本文中にオリ主の挿絵があります。自分でイメージしたい人はすっ飛ばしてください。
Sous l'opposite climat Babylonique,
Grand sera de sang effusion,
Que terre & mer, air, ciel sera inique,
Sectes, faim, regnes, pestes, confusion.
--Nostradamus Quatrain 55, Century 1
0.キヴォトスは滅亡する!!
『予言者』
『その存在は、太古より人類史に登場してきた。
神の使い、星占術、予知夢、転生、超能力者、タイムトラベラー。彼らの呼ばれかたは様々だが、ただのオカルトだと一蹴できない深い歴史を持っている。
人の運命を、技術の発展を、災厄の訪れを、予言者たちは知る由もない未来の出来事を言い当てる。彼らはペテン師だと思う方もいるだろう。
しかし私は断言する。その中に本物の予言者が潜んでいることは、覆しようのない事実なのだと。
今月のMMRは予言と運命論を特集した。彼らの恐るべき力について調査すべく、トリニティ学園の―――』
“月刊オカルト雑誌
表紙からして怪しげなにおいが漂ってくる奇妙な雑誌をめくりながら、先生は感嘆の息を漏らしていた。
「“すごい…本当に全部知っていたみたいだ”」
連邦生徒会文化室に所属する雑誌編集者、樹林ルリ(通称である“キバヤシ”のほうがよく知られている)によって創刊されたこの雑誌は、荒唐無稽なオカルティズムや陰謀論を書き連ねた娯楽雑誌だ。
しかし身をもって神秘を体験した先生から見れば、彼女の記事は驚くべきものだった。バックナンバーに連ねられた特集記事の数々を読めば、彼女はキヴォトスの一連の騒動を予言していたのではないかとすら思ってしまう。
「“……気になる!!”」
先生が著者である彼女に興味を抱くのは自然な流れだった。大人であろうと人間だ。好奇心から人に会ってみたいと思うことだってあるし、なけなしの生活費を趣味につぎ込んだりもする。
弾む心のままに先生は連邦生徒会の文化室を訪ねた。
しかし残念なことに、彼女に会うことは叶わなかった。応対してくれた文化室長曰く、彼女は取材のためにキヴォトス中を忙しく飛び回っているようで、文化室にはひと月のうち数日いれば多いほうとのこと。
自分と同じような生活をしていると思い、先生はそこはかとなく親近感を覚えた。それだけに会えなくて残念だ。
…などと、大人たる先生がこの程度で諦めるはずはない。好奇心は止まらないのだ。
「“連邦捜査部として大事な用事があるから、連絡先を教えてほしい”」
そう嘯くことで、先生は無事に彼女の連絡先を入手した。
早速連絡を試みるべく、先生はちょっと茶目っ気を出してモモトークで挨拶文を送りつけた。文面がオジサン構文のようになってしまっていることを、先生は気が付いていなかった。いや、嘘である。ちょっと面白いかもぐらいのノリだった。先生は浮かれていた。
返信は来なかった。
なんでも彼女はものの数秒で先生のことをブロックしたらしい。これがアロナに告げられた時、大変なショックが先生を襲った。(“私のことをさんざん記事にしてきたにもかかわらず、みじんの躊躇すらないなんて!”)超高性能AIに泣きついてハッキングしてもらおうかと真剣に頭をよぎった。
生徒たちはほとんどが彼女と接点を持っているというのに、自分だけが彼女と連絡ができないのが先生は許せなかった。というかシンプルに悲しかった。秒でシャットアウトされたことに涙が出た。
先生は意気消沈しながらサンクトゥムタワーを彷徨った。
そんな先生を救ったのは、主席行政官であるリンだった。
ショックすぎて簡単に落書きされたような顔になっていた先生を見かねて、事情を聴いてくれたのだ。
リンは「一歩間違えればストーカーですね…」とつぶやいた。冷たいまなざしだった。
放っておけばなにをやらかすかわからないとでも思ったのか、リンは彼女について教えてくれた。ちなみに彼女の私的な連絡先をねだってみたが、教えてくれなかった。
「キバヤシといえば、やはり強烈な第一印象が思い浮かびます」
どこか遠い目をしながら、リンは語り始めた。
リンが彼女を強く認識したのは、連邦生徒会長の突然の失踪が発覚してから数日たった頃だった。
学園都市と謳われるキヴォトスにおいて連邦生徒会は重要な存在だ。国家のような機能を果たす学園たちの中心として秩序と統制をもたらすだけでなく、ここで暮らす全ての生徒たちの暮らしを支えている。
そんな連邦生徒会の連盟主の失踪は、どれだけの混乱をもたらしただろう。
彼女がいなくなったことで停止してしまった数多の手続きや、ここぞとばかりに動き出す不穏分子たち。生活の不便と急速に悪化していく治安は、生徒たちの不満を爆発的に拡大させた。
連邦生徒会はひどい有様だった。
組織としての統制を失い現状を把握するので手一杯だというのに、外部からは嘆願と責任追及の声が投げ込まれ続ける。本拠地であるサンクトゥムタワーの前では、お祭りとばかりにデモ行為が繰り返された。
対処など到底仕切れないし、そもそも実効策の承認権限者である生徒会長は失踪している。
主席行政官としてリンは休む間もなく動き続けていたが、いい加減に疲れていた。決して実行に移しはしないが、生徒会長を探すという名目で逃げ出してしまいたいなどというズルい思考が頭をよぎったほどだ。
陰で鉄人と称されるリンですらその有様なのだから、他の生徒会メンバーはもっとひどい有様だったのは言うまでもないだろう。
そういった経緯もあって、連邦生徒会の大会議室では語りつくしても尽きない議題やらストレスやらが積み重なった言い争いが行われていた。
彼女がやってきたのは、そんな時だった。
「話は聞かせてもらった……」
(バンッ!)と勢いよく扉が開け放たれ、皆が目を向けた。
視線の先には、すらりとした体躯の少女が立っていた。
漆黒のヘイロー。切りそろえられた暗い髪。宝石のような青い瞳を色付きの眼鏡で隠している。ともすれば目を奪われそうになるほどの神秘的な雰囲気とともに、樹林ルリはリンたちを見据えていた。
リンたちは彼女の雰囲気にのまれ、問を投げかけることすらできなかった。その場にいた誰もが、どこか彼女は“違う”と直感していた。まるで連邦生徒会長のように……。
ただ一人、文化室の室長は、あっ…と呟いて何かを察し、顔を青くして慌てふためいた。だが悲しいかな。哀れにも制止することは叶わずに、キバヤシは声を荒げていた。
「キヴォトスは――滅亡する!!」
「「「な、なんですってー!?」」」
声を荒げたキバヤシと、会議室に響き渡る驚愕の声。
リンが感じた彼女の第一印象は――
謎の滅亡論者だった。
「キバヤシはその後、これがキヴォトス滅亡の始まりだなんだと叫びちらし、予言とやらを残しながら文化室長に連れ去られました」
そう語るリンは遠い遠い目をしていた。期待した通りぶっ飛んでいる人物だなと先生は興奮したが、ふとリンの様子がおかしいことに気がつく。何か恐ろしいことに気が付いてしまったような、正気ではいられないような、そんな様子だった。
「“何か気になることがあった?”」
「…はい、彼女があの時言った予言の内容を思い出していました」
超人的な記憶力を持つリンは、一語一句違わずにキバヤシの予言を口にした。
天に聳え立つ塔の下、青と真逆に染まった空
多くの血が流されるだろう
世界の均衡は崩された
嗚呼、崇められし死神による混沌よ
――ノストラダムス 百詩篇第一巻 五十五番
薄気味悪さに満たされた沈黙が、二人を包み込んでいた―――
キヴォトスの滅亡はノストラダムスに予言されていた…?
衝撃の真相を解明するべく、キバヤシはブルーアーカイブの奥地へと向かった――!