メインシステム、戦闘モード起動   作:留式

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自前の翼

 ザイレムは舵こそロックされていたが、内部の移動は問題なく行えた。

 そこで621も、まずは格納庫まで戻ってきた。

 

《……カーラは全てを計画していました、自らの死すらも。ウォルターもそうです……。ふたりとも、自分たちの意志を継ぐものを探していた……》

 

 機体の整備が行われる中、エアはどこか沈んだ様子だった。621も言いたいことが無いでもなかった。

 しかし彼女の考えがまとまり、言葉として紡がれるのを待った。

 

《今もなお、ルビコニアンは地上での抵抗を続けています。人とコーラルの可能性ばかりが私たちの守るべきものではない》

 

 彼女は考えをまとめたようだった。

 

《レイヴン。私たちにできることを探しましょう》

 

 それを聞いて、621はいつの間にか、自分の中で「可能性」という言葉が変質していたことを自覚した。

 

 最初はエアの言うように、人とコーラルの可能性が対象だったのだ。

 その対象はいつしかルビコンという惑星そのものに広がり、やがては「翔ぶ」という言葉に集約されていった。

 

「おれたちはどのみち、生き残る必要がある。でないと可能性を論じる暇もないからな」

 

 迫りくる危機を払いのけ、闘い続けた先に、答えはある。はずだ。

 今すぐ見つかるものではないだろうと621は考えていたし、エアもそれについては同意すると思っていた。

 

「だからこそ、『できること』を始める」

 

《それは……》

 

 621にとっては、ここからが計画の本番だ。

 

「翔ぶんだよ。『灼けた空を越え羽ばたく』さ。前々から言った通りに」

 

 621は続けた。

 

「ザイレムをなんとかして、ルビコンも解放する。短い目で見たとき、やるべきことはそれしかない」

 

 まずは生き残れ。ハンドラーならそう言うだろうなと、621はふと思った。

 

「ザイレムを止めるのは簡単だよ。エンジンをやればいい。推進力がなければ、ただの重量物に過ぎない」

 

《……ふむ。いえ、簡単な話でしたね。──少し調べてみましたが、ザイレムの下層動力ブロックに、大型スキルミオンジェネレータが分散配置されています》

 

 エアが早速仕事をした。

 

《これを破壊すれば、ザイレムは主動力を喪失するでしょう。加えて、上層街区のラムジェットエンジンも破壊する必要がありそうです。双方を破壊すれば……アーレア海に落下します。人的被害もありません》

 

「移動量は多いが、十分だな。ザイレムの方はこれで解決する」

 

《ルビコンの解放は……どうするのですか?》

 

 エアの疑問に、621は答えた。

 

「エア、おれが前にフラットウェルと話をしていたこと、覚えているか?」

 

《フラットウェル……? ああ、例の反攻作戦……》

 

「そうだ。おれの参加が必須だった。復帰の連絡をしないとな」

 

 ルビコン全域での反攻作戦。621の失踪により延期になっていたであろうそれを、今こそ展開するのだ。

 

《なるほど……ふむ。──レイヴン》

 

「何だ?」

 

《ひとつ、提案があります》

 

 エアが621へ語ったのは、ザイレム撃墜とルビコン解放戦のミックス。

 同時刻に両作戦を実施し、全てを終わらせ、灼けた空へ羽ばたこう、というものだった。

 

《声明を出しましょう、レイヴン。フラットウェルに限定せず、ルビコン全域に》

 

 今度は621が唸る番だった。

 

「それ、届くのか?」

 

《自分を誰だと思っているのですか、レイヴン? あなたほど、このルビコンで名を馳せた個人はいませんよ》

 

 ここまでの戦いであまり自覚する機会はなかったが、レイヴンという独立傭兵はそもそもトップランカーなのだ。

 

 作戦成功率は捏造すら疑われる100%。

 たった数機のMTではガードメカにもならず、ACだろうが、もっと危険な大物だろうが喰ってしまう、戦略級の死を告げる鳥。

 

 それがレイヴンの評価だった。

 

「フムン……まあ、それだけのことはやったな、確かに」

 

 621はうなずくしかなかった。

 

「エア、すまないが文言を考えるのを手伝ってほしい」

 

《もちろんです、レイヴン。派手に行きましょう》

 

 

 

 

 

 

 ルビコニアンの諸君へ告ぐ。

 私はレイヴン、独立傭兵だ。

 

 貴方たちはこれから、史上最も重要な戦いを始める。

 残存する敵を、貴方たちの惑星(ほし)に混沌をもたらした敵を打ち倒す戦いとなる。

 

 貴方たちはそれぞれ異なる出自を持つが、貴方たちは共に闘い、苦しみ、そして死んでいった。

 信じるもののために、自由のために闘い抜いてきた。

 

 そして私も、この戦いに加わる所存である。

 荒らされたルビコンの大地を解放し、人々に、友人に、そして家族に自由を取り戻すために。

 

 ルビコニアンの諸君。どうか心あらば、貴方たちの持てる道具を持って、私を手助けしてほしい。

 私は今、アーレア海にいる。灼けた空の上で、私も戦いを始めるのだ。

 貴方たちの、そして私の勝利はルビコンの新たなる繁栄の時代を告げる先駆けとなるだろう。

 

 勝利は我々のものである!

 取り戻そう、人々に平和を。

 勝ち取ろう、我々の自由と未来を。

 翼はすべての人にある。

 

 さあ諸君、灼けた空を越え羽ばたこう!

 

 

 

 

 

 

「かなり盛った(・・・)な、エア」

 

《まさか……本心でしょう、レイヴン?》

 

「……否定はしない」

 

 単刀直入にいえば、621の出した声明は「灼けた空の上でレイヴンが戦うから、誰か来てくれ。皆で戦おう」というものだ。

 この戦いに勝利しても、闘い(・・)そのものは続く。だが、今は何よりも現状を切り抜ける必要があった。

 

《しかし……効果は絶大です。早速来ましたよ……待ってください。物理的なものです。ザイレムに飛行物体が接近中!》

 

 迎撃に出る余裕はなかった。

 

《攻撃性は……ないようですね。ではいったい……何だったのでしょうか?》

 

 確認します、とエアが告げて数分後、ザイレムの格納庫に、縦長のコンテナが運び込まれてきた。見た目は補給シェルパそっくりだ。

 開けてみてください、とエアが言った。

 

 621はコンテナを開ける。ガスが噴き出して、ロック解除。開いた。

 

「これは……AC」

 

 中に入っていたのは、初めて見る軽量級の四脚AC。

 のみならず、見覚えのある紺と黒で塗装された「ナハトライアー」の脚部パーツ、同フレーム向けのブースタが入っていた。

 

《送り主からメッセージが来ています。代読します》

 

「はあ……?」

 

《『やあ戦友(バディ)、まだ生きてるか? 灼けた空を越えるという君に、ピッタリのものを用意した。君は二脚の方が好きそうだから、私のお古でよければ渡そう。傷物にした責任、取ってくれよ?』……これって⁉》

 

「ラスティ……おれに乗り換えろと言うわけか。一緒に新型機で翔べと」

 

 621は機体構成を確認する。

 

「二脚の方が速い……いや、ホバリングでは負けるな」

 

 送られてきた軽量フレームに、スティールヘイズの脚、そしてトリプルノズルのシュナイダー製ブースタを合わせると、武装込みで通常ブースト速度が381。

 ローダー4.4が同じ武装で318だ。アリーナ最速と名高いスティールヘイズで370台だから、それよりも速い。

 

《しかしレイヴン、その機体は……少々防御力が……》

 

 エアの言うことはもっともだった。

 ラスティが621にプレゼントしたのは、シュナイダーが試作していた軽量四脚フレーム「ラマーガイアー」。ホバリング状態では積載限界でもブースト速度390を発揮する快速フレームだ。

 

 その代償は極めて低い防御力である。流線形のコアユニットは剝き出しだ。アーマードされていない。APのシールドがないときに事故を起こそうものなら、即死は免れない。

 

 すべての部品は空力特性を最優先に設計されていた。

 

 まずコアだが、先に述べたようにコアユニットが剝き出しになっている。ACSと繋がる4本のアクチュエータはいずれも翼型断面をしており、整流効果を持つ。コアユニット後方には、これを上下に挟むようにウイングが設けられてあった。

 左右のエネルギー路はウイングとの兼ね合いから、やや離れた配置をとっており、コアユニット周辺の空気を真後ろに逃がす構造となっていた。

 コア前部の構造は、これら機体後方パーツに空気を流す効果のみを考えたもので、非常に薄い。マニュアルには整備を徹底せよと書かれてあった。

 

 腕部は肩に翼がある。なんとフラッペロンが付いていた。

 そこから伸びる腕は人体の骨格に近い構造で、反動制御や近接武器の攻撃にも十分対応した強度を有する。

 

 頭部は……カメラアイにウイング付きの整流板を載せただけだ。本当にそれだけだった。不用意に触ると怪我をするらしい。切断されたミールワームの写真がマニュアルにあった。

 

「翔ぶにはピッタリの機体だな。ラスティに感謝しないと」

 

 塗装は621の機体と同じ灰色で既になされていた。新品だから、汚れや傷はまったくない。脚を除いて。

 脚部はスティールヘイズに使用されていた「ナハトライアー」のものだ。四脚はシミュレータでしか乗ったことがない。慣れの面から二脚で組むことにした。

 色の明るい上半身が浮くため、傍目からは無尾翼のクリップドデルタ機にも見えることだろう。

 

 内装に関しては、ブースタがシュナイダー製の瞬発力特化モデル、FCSとジェネレータは変更なしだ。ベイラムの強襲作戦用FCSに、BAWSの現行機体向け。

 ピーキーな見た目に反して、EN負荷はそこまで大きくない。第4世代はEN負荷が3000を超えると戦闘に支障が出始めるが、この機体はその範囲内に収まっていた。

 

 武装は変更なし。他に手持ちがなかった。バーストライフル2丁と3連プラズマミサイル、そしてウォルターからもらったパルスブレード。

 

《レイヴン、機体名を決めませんか?》

 

 エアがやや興奮した様子で言った。

 

「ふむ……」

 

 名前をつけるなんて、621にとって初めての経験だった。どうにかして、言葉を思い浮かべてみる。

 飛翔、羽ばたく、翼……借り物の、翼。──もう借り物じゃない。

 

「……『自前の翼』で」

 

 機体名が決まった。「オウンウィングス」。

 

《素敵な名前ですね、レイヴン。──そういえば、「ツバサ」のパイロット、フラットウェルから連絡が来ていました》

 

 機体を組んでいる間に、フラットウェルから連絡があったようだ。

 

 内容は反攻作戦の日時。翌日の夕刻前──今から24時間後、全ルビコニアンが蜂起するという旨だった。




軽四、まさか書いた翌日に下方修正喰らうとは思わなかった……。
ここで届いたのは初期ロットということでひとつ。
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