『仕事だ、621。ベイラム系列企業から依頼が入っている』
「壁越え」を果たした621のもとに、新たな依頼が入った。
『傾注、G13 レイヴン! ベイラム同盟企業、大豊からの依頼だ。我が方は、アーキバスの強化人間部隊「ヴェスパーズ」について調査している。今回の調査対象はその第4隊長……V.Ⅳ ラスティ。対象が壁越え作戦で侵攻した領域を洗い、撃破された残骸から戦闘ログを回収してもらいたい』
『なお「壁」は現在アーキバスが掌握し、同社MT部隊が駐留する調査拠点となっている。よって本作戦は、連中の主力が配置換えを行う間隙を突いて決行されなければならない。時計に目を光らせつつ、できる限り多くのログを回収しろ。ブリーフィングは以上だ。迅速な遂行を期待するぞ、G13!』
再び「壁」に赴く仕事だ。ラスティが侵攻した別ルートの方にベイラム系の依頼で出撃する。
『621、そろそろルビコンにも慣れてきただろう。たまには撃ち合う以外の仕事もしておけ』
ウォルターはそう言って見送ったが、621は確信を持っていた。
これは撃ち合う仕事になる、と。
『メインシステム、戦闘モード起動』
621は「壁」の上でタイミングを待った。
闇夜に紛れ、これから4分以内に仕事を済ませないといけない。
『ミッション開始だ。周辺の機体残骸を探り、V.Ⅳ ラスティとの戦闘ログを回収しろ』
621は待っている間、ふたつほど目星をつけていた。
作戦エリアの左端、グリッドの影に向かって621は飛行する。
残骸の近くにMTが2機。621は新しく購入した、両肩の垂直プラズマミサイルを発射して処理した。
アーキバス傘下、VCPLが世に送り出したこの武装は、ACサイズの小型高機動目標やパルスアーマーなどで防御する敵に有効だ。攻撃範囲が広く、確実にダメージを与えられる。
『そいつが探し物だ、621。解析はこちらで行う』
ウォルターから解析結果が送られてくる。
映像記録のようだ。BAWS第2工廠なるところのカメラにジャミングを受けた形跡があるらしい。
『興味深いログだ……コピーを取っておく。企業には必要ないものだろう』
次のログは待ち合わせ地点のすぐ下だ。残骸の奥にMTが1機。
621はプラズマミサイルで対処する。
『ログを解析する』
この残骸──ただのMT──のシステムログだ。MTらしくFCSが追いつかず、一方的に屠られたようだ。
『V.Ⅳの実力を示す情報にはなるだろう』
『ぁ⁉ 侵入者だと⁉』
次の残骸はここから直進したところにあった。
敵が多い。ある程度無視して621は残骸にアクセスする。
文書データだ。あのダムがあったガリアの井戸が枯れそうなこと、コーラル採掘量が減っていること、ミールワームが育たず子供たちが飢えて死んでいく、という内容だった。
ミールワームはこの惑星で一般的に食べられる昆虫の幼生らしい。電子記事で読んだことがある。621の食事は流動食だから、味などは不明だ。
『……コーラル湧出状況の裏取り程度にはなるだろう』
621は次の残数へ向かう。「壁」から離れるように進んでいった。
『所属不明AC!』
『撃て! 生きて帰すな!』
ここもMTが多い。
621は火が残る残骸にアクセスする。
『解析していくぞ』
映像記録だ。しっかりとスティールヘイズが映っていた。
ラスティのメインウエポンはBAWS製だ。ヴェスパーズはEN兵装持ちが多いというが、彼は実弾兵装を好むようだ。
『有用な情報だ。V.Ⅳのアセンブリが見て取れる』
621のHMDに残骸がふたつ捉えられていた。グレネードが飛んでくる中、621はアサルトブーストで次の残骸へ向かう。
『これで5件』
これは通信記録だ。
『ヴェスパーズの上位に敵うわけがない。死んだな、俺ら……』
『でもツィイーが非番だったのは良かったよ。みんなの妹分だしな』
『ああ。あの子は戦場に出るべきじゃない。ちゃんと恋をして、幸せな家庭をさ……』
これ以上は録音されていないようだ。
『……価値がない』
無線機からは、ウォルターの押し殺したような声が漂ってきた。
次の残骸は……これはジャガーノートだ。よく見ると、621が交戦したものと車番が異なっていた。
恐らく増援の中にいたのだろう。ラスティはこれを単機で撃破したようだ。
『解析する』
映像記録だ。このジャガーノートは有人で、どうやらラスティに通信を試みたらしい。
だが内容は不可解だ。何を考えている、と呼びかけたり、帥叔のファイルを見た、などという。
『とても興味深い。高値が付く可能性がある』
敵が集まってきた。621は離脱し、崖下の探索に移る。
残骸はすぐ見つかった。
『見ていくぞ』
システムログだが、短いうえ、イジェクションポッド周りのことばかりだ。
理由は分からないが、戦闘前に捨てられた機体のようだ。
『売れる情報ではないな』
残骸がもうひとつあった。大きな瓦礫の向こう側。
621はそこまで移動し、気配を察した。上からだ。降ってくるACからグレネードが飛ぶ。
『そこのAC! 私たちの同志じゃないね⁉』
まだ子供とも思えるような声がした。少年……ではない。義憤に燃える、少女の声だ。
『まさか……お前が……お前がみんなをやったのか⁉』
『……解放戦線の生き残りか』
ウォルターの言う通りだろう。フレームはBAWS製二脚「バショー」である。
621はターゲットアシストを起動、プラズマミサイルを発射し、敵機と交錯。
プラズマミサイルが目標をしっかりと追尾し、敵機の周囲で弾けた。
『相手をするなら時間はかけるな。目標達成を優先しろ』
残り96秒。問題なく殺れると、621は判断した。
敵機が小型ハンドグレネードを発射、爆風が621を巻き込むが、スタッガーは免れた。
逆に発射のため動きを止めた敵機に、プラズマミサイルが襲い掛かった。敵機が硬直する。
621はブレードの連撃を加える。相手のAP残量が、残り30%ほどになるまで追い込んだ。
『私だってコーラルの戦士だ。負けるわけにはいかないんだよ……!』
敵はパルスシールドを装備している。プラズマミサイルを持ってきたのが幸いした。
実弾は通りづらい。
『「灰かぶりて、我らあり」だ!』
叫び声と共に、ハンドグレネードが飛んできた。
先ほどと同じことが起きた。降り注ぐプラズマミサイルによって敵機が吹き飛び、機能を停止したのか、仰向けのまま雪の上に落下した。
『ごめんよ……アーシル……約束……守れなかった……』
『……敵ACの撃破を確認した。仕事に……』
炎上した敵機が沈黙するのをよそに、621は残骸にアクセスを始めていた。残り70秒。
『解析する』
通信記録だ。ラスティの暗号通信が残っていた。それも半ば解析された形で。
『時が来……らファーロ……がエルカノ……技術を……供……る。それ……では隠し通……なければ』
『むう……このログは高く売れるぞ、621』
ウォルターはやや興奮した様子だった。どうやら気を取り直したようだが、621もこの内容に興味を覚えていた。
……時が来たらファーロンがエルカノに技術を提供する? それまでは隠し通さねば?
アーキバス、あるいはシュナイダー子飼いのラスティが、なぜファーロンやエルカノに関わっている?
ラスティの裏に何かあるのは間違いなさそうだった。
『……まだ時間はあるが、目ぼしい残骸は全て調査した。仕事は終わりだ、621。帰投しろ』
『新着メッセージ、2件』
621が帰投すると、珍しく複数のメッセージが来ていた。
『G13 レイヴン! 貴様の働きでV.Ⅳのまともな情報が集まった。ミシガン総長にも報告しておこう。もう一点! 自己紹介がまだだったな。G6 レッドだ、だが「サー」と呼んでくれ。ベイラム最精鋭部隊の末席に名を連ね、貴様のような独立傭兵をシゴき倒している。これからもこき使ってやるから覚悟をしておけ!』
この喋り方はミシガンを意識しているのだろうか。まだ青いが、順調に育てば良い戦士になるだろう、そんな気概を621は感じた。
621は次のメッセージを再生する。
『登録番号Rb23、コールサイン、レイヴン。貴方の実績情報が更新されました。機体OSに対する強化権限が付与されます。もう一点。オールマインドは、貴方を戦闘技能検証プログラム「アリーナ」へと招待することを決定しました』
システム音声特有の早口が流れる。
『アリーナは登録傭兵の技能向上支援を目的とした、仮想戦闘シミュレータです。ルビコンにおける傭兵の格付け、それを測るひとつの指標となるでしょう。奮ってご参加ください』
いよいよアリーナが開放されるという知らせだった。
アリーナ。AC同士、横やりなしで、1対1形式で行われる検証。
AC乗りとしての純粋な技量を問われる、まさに格付けの指標だ。勝利を続け、トップランカーともなれば、ルビコン最強のパイロットと認められるに等しい。
621が拾ったライセンス、レイヴンは、ランクこそFランクだったが、アリーナ参加が許されるトップ30には入っていなかった。今回の更新でレイヴンのアリーナランクは30/Fとなり、いよいよこれに挑戦することが可能になったのだ。
621は早速自分のACをVRマシンに早変わりさせ、アリーナに潜りこんだ。
収入:133,100
基本報酬:10,000
報酬加算:123,100
詳細
ログ回収:123,100
支出:26,982
修理費:7,832
弾薬費:19,150
報酬減算:0
収支:106,118