『強化人間C4-621──レイヴン。計画実現のために排除すべき障害があります』
例によって管理者権限、高度に暗号化されたブリーフィングメッセージの冒頭、オールマインドは赤黒いエンブレムを見せつけながら切り出した。
『目標はV.Ⅲ オキーフ、アーキバス特殊諜報局員』
オールマインドが標的についての情報を話していく。
『第2世代強化人間、オキーフは、企業内部における我々の賛同者でした』
オキーフの強化手術世代はややこしい。彼は最初こそ第2世代強化人間だったが、現在は第9世代だ。再手術をして、部品から人間に戻った一例でもある。
『しかし土壇場で翻意したらしく──我々に背くつもりのようです』
そこでオールマインドが指定したのは、深度3だった。目標がアーキバスの指令を帯びて探査に現れたところを伏撃する。
『記録には不慮の事故による死亡と残しておきます。暗殺に適した兵装でお越しください』
オールマインドの暗躍により、不調をおして出撃した間抜けの出来上がりというわけだ。
そこまで言うと、オールマインドは唐突にリストを表示した。
『リリース計画の成就。その鍵となるのは特別な強化人間の存在です』
リリース計画と題されたリスト。中身は第1世代から第4世代までの強化人間だが、数字は飛び飛びだった。その中に、赤字で記された番号が4つ。
C1-249、C3-291、C4-621、C4-769。
『C4-621──レイヴン。オールマインドは貴方の成功を確信しています』
ブリーフィングが終わる。しかし、621は最後に表示されたリストのことが気になった。
1体は既に殺した。C1-249はスッラである。残り2体は不明。621が知っている中で第4世代強化人間はイグアスただひとりだが、彼は深度2で襲撃してこなかった。所在不明だ。
とにかく誰であれ、621を含め4体の強化人間が、オールマインドに「特別な強化人間」として選ばれた。
1体が死んで、残りは多くても3体。オールマインドは自分の他にもこのような依頼を持ち込んでいるのだろうかと、621は想像する。
《……私たちは選択した。依頼を果たしましょう、レイヴン》
「……ああ」
しかしエアの言葉で、621は思考を依頼に戻す。曖昧な表現だが、兵装指定の任務だ。
両腕に長射程ショットガン。肩は3連プラズマミサイル、パイルバンカーを選択。
「発進する」
灰色の探査ACが、ウォッチポイント・アルファの深度3区画へ向かう。自由意志を宿して。
『メインシステム、戦闘モード起動』
岩壁沿いに現れた機影が縦穴外周の足場へと消える。格納容器外周からそれを視認し、621は戦闘モードを起動。
《ミッション開始。V.Ⅲ オキーフを排除します》
ヴェスパーズには珍しい、寒色系の少ない四脚ACが梁の上を飛んでくる。621は斜め前からアサルトブースト、ショットガンで強襲した。
『……いよいよ贅沢な
角度が悪かった。ショットガンは片方だけ命中。直後に放った蹴りも外れた。
全て直撃すればパイルバンカーをぶち込むだけだったが、621はターゲットを仕留めそこねた。
「エンゲージ」
『お前もオールマインドの使い、だな?』
淡々とした男の声。
前傾した「ナハトライアー」コアパーツの上、甲虫のような見た目の「マインドα」頭部パーツが、621に視線を向ける。
『うんざりするが……まだ死ぬつもりはない』
《あなたはオールマインドが初めて送り込んだ刺客ではないようです。ですが最後にはなり得る。……気を付けて、レイヴン》
「コピー」
バレンフラワーの背後を蹴とばし、ショットガンを浴びせてスタッガーを取る。間合いが悪い。621はパイルバンカーではなく、プラズマミサイルと蹴りで追撃。
『自分が何をしようとしているのか分かっているのか、お前?』
敵機が空中へ離脱する。621は無理に追わなかった。
『言っておくぞ……オールマインドは
遠方から飛んでくるバーストライフルにプラズマライフル。そして視界外からの攻撃、垂直プラズマミサイルとコンテナミサイル。
621がこれらを避けるのはそれほど難しいことではなかった。ただ、パイロットの言葉が興味をひいた。
「話だけは聞いておこうか」
心こそ決めたが、具体的に何をやるかは不明瞭のままだ。621はオキーフが何かを吐くことに期待した。
『コーラルリリースに夢を見ているようだが……止めておけ。味気ないレーションを押し込み、泥水のようなフィーカをすする。まあ、うんざりするが──それこそが人間だ』
「フムン……どうもピンとこないな。五感が重要というのは、分からなくもないが」
621はいくつかを失っているが、人間が生き残るうえで五感は重要だ。しかし、オキーフが言いたいのはそうした類の話ではなさそうだった。
『……訳も分からぬ可能性を追ってどうする。人間のうちに死んでおけ』
──人は人と戦うための形をしている。
エアの言葉を思い浮かべる621の視界に、エネルギー切れした敵機の姿が映った。621はアサルトブースト点火。
「誤った武装構成を悔やみながらも」
遠距離志向の相手なのだ。バーストライフルを持っていくべきだった。
そんなことを思いつつ、621はプラズマライフルを回避。更に詰め寄ってショットガンで反撃、蹴る。
「ベストを尽くして
至近距離からプラズマミサイルを放り込み、再度ショットガンを発砲。敵機がスタッガー。
「内容は知らない。だがきっと、コーラルリリースは手段に過ぎない」
紫が弾ける中、左腕にパイルバンカーをセット。タイムラグなく撃鉄を起こす。小気味良い音と共に火花が散った。
「
621は左腕を振り上げながら、トリガーを引く。炸薬に火が点き、杭を射突。
杭がバレンフラワーの薄いコアに深々と突き刺さった後、機体は慣性で吹き飛んだ。
『ようやく……まともに眠れるか……』
煙とスパークをまき散らし、バレンフラワーが落ちていく。レーザー障壁の消えた、縦穴の底へと。
『先に渡るぞ、ラスティ……』
穴の底で還流ジェネレータの断末魔が小さく光り、消えた。
それを見届けた621だったが、オキーフの最期の言葉は頭に残った。
「なぜラスティが出てくる?」
あまり接点があるようには見えなかった。しかしラスティと付き合いがあるのなら、彼は「戦う理由」を背負っていたはずだ。
《V.Ⅲ オキーフ、沈黙しました。彼もまた、別の候補者だったのでしょうか? コーラルリリースの鍵に?》
「分からないな……」
621は戦友に理由を問い続けたラスティの気持ちを、少しばかり理解できた気がした。オキーフはなぜ戦ったのだろうか。オールマインドを妨害するというのは、主目的ではないだろう。
だが同時に、と621は思う。他者の引き金を引く理由など、どうでもいいはずではなかったか。自らの戦う理由に確証が持てないから、よそのことが気になるのではないか?
《……オールマインドの依頼は果たしました》
それでも、621は進むしかなかった。歩みを止めれば、それこそ死あるのみ。
《行きましょうか、レイヴン》
「ああ」
数時間後には戻ってくるであろう縦穴を一瞥し、621はガレージへ戻っていった。
帰投すると、オールマインドからメッセージがあった。
『強化人間C4-621──レイヴン。計画の成就は間近にあります。集積コーラルに辿り着くころ──またお会いしましょう』
オールマインドが動くタイミングは予想通りだったが、何をやるかは相変わらず不明のままだ。
論文のことも含め、とにかく技研都市まで降りる必要がある。しかしそれに関しては、以前の仕事から変わらない。
そそくさと整備を済ませ、621は未踏領域探査に出た。
収入:320,000
基本報酬:320,000
報酬加算:0
支出:4,800
修理費:0
弾薬費:4,800
報酬減算:0
収支:315,200