『仕事だ、621。アーキバスグループから依頼が入っている』
レッドガンズと共にガリア多重ダムを襲撃した621は、すぐに次の仕事に取り掛かった。
『レイヴン。こちらは当社系列企業、シュナイダーからの依頼です。作戦地点はベリウス西部、ボナ・デア砂丘。内容は当社のコーラル反応調査を妨害する、ルビコン解放戦線の武装採掘艦「ストライダー」の破壊です』
荒涼とした砂丘の映像から画面が切り替わって、ストライダーの図面が映し出された。
『ストライダーは資源採掘のための移動拠点でしたが、解放戦線により全面的な武装化を施されています。我々企業勢力に対抗するための、軍事転用の目玉ともいえる存在です』
ストライダーは3つの車両を連結しており、キロメートル級の巨体を誇る。その前方車両の一角が拡大表示された。
『狙うべきポイントは、メインジェネレータに直結された巨大レーザーキャノン「
ブリーフィングが終わる。出撃準備に入る621へ、ウォルターが落ち着いた口調で声をかけた。
『お前の名を売るチャンスだ、621。ストライダーを潰せば、アーキバス本社からも「買い」が入るだろう』
『メインシステム、戦闘モード起動』
『ミッション開始だ』
621は砂嵐が吹きすさぶボナ・デア砂丘に降下した。視界が非常に悪い。
『まずは砂塵の先にいる武装採掘艦、ストライダーに接近しろ』
この作戦、621は左腕の武装をパルスブレードからバーストライフルに変更した。
ストライダーの脅威は、何といっても「目」だ。
全部で4つあるサブジェネレータの内、艦底のもの以外はレーザーキャノンの射角内にある。
近接攻撃はどうしても機体が一時的に停止するうえ、エネルギー消費も大きい。空中を移動する状況下、その隙を狙われたらひとたまりもなかった。
そこで、離れたところから、足を止めずに攻撃できる武装にしたのだ。
『所属不明のACだと……? 企業の狗か。「目」起動! 焼き払え!』
『イエッサー! 「コーラルよ、ルビコンと共にあれ」!』
『「ルビコンと共にあれ」』
『「目」砲台にエネルギー充填反応。回避しろ、消し炭になるぞ』
うろついているMTをつまみ食いしながらストライダーに近づいていくと、前方から青いビームが地面を焼いて向かってきた。621はタイミングを合わせ、クイックブーストで回避。
一緒にミサイルも飛んできた。こちらは回避しきれず、数発が621の機体に命中した。
APが1500ほど飛んでいく。ミサイルにしては重たい攻撃だった。
621は前進を続け、ストライダー後部車両の真下まで到達した。
それにしても大きい。HMDに映し出される映像は自動で望遠、視野角調整が行われるが、カメラが目一杯引いても全く収まらない大きさ。
『ストライダーの懐に入ったようだな。脚部を潰して動きを止めてやれ』
621はウォルターの指示通り、脚の弱点、関節を攻撃する。
『「目」の照射をかいくぐるなんて……⁉』
『諸君、近接戦闘用意。迎撃せよ!』
脚部はまずまずの耐久力があったが、やがて爆発を起こした。関節に大穴が空いている。
『ストライダーの脚部破損を確認した。倒れるぞ』
ストライダーの後部車両が、音を立てて地面に落下していく。
『これだけの巨体だ。急所を潰せば脆い』
空高く土煙が舞い、大地が震えた。ダイナミックな尻餅だった。
『これで甲板への足がかりができた。取り付いてサブジェネレータを破壊しろ』
『このAC乗り……侮れんぞ。止むを得ん。後部車両を切り離せ!』
『連結を解除して進むつもりか。2両目に飛び移れ。逃がすな、621』
猟犬の方は、主人が言い終わるよりも早く、中間車両に飛び移っていた。
『くっ……敵機、振り払えません!』
『忘れるな、諸君はコーラルの戦士だ。サブジェネレータを守り切るぞ』
621は車両前方へ飛行していき、左舷サブジェネレータへミサイルを発射。防衛火器は後方にしかないうえ照準が甘く、豆鉄砲にもならなかった。
『サブジェネレータの破壊を確認した。残りは3つだ』
そのまま車両下部へ。足場の上に着地し、艦底のサブジェネレータにライフルを撃ちこんだ。
『サー! サブジェネレータ、更に破壊されました!』
『残りふたつ』
『ぬう……諸君。今こそ見せるのだ。災禍の灰に生きてきた、我らの不屈を……今こそ!』
621は更に右舷に移動。レーザー砲の射線に入らないよう遮蔽を使って飛行し、ミサイルを発射。右舷サブジェネレータを破壊する。
『これ以上はシールドが持ちません、サー!』
『あとひとつ』
『……このストライダーこそ、反攻の要。失うわけにはいかん! 死守するぞ、諸君!』
621はそのまま甲板まで上昇。「目」からビームが飛んでくる前に、設置されたサブジェネレータを破壊した。
『全てのサブジェネレータを破壊したようだな。「目」のシールドが消失する。1両目に向かい、目標を叩け』
ビームを出す目が、一時的にぐったりとしている。今のうちにダメージを与えたい。
621は「目」へ急いだ。砲台の大きさで、距離感が狂いそうになる。まだ1000m以上離れていた。
『ここからはお前の射程だ。仕上げに入れ、621』
ありったけのミサイルを放ち、両手のバーストライフルを撃ち続ける。
『エネルギー充填! コーラル掠奪者を焼き尽くせ!』
「目」が目覚める。青い光が、ちょうど瞳孔の部分に集中し、輝いていた。
ちなみに浮遊はしないので安心してほしいと、アーキバスの資料に書かれていた。
あんなものが浮かぶとは、621には到底思えなかったが。
621は至近距離からミサイルを発射。レーザービームの根本は収束するから、当たる恐れはない。
エネルギーをため込んだ目標にミサイルが直撃する。爆発。
半ば誘爆したような形でダメージが入った。
『「目」、被害甚大!』
『まだ終わっていない! 我らの誇りを見せ……』
『艦長! もう持ちません!』
『馬鹿な……何だというのだこのACは⁉』
621は再び全力射撃。ライフルをバーストモードで撃ち続ける。ミサイルはリロード完了次第、即発射。
『サー! 「目」、制御受け付けません!』
突然、砲台の周囲をエネルギーが荒れ狂い、小爆発がいくつも起こった。
『そんな……ストライダーを失うわけには……』
『目標の破壊を確認した……やはりな。行き場を失ったエネルギーが暴走している。──距離を取れ、621。ストライダーから離れるんだ』
それを聞いた621はアサルトブーストで即座に離脱。ストライダーから逃げる。
着地し、後方を確認しながらなおも離脱する。
『この
ストライダーが崩れはじめる。連結部分を中心に、爆発が広がっていった。ひどく不安定なバランスだ。
『見ろ、621。ストライダーが自壊していく。破綻した設計の妥当な末路だ』
青白いエネルギーの奔流と爆炎の光が、立ち上る黒煙、舞い上がる砂塵が、ストライダーの最期を彩る。鋼鉄が高らかに
ストライダーが、ボナ・デア砂丘に倒れ伏す。その光景を、621はいつまでも眺めていた。
621が帰投すると、アーキバスからメッセージが届いていた。
『レイヴン。ストライダーの撃破、お見事でした。依頼を発行した私としても喜ばしい限りです』
『申し遅れました。私はアーキバスグループ傭兵起用担当、V.Ⅷ ペイターと申します。以後お見知りおきを』
そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが、とでも言いそうな声音の男、ペイターは、アーキバスの強化人間部隊「ヴェスパーズ」の一員だ。
ベイラムにおけるレッドガンズのような組織だが、レッドガンズは荒事専門であるのに対し、ヴェスパーズは企業の役職と兼任する形をとっている。
現在のヴェスパー部隊は8人で構成されており、ペイターは一番下、V.Ⅷとして活動している。
普段の仕事は
アーキバスは、傭兵を掃除役や囮といった、使い捨ての戦力として想定していた。そんな使い捨てとの窓口を、ペイターは文句も言わずこなしているのだった。
ストライダー撃破の実績を引っ提げ、ハンドラー・ウォルターは営業を行う。ガレージの片隅に、粘着質な男の声が響いた。
『貴方ですか? レイヴンとかいう独立傭兵の代理人は』
「知己を得て光栄だ、V.Ⅱ スネイル」
『「壁越え」作戦に参画したいとのことでしたね』
この仕事で結果が出れば、今後621の仕事の効率が格段に上がる。ウォルターとしては是が非でも取りたかった。
『まったく、解放戦線の粗大ゴミを処分した程度で、何を勘違いしたのやら。駄犬の飼い主ごときが、厚かましいにも程がある。お断りです』
「今回もV.Ⅰが出ると聞いているが。頼れる人材が他にないとは、不幸なことだ」
スネイルは621をはじめとする、旧世代の強化人間を大切にしないタイプの人間だ。それどころか、旧世代型を憎悪している節がある。
それもまた、ウォルターにとっては不幸なことだった。
『ほう……貴方の駄犬に、フロイトの代わりが務まるとでも?』
「駄犬かどうかは試してみれば分かる」
621は、決して駄犬ではない。
『……まあいいでしょう。今回はV.Ⅳも出ることですし……あれも調子に乗っているようだ。併せてお手並み拝見としましょう』
こうして「壁越え」挑戦者リストに、ひとりの独立傭兵、レイヴンの名が追加されることとなった。
収入:270,000
基本報酬:270,000
報酬加算:0
支出:22,854
修理費:5,894
弾薬費:16,960
報酬減算:0
収支:247,146