解放への火種
どんなに信じられないと思ったところで、しかし間違いなく、621は時空を超えていた。
ライセンス内容や機体もそのままだった。内装強化とOSチューンの入った、トップランカーの探査ACだ。
621は不合理な事実を認め、受け入れた。そうでないと死ぬからだ。しかしその手が届く範囲に大した変化はなく、再び依頼をこなす日々が始まったかに思われた。
変化は早々に表れた。
ガリア多重ダム襲撃任務の最中、解放戦線からコンタクトがあった。報酬をベイラムの倍出すから、G4とG5を撃破せよという内容で。
「まだ早い。断らせてもらう。だが、この先に配備されたACの装備ぐらいは助言できる」
621は誘いを断ったが、前と違って敵ACを撃破しなかった。
二度も
ガリアでのコンタクトを受け、621は解放戦線で試すことにしたのである。
企業ではコーラルを持ち出されてしまうから、やはり解放戦線だろう。問題は、戦力が足りるかどうかになる。
ストライダーと壁は仕方ない。それ以外の戦力を温存し、封鎖機構をやり過ごし、最後にアーキバスをなんとかしないといけない。
621はウォルターに解放戦線を上手く使うプランを提案し、了承を得た。微笑ましい声音と共に。
『フフン……良さそうなプランだ、621。なるべく余計な手は出さないようにする。好きにやってみろ』
こうして、621は解放への火種をまいた。
『新着メッセージ、1件』
『レイヴン、急な連絡ですまないが、取り急ぎ礼を言わせてもらいたい。貴方の助力により、我々、特にトップ層の消耗が大きく減少した』
621が最初に手をつけたのは、解放戦線トップ層の機体構成だった。
この内前線によく出ているバーンピカクスとユエユーは、端的に言えば弱い機体だった。2機ともフレームは「バショー」で、フレームの性能自体は悪くない。
バーンピカクスを駆る
『同志ダナムは被弾が減り、撃破数が増えたと喜んでいた』
今のバーンピカクスはジェネレータとFCSを現行モデルに変更、武装も刷新されている。
左腕をパルスブレードに換装したのだ。腕部の堅牢な構造を活かした決戦兵装になる。これに右腕のバーストマシンガンと、両肩の4連装ミサイルで弾幕を張るというのが新しいダナムの戦い方になる。
負荷を抑えつつも全てのハードポイントを埋め、発射に時間がかかるバズーカを外し、弾幕でスタッガーを取って近接攻撃というシンプルな戦法。
これでもMT相手ならかなりの数相手に戦えるし、対AC戦も遅れを取ることが減るはずで、事実そうなった。
流石にランカーAC相手だと分が悪いのは相変わらずで、いざとなったら迷わず逃げるという方針が定まっていた。ダナムに限らず、これは解放戦線全体で共有された方針だった。
『同志ツィイーも視野が広くなったと言っている。彼女に代わって礼を申し上げよう』
バーンピカクスもそうだったが、ユエユーも隙の多い武装を採用していた。ハンドグレネードだ。
メリニットには悪いが、621はこれらを外してもらい、右腕にハンドミサイル、左腕にやはりパルスブレードを装備、空いていた右肩に4連装ミサイルという構成を提案した。
ツィイーは支援攻撃を担うことも多いそうで、任務内容と求める速度に応じて両腕にハンドミサイルを装備、肩はグレネードという別のプランも用意し、これも採用された。
FCSもミサイルに強いモデルに載せ替えてあるので、今までの両腕グレネードよりは戦いやすくなったはずだ。
視野が広くなったとはいえ、ツィイーは前にも出たがるタイプだ。そろそろブーストキックを入れてもいい頃合だろうという空気が、621や解放戦線の当事者たちにも広がっていた。
『……我々は今後も小規模な抵抗を続け、力を蓄える。今後とも協力を頼む、レイヴン』
これは621の一存ではなかったが、現在の解放戦線は大っぴらな軍事行動を控え、一般的なレジスタンス活動に注力していた。
ときおりACを出し、ダナムやツィイーが暴れるのだが、あくまでも嫌がらせの範疇だった。
621が睨んでいるのは、コーラルを巡る争いの最終局面。封鎖機構とベイラムを追いやったアーキバスが、バスキュラープラントに手をかけるタイミングである。
もっとも、解放戦線内でそこまで見据えているのは
『なるほどな、するとアーキバスの一人勝ちか……だが、最後の鍵を握るのはお前になるのだろう……「レイヴン」』
フラットウェルの言うレイヴンとは、恐らく称号の方を指しているように、621には感じられた。それほどの含意があった。
そんなこんなで、以前と同じような仕事の合間に解放戦線の背中を押す日々が続き。
《あなたには休息が必要です》
仲間との再開を果たし。
『不運なあんたの、幸運を祈るよ』
気がつけば。
『繰り返す。例外はない』
621は中央氷原までたどり着いていた。
こんな感じで、サクサクと進めるつもりです。
文字数はもう少し多くなりますが。