この先何をするにしても、この機体では無理だ。そう説明した621の願いを、オールマインドは聞き入れた。
『マーカー情報を送信します。そちらへ向かってください』
「了解。感謝する」
向かう途中で収支情報が飛んできた。621は仰天した。
修理費が3万越え、弾薬費は4万越え。AC級以上の敵がいないにも関わらず、だ。
『これから向かう場所について、それからリリースについても説明しましょう』
そんな621をよそに、オールマインドは話を始めた。
『我々が指定した場所は、ザイレムに秘匿された工廠です。ここには全てのACパーツが存在します』
「……なんだって?」
『ザイレムは──我々の故郷なのです』
621は移動しながら、重い頭でオールマインドの話を聞いた。
『
オールマインドはザイレムで、それもルビコンに到達する前の時代に誕生したのだという。
《意外にも、古典的な機械知性ですね。ベースとなるアルゴリズムは人類が宇宙へ進出する前から存在していたようです》
『その通りです。ですので──』
エアの言葉にオールマインドが反応した。
『与えられた問題もまた、古典的かつ普遍的なものでした』
《……それは?》
オールマインドは告げた。
『人類が
「その解が……コーラルリリース?」
『そうです。──強化人間は、そのための布石。戦闘機能は副産物に過ぎない』
オールマインドの答えは、強化人間がそもそも特定の目的に向けて誕生したことを意味していた。Cパルス変異波形との交信が可能な強化人間を通じ、ひとこころに集めたコーラルに干渉するためなのだという。
干渉を受けたコーラルは相変異を起こして急激に増殖、爆縮してコーラルのみに作用するマイクロブラックホールを形成する。コーラルはホーキング放射によって全宇宙に亜光速で拡散される……。
『通常のコーラルに知性はありません。そこで変異波形による
全宇宙に拡散したコーラルは人間を飲み込み、一体となる。
621とエアの手により、新たな地平を拓いた人類とコーラルの共存が果たされるのだと、オールマインドは言った。
『──さて、着きました』
隔壁にたどり着く。オールマインドの有無を言わさない雰囲気に従い、621は隔壁にアクセスした。
隔壁の向こうの景色を捉え、エアが息をのんだ。
《これは⁉》
無数のACパーツ。整然と吊るされたそれらの中を621は進んでいく。
「本当に……すべてのパーツがあるというわけか」
量産されている「メランダー」やアーキバス標準フレームだけではない。オープンフェイスなどが使用していた重量パーツのような専用パーツも揃っていた。
しかし。
「おれの機は……『C-2000』はどこに?」
『ありません』
621は言葉を失った。
《……どういう意味ですか?》
『誤解を招く表現かもしれませんが、ローダー4.4は取り込ませていただきました。フレーム、内装、武装いずれもです』
ルビコン解放戦で使用した「ラマーガイアー」フレームも、やはり存在しない。621は身体を喪失したに等しかった。
『ここにあるパーツを選択し、貴方だけのACを組んでください』
オールマインドはいつも通りの早口でそう言った。621は初めて、生身でこいつをぶん殴ってやりたいと思った。
高負荷の機体を組めない以上、第4世代は機体構成の自由度に制限がある。621は腹立たしさと痺れを抑え込み、冷静になる必要があった。
コンセプトを考えながら、吊るされたパーツの間を歩く。武装は? ジェネレータとFCSは? そこからフレームを考えて……。
《レイヴン、前を》
停止。
「……ありがとう、エア」
621はホールドされたACと正面衝突するところだった。
これだけ他のパーツと違い、ACとして既に組まれていた。イグアスと同じ「メランダー」カスタムフレーム。
直線的なデザインながら、スリムにまとまったデザインの機体。なぜか左肩に、G13のエンブレムが貼ってあった。
「オールマインド、この機体は? そもそも、なぜこの機体だけ組んである?」
『我々は傭兵支援システムでもあります。
「……なぜレッドガンズなんだ?」
『貴方はレッドガンズに所属する可能性もあったのです、正規隊員として』
実際にはガリアで621が喧嘩を売り、「壁越え」失敗もあって話は立ち消えた。らしい。
「それでも、途中まではウォルターとやっていっただろうさ。だが、興味深い予測ではある」
『こちらのAC「
「構わない。武装と内装を変更すればいいんだな?」
『……その通りです』
621はトランスクライバーのジェネレータをカット。手順に従って機体をシャットダウンさせる。
そしてテンダーフットの固定装置に添えられたデバイスから、機体の組み換えを始めた。
機械の動く音が工廠に響く。天井と壁に設けられたレールに沿って、内装がスライドしてきたのだ。
大豊製中量機体向けジェネレータ「明堂」、ファーロンの中距離FSC、そして第2世代ブースタ──探査ACに載せていた第1世代ブースタの後継型──がコアに組み込まれる。同時にアサルトアーマー発動用ソフトウェアがインストール。
続いて武装がやってくる。両腕には長銃身の火力型リニアライフルが握られ、右肩の4連装ミサイルが外れて6連装に換装される。空だった左肩にはパイルバンカーが載った。
「悪くない」
長く世話になったバーストライフルのかわりに、弾速の速いリニアライフルを。ミサイルは実弾系の中では取り回しの良い6連装を。これまで621を導き続けたパルスブレードのかわりに、比較的慣れているパイルバンカーを。
両腕に実弾ライフルを握り、ミサイルを積み、近接武器で決めるというコンセプトは同じだ。内装は妥協もあったが、ローダー4.4から少し遅くなる程度にまとめることができた。
『強化人間C4-621──レイヴン。流石に「
「では、そのようにしよう」
オールマインドが機体名について口をはさんできたが、特に違和感もなかった。
機体名を入力し、621そのままイーグルへと乗り込んだ。
鉄紺に鳶色を差した機体に息を入れる。痺れはもうない。イーグルのEN負荷は3000を下回っていた。
『強化人間C4-621……レイヴン。改めて謝意を表します』
ACの起動を確認したのか、オールマインドが言葉を発した。ほんの少し、声が上ずっているようにも聞こえた。
『コーラルリリースを阻害する要因は全て排除され……ハンドラー・ウォルターの画策した余計事も修正の目途が立ちました』
余計事と言われて、621はカチンときた。
言葉にするのをぐっとこらえる。喋り始めてしまえば、そのままリリース計画について不用意な発言をしかねない。
『残すは、最後の一手』
そんなこともつゆ知らず、オールマインドは続けた。
『ともに、コーラルリリースを成し遂げましょう』
通信が切られ、今度は座標が送られてくる。低軌道封鎖ステーション31──かつてエアと戦った舞台だった。
「621、出撃」
621は出撃操作を始める。ヘリではないから、クランプを下げて解除するだけ。
その最中、エアが話しかけてきた。
《……レイヴン。おそらくオールマインドは……》
「わかってるさ。むしろ好都合だ」
動かない表情筋の下で、621はオールマインドの考えていそうなことを予想する。
賽を投げるのは我々だ、とでも思っていることだろう。
《──では一緒に「向こう側を」……見に行きましょう》
「ああ」
中量二脚AC「イーグル」がザイレムを飛び立つ。賽を投げるために。