メインシステム、戦闘モード起動   作:留式

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コーラル輸送阻止

《レイヴン、ひとつ依頼が届いています……コーラルリリースについてです》

 

 アイスワーム出現を受け、人間たちが一時的に慌ただしくしている頃、その依頼に気が付いたのはエアだった。

 

《ブリーフィングは管理者権限によって高度に暗号化されており、履歴も残らないよう細工がしてあります。言い方を変えると……オールマインドはウォルターにこのことを知られたくない》

 

 オールマインドがオーバーシアーの存在を察知しているか定かではない。しかし、リリース計画がコーラルを丸焼きにする計画でないのは明らかだった。

 

 また殺し合うことになるだろうか。それならばせめて、まともな状態で出てきてほしいものだ……。先のことに考えがいった621だったが、ややあって目下の課題に頭を引き戻す。

 

「エアなら暗号化の解除もできるというわけか」

 

《既に元データは廃棄しておきました。私を通さなければ依頼の存在自体を知ることすらできないようになっています》

 

「グッドワーク。それでは、見てみるか」

 

《そうしましょう、レイヴン》

 

 エアもこの依頼には興味を抱いているようだった。ブリーフィングが再生される。

 

『登録番号Rb23。強化人間C4-621──レイヴン』

 

 早口な音声と共に、オールマインドのエンブレム──三角形にALLMINDの各文字をバランス良く配置したもの──が表示される。

 

『オールマインドは貴方を「リリース計画」の潜在的協力者として判断しています。つきましては、これよりお伝えする任務を遂行ください』

 

 無地に透き通るような青緑で描かれたエンブレムが、赤地に黒という配色に変化した。我々は後ろ暗いことをやっている、そんな主張の強い色合いだった。

 

『ウォッチポイント・デルタ襲撃以来、ルビコン各地でコーラル湧出現象が続いています』

 

 続いてコーラルの現状をオールマインドは話した。各地といっても、この近辺で湧出が起きたのはベリウス北部のBAWS第2工廠、局所爆発を起こした北西部の半島、それから中央氷原のエンゲブレト坑道ぐらいだ。

 

『このうち、企業勢力の手に渡ったのは推定総量の1.6%です』

 

 円グラフが表示される。円グラフなら凡例は少なくしろ、というウォルターの声が聞こえてくるようだった。621も通った道だ。

 それにしても、グラフに表示された割合は1.6%よりも大きく見えた。任務に影響はないが、621が一抹の不安を覚えたのも確かであった。依頼主が明らかに前提条件を間違えている。

 

『彼らはこのコーラルを自社研究拠点で解析すべく、空輸作戦を始めています』

 

 話が本題に入った。

 

『我々は企業による「計画」への干渉を許容しません。ヨルゲン燃料基地を襲撃、輸送機を可能な限り撃墜してください』

 

 任務自体はオーソドックスなものだった。増援次第だが、負荷は軽いだろう。

 

『輸送機の撃墜に伴い焼失するコーラルについて、我々は必要な犠牲であると考えています』

 

 その言葉と共に、オールマインドはひとつのシミュレーションモデルを表示した。

 

『「リリース」を実行するためには、コーラルの密度効果を極限まで引き上げる必要があります』

 

 コーラルが1箇所に集まろうとする様子が見てとれる。反対に少し離れた場所では、コーラルの数は極端に少ない。

 

『そのため、母集団から孤立したコーラルに用はありません』

 

 つまり、多少燃えても問題はない、ということだった。

 

『……オールマインドは貴方に素晴らしい成果を期待しています』

 

 ブリーフィングの再生が完了。エアが言葉を発した。

 

《レイヴン……コーラルリリースの実現方法を探るなら……この依頼は受けるべきでしょう》

 

「同意する。受けるよ」

 

 なんにせよ、コーラルに関する新たな道筋が見つかったのは、621にとって喜ばしいことだった。前に進めないのが一番嫌いだ。

 たとえどのような内容であろうとも、それだけは確かだった。

 

 

 

 

 

 

 エアを通じてオールマインドに依頼受諾の連絡を送ると、早速日時の案内が来た。いまから4時間後、なんと今日中にやるとのことだった。

 フットワークの軽さに驚きながらも、621はその日の午後、ヨルゲン燃料基地へ向かった。

 

『……オールマインドは貴方の好意的な返答に改めて謝意を表します。それでは作戦を開始しましょう』

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

 AC投下。621はヨルゲン燃料基地、破壊されたエネルギー精製プラントのそばに降り立った。

 

『目標はコーラル輸送機の全機撃墜です。作戦領域を離脱した輸送機は独立傭兵ケイト・マークソンが処理します。ただし彼女にも限界はあると思ってください』

 

 オールマインドが喋っている間に、既に4機が葬り去られていた。コーラル特有の球状爆発が地面を焦がす。

 

「了解」

 

『敵襲! ACが1機!』

 

『コーラルが狙いか……輸送機を守れ!』

 

 コーラルの発火現象を利用し、まとめて始末できそうだった。621はドローンを墜としながらプラント正面を横切り、駐機していたヘリにプラズマミサイルを放り込む。

 

「ビンゴ」

 

『発火現象に際しては距離を取るようご注意ください』

 

 輸送ヘリ2機、ついでに銀色のコーラル貯蔵タンクが吹き飛ぶ。

 

『この辺りは片付いたようです』

 

 621は別の貯蔵タンクにも発砲し、燃やした。

 

『お待ちください──崖下に輸送機を検知。急行お願いします』

 

「ウィルコ」

 

 マーカー情報に従って移動する。待ち構えていた狙撃型LCを消し、621は飛び降りた。

 

『敵機! 上から来たぞ!』

 

『解放戦線か⁉』

 

『ルビコニストどもはコーラルを焼くリスクなど冒さん。どこの雇われだ⁉』

 

 今日は強力な増援が来ないだろうと判断した621は、左肩にも3連プラズマミサイルを搭載している。

 それは射程の長いバーストライフルと合わさって、強力な掃討能力を遺憾なく発揮した。

 

『複数の目標を確認。確実に排除──』

 

『撃墜されているぞ! 援護どうした⁉』

 

『配備されたばかりの鹵獲機体で仕事ができるかよ、お前!』

 

 谷間に用意されていた輸送ヘリ6機と貯蔵タンクも、瞬く間に始末された。

 

《コーラルを解き放ち……「向こう側」へ渡る……。それこそが……共生……》

 

「……エア、一区切りついたか?」

 

 最近では珍しく、エアは移動中から無言だった。

 考え事をしているようだったから621も放っておいたが、作戦中に彼女のサポートが欲しいのも事実であった。

 

《……レイヴン》

 

『この周辺も片付いたようです。任務を続行してください』

 

「了解」

 

《ご心配をおかけしました。今は……ミッションに集中することにします》

 

「ありがとう。助かる」

 

 垂直カタパルトで崖を駆け上がった621はマーカーに従い、燃料基地の外郭にある谷へと向かった。

 

『目標を確認。複数の輸送機が強行突破を試みています』

 

 その谷の間を縫うようにして、陸側からヘリが飛んでくる。

 

『ちくしょう、捕捉された!』

 

『1機でも送れば上への言い訳は立つ……狙撃隊、カバーしろ!』

 

 谷には橋が複数かけられており、奥のふたつに狙撃型LCがいた。621は手前の機体を処理しつつ、自由落下で輸送ヘリを捕捉。低空から抜けようとする2機に、両肩のプラズマミサイルを発射した。

 

「目標を撃墜。このまま出待ちする」

 

《レイヴン、新手です》

 

 分散した2機編隊。橋桁のすぐ下あたりの高度を飛行するそれらを、621は斜め下から強襲した。

 

《1目標にかけられる時間は少ない……速度重視でいきましょう》

 

「違いない──」

 

 衝撃。2機目の撃墜を確信した621は、ほぼ同高度にいる狙撃型LCの残りを始末しようとして、ヘリに近づきすぎていた。

 空中でスタッガーしたところにLCがレーザーを撃ってきたが、これは当たらなかった。

 

《下方に輸送機の反応!》

 

 一度高度を下げ、えぐるようにLCを攻撃。邪魔者が消えた高台に着地する最中、HMDにはTGTの文字が出ていた。

 

『あのACを撃ち落とせ! 上を取られるな!』

 

『援護する。輸送機は増速を!』

 

 高台から自由落下。プラズマミサイルをロック、発射。

 

 低空をアブレストで飛行する2機に対し、621がやったのはこれだけだった。眼下で小さな超新星がふたつ。紅い。

 

『くそったれ! 橋ひとつまともに──』

 

 続いて3機が突入を図る。これも即座に撃墜された。元いた高台に戻り、621は谷の奥の方を見る。

 

「……遅いな」

 

 渓谷だろうがトンネルだろうが、全速力で抜けるべし。

 次の敵機を待ちながら、621はそんなことを思った。

 

《分散した輸送機、上空です!》

 

『相手はたったの1機だぞ!』

 

 次が来た。これまでより高度を上げ、距離を離したトレイルフォーメーション。

 しかし1機ずつ墜とせば、それで終わりだ。直後、今度は低空を侵入する2機を621は捕捉した。

 

《レイヴン、下です!》

 

 それぞれにプラズマミサイルを見舞い、高台へ戻ってエネルギーを回復。

 

《レイヴン、上方です!》

 

『手ひどくやられた──反撃しろ!』

 

 ちょうどそこへ、輸送機が1機さしかかる。700m後方にもう1機。

 3連プラズマミサイルはリロード時間が短い。621は余裕をもって各個撃破した。

 

 これがECMフォグ展開下であれば、話は変わっただろうと621は想像した。

 視界不良、輸送機は既に先を行っており、しかも分散していて、近づかないとロックできない。横やりを入れてくる存在はしつこく、僚機は恐れをなして撤退している……。

 

《む……今ので打ち止めでしょうか……?》

 

 作戦中にもかかわらず、621は意味もないことを考える余裕があった。谷底にはMTが群れていたが、上がってこれていない。

 しかし621の目線は谷から外れておらず、それは功を奏した。

 

『複数の目標を確認。処理してください』

 

「ウィルコ」

 

 最後に敵を墜としてから30秒、谷底を4機が進んできた。

 直後、HMDに表示が増える。4機編隊の800m後方に5機。こちらは高空侵入。

 

 621は下まで降りる。ようやく近づいて来たならず者に対し、MTがグレネードを1発当てた。当てられた方は気にもとめず、先に突破を図る4機を墜とした。

 

『取り残されたコーラルが消えていくのは我々としても不本意です……しかし「リリース計画」が成れば……彼ら(・・)も報われることでしょう』

 

 なんだそれは、という疑問を621は塗りつぶす。上空を飛ぶ5機めがけて上昇。右側を飛ぶ2機へプラズマミサイルを発射。先導機に命中。爆発は僚機を巻き込んだ。

 

 残りは3機。621は後方からプラズマミサイルをマルチロックで発射。これで2機が消える。残った1機も大きなダメージを受けており、飛んできたバーストライフルによって果てた。

 

『全目標の撃墜を確認。任務完了です。強化人間C4-621──レイヴン。貴方の仕事ぶりは模範的でした。ケイトからも称賛の言葉が届いています』

 

「ふむ……聞こうか」

 

『……「ナイスシューティング、レイヴン」──またお会いしましょう』

 

 オールマインドからの通信が切断される。それを確認すると、621はエアに話しかけた。

 

「エア、ひとつ確かめてほしいことがある」

 

《何でしょう、レイヴン?》

 

「ケイト・マークソン──トランスクライバーに生体反応はあったか?」

 

 まさか、という反応をエアは返した。しかし数十秒して、声音を変えた。

 

《……ありません。トランスクライバー、生体反応を確認せず》

 

 やはり、という思いだった。今日は置物だったが、単機でもエクドロモイの片方を撃破できるあの機体は、無人機だったのだ。

 

《レイヴン……私も、ケイト・マークソンについて情報を調べてはみました》

 

 どれだけ探しても情報は見つからなかった、とエアは言った。

 

《彼女もまたリリース計画の「協力者」だと思っていたのですが……》

 

「ケイト・マークソンは存在しない独立傭兵、というわけだ。もっとも……」

 

 あれが自分たちの前に出てくることは、もうないだろう。オーバーシアーと同じく表立って動けない組織だ。だからこそ621を求め、手に入れた。

 

 リリース計画がどういうものなのか、621には全く分からない。技研都市に論文があるらしいが、五里霧中だ。

 しかしその先に──621は空を見上げる。日が傾き、朱の混じった青空が広がっていた。

 

「向こう側」とやらにも、青空は広がっているのだろうか。曇り空は嫌だ。

 

 ならば──。

 

 曇を越えるまでのこと。闘い続けようではないか。621はようやく見えてきた気がした。

 

 きっとそれこそが、おれの自由意志だ。




 収入:610,000
 
 基本報酬:110,000
 報酬加算:500,000
 詳細
   撃墜目標の領域離脱 なし:100,000
   コーラル貯蔵タンクの破壊:40,000
   コーラル輸送ヘリの撃破:360,000
 
 支出:24,962
 
 修理費:6,862
 弾薬費:18,100
 報酬減算:0
 
 収支:585,038
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