メインシステム、戦闘モード起動   作:留式

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朽ちた誇り

『あれはヴェスパー……だがアーキバスの機じゃない……応戦しな、ツーリスト!』

 

「了解。621、交戦」

 

 621は敵機とヘッドオン。距離426でFCSが捕捉。互いにアサルトブーストを焚いており、その数字があっという間に小さくなっていく。

 

「チーフ、可能なら敵機を解析してくれ」

 

 言いながら621は敵機を蹴りつける。これが先制攻撃だった。相手は右腕の兵装を発砲、621に当ててきた。

 

『お安い御用だ、それまで持ちこたえな!』

 

『……これも巡り合わせか』

 

 空中戦に入る。実弾オービットが621に弾を浴びせ、621もバーストライフルで応射。

 

『企業の総力を以てしても、君を止めることはできなかった……』

 

 しかし、下方から敵機がするりと621の懐に入り、レーザースライサーを振り回し始めた。

 

『……そのための新型だ』

 

 回転する青白い刃が、何度も621を切りつける。このまま終わらせるわけにもいかず、621はアサルトアーマーを発動。

 

「そう簡単にいくと思うなよ、V.Ⅳ」

 

 カウンターでスタッガーを取り返し、パルスブレードの連撃を命中させる。

 更に追撃として放ったプラズマミサイルは回避された。敵機がリペアキットを使用する。

 

『ラスティと呼んでくれ、戦友(バディ)

 

『なるほど、そういうことかい。理由は知らないが、こいつも企業を利用してたようだね……第1分析終了!』

 

 カーラは621の要請に応え、敵機を分析。断片的だが情報が飛んでくる。

 

『このスペクトル、エルカノか……? 右腕の武装だが、ニードルガンだ。弾が見づらく連射力が高い。ACS負荷を要チェックだ』

 

「助かる、チーフ。続けてくれ」

 

『ルビコンは常に脅かされ……掠め取られてきた。その不条理を止めなければならない、誰かが!』

 

 今度は上方から剣戟が振るわれた。621は蹴りで対抗して、弾かれ、レーザースライサーのフルヒットをもらう。スタッガー。追撃はオービットのみ。自由落下で回避する。

 

「……そうだ。ルビコンに流れる血を止める。あんたの血でな、ラスティ」

 

 ……そしてもうひとりの血が必要だ。口には出さないが。

 

 621はリペアキットを使用し、軌道修正を図る。無尽蔵のエネルギーを活用するなら、アサルトブーストとクイックブーストの変則的な組み合わせが一番だろう。

 高度と距離を目まぐるしく変えながらライフルとミサイルで猛攻を加える。蹴りは後ろに回避されてしまう。読めるようになるまで使用を避けることにした。

 

 それでも熾烈な攻撃に敵機が耐えかね、再びリペアキットを使用した。これで残数1のはずだ。

 

『君のその決意……どこからきた? きっと何かを選んだ……何かを捨てた……。戦う理由を……見つけたんだろう、戦友(バディ)!』

 

「そうとも。輪っかがないのはおれも同じだ」

 

 621は捨てた──エアを。チャンスをくれという彼女の願いを聞き入れなかった。それは紛れもない事実だった。

 そしてもちろん、ウォルターの首輪は、既に拘束力を持たなかった。そんな事実ですら、今の621にとっては推進力でしかない。

 

 犬と狼によるドッグファイトは続く。両者とも、地に足をつけることは考えなかった。まさしく空戦だ。

 一匹は無限のエネルギーを頼りにして、フラメンコのようにクイックブーストのステップを踏んだ。

 もう一匹は全身で歌いあげる。力の限り。凍てついた土地で血を沸かせ、朽ちた誇りを胸に飛ぶのだと。

 

『「アルバ()」フレーム……結構な名だね。ツーリスト、右肩のニードルミサイルは弾速が速い。注意しな』

 

「コピー」

 

 曳光弾が飛び交い、赤熱したニードルと紫のプラズマ弾頭が交錯する。

 ときおりパルスブレードとレーザースライサーが互いの機体を狙うが、当たらないと見ると解除された。

 

『リペアキット、残数1』

 

 その過程で621はダメージが蓄積、早めにリペアキットで回復する。

 

 空戦は長引いた。致命的な一撃はどちらも完璧に回避するようになってきた。

 だから撃ち合いになる。ただ間延びした感覚は全くない。気を抜いた次の瞬間には死んでいるだろう。

 

 ダメージレースを勝ったのは621だった。斜め下から上にサテライト機動。続けざまに放った3発のライフル弾が、敵機のAPを完全に削りきる。

 極限の集中力。621はスローになった視界で、敵機の背部が光を帯びるのを、見る。

 

『まだだ!』

 

 敵機がターミナルアーマーを発動、そして最後のリペアキットを使う。621は一度遠くまで離脱。やはり最後のリペアキットを使用した。

 

『ルビコンの夜明けを拓いてみせる……』

 

 狼は言った。

 

『より高く飛ぶのは……私だ!』

 

 この身が擦り切れようが、どこまでも高く飛んでやる。壮絶な覚悟を621は感じた。

 

『こちら「灰かぶりの(シンダー)」カーラ! 聞きな、ツーリスト! 敵機体の解析が完了した』

 

 反転。離れたところから敵機と対峙する。そこにカーラから無線が入った。

 

『機体名は「スティールヘイズ・オルトゥス」。エルカノ、そしてファーロンの共同開発品だよ。ブースト速度はあんたより上だ』

 

 つまり、後ろから追いかけるのでは置いて行かれる。

 

『正面から突っ込んで、強烈な一撃を浴びせるしかない。こいつを討てるのはあんただけだ』

 

 灰をかぶり、最も長く仕事をこなしてきた女は言った。

 

『ウォルターの遺したあんたの、幸運を祈るよ!』

 

「ああ──高く翔ぶ(・・)のはこのおれだ、ラスティ」

 

 向かい合った両者が、アサルトブーストで接近する。

 

「いくぞ」

 

『行くぞ!』

 

 苛烈な戦闘が再び始まった。互いにトリガーを引き絞り、ミサイルを飛ばす。

 

『右肩武器、残弾30%』

 

 再びレーザースライサー圏内に入れられた621はやはりアサルトアーマーでカウンター。しかし角度が悪く、追撃のブレードが外れた。

 

 仕切り直し。蹴りを狙っていくと、それが狙いだったことに気付く。621は今度こそレーザースライサーをいなしきれない。

 

『重いのだろう……君が見つけた理由も』

 

『AP、残り50%』

 

 冷却したばかりのパルスブレードで反撃。当てる。直後にニードルガンをくらった。

 

『AP、残り30%』

 

『ようやく君を知ることができた……』

 

 互いに正面を取ろうと、クレイジーなワルツを踊る。切り裂かれた薄い空気が白い螺旋を描いた。

 

『もう少し早ければ……違う未来もあった!』

 

 そう言って、敵機はレーザースライサーを振り回す。

 

「おれはそうは思わん。猟犬と狼、似てはいるが正反対だな」

 

 621もブレードに持ち替えて、近接攻撃出力のままハイマニューバ。

 

「もう一度、正面からだ」

 

『越えてみせる!』

 

 振り回されるレーザースライサーのすぐ脇から強引に機体をねじ込み、621はパルスブレードでアーチを描く。ジェネレータを切り裂く感触があった。

 敵機にスパークが奔り、袈裟懸けになった傷口から炎が噴き出す。

 

『届かなかったか……』

 

 スティールヘイズ・オルトゥスがザイレムの甲板に落下し、爆ぜた。

 

戦友(バディ)……』

 

 621の名を呼んで。

 

 

 

 

 

 

 炎上する機体を見つめながら、621もザイレムに降りる。

 途中から見ていなかったAPの表示は00227。ラスティは僅かに届かなかった。

 

『……「戦友(バディ)」、か』

 

 戦いを見守っていたカーラが、621に言葉をかけた。静かに。

 

『願いを聞いておやり、ツーリスト。覚えておくんだよ、彼のこと』

 

「ああ──」

 

 621は返事をしようとして、甲板が青白く照らされるのを見た。

 

 光が強くなる。

 

『なっ……!』

 

 閃光。背後から。

 

 太かった。コントロールタワーを貫き、動力ブロックの方まで光が伸びた。

 

 大きな爆炎があがり、一瞬後に轟音が機体を揺らした。

 

 青白い殺意の残滓が、上半分の消し飛んだコントロールタワーの前に漂っていた。

 621は直線に連なるそれを目で追う。やがて、上空──宇宙空間で紅く光る、ひとつの点を見つけた。

 

『……衛星砲⁉』

 

 カーラが信じられないものを見た、といった声を発する。

 

『どういうことだい……企業は封鎖システムを掌握できてないはず……!』

 

 絶対に届かないはずの、ルビコンの門番。

 

『一体誰が動かして……⁉』

 

 その目が紅く、ザイレムを睨みつけていた。




 収入:470,000
 
 基本報酬:470,000
 報酬加算:0
 
 支出:76,692
 
 修理費:43,392
 弾薬費:33,300
 報酬減算:0
 
 収支:393,308
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