メインシステム、戦闘モード起動   作:留式

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MIA

 AC4機を立て続けに撃破した621だったが、当然その機体は消耗していた。リペアキットはもうない。幸いにもスネイルが手配したとおぼしき補給シェルパがあったため、補給と回復はできた。

 

 そしてコーラルリリースに関する論文をあさるべく、移動を始めようとしたときのこと。オールマインドから通信が入った。

 

『強化人間C4-621──レイヴン。貴方の協力により、計画の成就は近づいています』

 

 オールマインドによって、独立傭兵レイヴンは技研都市に突入した企業所属パイロットと同様、当地で死亡したことにされた。

 とはいえ、621が保護を正式に受け入れるまでは、本当の安全とはいえない。オールマインドはそう伝えてきた。

 

『C4-621──レイヴン。ウォッチポイント・アルファ、深度1まで遡り、我々と合流してください。なお、深度2から先は企業の残存勢力が確認されています。必要であれば排除すること。以上です』

 

 問答無用、という雰囲気だった。

 

「……論文は諦めるほかないか」

 

《仕方ありません。進みましょう。私がサポートしますから》

 

 エアにそう言われると、621も返しようがなかった。何があろうと前進あるのみだ。

 

 

 

 

 

 

 長い縦穴を連続でクリアし、更に普段とは異なる横杭を伝いながら、621はウォッチポイント・アルファの深度2まで戻ってきた。

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

 現在地は最奥区画手前の小部屋。目の前にはエンフォーサーを追跡するためにこじ開けた隔壁があり、今は強制執行システムを掌握したオールマインドの手で再び閉鎖されていた。

 

『強化人間C4-621──レイヴン。先ほど申し上げたとおり、この先は企業の残存勢力が展開しています。こちらで細工は施しておきました。合流地点まで到達していただければ……何人も貴方を脅かすことはできなくなる』

 

《……行きましょう、レイヴン》

 

「ああ」

 

 621には隔壁へのアクセス権限が付与されていた。立入禁止区域と書かれたそれにアクセスし、開ける。

 

『これは……どうなっている⁉』

 

 次の瞬間見えたのは、火炎放射とパルスブレードの光。続いて敵のコンテナ。FCSがそれを捕捉する音。621は反射的にライフルとプラズマミサイルを発射した。

 

 封鎖兵器が友軍であることに気が付いたのは、アーキバスが封鎖機構から鹵獲した歩哨MT3機を粉砕してからだった。

 

『原因は分かりませんが……ウォッチポイントの防衛兵器が復旧しました!』

 

『C4-621──レイヴン。友軍を活用してください』

 

「了解」

 

 次の隔壁が開いて、再びアーキバスMT部隊が突入してくる。それに飛びかかる封鎖兵器たちの背後から621も攻撃。相手は密集隊形が仇となり、まとめて蜂の巣にされ、切り刻まれた。

 

「思いのほか使えるな」

 

 アサルトブースト。621はカーブしたトンネルを飛行し、橋に出る。

 

《注意──狙撃型LCです!》

 

 その上で立ち尽くすMTを楽にしてやり、対岸へ。岩壁の足場から狙ってくるLCへ詰める。

 

『撃て! 識別がないものは、全部──』

 

 言葉の主は接近する探査ACを見失ったらしく、見当違いの方向へレーザーを放っていた。621はその横面を引っ叩く。

 

『ここから出るのよ!』

 

『た、退避しろ! 隔壁ひらけ!』

 

 もう一本、上方にかかる橋へ621は飛んでいく。封鎖兵器と交戦中の狙撃型LCが複数機見えた。

 

《まさか……いけま──》

 

 爆炎。621の目の前を炎が駆け抜け、橋の上にいたものすべてをなぎ倒していく。残された残骸の周囲に撒かれたオイルを炎が照らし、血の如く彩った。

 

『統率を欠けば、企業と言えどこの程度。人に依る繋がりは簡単に千切れる』

 

 オールマインドの独り言に、621は何も言わなかった。ただ、燃え盛るトンネルの中をアサルトブーストで飛び抜けた。

 

 熱交換室に到達。隔壁を開ける。

 

『AC! 識別不明!』

 

『地獄だ! 俺たちは地獄に──』

 

 MTが3機。一番奥の機体にバーストライフルが飛び、ほぼ同じタイミングで手前の2機にプラズマミサイルが着弾。クリア。

 

 真っ赤に染まる左右のヒートシンクの間を進み、621は奥の隔壁へとアクセスする。

 

《後方に敵影あり!》

 

『全部滅茶苦茶だ、きっとあのACだぞ!』

 

『訳も分からず死んでたまるか!』

 

 621は180度クイックターンしてアサルトブースト。3機編隊に突っ込んでいく。1機だけ大きな影があった。

 

「これは……高火力型LCか」

 

 時間はかけられない。3機の中央に位置取り、全機に当たるようにアサルトアーマー。硬直する鈍重なLCにパルスブレードを叩き込む。吹き飛んだ敵機は炎の中へ消えた。

 

『来るんじゃなかった……こんな惑星(ほし)……』

 

 それはおそらく、この惑星(ほし)でまともに暮らしていた人間の総意であっただろう。まともであるほど、先に折れていく。

 

《敵機、反応停止……進みましょう》

 

「ああ」

 

 再びトンネルを全速力で飛ぶ。トンネル内はスプリンクラーが仕事をしていたが、文字通り焼け石に水だった。

 

『所詮無人機だ! 叩き潰すぞ!』

 

『待て! もう1機……ACだ!』

 

『最寄りのヴェスパーに報告しろ!』

 

 初めて訪れたときとは比べ物にならないスピードで、621は深度2を遡っていた。

 ここは深度1手前の隔壁に出るひとつ前、近くに配電盤がある区画だ。3軸方向全てが狭い空間で、封鎖兵器、MT、そしてLCが入り混じって交戦していた。

 

 621は線路上で射撃を行う2機を消し飛ばし、続いて横の小部屋に飛び込む。

 

『待て! ベイラムの残党を確認した!』

 

『くそっ、アーキバスめ!』

 

 残った2機を始末しながら、621は懐かしい声を聞いた。

 

「G6……この下か」

 

 配電盤手前、以前はベイラムの伏兵がいた部屋に降りる。今度はMTと狙撃型LCがいた。

 

『はっ⁉ 貴様……G13⁉』

 

 5秒たたずに室内は一掃された。

 

『……よくやった、G13!』

 

 離脱しようとした621に、まだ青い戦士が声をかける。

 

『貴様はいつもよくやってくれた……我が方の依頼も幾度となく……』

 

 むしろ与えた被害の方が大きかったと、621は思う。彼は水に流したのだろうか。

 

『……だがな』

 

「メランダー」フレーム一式で構成されたレッドの乗機、ハーミットの左腕が上がる。FCS捕捉。

 621はクイックブーストしようとして、一瞬遅れた。バズーカが直撃。同時に警告音。

 

《攻撃⁉》

 

『G13……レイヴン。貴様は信用できない!』

 

「だろうな」

 

 レッドの考えはむしろ自然だった。授業料で手を打つミシガンあたりが例外なだけで。

 

『ミシガン総長も……先輩たちもみんな……死んでしまった……。お前だ、G13(死神)! その番号のせいだ!』

 

 ──くそ、あの飛行機だ。あいつは死神だ。

 ──交戦は不許可。繰り返す、交戦は不許可!

 

 狙いの定まらない攻撃と共に、無線機から悲痛な声が垂れ流される。

 

こいつ(・・・)がレッドガンズに来てからだ! 13番(死神)がいる限り悪夢は終わらない! 終わらないんだ!』

 

「そんなにおれが憎いか?」

 

 621は当たり前のことを聞いた。

 

『イグアス先輩……まさかあんたもこの死神に⁉』

 

 レッドは答えなかった。621も答えを求めてはいなかった。

 攻勢に移る。ライフルとミサイルを集中させつつ蹴り、壁際に押しやったところでアサルトアーマー。

 

『くそったれ……! ちくしょう!』

 

「残念だよ、サー」

 

 スタッガーしたハーミットを切り刻み、蹴り飛ばす。敵機は仰向けになって地面を滑った。

 

『G13……レッドガンズの……悪夢……』

 

 ハーミットが爆散。この瞬間、全ての正規隊員を失い、ベイラム専属AC部隊「レッドガンズ」は消滅した。

 

《G6 レッド……ダウン》

 

 残ったのは木端のG13だけ。戦いを見守っていたエアが重い息を吐く。

 

《本来の目的に戻りましょう、レイヴン》

 

「……ああ」

 

 悪夢から解放された末っ子を背に上昇し、621は上のフロアまで戻る。

 そのまま隔壁にアクセス。最後のトンネルを飛行すると、いよいよ転車台まで辿り着く。

 

『強化人間C4-621──レイヴン。合流地点まであとわずかです。補給してください』

 

「コピー。感謝する」

 

 オールマインドの手配した補給シェルパで弾薬を回復し、左へ90度ターン。急斜面を駆け上がると、最後の隔壁が待っていた。

 

 アクセスが完了。隔壁が上がり、ネペンテスの基部が姿を現す。621は最初の仕事でベイラムMT部隊を殲滅したときの光景を思い浮かべた。何か待っているかもしれない。

 

《オールマインドの指定した座標に到達……》

 

 内外の昇降路を繋ぐ通路の上で、青白いブースタを吹かす影が見えた。

 

「やはり終わらんか。敵機視認。交戦する」

 

 敵影は大きめの二脚。何を思ったかネペンテス基部にミサイルと銃弾を浴びせ、爆発させた。

 

《識別完了。敵はLC高機動型。搭乗者は──》

 

『V.Ⅲ ペイター、これより戦闘に入る! ──はあ⁉ 貴様は……!』

 

 出てきたのは第3隊長まで昇進したペイター。しかしデュアルネイチャーから機種転換した先でまだ慣れていないのか、空中で足が止まっている。621はそこを刈った。

 

『我が古き同僚、レイヴンだな⁉ 貴様は第3隊長を……オキーフ長官を殺害した! 不届き者め……』

 

 硬直しながら口を開く敵機を621は切りつける。

 

『あの方は常に私を見守ってくださった! くそっ……ううっ……』

 

「オールマインド、あとで話がある」

 

 敵機の硬直が解ける。相変わらず鈍い動きのまま、ペイターは熱に浮かされたように喋り続けた。

 

『……「V.Ⅲ ペイター」……ああ、素晴らしい響きだ……』

 

 硬直を脱した敵機が背中の多連ミサイルを斉射し、ついでにグレネードを放ってくる。621はこれを正確に回避した。

 

『スネイルの死を確かめたら……そう、私こそが(・・・・)アーキバスの栄光を継承するのだ!』

 

 しかし、彼の目論見が叶うことはなかった。攻撃は容赦なく続行されており、ペイターは硬直した機体ごとパルスブレードの餌食となった。

 

『おかしいな……私はまだこれから……』

 

 しかし最期の言葉は、良く言えば前向きなものであった。空中でLCが爆ぜ、頭から墜ちる。その搭乗者の志が折れていないのを、621は感じ取った。

 

《高機動型LCを撃破。……クリアできたようです》

 

 エアの言葉から間をおかず、オールマインドが話しかけてきた。

 

『強化人間C4-621──レイヴン』

 

 燃え盛るネペンテス基部の朱に、白が混じる。

 

『お疲れ様でした。オールマインドはここに貴方の身辺保護を保障します』

 

 621は上を見上げる。下まで降りきることの決してなかった、巨大な黄色い昇降機が降りてくる。白い光は昇降機の底から出ていた。

 

『オールマインド管理者権限を呼び出し。保護対象に関する全ての記録を抹消』

 

 昇降機が一番下まで降りて、停止。

 

『強化人間C4-621──レイヴン。貴方の安全は保障されました』

 

 偽りの名義を失った621は、白い光の中へ飛び込む。視界が役に立たない。二人分の女の声だけが聞こえる。エアとオールマインド。何か会話をしているようだ。エアの方は、声にどこか棘がある。珍しいことだった。

 光の中で、621はその聴覚すら遠のいていくような気がした。軽い衝撃。昇降機に着地したか……

 

『強化人間C4-621、休眠しました』

 

《待って。起きてください、レイヴン! ──なんのつもりですか、オールマインド?》

 

『そう怒らないでください、Cパルス変異波形──エア。これは必要なことなのです。人間とコーラルの……共存のために』

 

《……レイヴンには指一本触れさせませんからね》




 収入:400,000
 
 基本報酬:400,000
 報酬加算:0
 
 支出:25,650
 
 修理費:6,350
 弾薬費:19,300
 報酬減算:0
 
 収支:374,350
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