メインシステム、戦闘モード起動   作:留式

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機密情報漏洩阻止

 BAWS第2工廠にいなかったザイレムの抗原機体が、付近とはいえ別の場所、ウォッチポイント・デルタで襲撃してきた。スッラとの編隊を組んで。

 621に対しえらく警戒した様子のスッラを撃破したあと、仕事は順調に進み──再び変化を迎えた。

 

「ハッキング?」

 

『そうとも。奴らがうちの機密を丸ごと盗んじまう前にハッキングドローンを叩く必要がある』

 

 621は「灰かぶりの(シンダー)」カーラ率いるRaD中枢、グリッド086に侵入。

 最奥で待ち構えるスマートクリーナーを撃破した翌日、「ジャンカー・コヨーテス」なるドーザー(ヤク中)の最大派閥が襲撃をかけてくる。ここまではいつも通り。

 

 違ったのは、621がハッカー集団の対処に回ったことである。過去2回では最奥区画の手前で、破壊活動を行う部隊に対応していたのだが、今度は様子が異なった。

 

『ま、おつむの緩い連中だが、その価値が分かっているという点だけは褒めてやろうかね』

 

「RaDにも優秀なシステム担当がいると聞いたが」

 

 話を聞く限り、スティックの方が向くのではないかと621は考えた。

 

『あんたの方が早いと判断した。溶鉱炉区画にいるうちに叩きたい』

 

 つまり、以前よりも敵の数が多くなるらしい。それでいてスピードを要求される任務だ。

 

『ともかく、この状況はあんたのせいとも言えるね? 埋め合わせは虎の子の防衛にしてもらおう』

 

「オーケー。出るよ」

 

 ブリーフィングを終えた621は、そのまま溶鉱炉区画へ向かう。

 移動中、エアが話しかけてきた。

 

《あなたのハンドラーに無断での出撃が連続してしまいましたが……》

 

「承知の上だ。さっさと終わらせて氷原へ向かおう」

 

《分かりました。私があなたをサポートします》

 

「……ああ。頼んだ、エア」

 

 自分の選ぶ未来というものが、今の621にはまだ定まっていない。焼いて、翔んで。却って分からないことが増えた気がする。

 けれども今は、仕事を進めることに集中した。

 

 

 

 

 

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

『始めるよ、ツーリスト。堕ちたコヨーテどもが置いてったハッキングドローンを残らず破壊するんだ』

 

「ウィルコ」

 

 621は溶鉱炉区画の隔壁を開ける。今回はグリッド086への侵入ルートを逆走するかたちになるが、構造は頭に入っていた。

 

《手早くやりましょう、レイヴン》

 

「ああ」

 

 目の前に飛んでいた戦闘用ドローン3機を潰し、溶鉱炉の下、トーピードカーのそばに設置されたハッキングドローンを破壊。

 

『セキュリティ侵害は10%に達したとこ。うちのファイアウォールに対してこの速度……ドローン5機程度を並列に──』

 

《残り4機です》

 

『出足はついたね。その調子だよ、ツーリスト』

 

 すぐそばの隔壁を開け、前進し、更に降下。MTが天井に張り付いていたところだ。くず鉄を満載したコンテナの裏に2機目。

 

《目標2機目を破壊》

 

『私らの技術が欲しいのは分かる。もう少しセンスが欲しいとこだがね』

 

 状況を見守るカーラの無線を聞きつつ、上昇して隔壁を開ける。通路に出た。

 

『私だったら、軌道上からインフラ丸ごと引っこ抜いてやるところさ』

 

 通路には何もなく、もう1枚開けたところに3機目。プラズマミサイルを放った621は、左の通路へUを描くように飛ぶ。

 

「それはなかなか、笑える(・・・)な」

 

《目標の破壊を確認。残り2機です》

 

『話の分かる奴で助かった。──カウンターの仕込みを始めるとしよう』

 

 世にも恐ろしいサイバー攻撃が始まろうとするなか、621は進んだ先の四脚MTを無視。

 続けて左折を2回。ガスタンクの吊り下がったエリアの最奥で4機目を破壊する。

 

《目標4機目を破壊》

 

『あと1機……これならまず間に合いそうだね』

 

 小部屋を出る。四脚MTの攻撃をかわして右に曲がり、直進して左へ。

 トイボックスのかわりに鎮座している最後のドローンを、621は周囲のMTごと破壊した。

 

《これで5機。全てのハッキングドローンを破壊しました》

 

『わーお、こりゃ早い。こっちもコヨーテどもとお仲間たちにカウンターウイルスを送ったところ──サーバーは正式に全焼さ』

 

 これで大人しくなればいいんだが、とカーラはこぼした。

 それを聞きながら、621は四脚MTと格闘戦。金網越しに振られたレーザーブレードを喰らったものの、それ以外は被弾ゼロでやり返した。

 

『待ちな、レーダーに……まだ増援が?』

 

《外からです。迎撃に向かいましょう》

 

「でかぶつは片付いた。移動する」

 

 二重の隔壁が開く。それらをくぐって、溶鉱炉手前の区画へと621は抜けた。

 

 

 

 

 

 

「コンタクト。AC。単独。識別は──」

 

『はん? てめえはダム襲撃の……』

 

 621は会敵報告。やがて正面に伸びるレールの脇を飛行する、オレンジの光点を認めた。

 接近してきたそれが、正面に着地する。

 

「G5 イグアス」

 

 鉄色に赤のワンポイントを混ぜた塗装。直線的ながらスレンダーにまとめた「メランダー」のカスタムフレーム。

 実弾のリニアライフルとマシンガン、ミサイル。そしてパルスシールド。

 左肩には、甲虫の頭を運ぶ蟻のエンブレム。

 

『ちょっとした小遣い稼ぎのつもりだったが。決着をつけれるなら悪かねえ』

 

 中量二脚AC「ヘッドブリンガー」の頭部に赤く光る、単眼のカメラアイが輝きを増した。

 

『コヨーテスも同じ手に出たみたいだね。笑顔を忘れるんじゃないよ、ツーリスト』

 

「コピー。交戦する」

 

 621はいつものようにアサルトブーストで突撃。4連装ミサイルとリニアガンをかわして距離を詰める。

 

『よう、マジで世話になったな……。ダムじゃラッキーだったってこと、証明してやる』

 

 ヘッドブリンガーは線路上の覆いを遮蔽にしようと逃げ込んだ。

 

『くたばりな、野良犬! ──おわ⁉』

 

 621はこれを利用し、至近距離から殴り込みをかける。ほどなくして敵機はACS負荷限界。ブレードで切りつけ、壁めがけて蹴りを入れながら、真横に青白い光が複数出現するのを見た。

 

「なんだ」

 

『はっ⁉』

 

《新たな敵性反応!》

 

 青白い光──機雷はすぐに消えたが、レーダーには敵影が複数ある。MDD搭載のステルスMT──ザイレムの抗原機体だ。なぜここに?

 

「おっと」

 

 優先順位は明らかだった。イグアスは最後に殺ればいい。移動を始めた621だったが、突如出現したパルスアーマーに押しやられる。

 レーザーウィップ装備の近接型。飛び上がったそれが得物を振りかぶる。621は離脱を試みたが、レーザーウィップの攻撃範囲からは逃れられなかった。

 

『なんだこいつら⁉』

 

 被弾。その僅かな硬直時間を狙って狙撃型からのレーザービームが飛んでくる。621は辛うじてクイックブーストで回避。

 

「カーラ、ヘンなのに絡まれた」

 

『ぐっ……纏わりついてきやがる! 手を貸せ、これじゃどっちも死ぬぞ!』

 

『……言うとおりにしな、ツーリスト』

 

「了解」

 

 実際にはカーラが口を開く直前に、621は2機いる狙撃型の片方にアプローチしていた。ミサイルとライフルの集中砲火で撃破。スムーズにもう1機へ狙いを定める。

 

 やることはウォッチポイント・デルタとそう変わらない。こちらもすぐに爆散した。暗号通信を送りながら。

 

 残りはパルスアーマーを張った近接型が2機。ちょうど線路上の覆いの向こうに見えたため、621は背後をとるように接近する。

 遮蔽で一瞬捕捉が途切れ、再度別の標的をロックする。重なるような位置にいたパルスシールド(・・・・・・・)を展開する機体へ、621はプラズマミサイルを発射した。

 

 今狙ったのが敵機ではなく、一時的な味方であることに621が気付いたとき、プラズマミサイルは既にヘッドブリンガーへ迫っていた。鬼気迫った声が飛んでくる。

 

『てめえサイコかなんかか⁉ 俺たちどっちもヤバいんだぞ!』

 

「今のは本当に申し訳ない」

 

『あとで覚悟しとけ』

 

 621の完全なる過失であった。修理費の請求は覚悟しておくべきだろう。

 気を取り直してステルス機への発砲を開始。再び青白い鞭を一発もらったが、バーストライフルでパルスアーマーを引き剝がす。ブレードを振るい、撃破。

 

「あと1機」

 

『っし!』

 

 残った1機に照準を向ける際も、再びヘッドブリンガーにロックが吸われた。しかし再度の誤射は避けられ、まもなく抗原機体は全て撃破された。

 

《全ての所属不明機体を撃破》

 

『これで邪魔者は消えた。次はてめえだ、野良犬!』

 

『リペアキット、残数2』

 

 互いにリペアキットを使用し、態勢を立て直す。距離を詰めにかかる621だったが、敵機は空中に離脱。撃ちおろす戦法に出た。

 

「……ふむ」

 

 やり方は悪くない。しかし飛んだ先がまずかった。背の高い壁に行く手を阻まれ、ヘッドブリンガーは真下から鉛玉に突き上げられた。スタッガー。

 

 角度からするとブレードは当たらない。そう判断した621はアサルトアーマーを発動し、APを削る。

 

『ぬぅ……また耳鳴りがしやがる……てめえを潰せばスッキリするだろうよ!』

 

 思ったよりも早くから、イグアスはおかしくなっていたらしい。621はイグアスの耳鳴りについて、アイスワームと戦うころに生じたものだと考えていた。どうやらそうではなかったようだ。

 

「飛びすぎで耳がいかれたか」

 

 相変わらず敵機は空中に留まっており、621の一方的な攻撃を受けていた。

 

『なっ……ふざけやがって!』

 

 素直にも降りてきた敵機を蹴り飛ばし、ライフルを見舞う。硬直したところにブレードを叩きこみ、もう一度蹴とばす。

 

『ちくしょう……邪魔さえなければよ!』

 

 そこでヘッドブリンガーが限界を迎えた。

 

『これで勝ったと思うんじゃねえぞ!』

 

 わめく主を放り出して、ヘッドブリンガーは爆発炎上。イグアスの空中戦は敗北に終わった。

 

「脱出は上手いな。連続して決めるとは。──全ての敵性勢力を排除」

 

『終わったみたいだね。……あの機体についてはうちのクルーたちで調べておこう』

 

《……レイヴン、不明機体は暗号通信を行っていました。そうですね……私の方で解読できないか試してみます》

 

 硝煙の香り漂う戦いが終わり、今度は電子の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 数時間後、エアは大戦果を挙げた。抗原機体の無線を解読したのである。

 

《彼らはあなたを「リリース計画の危険因子」と見なしています……》

 

「『リリース計画』? なんだそれは?」

 

《……分かりません。しかし本当に……一体何なのでしょう?》

 

 それともうひとつ、とエアは続けた。

 

《インテグレーション・プログラムを調べていたところ、興味深いものを見つけました。オールマインドはまだ世に出ていない、新型機体のデータも集めているみたいです》

 

 エアは、裏口を作ったので中身を見たいと言った。621もそれに応じた。

 

「これは……スティールヘイズの」

 

 エアがこじ開けた領域には、スティールヘイズ・オルトゥスの機体情報が入っていた。

 

《注釈がありますが、暗号化されていますね。解読します……どうぞ》

 

 強力なセキュリティを誇るはずの傭兵支援システムが、いとも簡単に食い破られた。621は暗号化を解除されたスティールヘイズ・オルトゥスの注釈を読む。

 

『……エルカノがアーキバスの技術を盗んで新型機体を開発した。この機体がルビコン解放戦線に渡ること自体は良い、だがそれは今ではない。計画の第1条件はアーキバスに整えてもらう必要がある』

 

 現実の機体との戦闘経験がある以上、621は機体データそのものにはそれほど興味を抱かなかった。

 しかし、なぜデータが入っているのか、そして何より気になるのが……

 

「第1条件、か」

 

《同感です……オールマインドは何を求めてこれほどの情報を集めているのでしょうか?》

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして、カーラも眉間にしわを寄せていた。

 

 迷彩の正体はMDD、つまり光学センサ──正確にはその出力系に影響を及ぼす欺瞞方法だった。カーラはこの迷彩方式にも、独特な円形のコアを持つ機体そのものにも心当たりがあった。

 

「どっから見ても、こいつは『ゴースト』だ。それもコーラル駆動じゃない後期型……」

 

 コーラルを用いない後期型、IA-27が生きているとすれば……

 

「ザイレムしか考えられないね。そういえば、ツーリストは中央氷原に行くんだったか……」

 

 またひとつ、ザイレムを調査すべき理由が増えた。カーラはそれを頭の中にメモして、思考を目下のツーリストについて切り替える。

 

 彼らが海越えを果たす、前日のことであった。




 収入:380,000
 
 基本報酬:380,000
 報酬加算:0
 
 支出:43,038
 
 修理費:15,538
 弾薬費:27,500
 報酬減算:0
 
 収支:336,962
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