メインシステム、戦闘モード起動   作:留式

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ヴェスパーズ伏撃

 ウォッチポイント表層の探査が終わり、ハンドラー・ウォルターは僚友のカーラと連絡を取っていた。

 

『地底旅行はどうだい、ウォルター?』

 

「強制執行システムが停止した、完全にな。621の道連れを狙ってきたが……あいつは生き延びている」

 

『そうかい、すると封鎖機構もどうにかなりそうだね。……企業の方はどうだい?』

 

「未開地を前にアーキバスから待てがかかった」

 

『なら、いよいよ近づいてきたね。みんなそろって仲良くゴールとはいかないだろうさ』

 

「ああ。アーキバスはベイラムを最初に退場させる腹づもりだ」

 

 観測者たちの見る戦況は、621の前の仕事とほぼ同じだった。ある勢力を除いて。

 

『どう転んでもアーキバスの勝利は揺るがなさそうだが』

 

「それなんだがな、解放戦線が予想以上に戦力を確保しているかもしれん」

 

『ふむ……まあ、潰し合ってくれるなら好都合だね』

 

 もうひとつ、とウォルターは付け加えた。

 

「俺は最終的には621が鍵を握ると見ている。だからこそ、受ける仕事はあいつ自身が選ぶべきだ。俺が選んではいけない」

 

『友人たちの意に沿わない結果になってもかい?』

 

「その友人だ──あいつにもできたのかもしれん、心配する友人がな」

 

 通信を終え、ウォルターは手元の依頼を再度確認する。2件あった。アーキバスグループ、そして解放戦線から。

 

「……621。お前なら、どちらを選ぶのだろうな?」

 

 

 

 

 

 

 ウォッチポイント・アルファ、深度2区画の一角に潜伏する621は、解放戦線から届いた依頼を確認していた。

 発行人は、久々にミドル(中指の)・フラットウェル本人だった。

 

『レイヴン、単刀直入に言おう。アーキバスの戦力を削ぐため、ヴェスパーズの番号付き2名を排除してくれ』

 

 話が詳細に入る。ルビコン各勢力のパワーバランスが表示された。

 

『企業勢力筆頭のアーキバスは、封鎖機構の技術を取り込み優位にある。しかし、連中も人間だ。終わらない勢力争いに疲弊している』

 

 表示された円グラフには3つの陣営、アーキバス、ベイラム、解放戦線が示されている。アーキバスが半分以上を占めていたそれが、僅かに減り、ベイラムを押しつぶすように解放戦線の割合が大きく増えた。

 

『これは我々の、外部からは分からない戦力も含めた図だ。保有戦力は我々も負けていない。ここで奴らの重要戦力を削ぐことができれば、実質的なパワーバランスでは我々が上回る』

 

 穴倉の中でアーキバスも疲弊している。今がそのチャンスだ、というわけだった。

 

 画面が切り替わる。藍色の、恰幅の良い四脚AC。2機いる標的の片割れ。

 

『V.Ⅴ ホーキンス、輜重部門の責任者だ』

 

 もう1機も表示される。似た色合いの、アンテナ頭が特徴的な逆関節機。

 

『V.Ⅷ ペイター、彼の補佐官だ』

 

 続いてフラットウェルは手筈の説明に入った。

 

『偽情報を使って深度2の探査にあたっている奴らをおびき寄せ……伏撃する』

 

 既に621が探査を終えたのだが、彼らはそれで満足しなかったようだ。

 もっとも、621たちは独立傭兵とその飼い主で、相手は企業の大部隊である。規模が違うのだから当然のことではあった。

 

『本任務では私がお前に僚機として付こう──歴戦の勇士と肩を並べられる良い機会だからな。色好い返事を期待している、レイヴン』

 

 ブリーフィングを見終えた621は、ウォルターにその旨を伝えた。

 

『そうか……。621、今までと同じだ。どちらを選ぶかはお前に任せる』

 

「では、解放戦線の依頼に出る。おれたちは状況(・・)を利用するだけ……違うか、ハンドラー?」

 

『違いない。──シュナイダーには断りの連絡を入れておく。行って来い、621』

 

「ああ。行ってくる、ハンドラー」

 

 その「状況」には己の飼い主も含まれることを、621は自覚せずにはいられない。技研都市は目の前だ。行動を起こすときが近づいていた。

 

 

 

 

 

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

《ミッション開始。解放戦線司令官、ミドル(中指の)・フラットウェルとの協働作戦です》

 

 621はウォッチポイント・アルファ、深度2最奥区画にぶら下がる、球状の構造物──おそらくは冷却に関する何か──の上で待機していた。

 構造物はいくつか連なっていた。621はそれを伝い、深度2から出てくるであろう標的の、背後を取れる位置まで移動する。

 

『……来るぞ、レイヴン。いつでも結構だ』

 

 位置を変えず、いつもの落ち着いた声音でフラットウェルが言った。

 ほぼ真下、深度2と繋がる隔壁を、621も見下ろす。

 

『第2隊長閣下からの緊急招集とは何事でしょうか、隊長殿?』

 

『それがスネイルのスネイルたる所以だよ、坊や。「部下」を使い走りするのが大好きなのさ』

 

『隊長殿、閣下のお耳に入りでもしたら面倒ですよ』

 

 隔壁が開き、うんざりした調子のペアが出てきた。621はそれを背後から見下ろす。

 

《目標を確認しました。四脚機に搭乗するのがV.Ⅴ ホーキンス》

 

 AC「リコンフィグ」。重量級の四脚ACである。初対面の相手だ。

 やや年配の穏やかな声ながら、その言葉はなかなかに辛辣だった。

 

《V.Ⅷ ペイターは逆関節ACです》

 

 AC「デュアルネイチャー」。こちらはパルス兵装で固めた軽量逆関節機。パイロットは少々馴染みのある相手だ。ペイターは傭兵起用も担当している。

 彼が付き従うホーキンスとの関係は良好そうだった。まるで親子みたいだと、621は自分のことを棚に上げて思った。

 

『ヴェスパー部隊の番号付き(ナンバード)が2名、揃ったな。……こちらの準備はできている、レイヴン』

 

「レイヴン了解。こっちはV.Ⅴをやる。あんたはV.Ⅷを釣り上げてくれ」

 

『承知した』

 

 解放戦線からはこの手の任務が多い。621は今日もショットガンとプラズマミサイル、パイルバンカーの短期決戦仕様だった。

 

 定石ならば、姿勢安定性能が低く、攻撃を1サイクルで終えることが可能なデュアルネイチャーから仕留めるべきだ。

 しかし、あれにはターミナルアーマーが積んである。発動中はアサルトアーマーも通らない。そのため、621はフラットウェルにデュアルネイチャーを誘引させ、その間にリコンフィグを撃破する方針をとった。

 

「交戦する」

 

 621は構造物から出ているパイプの上から、滑るように落下。距離125でショットガンを発砲した。命中。

 

『っ、は⁉』

 

『敵襲! AC2機です、隊長殿!』

 

 フラットウェルも動き始めたのを察しつつ、621は振り向いたリコンフィグに蹴りを入れようとして、避けられた。

 

『伏撃! ペイター君、射撃開始だ!』

 

 オーバーシュートした621に対し、敵機はレーザーブレードによる攻撃を選択した。621は下からアサルトブーストでくぐり抜ける。

 振り向きながらショットガンを発砲し、プラズマミサイルも添えた。

 

 やや離れたところでリコンフィグがスタッガー。621はアサルトブーストを点火したまま詰め寄り、チャージしたパイルバンカーを叩き込む。

 その寸前に敵機のACSが回復──仕留めそこなった。ホーキンスがリペアキットを使用、リコンフィグのAPを回復させる。

 

『いかにもありそうな嘘を吐くものだね、ペイター君? スネイルが私たちを瞬間移動させたのは初めてのことではないからね』

 

『まんまといっぱい食わされました、隊長殿』

 

 621の方を見るリコンフィグの背後に、曳光弾が降り注ぐ。

 

『流石はヴェスパーズの精鋭、そう簡単には動じないか。よかろう──ここからは力戦になるぞ!』

 

 予定とは異なるフラットウェルの攻撃により、リコンフィグが再びスタッガー。621は反応が遅れた。アサルトアーマーを発動するも、敵機は動き出していた。

 

『レイヴン……こうして対面するものでしょうか?』

 

『もうひとりは「帥叔」フラットウェルときた……解放戦線の重鎮だね。ちょっと頑張ろうか、ペイター君』

 

『イエッサー。望むとこであります、隊長殿』

 

 個人主義が強そうなヴェスパーズにしては、彼らの連携は良かった。士気も旺盛で、なるほど精鋭部隊の風格を醸し出している。

 

 背後から威圧してくるパルスガンを無視して、621はリコンフィグを追い、蹴り付ける。

 ショットガンでスタッガーを取り、パイルバンカーを突き刺しながら、フラットウェルに言葉をかけた。

 

「レイヴンからフラットウェルへ。そっちの動きたいように動け。こっちはV.Ⅴに集中する」

 

『了解』

 

 この区画は横幅が狭いため、速力のあるフラットウェルはターゲットを切り替えながら戦いたいようであった。

 621は彼の自由にさせた。フラットウェルの戦闘技能はお世辞にも高いとはいえない。さっさと1機墜として、戦況を引き寄せたいところだ。

 

『……筋が良いね、君。ラスティ君が入れ込むわけだ──ぐふっ⁉』

 

 リペアキットを使い切ったリコンフィグに集中攻撃。パルスアーマーも圧力で押しきり、そのままとどめを刺した。

 

『っはは……ヴェスパーズに……来ないかい……?』

 

《V.Ⅴ ホーキンス、ダウン》

 

 力を失ったリコンフィグが爆散する様子を、621はもはや見ていなかった。

 すぐ右ではフラットウェルとペイターが戦っており、これに621も加わった。

 

「1機殺った。世話をかけたな」

 

『そんな! V.Ⅴ、応答を!』

 

 スタッガーを取り前後から同時に蹴る。

 そんなことを繰り返されたからか、ペイターは口走った。荒い息づかいと共に、震えた声で。

 

『「V.Ⅴ……ペイター」……はあ……ふうっ……悪くない響きだ……』

 

 錯乱したような言動だったが、彼は気を取り直したようだった。ブレードを構えて621へ突進、不意打ち気味に一太刀浴びせてみせた。

 直後の反撃で敵機はAPを全て失い、ターミナルアーマーを発動する。

 

『……旧式とは思えない強さだ。まあ、確かに働き者だったが!』

 

「それはどうも」

 

 621はデュアルネイチャーのターミナルアーマーが消滅するまで回避に徹した。

 

《敵機、ターミナルアーマー消失。終わらせましょう、レイヴン》

 

 621とフラットウェルがミサイルを発射し、命中。さらに621のショットガンにより、デュアルネイチャーはACS負荷限界。

 

 硬直したところにフラットウェルが蹴りを入れる。デュアルネイチャーは吹き飛ばされた。

 その先には、ちょうどアサルトアーマーの発動動作に入った621がいた。

 

『嫌だ……! 今日から私がV.Ⅴなのに……!』

 

 パルス爆発にデュアルネイチャーが飲み込まれ、青白い花を咲かせた。

 

《V.Ⅷ ペイター、ダウン。ヴェスパーズ両名を排除しました。ミッション完了です》

 

『……その羽ばたきに変わりなし、だな、レイヴン。──さて』

 

 フラットウェルが改まって、言葉を投げかけてきた。

 

『今日呼んだのは、何も任務ばかりではないのだ、レイヴン。お前にひとつ話がある』

 

「ふむ」

 

『この争いの最終局面、我々と一緒に飛んでほしい』

 

 621にとってルビコンを焼く以外の選択肢が、いよいよ現実のものとなった瞬間であった。




 収入:180,000
 
 基本報酬:180,000
 報酬加算:0
 
 支出:29,970
 
 修理費:12,020
 弾薬費:17,950
 報酬減算:0
 
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