メインシステム、戦闘モード起動   作:留式

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誰が為に鴉は翔ぶ

『レイヴン。この下にあるものを、お前は知っているか?』

 

「この下? 知らないな。だから探査に来ているんじゃないか」

 

 ヴェスパーズ所属機の残骸が転がる区画で、621はフラットウェルと話していた。会話はまだつかみ(・・・)の段階だから、621は何も知らないことにした。

 

「その口ぶりからすると、あんたは知っているみたいだ」

 

『決着をつけるために、お前は知る必要がある。この先でずり落ちた──技研都市についてな』

 

「ずり落ちた?」

 

『そこに食いつくか……お前、知っていただろう?』

 

 621は腹の探り合いに関しては人並みか、あるいは駄犬の方に寄っていた。無理もない。それは「機能」に含まれていなかった。

 

「悪かったよ……おれはあくまでも独立傭兵として協力してきた。だから一線を引いていたんだが……いよいよ腹を括れということか」

 

『そういうことだ、レイヴン』

 

「なるほど……答えはイエスだ、フラットウェル。──理由は聞かないでくれ」

 

 オーバーシアーのことまで話す気はなかったが、フラットウェルは受け入れた。

 

『その言葉が聞きたかった。お前にはこの争いの行く末について、明かすこととしよう』

 

 フラットウェルが語ったのは、ベリウスや中央氷原に留まらない、ルビコン全域での反攻作戦だった。

 その中で最大の焦点となるのが、技研都市にあるバスキュラープラントだ。

 

『研究のためにコーラルを集めるべく建設されたそうだが、重要なのは経緯ではなく、コーラルを集めるという機能だ。最近の工法だと、地中に埋蔵している資源を大気圏外まで一気に送り込むのが流行りでな。延伸程度、奴らなら容易くやってのけるだろう』

 

「逆にバスキュラープラントを抑えてしまえば、アーキバスはコーラルを大量に持ち出すことができない」

 

『その通りだ。抵抗は激しくなるだろう……お前の力が必要だ、レイヴン』

 

「ふむ……その、バスキュラープラントだが」

 

 621は明かせる範囲で、集積コーラル到達任務についてフラットウェルに話した。

 要はスネイルを殺せばいいのだ。621の個人的な恨みもあったが、V.Ⅱがいるのといないのとでは大違いだろう。

 

『……悪くない案だが、我々にそこまでの即応性はない』

 

「それは残念だ……そういえば、仮におれが長期間戦闘不能になったときのことを聞いてなかったな」

 

 621はスネイルに狙撃されたことを思い出して、聞いた。

 

『お前が出てくるまで、作戦は延期ということになる』

 

「え?」

 

『お前の協力で、我々のAC戦力はもちろんのこと、MT部隊も精強になった。とはいえ、アーキバスの最上級戦力と渡り合えるのは2名しかいない。お前と、名前は出せないがもうひとりだけだ』

 

「ああ、あんたたちのトップは強そうだ」

 

 621がドルマヤンのことを言うと、フラットウェルは黙り込んだ。

 

「ええと、フラットウェル?」

 

『ドルマヤンは』

 

 フラットウェルは重苦しい口調で言った。

 

『死んだ。獄中でな。それについては心配無用だ、もう終わった話だからな』

 

 この話も終わった。くれぐれも死んでくれるなよ、と言い残し、フラットウェルは去っていった。同時に621の視界が紅く染まる。

 

《レイヴン》

 

 声がわずかに、震えていた。

 

《あなたは……知っているのですか? この先にあるもの……そしてウォルターの目的を》

 

「その通りだ。エアには謝らないといけない。黙っていて済まなかった。そしてもうひとつ、おれは謝らなければならない」

 

 621は言わなければならなかった。ウォルターの目的は、集積コーラルにたどり着くまで明かせないのだ、と。

 

「本当に申し訳ない。わかってほしい」

 

《いいのです、レイヴン。あなたは決して……口数の多い方ではありませんから。──待つのには、慣れていますし》

 

「……申し訳ない。──技研都市はすぐに見つかるはずだ。帰投したら未踏領域探査に出よう」

 

 

 

 

 

 

 そんな流れで出撃したからか、621は言葉をすんなりと吐くことができた。

 

「どういうつもりだ?」

 

 ベイラムにとどめを刺した後、上の命令で621の抹殺に来たラスティとの戦闘中、乱入者が現れたのだ。

 

「いっぱい食わされたと思っていいんだな、フラットウェル?」

 

 エルカノ製軽量二脚フレームで固めたAC「ツバサ」。しかし、その装甲は既に傷で覆われていた。

 

『目を逸らさないでもらおうか、戦友(バディ)

 

『ラスティ! 待て!』

 

 既にリペアキットをひとつ使用したスティールヘイズが、レーザースライサーを振り回した。621は直撃を受ける。

 

『AP、残り30%』

 

『ラスティ……あのパイロットはただ使われるだけの猟犬ではない。もう可能性どうこうという話は終わったのだ!』

 

『ああ、その通りだよ、帥叔。だが危険性もまた途方もなく高い』

 

 それを聞いて、621も言葉を発した。

 

「なるほど……おれの翼ではまだ足りない。そう言いたいんだな、あんたは」

 

 621はスティールヘイズを蹴る。蹴り続ける。合間にバーストライフルとプラズマミサイルを挟みながら、岩壁とコンクリートの隙間へ押し込む。

 

「翔んでやる。文句は言わせない。誰であってもだ」

 

 スタッガーを取り、621はブレードを叩き込んだ。スティールヘイズの右肩が溶ける。

 

『っ! なるほど……それが君の……。いずれ会うときまで……死ぬなよ、戦友(バディ)!』

 

 スティールヘイズが発動したアサルトアーマーを、621は避ける余裕がなかった。

 直前にリペアキットを使用し、それが半分近く削られるのを尻目に、今度はツバサへ狙いを定めた。

 

《スティールヘイズ、機体反応消失!》

 

『あと1機だ。集中を切らすなよ、621』

 

「了解。──例の話に変更は必要ない。だが、落とし前はつけさせてもらう」

 

『やむを得まい……胸を借りるぞ、レイヴン!』

 

 621はライフルを撃ちながら敵機に詰め寄り、蹴りつける。敵機はパルスプロテクションで難を逃れようとしたが、621はアサルトアーマーで相殺、スタッガーを取ると、そのままブレードでとどめを刺した。

 

『到底かなわんな……脱出する!』

 

《フラットウェルのAC「ツバサ」を撃破しました。両名とも……撤退したようです》

 

 621は探査を続行。技研都市を発見し、数時間後にもう一度訪れた。

 

 

 

 

 

 

 アーキバスAC部隊を倒し、封鎖兵器や技研の遺産と戦いつつ、湖を舞う白い妖精をも退ける。本命は最後だ。狙撃を試みるV.Ⅱの排除。

 

「アイビスシリーズ」の1機が完全に沈黙するのを見届けた621は即座に振り返る。

 

「ハンドラー、周辺を行動中の機体がいないか探してくれ」

 

 言いながら、自分が飛んできた高台を目指してアサルトブースト。

 数秒して、無線が繋がっていないことに気が付いた。データリンクも途切れている。

 

「こちら621。ハンドラー、応答せよ。ハンドラー、ハンドラー・ウォルター、応答せよ。こちら621──」

 

『無駄な努力です、駄犬』

 

 ウォルターへ応答を呼びかけながら、高台の斜め下からホップアップ気味に上昇しようとしたときである。621は標的の声を聞いた。

 

『直ちに武装解除し、我が方へ帰順しなさい。飼い主の命、惜しくはないのですか?』

 

《これは……V.Ⅱ スネイル⁉》

 

 621に成す術はなかった。両腕両肩、全ての武装をパージし、両腕を上げた姿勢で停止。腕部の光学センサを白く点滅させた。

 

『身の程は弁えないにしても、聞き分けはいいようだ。下の連中に煎じて飲ませたいぐらいです』

 

 敵が勝手に関心している間に、621は機内で作業を済ませる。

 しかるべきところへ暗号通信を飛ばし、休眠モードの期限をセット。100日間。前と同じでいい。

 

 これはザイレムを動かすことになるだろう。カーラたちを殺さなければならない。621は既に覚悟を決めていた。

 

「エア、きみのサポートが必要だ。身体のプロテクトと、物理的な移動が必要になった。日時は脳内に入ってるから、あとで見てくれ。きみしか頼れない」

 

 621にとっては、賭けだ。

 たぶん、ウォルターにとってもそうだったのだ。大きな賭けだ。621はそれを初めて理解した。

 前と同じようにエアが動いてくれるとは限らないのだから。

 

《もちろんです、レイヴン。私があなたをサポートします》

 

「ありがとう、エア」

 

 エアに礼を言って、621は休眠モードに切り替えた。探査ACが膝をつく。

 

『まったく上層部と来たら……おや?』

 

 その音で、スネイルも現実に戻ってきた。

 

『口を割らないつもりか……そこも含めて教育が必要ですね』

 

 静まり返った技研都市に、スネイルの捕虜輸送人員を手配する声だけが響いていた。

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