ザイレムでの最初の任務、ECMフォグを解除する仕事の次は、「壁」でHCを撃破する仕事だった。621はそのように記憶している。
ところが、見覚えのない依頼がひとつ来ていた。
《これは解放戦線からの依頼ですね》
「らしいな。見てみるぞ」
『特務機体撃破』と題された依頼のブリーフィングを、621は確認する。
『レイヴン、貴方に引き受けてもらいたい任務がある』
発行人はそう言って切り出した。
『封鎖機構がカタフラクト、特務部隊向けの地上戦特化機を配備した』
映し出されたのは大型の装甲兵器だ。二重の履帯や、2門飛び出した巨大な車載ガトリングキャノン、上に物騒なものがついた砲塔が印象的だった。
『この手の技術が企業に渡れば、ことの運びは悲惨なものとなるだろう。貴方にはこれを阻止──未然に撃破してもらいたいのだ』
続いて映し出されたのは、このカタフラクトの三面図。
一見タンクのように見えるが、脚部は四脚クローラと表現した方が正しい。クローラがあるのは膝から下だけで、そこまでは通常のリンク機構を採っているようだ。
武装も充実していた。車載のガトリングキャノンはグレネード弾を連射するもので、威力は馬鹿にならないと思われた。
その上の砲塔にも通常のガトリングキャノンが2門あり、更に32連装ミサイルポッド、可変式多機能9連装レーザーキャノンが据え付けられている。
『カタフラクトは移動要塞だ、装甲はほとんど貫徹できない。人型MTをコアに組み込むことで、汎用性も確保した恐るべき相手になる』
具体的な装甲厚は分からないが、少なくともACの武装では抜けないという。
しかもそれが、贅沢にも前後左右全てをカバーしているのだ。厳しい戦いになるのは間違いなかった。
……待て。MTをコアに組み込んだって? 621は耳を疑った。
『このコアMTは弱点でもある──集中砲火を浴びせれば倒せるだろう。一番頼りになるのは貴方だ。いかがだろうか?』
古今東西、戦車というものは正面の防御力がもっとも高い。しかし、このカタフラクトはそうではないようだ。履帯の間、挟まれるようにMTが括り付けられている。その装甲はACでも対処できるレベルのものだった。
これならば倒せる。せっかくだし爆発系を試そうか……ブリーフィングを終えた621は武装の検討を始める。
実は、オールマインドの要請で「インテグレーション・プログラム」なるものに621は参加していた。
自前の機体を強化するという目的で、テスト空間のトレーナーACや、いつぞやのテスターAC、勢力ごとのパーツをただ組んだだけのお粗末なACなどと戦い、勝利したのである。
報酬は豪華で、大量のOSTチップをもらえた。ついでによく分からないエンブレムも。
これにより、今まで強化していなかった爆発系武装も最大強化され、更にアサルトアーマーも3回まで発動できるようになった。
他にもマニュアルエイムやウェイトコントロールなどといった変わり種も取り入れ、ローダー4.4は一層の進化を遂げていた。
その結果を確かめるべく、621は重装甲相手に効果的な爆発系兵装を持っていくことにしたのである。
両腕はメリニットの開発した中型ハンドバズーカ、その名も「マジェスティック」を装備する。申し分ない威力と弾速を誇り、バズーカの割に気軽な運用が可能となっている優れものだ。
右肩は同社のハイエンドグレネードキャノン「
左肩はパイルバンカーだ。バズーカ、グレネードでスタッガーを取り、これで追撃を狙う方針だった。
『通信が入っています』
機体構成図と格闘していた621のもとに、ウォルターから通信が入った。
『621……カタフラクトと戦うらしいな。この仕事……俺にも見せてはもらえないか? 余計な口は出さない……本当に見るだけでいいんだ』
飼い主の口調から、どこか遠いものを見つめているような雰囲気を、猟犬は感じた。
「いや。ならば正式にオペレータとして来てほしい、ハンドラー。こちらからもお願いする」
『……ふむ。お前がそう言うのなら、俺に拒む道理はないが。──621』
ウォルターが神妙な声音で、改めて621の名を呼んだ。
「何だ?」
『生きて戻れ。先はまだ長い……お前には仕事が残っているのだからな』
「……もちろんだ、ハンドラー」
かつて2匹の猟犬がカタフラクトに立ち向かい、半ば相討ちとなりながら勝利した戦闘があることを、621は知る由もなかった。
『メインシステム、戦闘モード起動』
発注から納入までは極めて短時間──なんとその日のうちにメリニットはやってのけた──で終わり、621は翌日の昼頃、バートラムへ出撃。近傍の真っ白な氷原に降り立った。
『ミッション開始だ。封鎖機構の特務機体「カタフラクト」を撃破する』
621はアサルトブーストに点火。ごくなだらかな丘の影から現れた、戦車のような見た目の影へ突撃する。
《カタフラクト、来ます!》
『
「621、交戦」
621は挨拶代わりに、ドリフト中のカタフラクトのMTめがけて両腕のバズーカを放つ。1発が命中。2発目は履帯に吸われた。
「……硬いな」
雪煙を上げてカタフラクトが突進。標的を素通りし、急停止する。そこへ621は持ち替えたグレネードをぶち込む。
「なるほどこれは……素晴らしい」
HMDを爆炎が埋め尽くす。621に正常な嗅覚は備わっていないが、立ち込める硝煙の匂いを画面越しに感じ取れた。
先のバズーカと合わさり、カタフラクトはACS負荷限界に陥った。621はコアMTの真正面でパイルバンカーを展開。引き金を引いた。
チャージ攻撃を直撃させ、更にアサルトアーマーで追い込む。発動直前に敵機が後退、直撃はしなかったが、今の流れで仮想APを3分の1ほど削った。
『レイヴン……優先排除対象。ここに戻ってくるとはいい度胸だ』
警告音。621は前にクイックブーストしようとしたが、レーザーキャノンの方が先だった。拡散射撃されたレーザービームの一本を621は被弾。
『貴様のリークが全ての始まりだったのだ。我々が野放しにしておくとでも思ったか?』
《リーク……? どういうことでしょう?》
敵パイロットの言葉にエアが疑問を呈するが、621は気にする余裕がなかった。硬直から抜けた後は、サテライト機動を取ろうとする敵機に追従しようとしたのだが、敵の腕がなかなか良かった。
コアMTを狙い撃てるタイミングが少ないのだ。強引に1発ぶち込んだ621だったが、すぐに昼飯の角度を取られ、再びレーザーキャノンの拡散射撃をもらう羽目になった。
幸い追撃はなかった。クイックブーストで前進すると、今度は回転する履帯がAPを削っていった。
「……厄介だな」
上に飛び乗り、なんとか前に出たと思ってグレネードを放つが、無慈悲にも「跳弾」の文字がHMDに表示される。
爆炎が晴れると、現れたのはカタフラクトの尻だった。猛スピードで離れていく。
アサルトブーストで追わんとした621だったが、Uターンして戻ってきたところを迎え撃つ方針に切り替える。
『貴様はルビコンを企業の遊び場にした』
来た。喋りながらこちらへ向かってくる。621は左腕のバズーカを構え、引き金を引き、己の失敗を悟る。
『封鎖機構による秩序を崩したのだ!』
カタフラクトは流れるように車体の向きを変え、バズーカを装甲で阻んだ。同時にレーザーキャノンが放たれ、621はまたしてもスタッガーを取られる。
『お前のライセンス……元の「レイヴン」がやった仕事だろう』
硬直が解ける。離脱し、円を描くように走り回るカタフラクトを621は付け狙った。
『今心配することではないな、621。戦闘に集中しろ』
「了解した。集中を続ける」
飛んでくるガトリングキャノンを気にせず、ドリフトを始めた敵機をバズーカで狙撃。ようやく命中した。間髪入れずにグレネードを放ち、621はスタッガーを取る。
離れたところで固まった敵機にアサルトブーストで詰め、速度を殺さずにチャージしたパイルバンカーを突き刺す。
『一度リストに載った対象は、必ず排除する』
硬直を脱した敵機が緩旋回、大量のミサイルを放ちつつ一気に離脱。警告音がした。
見れば、砲塔で青白い球が禍々しく輝き、収縮していく。
『例外はない』
甲高い音と共に、ACのコアほどのサイズもあるような、極太のレーザービームが発射された。
「当たったらまずかったな」
発射による隙を621は逃さない。履帯の間へ潜り込み、コアMTを蹴り付け、バズーカを撃ち込む。
スタッガーしたカタフラクトに、621はパイルバンカーを刺そうとする。履帯が邪魔だったが、なんとかチャージ攻撃を当てた。
『
敵機が動き出す。621は押されながらアサルトアーマーを発動。再びスタッガーに持ち込み、動きを止める。
『戦闘シミュレータと──』
彼は最後まで喋ることができなかった。片腕ずつ発射されたバズーカが、ついにコアMTを食い破ったのである。
『そうか……こいつ……生きて……』
パネルが飛び、炎が噴き出す。その中で、息も絶え絶えな様子のパイロットが、何かに気付いたようだった。
『
その言葉を最期に、カタフラクトは爆炎に包まれた。弾薬庫に引火したのだろう、車体が一瞬浮くほどの爆発だった。
『カタフラクトの撃破を確認。ミッション完了だ。……「レイヴン」については気にしなくていい。借りたライセンスではよくある話だ』
《……はあ》
その言葉に、エアが興味を示したようだ。
《あなたとウォルターはこのルビコンで何を……?》
621はこう返した。
「仕事さ。レイヴンは拾った名前だが──今のおれにとって重要なものだ」
硝煙の匂いにまみれた鉄屑を残し、621は離脱していく。匂いが薄れるまで、しばしの時が必要だろう。
『レイヴン、カタフラクトの任務遂行に感謝する。帥淑フラットウェルも感嘆しておられた。「奇貨居くべし」とのことだ』
帰投した621は、解放戦線から送られてきたメッセージを聞いていた。
『貴方であれば、企業を打ち破れるかもしれない──封鎖機構もだ』
実際のところ、621はやれと言われればやるつもりだった。負けるとは思わない。しかし、いつもの発行人の男は謙虚だった。
『……なんてな。我々は自らの足で立たないと──それが勝利に繋がるのだから』
彼らは道の半ばまで来ていたが、先はまだ長い。そして、ときにはイレギュラーも発生するのだ。
カタフラクト撃破から数週間後、621はアーキバスの封鎖機構強襲作戦に参加し、アイスワームと遭遇した。
その直後、解放戦線から緊急の連絡が入ったのである。
『無理を言ってすまないが、レイヴン、緊急の依頼を送らせてもらった。独力で解決できず心苦しいが……おそらく貴方にしか遂行できない。まずは内容を確認してみてくれ』
収入:300,000
基本報酬:300,000
報酬加算:0
支出:29,186
修理費:16,586
弾薬費:12,600
報酬減算:0
収支:270,814
弊621は待てが出来ない駄犬なので、カタフラクトは苦手です。