メインシステム、戦闘モード起動   作:留式

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発売1か月、おめでとうございます


壁越え

 アーキバスグループの誇る強化人間部隊「ヴェスパーズ」第4隊長、V.Ⅳ ラスティは、「壁越え」作戦の最終確認を行っていた。

 既にあらかたの流れは把握しているものの、一時的に組む僚機がこの男の興味を引いた。

 

 ここ数か月の内に突如出現し、方々の依頼に期待を大きく上回る成果で応えている独立傭兵、レイヴン。

 しかしその機体構成にラスティは見覚えがあった。

 

 独立傭兵小隊「ハウンズ」。RaD製「C-2000」フレームの機体を操り、星外企業が手を出さないようなところにも平然と現れる、無謀な猟犬の一群。

 そして背後にいる、ハンドラー・ウォルターを名乗る男。企業連中と違って、富のためにコーラルを求めるわけでもない、異色の集団だ。

 

 彼らは1年ほど前、ベリウス北西部のコーラル採掘場跡地にて、封鎖機構と交戦。それ以降消息を絶っていた。

 たった3機のACで封鎖機構の拠点を壊滅させ、特務機体すら撃破してみせた、あの男の猟犬。

 

 それが再び現れた。ならば、この目で確かめる良い機会だ。彼らがこのルビコンで、何を為そうとしているのかを。

 

 

 

 

 

 

『アーキバス本社から直々の依頼だ。企業たちが「壁越え」作戦(Operation Wallclimber)と呼んでいる任務、その協力要請になる』

 

 621はブリーフィングに出席していた。作戦の規模が大きいため、リアルタイムでの通信が行われた。

 

『ヴェスパーズ第2隊長、V.Ⅱ スネイルです。これより作戦内容を伝達します。私が立案した作戦に臨めること、光栄に思いなさい』

 

 はい閣下、光栄であります。

 621は粘着質な声に、心の中で返事をする。

 

『ルビコン解放戦線が拠点化した交易上の要衝、「壁」を攻略します。敵は多数の砲台とMT部隊により、防衛ラインを形成している』

 

 見たところ、要塞本体の前に街区があり、さらに地形を活用した空堀があるようだ。

 考えなしに正面からいくと、大損害を被る羽目になるだろう。

 

『まずはそれを突破し、壁上に到達しなさい。そこに配備された重装機動砲台「ジャガーノート」の撃破が、依頼の達成条件です。本作戦においては、V.Ⅳも別ルートで侵攻します。ですが、先走り壁越えを果たそうとしたベイラム部隊は、ものの見事に壊滅しています』

 

 画面に見覚えのあるACが映し出された。レッドガンズ所属機、キャノンヘッドだった。G4 ヴォルタの愛機。

 

『せいぜい犬死にしないように気を付けることです』

 

 ブリーフィングが終わった。621は降下準備に入る。

 

『いよいよ「壁越え」だ。お前の価値を示してこい、621』

 

 ──証明してみせろ、お前の有用性を。

 

 

 

 

 

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

『ミッション開始だ。まずは友軍アーキバス部隊の露払いを行う。街区への侵攻を阻むガトリング砲台と、その先のBAWS四脚MTを始末しろ』

 

 621は雪の中、「壁」を正面に見据える高台から侵攻を開始。まずは空堀を飛び越えにかかる。

 

『壁上からの砲撃が激しい』

 

 最初の防衛ラインから、ガトリング砲台を含め、多数の砲台が侵入者を狙っていた。更に「壁」の上から高精度砲撃を行う影が見えた。ジャガーノートだった。

 MTでは機動力が足りない。アーキバスの部隊はどの程度生き残るだろうか。

 

『621、遮蔽を上手く使え』

 

『何度来ようと、この「壁」は越えられんぞ、企業の狗ども! 「コーラルよ、ルビコンと共にあれ」!』

 

 砲撃は爆風範囲が広い。特にジャガーノートのそれはダメージも大きく、こちらの脅威となる。

 しかし弾速が遅いため、砲撃されるのを見てからクイックブーストで避ければ、当たることはない。

 

 621は空堀に近づいた。近距離からの砲撃は警告音を頼りに、横方向の回避を意識する。

 

 そのまま空堀の中に降りる。グレネード持ちのMTがそこら中から撃ってくるが、照準が甘い。

 621は堀の中を進み、最初の目標であるガトリング砲台の至近に出現してみせた。

 ロックオン。肩の8連装垂直ミサイル──今回新調した汎用性が魅力の実弾ミサイルだ──をガトリング砲台に叩き込んだ。

 

『ガトリング砲台の撃破を確認。街区の制圧は友軍MT部隊が行う。お前は目標四脚MTの排除に移れ、621』

 

 621は「壁」を正面に見て左手の街区を進む。HMDに映し出された映像の端に、見覚えのあるタンクACが捉えられた。

 ハンドグレネードと小型連装グレネードで固めたレッドガンズ所属機。

 

 G4 ヴォルタの愛機、キャノンヘッド。

 左腕こそ取れていたものの、見た感じの損傷具合はそこまで酷くない。狙われたのは前後履帯の隙間だろうが……。

 621は残骸に接近する。機体の電気系統は生きているかもしれない。

 

 ジャガーノートの砲撃範囲だ、おまけに「壁」に設置されたレールキャノンも撃ってくる。そして周辺にMTが3、4機。手早くやる必要があった。

 

 ミサイルのマルチロックとライフルを活用し、MTを排除した621は、キャノンヘッドだった残骸にアクセスする。

 映像記録か何か、残っているようだった。確認は任務後でいいだろう。

 

 ログを回収した621はすぐにビルの影へ向かう。そのまま遮蔽を使い、「壁」に取り付いた。

 

 設置されたレールキャノンを先に破壊する。動かないおやつだ。

 621は1門ずつ、ライフルとミサイルでキャノンを破壊していった。

 

 最後に四脚MTを狙う。相手はまだこちらに気付いていない。

 

 ターゲットアシスト起動、ライフルをバースト。先制はもらった。

 

『「灰かぶりて、我らあり」! 死ね! 独立傭兵!』

 

 8連装垂直ミサイルが命中し、敵機が硬直。

 621はブレードで連撃、更にライフルをバースト射撃。

 

『街区防衛部隊に報告! 裏手にもACが!』

 

『なっ……もう1匹だと⁉』

 

 別ルートから侵攻する予定のV.Ⅳが到着したようだ。待ち合わせに遅れる訳にはいかない。

 

 距離を取った四脚MTに接近。警告音。敵機が9連装キャノンを発射した。

 621は上昇してこれを回避しようとして、失敗。APが3000程飛んで、機体が硬直。幸運なことに追撃はなかった。

 今のは横に回避すべきだった。距離を詰めることに意識を向けすぎた──621は再度集中する。

 

 ライフルをけん制のつもりで放つと、あっさり四脚MTが崩れた。

 

『企業の……カスどもが……』

 

『BAWS四脚MTの排除を確認。街区における脅威は大きく減少した。次は隔壁にアクセスしろ。「壁」内部に侵入する』

 

 621は垂直カタパルトで隔壁まで移動。「壁」内部へ入っていった。

 

『内部への侵入を確認した。近接戦闘に備えておけ』

 

 内部にも隔壁があった。情報によると、道中に2つフロアがある。これが1つ目か。

 621はスキャンを実施。敵影2。いずれも汎用兵器。

 

 隔壁が開く。621はライフルを1発ずつ発砲。残骸を残してフロアの奥へ進む。

 

『聞こえるか、こちらV.Ⅳ ラスティ。早いな、どうやら話に聞くよりできるらしい。こちらもスピードを上げていく』

 

 通信が入った。低く、確かな意志のこもった声が聞こえてくる。

 

『ヴェスパー部隊の番号付き(ナンバード)か。エリートだ。だが、ここはベイラム部隊も退けた「壁」だ。当てにはするな』

 

 実のところ、621は最初からラスティを当てにしていなかった。独立傭兵とはそういうものだ。あのジャガーノートと同時に相手取ることになっても、生還するぐらいの見込みで臨むべきだろう。

 

 フロアの奥にも汎用兵器がいた。更に、開いた隔壁から二脚MTが複数。

 621は目の前の汎用兵器をライフルで潰し、固まっていた残りをブレードで薙ぎ払う。

 そのまま通路を抜け、次のフロアに入った。

 

『敵襲! 増援は回せるか⁉』

 

『こちらもやられている!』

 

 このフロアにもMTが複数。621は全ての武装を活用し、全機撃破。

 

『周辺にリフトがあるはずだ。目標は近い』

 

 隔壁を開けると、リフトがあった。アクセスする。

 バーストライフルをリロード。弾倉が地面に転がり落ちた。

 

 リフトが上がりきると、ウォルターから通信が入った。

 

『621、補給シェルパを手配した。確認しろ』

 

 正面にマーカーが映し出された。621はそれにアクセスする。

 

 ACとほぼ変わらないサイズのシェルパが、どこからか飛んできた。

 これなら道中でアセンブリを変更することだって可能かもしれない。

 

 補給シェルパにより、621の機体は出撃時と同じ状況まで復元された。

 AP残量100%、残弾は全て最大搭載量、今回は使用していないが、リペアキットの残数も元通りだ。

 

 左手に隔壁があった。資料によれば、ここを開けるとジャガーノートがお待ちかねだ。

 

 621は隔壁にアクセス。隔壁が開いて、外から雪が吹き込んできた。

 

 

 

 

 

 

 舞い散る雪の中、621の前に1機のACが降り立った。足元に火花を散らして停止する。

 

『君がレイヴンか』

 

 逆関節にも見えるスマートな脚部、空気を切り裂くシャープなコア。それに合わせた気流を生み出す腕部。緑の複眼カメラが光る鋭利な頭部。高速高機動を実現するための、威嚇的な機体。

 紺と黒で塗装された、シュナイダー製軽量二脚フレーム「ナハトライアー」。機体には口輪をはめた狼の横顔が描かれていた。

 右腕のバーストハンドガンが目についた。左の肩には、621と同じバーストライフルをハンガー装備している。

 

あの(・・)ハンドラー・ウォルターの子飼いらしいな』

 

 履帯を軋ませる音を立てて、巨大な影が飛び出してきた。

 装軌式の駆動部の上、分厚い装甲で守られた砲塔に、巨砲が据えられている。

 今日のターゲット、重装機動砲台「ジャガーノート」。その巨体が、こちらを向いた。

 

『これも巡り合わせだ』

 

 相対するは2機のAC。

 

『ともに壁越えといこうじゃないか』

 

 猟犬と狼による共同戦線が張られた。

 

 ターゲットアシスト起動。戦闘が始まる。

 ジャガーノートは621に狙いを定め、履帯から火花を飛ばして突進。621は上昇してこれを回避。

 ライフルを1発撃つが、こちらに向き直った砲塔に阻まれた。装甲が厚い。

 

 敵は重量級だ。突進の後に隙が生じる。621は8連装垂直ミサイルを両肩発射した。

 

『重装機動砲台ジャガーノート、正面から攻めるのは得策じゃない。スティールヘイズのスピードで攪乱する。君は背後から叩いてくれ』

 

 垂直ミサイルがジャガーノートに降り注ぐ。

 ジャガーノートは機動力確保のため、砲塔の装甲を正面に集中している。上面と背後は内装がむき出しとなっていた。

 

 ACS負荷限界、ジャガーノートが硬直する。621はブレードとバーストライフルで追撃。

 プラズマミサイルが飛んでくる。ラスティの援護だ。

 今度は621が垂直ミサイルを放って一度離脱。空いたスペースにラスティが入り、未だ硬直するジャガーノートにレーザースライサーをフルヒットさせた。

 

『それだ。流石はウォルターの猟犬、見せてくれる』

 

 今度は2機で挟撃。実弾ミサイルとプラズマミサイルの共演だ。オレンジの爆炎が花を咲かせ、青紫のプラズマが迸る。

 再び敵機が硬直。621がブレードで、ラスティがレーザースライサーでダメージを刻み込んだ。

 初めてコンビを組む相手だが、とても「馴染む」。621はそのように感じていた。

 

 直後。

 

『こちらV.Ⅳ……了解した』

 

 暗号通信が混線した。ラスティ宛のものだろう。

 

『レイヴン、司令部のスネイルから情報が入った。敵の増援が迫ってきている。迎撃しなければ共倒れ、私たちはトーストさ』

 

 ラスティの無線を受け、621はアーキバスが仕掛けてきたと考えた。

 

『悪いが……仕上げは君に任せるぞ!』

 

 621は表示される敵の推定APを確かめる。

 既に敵は瀕死だった。先ほどから地雷をまき散らして抵抗してきたが、当たるポジションに散布できないようでは無意味だ。

 

『僚機が離脱した。ここからはおとり抜きだ』

 

 単発で放ち続けたライフル弾により、スタッガーをとった。弾倉の残りは3発、ちょうどバースト1回分だ。

 

 621は硬直した敵の背後にブレードを見舞い、両肩の垂直ミサイルを発射。直後にバースト射撃でマガジンを空にする。

 硬直が解け、動き出そうとするジャガーノートの上からクイックブーストで離脱。そこに発射したミサイルがなだれ込んだ。

 

 ジャガーノートから炎が吹きあがった。砲塔の弾薬にでも引火したようだ。

 車体からも小爆発が起き、破片が散らばる。砲塔を支えるアクチュエータが吹き飛び、ジャガーノートが首を垂れる。電気系がスパークし、そこら中に火を点け、火薬に引火し、連鎖して爆ぜた。

 

 ひときわ大きな爆発が起きた。炎が車体を覆い隠し、爆轟が大地と共に621を揺さぶる。

 雪と一緒になって、空から焼けた金属片が降り、機体に当たって小気味よい音を立てた。

 

『ジャガーノートの撃破を確認。「壁越え」作戦は成功だ』

 

 煙が晴れ、黒焦げになったジャガーノートが現れた。あちこち歪んではいるものの、原形をとどめていた。まだ炎を上げている。

 

『あのパイロット、ラスティと言ったか……。お前の正体に気付いてるようだったが』

 

 ウォルターが621に話しかける。もしかすると、ライセンス偽装に気付かれたかもしれない。

 

『気にするな。多少のことは織り込んである』

 

 ……ならばよし。それにしても、これで終わりなのだろうか。621は襲撃が無いことに疑問を感じる。

 

『621、どうした? 帰投するぞ』

 

「ハンドラー、周囲に敵影はないのか。アンノウンも」

 

『俺たちの周囲はクリーンだ。敵の増援はアーキバスが対処している。今日の仕事は終わりだ、621』

 

 雪化粧をはじめた鉄屑を後にし、621の機体は離脱していった。

 

 

 

 

 

 

『ともに戦った縁だ。ひとつ伝えておこう』

 

 帰投した621宛に、ラスティからメッセージが送られていた。

 

『「壁越え」作戦で……アーキバスは君を捨て駒にするつもりだった』

 

 これは予想通りだった。

 

『独立傭兵には露払いだけさせ、私たちヴェスパー部隊で制圧する計画だったのさ』

 

 なるほど、ジャガーノートもろとも消すつもりではなかったか。

 621が予想していたのは、ジャガーノートと交戦中、あるいは撃破後、アーキバスが襲撃してくる、というものだったが、杞憂に終わった。

 あくまで彼ら自身がジャガーノートを倒すつもりだったようだ。

 

『だが……「壁」は落ちた。上の連中も、君の名を覚える気になるだろう。この私と同じようにね』

 

 褒め言葉として621は受け取った。V.Ⅳ ラスティか……。こちらも覚えておこう。

 

 ……覚える、といえば。

 目覚めて以降、621の記憶は消失することもなく、保持され続けていた。目覚める前──手術前のことは、今も思い出さないし、その必要も感じない。

 しかし、一般的な知識はともかく、断片的な専門知識が既に脳内に存在したことは、621にとって幾分奇妙ではあった。

 準備期間で、ACを操縦するために仕入れた知識はかなりの量があった。その中で、明らかに知らないはずの事柄を説明できるケースが、たびたびあった。

 ウォルターはよくあることだと話していたから、事実その通りなのだろう。

 

 621にとっては、今を戦うことの方が遥かに大事なのだから。

 

 

 

 

 

 

 映像記録:G4の最期

 

 MTに囲まれ、砲弾とレールキャノンが襲い掛かってくる映像に、搭乗員の音声が入っていた。

 

『イグアス、ミシガンの言うことは聞いとけ。あいつは本社のボケどもとは違う。クソ親父だが俺らを切り捨てるような真似はしねぇ』

 

 苦しそうな呼吸音が記録されている。負傷しているのかもしれない。

 

『この作戦を考えたゴミ野郎を殺してやりたいぜ。おめえは上手いことサボったな。俺も……』

 

 雑音と共に映像はここで途切れている。

 

「壁」に侵攻したアーキバスMT部隊により、パイロットの死亡が確認された。遺品にできるようなものはなかったと報告されている。




 収入:453,200
 
 基本報酬:330,000
 報酬加算:123,200
 詳細
   汎用兵器の撃破:3,200
   砲台の撃破:72,000
   軽MTの撃破:24,000
   重MTの撃破:24,000
 
 支出:49,566
 
 修理費:7,606
 弾薬費:41,960
 報酬減算:0
 
 収支:403,634
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