『なあ、
「質問に質問で返すが」
ウォッチポイント・アルファの未踏領域、ミールワームの巣窟を抜けた先で、やはりラスティは621を追ってきた。
「あんたの背負う戦意は、あんた自身の意志によるものだ。確かか?」
『そのつもりだ』
「もうひとつ」
『……何だろうか』
オキーフとの戦いを受け、621はラスティに確かめたいことがあった。
「あんたの意志は、そう簡単に折れるものではない。そうだな?」
『随分と見くびられたものだな、
「すまない、愚問だった。──いくぞ」
『来い』
あまり心配していなかったが、ラスティが折れることはなさそうだ。その確証を得て、621はスティールヘイズに襲い掛かった。
勝敗はすぐに決した。スティールヘイズは蹴りと銃弾の嵐に晒され、スタッガーしたところをブレードとアサルトアーマーで仕留められた。
「……またな」
崩れ落ちたスティールヘイズを前に621はそうつぶやき、直後にやってきたツバサを葬った。
そして今までと同様、集積コーラル到達任務に出撃した。
事態が動いたのは、アーキバスAC部隊を殲滅した直後のことだった。
『リペアキット、残数2』
『これである程度の時間稼ぎ──』
『暗号回線に切……替え』
ウォルターからの通信が、早口な声で遮られる。
『強化人間C4-621──レイヴン。V.Ⅱ スネイルが貴方を使い捨てるべく控えています』
「……知ってるよ」
経緯は異なるが、2度も嵌められたのだ。621は話の流れを察する。時は来たれり、ということか。
『座標を送信するので、排除するように。以降はオールマインドにお任せください』
《……行きましょう、レイヴン》
「了解」
アサルトブースト点火。621は朽ちた橋、崩れたビルの隙間をくぐって飛ぶ。
『621、聞こ……か? 通信が……絶えたが……』
『ハンドラー・ウォルター……計画にとってもうひとつの障害。我々にお任せください』
「……ここでお別れだ、
前回の計画通りではある。違いとしては、スネイルを先に刈るだけだ。ウォルターも自分の手で対処したいというのが621の本音だったが、それは叶わない。
「任せるぞ、オールマインド。──V.Ⅱはここにいたのか」
マーカー地点に到達。ルビコンに来て初めて、
『はっ? こいつは独立傭兵の──』
『待て……どうも変だ。ジャミングか? 強度が──』
入口にいた数機のMTを撃破し、621は下水を進む。粘着質な声が入ってきた。
『……2機とも落とされましたが、ここまでは織り込み済みです。はい……ええ、分かっていますとも。そのための独立傭兵です』
別の縦穴に出た。その底には護衛のMTを従える、紫で塗装された重量二脚ACの姿があった。
《奇襲する好機です》
『通信障害とは何事だ……?』
『駄目です。やはり傍受できません』
『帯域を変更しなさい。本部への連絡はあとだ。あの飼い主が策を弄するとは……』
オールマインドが対処する以上、もはやウォルターを心配する必要はない。標的はすぐ目の前で、邪魔者はいない。
621はオープンフェイスをロックオン、そのままアサルトブーストに点火した。
『ふん⁉ 何者か!』
詰め寄ってアサルトアーマーを発動。MTは消えたが、オープンフェイスはクイックブーストで離脱していた。
「外したか。エンゲージ」
『独立傭兵……レイヴン!
迎撃は垂直プラズマミサイルだった。621はこれを被弾したが、次のレーザーランスによる突撃は回避した。
「知識と経験」
オーバーシュートした敵機にバーストライフルと3連プラズマミサイルで反撃。ACSに負荷を蓄積させる。
スタッガー。タイミングよくプラズマミサイルが着弾してAPを削ぎ落す。621はこれに蹴りを入れ、更にブレードを振った。
『まあ……
『いやがった! あいつらの言ったとおりだ……』
スネイルがリペアキットを使用した、そのときである。HMDにコーションが出現。
『死ね、野良犬!』
聞こえてくる声は相変わらず軽薄そうだった。しかしどこか沈んだ響きと、真っ直ぐな殺意を帯びている。
《っ⁉ 新たな敵性反応! あの機体は……G5 イグアスです!》
621はオープンフェイスに接近しており、アサルトアーマーを誘発。
パルス爆発が吹き荒れた直後、吹き抜けの縦穴から
警告音が鳴って、すぐ脇から速射型リニアライフルのチャージショットが飛んでくる。
『ベイラム……? 何のつもりだ⁉』
『てめえ! アイスワーム戦の木端役人!』
621はオープンフェイスを見ながら後退して回避。
続いて目に入ったのは、実弾の4連装ミサイルがオープンフェイスに着弾する光景だった。
『今日はツイてるぜ……
『狂犬が。仲良く死ぬがいい!』
『まとめてんじゃねえ!』
喋るふたりを無視して621は攻撃を続行。再度オープンフェイスをACS負荷限界に追いやる。ブレードで追撃したが、撃破まではいかなかった。
『旧世代型め……不愉快なんですよ。AIと大差なく、ACにも釣り合わない』
「なんとでも言え」
スネイルが再度リペアキットを使用。イグアスの安定しないターゲティングも活用して、621はそれほど間を置かずにスタッガーを取った。
持ち替えたブレードを叩き込むが、脇からマシンガンが浴びせかけられた。それを見たか、スネイルが嗤う。
『貴方は存在からしてカビが生えているのです。自覚しなさい』
ピピピピピ、という高い警告音。ACS負荷限界。621は硬直から抜けたばかりのオープンフェイスから放たれた、スタンニードルランチャーを被弾。即座にリペアキットを使用するも、今度はレーザーランスが掠めていった。
『……ああ、もう1匹もそうでしたね。道理で吐き気がするわけだ』
『まとめるなと言っただろうが!』
オープンフェイスにヘッドブリンガーが攻撃を集中させる。ミサイルが爆ぜ、リニアライフルが奔った。加えてレーザービームが何本か。オールマインドのレーザーオービットだった。
これに621がバーストライフルとプラズマミサイルを重ねてやると、オープンフェイスは崩れ落ちた。
『有り得ない……! この私が失策⁉
「ナイスキル」
『てめえ、ふざけてんのか?』
残った旧世代型2体がドッグファイトに入る。先にスタッガーを取ったのは621だったが、ヘッドブリンガーはブレードによる追撃を耐え抜いた。
『ぬァ……。またくそ耳鳴りが……! 野良犬──これもてめえのせいか⁉』
硬直を脱したヘッドブリンガーの中で、イグアスがまくし立てる。しかし高い反動制御性能に裏打ちされた両腕の射撃、ミサイルとオービットという4箇所全てを使った攻勢は、決して質の悪いものではなかった。
『やめろ……うるせえ──ゴチャゴチャしやがって!』
その機動はまだ受け身なところが多い。しかし鋭さは増していた。621はついにACS負荷限界に持ち込まれる。
『どいつもこいつも俺を嗤ってんだろうが⁉』
叫び声と共に、ヘッドブリンガーがアサルトアーマーを発動した。AP残量が3割を切る。
『リペアキット、残数なし』
「……見どころはある」
しかし621は持ちこたえた。最後のリペアキットを使い、反撃に出る。バーストライフルを発砲しながら距離を詰めていき、壁際まで追い込んだ。
『っ⁉ くそっ──』
最初の圧は完全に消え失せていた。ヘッドブリンガーがスタッガー。621は敵機を壁に向かって蹴とばし、そのままアサルトアーマーを発動。それがとどめだった。
『お前と俺で……何が違う……』
爆発で浮き上がったヘッドブリンガーが落下し、青白い光を放って果てた。脱出ポッドは……作動せず。
《G5……イグアス、ダウン》
「……あれほど怯える必要はなかった」
何が違う。イグアスの言葉が、621の脳裏で響いた。最初の仕事で、ラスティにも言われたことがある。621は死を恐れていない。
もちろんそうではない。生き残るためには、相手の圧を上回る圧をかけ、押しつぶしてしまえばよい。それが621の考えだった。戦い抜く姿勢を崩さないことが、結果として最も生存につながる──
『強化人間C4-621──レイヴン』
考え事をしていた621の耳に、オールマインドの早口な音声が飛び込んできた。
『お見事でした。これで、貴方は我々の一部です』
意識して落ち着かせた、といった感じの声音だったが、徐々に普段の調子に戻っていく。
『オールマインドへようこそ』
621は縦穴の先を見上げる。人工太陽が傾く空に、残骸から立ち上る煙が加わっていった。
その視界の外、ヘッドブリンガーの残骸の影で蠢く存在を知覚したものは存在しない。ある例外を除いて。
文書データ:独立傭兵の任務報酬
遺棄された瓦礫に残っていたデータ。独立傭兵の金に関する記録と思われる。
依頼名:集積コーラル到達
収入:850,000
基本報酬:520,000
報酬加算:330,000
詳細
オールマインドの勧告受諾:250,000
「V.Ⅱ スネイル」の撃破:80,000
支出:581,656
修理費:38,056
弾薬費:23,600
報酬減算:520,000
詳細
ウォルターの作戦放棄:520,000
収支:268,344
行動評価:S