『仕事だ、621。ルビコン解放戦線から依頼が来ている』
3度目の壁越えを果たした621のもとへ、解放戦線から依頼が届いた。それも個人的な内容で。
『レイヴン、私から貴方に引き受けてもらいたい任務がある』
今回、621と解放戦線は協力関係にない。にもかかわらず、いつも世話になっていた発行人の彼が、珍しく我を出したのである。621としても興味がわいた。
『囚虜となった同志たちを救出すべく、単独でのヘリコプター出撃が許可された』
そのヘリコプターの護衛についてくれというのが、彼の依頼だった。
『救出対象は全部で3名、我々にとっての重要人物も含まれる』
どうやら汚染市街が捕虜収容所になっており、救出対象は3箇所に分散して収容されているらしい。
『レイヴン、貴方が我々に共鳴することを願う。「コーラルよ、ルビコンと共にあれ」!』
ブリーフィングは警句で締められた。灰に塗れて使い物にならない警句で。
それを受けてか、ウォルターが言った。
『ガリアでの鞍替えが解放戦線には響いたようだな……お前の選択が運んできた仕事と言えるだろう』
「……そうかもしれない。どうなるか見てみよう」
今のところ、汚染市街を支配下に置いているのはベイラム──ガリアで喧嘩を売った相手だった。
『メインシステム、戦闘モード起動』
『ミッション開始だ。ルビコン解放戦線の輸送ヘリを護衛しろ』
夜間。雪の舞う汚染市街に、解放戦線の輸送ヘリと護衛の探査ACが紛れ込もうとしていた。
『貴方の協力に感謝する、レイヴン。虜囚となった同志たちを必ず助け出す……失敗するわけにはいかない』
コーラルよ、ルビコンと共にあれ。いつもの警句を口にする輸送ヘリのパイロットは、なんと発行人の男だった。
事前に知らされたコールサインは「アーシル」。どこかで聞いた名前だった。
確かツィイーの口から聞いたような……と621は思い返す。
「レイヴンからアーシルへ。おれが先行する。掃除は終わらせておくから、焦らず来てくれ」
『了解。頼りにさせてもらう』
アーシルのことを頭から追い出した621はアサルトブーストで前進。赤い発煙筒が目印のA地点──大型ヘリと交戦した高台のほぼ真下だ──を守るMTやガードメカを片付けていく。
『敵襲だ! AC単機──』
「A地点、クリア」
『コンタクト、敵影2。輸送ヘリと護衛AC!』
『お仲間を助けに来やがったか。迎撃するぞ!』
A地点から少し離れたヘリポートで、輸送ヘリがエンジンを始動させている。621はこれに詰め寄って撃破。続いて下から撃ってくるガードメカをばらす。
「こちらレイヴン。B地点の掃討に入る」
『了解。こちらはA地点に着陸した。同志ツィイーの救出を開始』
『その調子で続けろ、621』
「了解」
B地点はMTの他にドローンがスクランブルについていたが、全て地上で撃破された。
『助けにきて……くれたんだね……』
『待たせてすまない、ツィイー』
無線からはまだ青い、小さな戦士の声が聞こえてくる。
『大丈夫さ……まだ生きてる、なんとかね……。ちょっと休んで……またやり返そう』
そういえば、彼女は非番のはずではなかったか。621は軽い疑問を覚えたが、それはレーダーに表示された3つの赤い表示に塗りつぶされた。
『次の地点に向かう、レイヴン。引き続き援護を頼む』
「承知した」
『敵影……見えているな』
アサルトブースト点火。MTを抱えた高速ドローンの3機編隊へ迫る。
『ヘリに集中しろ! 撃ち落とせ!』
『奴らを逃がすな! 「井戸」の情報を──』
作戦エリアに侵入したところで、彼らのフライトは終わりを告げた。
621はスキャンを重ねながらヘリの付近まで戻り、敵がいないことを確かめる。
「B地点、クリア。これよりC地点の敵を排除する」
『心強いな。──B地点降下。同志メッサムを救出する』
高架道路の下や雑居ビルの上を滑走しながら、621は汚染市街を進む。
途中でガトリング砲台を見つけた。狭い道を挟むように設置されている。これに狙われようものなら、ヘリはひとたまりもないだろう。
『なんだと⁉ そんな……!』
ガトリング砲台と付近にいたMTを排除した621の耳に、アーシルの悲痛な声が響いた。
『同志メッサムを……収容した。……間に合わなかったようだ』
『ちくしょう! メッサムが……!』
ツィイーも憤りの声を上げた。
『最後の地点に向かう。もう少しだけ頼む、レイヴン』
「コピー。……残念だ」
駐機中の輸送ヘリや、MTと共に配備されたミサイルポッドを破壊していく。そこにウォルターが話しかけた。
『……コーラルの「井戸」はルビコニアンの生命線だ。絶対に口を割らなかったのだろう』
汚染市街の位置するベリウス南部だと、ガリアに井戸があるらしい。621は以前拾ったログを思い出す。たしか枯れかけの井戸だったはずだ。
100万なんて夢のまた夢、5万バレルもないような、か細い生命線。それでも解放戦線にとっては貴重品だったのだ。
「C地点および離脱経路の掃討、完了した」
今回の任務では素早い離脱が要求される。そこで汚染市街を横断し、方向を変えずに離脱する、というルートが採用された。
結果として、621は街中の敵性反応全てを潰すことになった。しかし、これもまた護衛任務のひとつのやり方である。
『了解。C地点到達。同志──帥父ドルマヤンを救出する。ここまでほとんど敵を見ていない。本当に助かった、レイヴン』
621は離脱経路上に佇み、着陸するヘリを遠くから眺める。
少しばかりの驚きがあった。解放戦線のトップがここで捕まっていたとは。
フラットウェルの話ぶりからすると、前回の仕事の際はこの地で果てたのだろう。
『友軍の反応がロスト! 敵影2、すでに2名の捕虜が奪還されているようです!』
『護衛のACがやり手らしいな。──MT全機へ告ぐ、ヘリの撃墜が最優先だ』
敵の無線をキャッチし、621は気を引き締める。どこから来る?
『本部はルビコニアンの機密情報を欲しがってはいた。だがアーキバスに流れるよりはマシという判断だ』
『この声は……ナイルか?』
ミシガンをより冷静にさせた、といった感じの声に、ウォルターが反応を示す。
「G2か」
『奴だとすれば、手強いぞ』
ナイルはレッドガンズのナンバー2である。解放戦線のトップが奪還されそうになっているのだから、相応の人選がなされたようだ。
低空侵入だろうから、正面の谷か、我々の背後だろう。一方的に捕捉されていることを察して621は警戒を続けるが、救出そのものは順調に進んだ。
『帥父ドルマヤンを救出した』
『ご無事で良かった、帥父。「コーラルよ、ルビコンと共にあれ」!』
救出されたドルマヤンに、ツィイーが声をかけていた。
『その警句の……何を知っているというのだ、お嬢さん……』
おや、と621は思う。想像と違うものが出てきた。
『全ては……消えゆく余燼に過ぎない……』
機内の空気も消えゆく余燼に過ぎないようだ。アーシルが息を吐く。
『……ミッション完了。これより作戦領域を離脱する』
621は地面すれすれを進むヘリから、離脱方向へ改めて視線を向ける。小さな、オレンジ色の光が見えた。HMD下部、レーダーも見る。反応がひとつ。
『621、新たな敵影を確認した』
「こちらでも視認している。来たか」
ややあって、アーシルも緊迫した声を上げる。
『あれは……レッドガンズAC!』
「……いや、まだいるな。──高速ドローンを視認。交戦する」
数は多くない。想定していたほどの奇襲ではなかった。正面から来るのなら好都合である。
『脱獄のエスコートを単機でやるって? 大胆な奴だ、気に入った。だが大海を知らん奴は通らんよ』
621は侵入してきた高速ドローン4機のうち3機を撃墜。取り逃した1機がMTの投下に成功するが、ヘリに数発撃ち込んだところでスクラップになった。
「無傷とはいかんか」
『やはりG2 ナイルだ。レッドガンズ副長にしてミシガンの参謀、油断はするなよ』
『強行突破はむしろ危険……レイヴン、離脱ルートの確保を頼む』
「了解──新手?」
621はナイルが操る重量二脚AC「ディープダウン」との1対1に持ち込む。早速スタッガーを取り、ブレードで切りつけるが、警告音が聞こえた。新たな敵をキャッチ。
『護衛対象の後方から輸送ヘリが接近している。距離はあるから落ち着いてやれ、621』
「コピー」
『ただの蛮勇ではなかったようだ。あえて負け犬につくのは──感傷か?』
「偶然だよ」
リペアキットを使用した敵機に対し、621は更に攻撃を強める。敵のミサイルは気にならなかった。
再びAPが半分程度になったのを確認し、アサルトアーマーを発動。硬直した敵機にブレードを振るい、そのままとどめを刺した。
『ほう……道理でミシガンが興味を持つわけだ……』
無線にノイズが混じり、途切れる。背後で爆散するディープダウンを621は見ていなかった。接近してくる敵の輸送ヘリに詰め寄り、ライフルとミサイルをぶち込む。撃墜。
『確認した。敵性反応を全て撃破。……よくやった、621』
『これ以上の追撃はなさそうか……協力に感謝する、レイヴン』
汚染市街に配備されたベイラムの機体は文字通り全滅した。それを成し遂げた独立傭兵に見送られ、輸送ヘリが離脱していく。
『輸送ヘリの作戦領域離脱を確認。ミッション完了だ』
静まり返った汚染市街に、ロータの風を切る音が残っていたが、次第に小さくなっていった。
『「レイヴン」……。意志の表象……』
だからこそ、ドルマヤンの言葉は621の耳に残った。
しゃがれた老人の声。全てを失い、虚無の中を生きているような声で、彼は言った。
『だが私の言葉を覚えておくがいい──全ては消えゆく余燼に過ぎないのだ!』
その声は奇妙な現実味を帯びていた。彼を耄碌した老人と断じることは、621にもできなかったのである。
『改めて礼を言わせてくれ、レイヴン』
帰投した621に対し、アーシルからメッセージが来ていた。
『貴方の助けがなければ、同志たちの救出は果たせなかった』
礼を述べた後、彼はドルマヤンについても話した。
『帥父ドルマヤンは我々にとって特別な存在。アイビスの火を知る偉大なるコーラルの戦士にして、我ら全ての道しるべ……。だが、今のご様子は……』
アーシルは言葉を濁したが、要するに解放戦線を指導するだけの力があるようには思えないのだ。フラットウェルが終わった話と称したのも無理はない。
『……いや、止めておこう。帥父の抱えてきた重責、察して余りある。ああ、それと、個人的なことを言っておきたくて』
アーシルは改まった口調でメッセージを結んだ。
『ツィイーを助けてくれてありがとう。恩に着る』
『新着メッセージ、1件』
間髪入れずに別のメッセージが来た。621は再生する。
『621、前にお前を襲ったC兵器の出所がわかった』
ウォルターからだった。
『連中はどうやら、ベリウス北西部から来たようだ。あそこには……それなりに規模の大きい採掘場があってな』
ウォルター曰く、所有者の変遷が激しい。最初は解放戦線が採掘に使っており、それこそストライダーが働いていたようだ。
続いて封鎖機構がそこを接収したが、独立傭兵に襲われて駐留部隊は壊滅。採掘場は放棄された。
少々苦しい仮説だが……とウォルターは前置きして、言った。
『C兵器はコーラルの番人だ。採掘を行うストライダーを邪魔に思った可能性はある。技研ならばまだしも、今の各勢力があれをコントロールするのは極めて難しい……自然発生的な事故としか思えん』
ウォルターの説にはもちろん例外もある。アイスワームなどは典型だった。ヘリアンサスは……制御できそうにないだろうと、621も結論づけた。
ガリアで解放戦線の依頼を受けて以降、過去2回の仕事とは作戦レベルで異なる状況が起きている。
次に届いた依頼は621の疑念を一層強くさせた。
依頼名は『強制監査妨害』。井戸を隠していたBAWS第2工廠で、封鎖機構と交戦せよというものであった。
収入:460,000
基本報酬:250,000
報酬加算:210,000
詳細
護衛目標の損傷 10%未満:100,000
「G2 ナイル」の撃破:110,000
支出:25,412
修理費:7,312
弾薬費:18,100
報酬減算:0
収支:434,588