621はアリーナへアクセス、検証リストを見る。
現時点では3人のパイロットと対戦できるようだ。報酬はいずれも僅かばかりの謝礼金と、OSチューン用のチップ。
621は最初の相手を選択する。武装は先日と同じ、バーストライフル、パルスブレード、プラズマミサイルにして、出撃。
621と相手のACが出現した。今回のフィールドはテスト空間。コンクリートで囲まれた無機質な空間である。
『戦闘技能検証プログラム「アリーナ」へようこそ』
ナレーションは主催のオールマインドが兼ねる。いかにもシステム音声らしい、お馴染みの無機質な喋り方。
『最初の対象ACはマッドスタンプ。コールサイン、「
パイロット紹介文によると、このラミーという人物は
また、撃破されたことを翌日には忘れることから、死なない限り彼は無敵だという。
RaDは621の機体も生産している組織だが、かなり「キマっている」集団のようだ。今のところ機体に不具合はないが、サービスの体制は期待できない。
さて、ラミーのランクは621のひとつ上、ランクFの29位である。乗機マッドスタンプは、コアと頭部に大豊の「天槍」を使用し、腕部と脚部はRaDの土建AC「C-3000」を使用している重量二脚機だ。
武装は腕部のみで、右腕に特殊ショットガン、左腕にチェーンソーを装備している。メイン火力はチェーンソーだ。このチェーンソーはもちろん戦闘用ではないが、直撃した際の威力は抜群である。
マッドスタンプの場合は腕の近接攻撃力が低く、武器と嚙み合っていないのが割引点であった。
『メインシステム、戦闘モード起動』
621はターゲットアシスト起動、アサルトブーストでマッドスタンプに突撃する。
プラズマミサイルを発射。ある程度近づいたところでアサルトブーストを解除、チェーンソーの攻撃を誘いつつ、バーストライフルを撃った。
マッドスタンプのチェーンソーが空を切ったところに、621はブレードを振るう。スタッガーまではいかなかった。
621は再度プラズマミサイルを発射。着弾までにライフルでスタッガーをとることに成功。更にバースト射撃で追撃、プラズマミサイルが着弾しダメージを与えた。
これにブレードを振るうが、相手はACSが回復した後だった。
ダメージは与えられなかったが、相手のACSに負荷が溜まった。621はライフルでACSの回復を抑え、プラズマミサイルで負荷を一気に加えた。
再び硬直したマッドスタンプにブレードを一閃。撃破判定が下りた。
『目標の撃破を確認。検証を終了します。お見事でした』
撃破までの時間が表示された。22秒。及第点だが、スタッガー中にブレードを当てていればまた変わっただろう。
次の相手はインデックス・ダナム。インデックス、つまり人差し指だ。その名の通り、彼は解放戦線のゲリラ指導者のひとりだという。
元はグリッド建築に関わる職工で、腕はともかく高い士気と成熟した精神をもつ人物のようだ。
『戦闘技能検証プログラム「アリーナ」、No.28、ランクF。対象AC、バーンピカクス。コールサイン、インデックス・ダナム。検証を開始します』
相手の機体を目にした621は気付く。これはガリア多重ダムで交戦した機体だ。無線越しに何かまくし立てていたはずだが、内容は綺麗さっぱり忘れていた。
戦闘に関して、特筆すべきところはなかった。プラズマミサイルとバーストライフルで削り、硬直したところをブレードで叩き切っただけだ。撃破までの時間は24秒。
開放されている最後の相手はG6 レッド。ベイラムグループの依頼で毎度世話になっている相手だ。
紹介文によると、彼は少年の頃、木星戦争なる戦でミシガンに心酔し、貧しい兄弟を養いつつ猛訓練に猛訓練を重ね、入隊試験では挨拶ひとつで合格を勝ち取ったのだという。
普段の口調から想像する限り、レッドガンズの弟分として可愛がられていることだろう。
そんなレッドの乗機、ハーミットはやはり「メランダー」フレームで統一されている。
武装は腕がハンドガンと大豊のハンドバズーカ、肩は6連装ミサイルと8分裂ミサイルというシンプルな構成だ。
このシンプルな武装が中々厄介だった。ハンドガンは威力こそ低いが馬鹿にならない衝撃力を持っているし、6連装ミサイルと8分裂ミサイル、異なる機動のミサイルは避けづらい。スタッガー中にバズーカを喰らえば大ダメージを受けることになる。
今の戦闘スタイルでは撃破こそできるものの、これまでの相手より時間がかかった。仮想空間なら30秒以内に撃破したい相手なのだが、撃破に38秒を要した。
今までの相手は、621に対する持続的な攻撃が弱かった。しかしレッドは違った。ミサイルとハンドガンによって、知らず知らずのうちにACSに負荷が溜まり、バズーカの回避方向を誤ってスタッガーをとられる。621はこのパターンにしばしば持っていかれた。
対策はふたつある。ひとつは回避の腕を上げ、バズーカを避けきること。もうひとつはより単純な答えだ。攻撃させなければいい。
621はアリーナ報酬として手に入れたOSTチップを消費して、OSチューンを行った。
開放したのはブーストキック、アサルトアーマー、ウエポンハンガーの3つだ。
ブーストキックはアサルトブーストの推力を利用し、相手に強烈なキックを見舞うものだ。二脚と逆関節は脚で蹴るが、四脚は脚部を回転させ、タンクは車体をぶつける形で攻撃する。質量攻撃だから、機体が重たいほど威力が出る。脚部別だと、関節の構造上逆関節機で効果が大きい。
キックとは別に、パンチという手もある。腕部に何も装備しない、文字通りの鉄拳攻撃だ。
いずれにせよ、相手の機体に衝撃を加える有効な手段だ。更に心理面で相手を圧迫することができる。
アサルトアーマーはコア拡張機能のひとつだ。
コアに搭載された、ジェネレータとブースタを結ぶエネルギー流路。これを意図的に暴走させると、パルスエネルギーが得られる。
このパルスを用いて自機周辺にパルスエネルギーをぶちまけるのがアサルトアーマーだ。これを自機周辺の防壁として用いればパルスアーマーに、設置型の防壁にすればパルスプロテクションになる。
それとは別に、ターミナルアーマーという変わり種もある。機体APと連動させたもので、APの値が1となった瞬間に発動する。パルスエネルギーにはパルスエネルギーが有効──例えば、パルスアーマーにアサルトアーマーをぶつけることで相殺できるのだが、エネルギー配分の関係でターミナルアーマーには効かなかった。強度を増した分、持続時間が短くなっているのだ。
ウェポンハンガーは腕部に搭載する武装を、肩に搭載できる機能だ。
例えば、両手にライフルなどダメージを蓄積させる武器を持ち、肩に衝撃を加える武装と、本来腕部に装備する近接武器をハンガー機能で装備する構成。左腕の選択肢が増える分、衝撃蓄積の効率が上がり、スタッガーを取りやすくなる。スタッガーを取ったところで左腕の装備を近接武器と入れ替え、一気に攻撃する、というわけだ。
621は新しい機体を組み上げ、「ローダー4.1」から「ローダー4.2」に機体名を変える。
フレームとブースタ、ジェネレータは変更しない。
FCSをショップに新しく並んだファーロン第2世代のバランスモデル、P05に変更した。このFCSは中距離を重視しているが、近距離も程よくカバーし、かつ水準以上のミサイルロック性能を持つ。
ミサイルを愛するファーロンの思惑とは裏腹に、多くのAC乗りに愛されたのは、P10SLTではなくこちらだった。
武装は両腕にバーストライフル、いわゆるダブルトリガーを採用する。肩は右に垂直プラズマミサイル、左はハンガー機能でパルスブレードを装備した。
極めつけに、コア拡張機能でアサルトアーマーを入れてある。
この新機体で、621は再びレッドと対戦した。
フィールドはストライダーと戦ったボナ・デア砂丘だ。
621はまずターゲットアシストを起動、アサルトブーストで突撃しているが、このフィールドは高低差があり、会敵は至近距離での遭遇戦となる。
すぐにアクションを起こす必要があるのだが、621はここで判断を誤ることがままあった。中途半端な機動でミサイルをもろに被弾したり、地形に引っかかってバズーカをもらったりして、思うように戦えなかった。
新機体でも改善は難しかった。セミオートのバーストライフルを両手持ちするため、発砲自体に集中力を持っていかれる。射撃に集中するあまり、ミサイルや回避がおろそかになった。
問題はそれに留まらなかった。スタッガーに持ち込んで追撃する際、左手にライフルを持っているのか、ブレードを持っているのかを頻繫に間違えるのだ。敵機が硬直したらブレードを振るという意識ばかりが先行し、実際にはライフル弾が飛んでいく。
これに付随して、敵機がアサルトアーマーの攻撃範囲に入っていない点も621の悩みだった。この新しい、それも大ダメージを与えられる攻撃は発動タイミングが重要だ。621はまだそれを身につけていなかった。
何度かレッドと対戦したところで、621は気付いた。蹴りを活用していない。
『戦闘技能検証プログラム「アリーナ」、No.27、ランクF、最終検証です。対象AC、ハーミット。コールサイン、G6 レッド。検証を開始します』
もう一度だ。
『メインシステム、戦闘モード起動』
621はいつも通りターゲットアシストを起動し、アサルトブースト。正面の小高い丘に差し掛かったところで通常のブーストに戻る。
丘の上からレッドの愛機、ハーミットが姿を現す。
621は前進しながらライフルを1発ずつ、同時にプラズマミサイルを発射。一方ハーミットは8分裂ミサイルを撃ってきた。
ここで621はアサルトブースト。至近距離で体当たりする。そのままブーストキックでハーミットに蹴りを入れた。
621は相手と離れない状態でバーストライフルを撃つ。相手は左腕のバズーカを放ったが、お互いが近すぎるため射角から外れていた。
離脱しようとしたハーミットにプラズマミサイルが着弾、ダメージを与える。621はアサルトブーストで再び距離を詰め、蹴る。吹き飛んだ相手にバーストライフルをぶち込み、ACS負荷限界に追い込んだ。すかさずクイックブーストで接近。至近距離でアサルトアーマーを発動した。相手のAPが半分近くまで削れる。
距離をとろうとするハーミットからバズーカが飛んでてきた。621は急停止で回避、ブレードに持ち替えて接近。連撃を浴びせた。
既に相手のACSは回復していたが、ブレードが当たったことにより再び負荷がたまる。621はライフルをセミオートで射撃し、再度ハーミットをスタッガーさせた。
ブレードはオーバーヒートで使えないうえ、ハーミットは硬直時間が短く、ライフルのチャージは間に合わない。そこで621は蹴りとライフルによる追撃を選択した。
プラズマミサイルも着弾し、相手のAPを着実に削っていた。
ハーミットがなんとか距離をとった。621はライフルを撃つと共にアサルトブーストで接近。やはり蹴る。この一撃で撃破判定が出た。28秒。まだ改善点は多いが、ほぼ完封できた。
『目標の撃破を確認。これでFランク帯の検証を終了します。お見事でした』
蹴りを主体にした連続攻撃だ、これでいこう。621の新しい戦闘スタイルが定まった。
アリーナから抜けた621のもとに、通信が入った。
『Fランク帯の突破、おめでとうございます。貴方の傭兵としての成長、その案内ができていれば幸いです』
オールマインドからの通信だ。内容はいたって普通のセールストーク。
『オールマインドは、全ての傭兵のためにあります』
そう言って、オールマインドは通信を締めくくった。