正面右手の高架を進むMTに、621は襲い掛かった。スクラップが二組完成した。
『恒常化プロセスB1、プラズマ砲台待機』
『支援砲台を起動できるようにした。使える時間は限られるが、手が足りなければ使ってくれ』
「助かる、チャティ」
とはいえ、最初の2波は脅威たりえなかった。たかだかMT10機程度、621の前ではガードメカでしかないのだから。
『ザイレム制御、中級管理権限移行』
『あと3分はかかる。持たせてくれ、ツーリスト』
「了解」
コーションマーク。速い。
《今度は狙撃部隊です!》
『ヘイ、ツーリスト──蹴散らしてきな!』
「ああ」
飛んできたのは狙撃型のLC。621は背後からライフルとミサイルで撃破。
しかしLCは何機も飛んできて、どうしても発射までに間に合わないことがあった。2発目はなかったが。
「シールドに損害ありだ」
『上級権限までアクセスした。あと2分で俺たちのだ』
しばらく波が来ない。ここで621はプラズマ砲台を起動した。
以前ウォッチポイント・デルタでミサイルを打ち上げたが、あの時のガトリング砲台よりは頼りになると思いたい。
『……待ちな! まだ何か来るが……』
《生体反応なし──あれは自爆ドローンです!》
『向こうも必死だね……撃ち漏らすんじゃないよ、ツーリスト!』
一直線に突っ込んでくると判断した621だったが、それは誤りだった。敵機は何度か照準修正のためスピードを調整し、621は仕掛けるタイミングが遅れた。
アサルトアーマーを発動する直前、4機ほどすり抜けていく。シールドが一瞬で30%ほどまで削られた。
《タワーのシールドが削られています!》
「……不甲斐ない」
残り90秒。
《増援! 数が多い……》
『あんたにサイン待ちの行列ができてるよ』
随分と人気じゃないか……と、カーラは呆れたように言った。
敵は大群だった。全部で5群。MTを出されると効率が下がる。
『ペンも色紙もないとはマナー違反だね。血とスクラップで十分だよ!』
正面から来る機影に621は向かうが、高度が低く、ヘリでもないことに気付いた。
《レイヴン、高火力型LCです!》
かつて「壁」で交戦した記憶のある、背中に大量のミサイルポッドを積んだ機体を621は捕捉した。
『あんたは犬みたいに働かされてきたが……半分はウォルターのやらかしだ。あいつは本物の人使いだからね』
621は瞬く間にスタッガーを取り、ブレードで三枚におろす。
「そうだろうとも」
続いて輸送ヘリを先に始末する。続いて地上侵攻してくる二脚MTの排除。
『ザイレム制御、上級管理権限移行中』
『……あと1分だけだ、ツーリスト』
そのとき、いつの間にか突破していた1機のMTがグレネードを発射するのを、621は見た。
《シールド消失!》
『くそ……困ったことになったよ!』
「撃たせん」
621は有言実行。迫りくるMTをプラズマミサイルで絡め取り、ライフルで穴だらけにする。
『30秒待ってくれ、管理者権限を取得する』
『もうちょっとだよ、ツーリスト!』
《また増援!》
高速の、単機輸送用ドローンが突っ込んできた。621はヘッドオン──すれ違いざまに1機墜とし、返す刀でタワー前に舞い戻り、グレネードを放とうとした敵機をまとめて粉砕した。
スティックの連絡から、30秒後のことであった。
『ザイレム制御、上級管理権限移行。オーナー、「
傷ひとつないザイレムのコントロールタワーのライトが、緑から赤に変化する。
『よく持ちこたえたね、ツーリスト』
「ああ。シールド喪失はまずかったが、守り切った」
『さて、見せてやろうじゃないか……』
コントロールタワー屋上のライトも赤く点灯する。強い。621は灯台みたいだと思った。
「……なにを?」
振動。
海面が泡立ち、次の瞬間。
ビル群が浮かんできた。
《水位が下がっていきます……》
「いや……違う。これは……」
621は高度計の数字に目が行った。増えている。
「おれたちが……浮上しているんだ」
《都市が……》
現代的な高架の道路が姿を現した。近くでは建物の土台が延長され、所定のポジションに揃っていく。至るところで海水がこぼれ落ちた。
寝そべっていた発電パネルが次々と起こされ、雫を飛ばす。
激しい水音の中に、機械的な音がした。市街の左右4区画が回転。翼のように展開していく。
『……情報を持ってきたウォルターに感謝しな』
「……あの調査ドローン──そういうことだったのか」
たしか何かのサブシステム稼働状況についてだった。
区画ごとに分かれていて、左舷だの右舷だの、まるで船みたいな扱いをされていたのだ。
高度計はなおも数字を増やしていた。ゼロメートル地帯のはずが、今や2000m近い。
洋上都市ザイレムの正体。
『あんたに贈るのは入植船「ザイレム」……』
それは巨大な──目測だが全長10kmは超えている──
『ウォルターの置き土産さ!』
収入:585,000
基本報酬:385,000
報酬加算:200,000
詳細
防衛目標の損傷 なし:200,000
支出:29,298
修理費:1,898
弾薬費:27,400
報酬減算:0
収支:555,702