621は装具を身に着け、ACのコックピットに滑り込む。コフィン・クローズ。ユニットが沈み込むようにコアへと収まり、頭部が前方にスライドして隙間を埋める。
ジェネレータのアップを待つ間に621はブリーフィング。システムを切り替える。
『状況を説明するよ、ツーリスト』
最初に映し出されたのは上層街区の映像。ダンゴムシみたいな見た目のトイボックスが、封鎖機構MTの集中砲火を受けている。
『アーキバスがザイレムを追って総攻撃を仕掛けてきた。うちの連中で応戦してるが、正直どうかね? 追いつめられてるのが現状だ』
「そこでおれの出番」
『そういうこと──雑魚はチャティたちで持つ。あんたにはピッタリな奴がいる』
そう言ってカーラは映像を切り替えた。
『V.Ⅰ フロイト。企業陣営の誇る筆頭エースさ』
この青い中量二脚機こそ、かつてのトップランカーだ。今は2番手だが。
『ウォルターは私に最後のカードを遺してった──あんたをだ。一度切ったら、もう後戻りはできないよ。頼まれてくれるかい?』
「愚問だな。実はもう踏ん切りをつけてきた」
カーラが覚悟を問い、621はそれを示した。
『……そうかい、ツーリスト。出な』
「了解。62──レイヴン」
『コールサインをちゃんと見てなかったのかい? あんたのことはウォルターから散々聞かされたんだ。今更隠すことじゃない』
「そうだな──621、出撃する」
ザイレムは巨大だ。輸送ヘリでの移動が必要になる。自動操縦されるそれから、オーバーシアーにとって最後の、そして最強の1枚が切られた。
『メインシステム、戦闘モード起動』
『よし、始めようか。V.Ⅰ投入まで猶予がある。まずは企業のヘビーヒッターを叩いてくれ。勝つにはあんたの力が必要だ。気負うんじゃないよ、ツーリスト!』
「了解した」
621はアサルトブーストで飛び出していく。近くにいたドローン3機をプラズマミサイルで叩き落とすと、街区を覆う透明な屋根の上で佇ずむ機体に目を付けた。
「LC高機動型を視認、交戦する」
『V.Ⅱ、状況報告であります。例の独立傭兵と交戦中』
かつてラスティと組んで戦った機体だ。豊富なミサイル火力と高出力高燃費ブースタで、一撃離脱に徹しようとする。
621はそれに付き合う気などなく、蹴りつけ、プラズマミサイルを放ち、銃弾を叩きつける。
『ほう……
スタッガーしたらブレードを二振り。これを2サイクルするだけ。
『機体がいかれた!』
『あいつ大口叩きやがったね!』
落下していく機体を尻目に、621は本格的に戦闘が行われている、屋根の下へ飛び込んでいった。
敵機視認。LC1、MT2。強い方から殺る。
621は背後からプラズマミサイルを放ち、蹴とばす。スタッガーしたところを一刀両断。
『目標を撃破。その調子だよ、ツーリスト!』
『俺たちはコテンパンにされつつある、チーフ。彼らの主力は封鎖機構のハイエンドだ』
『……今のを聞いたね、ツーリスト? チャティが右舷ウイングを何とかする。あんたは目標をやってくれ!』
「了解」
621はアサルトブーストで進行。目に付いたMTを片付けながら、やがてパルスシールドを張ったドローンを見つけた。範囲内に狙撃型LCもいる。
「突入する」
ドーム状の建造物の近くだった。621はドローンを破壊した後、LCを蹴り壊す。残ったMTもスクラップに変えた。
『ツーリスト、坂があるだろう。そこから中に入れる』
「視認した。入るぞ」
隔壁にアクセスし、開ける。射撃しているトイボックスが1機見えた。次の瞬間、それがパルスエネルギーで殴られ、プラズマライフルに焼かれる。
「タリホー。HC」
『例の独立傭兵が現れました、閣下! ……了解しました。排除する!』
『……今度はHCかい。アーキバスもリサイクルが好きなのかね。少なくとも封鎖機構は喜ぶだろうよ』
621は敵機に密着。ライフルを接射しながら蹴りまくる。そうすれば、敵は危険な攻撃動作を始めることができない。
敵機に身動きをさせないまま、621はスタッガーをとり、ブレードを叩き付け、アサルトアーマーで痛めつける。
『やはり只者ではない! V.Ⅱ、V.Ⅰの投入はまだ──』
『煩わせるなと言ったでしょう、些事です。こなしなさい』
だしぬけに地面へ放たれたプラズマライフルを浴び、621はAPを半分近く失った。
「やはり一撃が重い。だがここまでだ」
シールドバッシュで大ダメージを狙った敵機をかわす。621は圧をかけ、そのまま押し切った。
『ば、化け物め……』
『この区画は確保したようだね。今のうちに補給をしときな』
「コピー」
621が補給を終えると、スティックから急を知らせる通信が入った。
『敵の増援だ、チーフ。多すぎて対処しきれない』
『一体どこからこんだけかき集めたんだい⁉ チャティに手を貸してやってくれ、ツーリスト』
「ウィルコ。チャティ、やり遂げるぞ」
621はやはり透明な、三角形をした通路内をアサルトブーストで器用に高速飛行。
『チーフ──敵性反応、急速接近中。識別コードは……』
『V.Ⅰ……! フロイトが動き始めた! 急いでくれ、ツーリスト!』
運悪く進路上にいたMTをプラズマミサイルで蒸し焼きにし、621は右舷ウイング手前まで到達。
隔壁を開け、区画へ飛び出していった。
「こちら621、右舷ウイングへ到着」
『待ちわびたぞ、ツーリスト』
「すまない、遅くなった」
HMDにスティックの位置が表示された。621はMTを狩りつつ、マーカーを目指す。
『間に合ったか……チャティ、よく持ちこたえたよ!』
『やるだけやった。これでようやく反撃に移れる』
621はスティックが駆る軽量タンクAC「サーカス」をフライパス。
『LCが複数いる……あとはパルスプロテクションドローンだね』
「コピー……高火力型だな。始末する」
『俺は正面に出て攻撃を引きつけるとしよう』
621はスティックのミサイルにとって障害となる、シールド母機のドローンから消す。
続いて高火力型LCへ。背中のでかいものは、近づいてしまえばただの錘に過ぎない。621が動きを止め、2機分の火力を浴びせる。最初の標的は数秒で溶けた。
『……チーフ、V.Ⅰが近い』
『そうかい? 貧乏暇なしだね!』
「2機目を撃破。クリア」
621はその後すぐにもう1機のLCを撃破し、区画を掌握した。
『……些事ではなかったようですね、結局』
621を些事と言い切ったはずの、スネイルの声が聞こえた。
その態度は、鹵獲した高性能機が次々と撃破されてもなお、変わることはなかった。
『心配いりません。そのためのV.Ⅰです』
彼の声は期待感を隠さないものだった。ヴェスパーズの第2隊長は、第1隊長に相当入れ込んでいるようだった。
自機のレーダーに反応がひとつ。621は声を上げる。
「コンタクト。ACだ」
『お前がレイヴンか……』
やや低めの声。621は残忍な印象を感じた。獲物をいたぶるタイプだ。殺しを愉しむ。
『ウォルターの猟犬との弾幕ごっこは初めてだ。楽しめそうじゃないか』
その印象に間違いはなさそうだった。
標準フレームに「メランダー」を混ぜた青い中量二脚機が、アサルトブーストで突っ込んでくる。
「交戦する」
621もアサルトブーストで突撃。蹴りを入れるも横にかわされた。敵機は621を無視して、サーカスの方へ真っ直ぐ向かった。
『まずはこっちのゴミを片付けよう』
「チャティ、
621は回避を呼びかけるが、間に合わなかった。
ここまでの戦いで消耗していたサーカスは蹴られ、怯んだところをレーザーブレードで切り裂かれた。
『──チーフ……。……ツー……リスト──』
コミカルな黄色の機体から炎が噴き出し、スパークが奔った。やがてジェネレータがオレンジ色の花を咲かせる。戦場では毎日のように見かける花だ。
『チャティ⁉』
カーラが悲鳴を上げる。こんな声は初めて聞いた。621もスティックに呼びかける。
「チャティ、応答しろ。スティック。お喋り屋、聞こえるか?」
分かってはいたが応答などなかった。彼は脱出レバーを引く身体がない。システムを緊急停止させる余裕もなかっただろう。
『チャティ……あいつ──!』
『Botだな。そういう動きだ。いつも同じでつまらん』
『……っ!』
「……なに?」
その言葉は621の奥底に、本当に火を点けた。
青色の敵機を壁に向かって蹴りつける。コックピットを貫く思いでライフルをぶちまけ、スタッガーを取ったらブレードで連撃。間髪入れずにアサルトアーマー。
戦闘中に我を失ったと621が気付いたのは、この一連の攻撃を終えてからだった。
『頼む、ツーリスト』
「殺る」
『そういう動きもあるのか』
無線機からは場違いな、どこか楽しげにも感じられる声が聞こえてきた。
『面白いな』
『ゲームに興じている場合ではないでしょう、フロイト。目標はあくまでもザイレムの掌握です。その
『ああ、スネイル。その通りだったな』
敵機のパイロットが自身を窘める声に生返事を返し、挙句通信を切断する音まで聞こえた。
『さて』
彼は言った。
『
蹴りを主体にプレッシャーをかける猟犬を、ゲーマーは拡散バズーカやレーザードローンで迎え撃った。
全ての行動を最適な敵機撃破のためにとる621と、遊び心をふんだんに取り入れ、どこか舐めたところもあるフロイト。アリーナはともかく、実際の戦場では相性が悪かった。
拡散バズーカの被弾が多い。相手の射撃タイミングは確かに良いが、621は自身の機動に問題があると感じていた。
「密度を減らすか……? いや、違う」
『スネイルよりこっちを選んで正解だったな。お前の戦い方、まさに猟犬という感じだ。この高度だ……てっきりハゲタカかと思ったが』
「ドローンは脅威じゃない。見るのはバズーカだけ。──望みどおり喰ってやるよ」
『ここは素晴らしい眺めだ。このままお前とやり合いたい、そういう気分だな』
「……あんたとは飛びたくない。墜ちろ」
621はいい加減始末すべく、ACSに負荷の溜まった敵機が、壁際の逃げようがない場所に行くよう誘導。
頃合いを見計らってアサルトアーマーを発動した。直撃だった。動きを止めた敵機をパルスブレードで一閃する。
『これからだ……ロックスミス……! もっとだ……! 俺は……もっと……』
切断したジェネレータからエネルギーが漏れ出し、荒れ狂う。機体は青白い炎に包まれ、爆散した。
深いため息が聞こえた。カーラだった。
『V.Ⅰ……フロイト、撃破を確認した』
621は炎上する敵機を捨て置き、同じく炎上するサーカスのもとへ飛んだ。
「チャティ……」
『あんたに賭けて正解だった、ツーリスト。私も、ウォルターも……チャティだってそうさ』
こうして、アーキバスが行ったザイレム掌握作戦は失敗に終わった。青い空のもと、ザイレムの市街に、無数の鉄屑を残して。
621のヘリが格納庫まで戻ると、カーラから通信が入った。
『チャティにお別れをしてきたよ。あいつは私の作ったAIだ。必要に応じて身体を換えたりはするが……』
カーラは続けた。
『いえね、バックアップは取る気になれなかった。生きるってのはそういうもんだろう?』
無線機の向こうで、鼻をすするような音がした。
『……あんたにもそういう奴がいるみたいだね。気のせいだといいんだが』
「……彼女はまだ生きている。心配しなくていい」
通信が切られた。
621は実感していた。ウォルターの言った通りだ。
『コーラルが絡むと、死人が増える』
そろそろ止めてやりたいという気持ちもまた、621の中に芽生えていたのだった。
収入:867,800
基本報酬:440,000
報酬加算:427,800
詳細
「V.Ⅰ フロイト」の撃破:180,000
汎用兵器の撃破:17,600
軽MTの撃破:44,200
LC機体の撃破:96,000
LC新型機体の撃破:40,000
HC新型機体の撃破:50,000
支出:81,648
修理費:46,948
弾薬費:34,700
報酬減算:0
収支:786,152