話は聞かせてもらった…キヴォトスは滅亡する!!   作:ひな伯

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注意:何でも許せる人向け。
前編、本文中にオリ主の挿絵があります。自分でイメージしたい人はすっ飛ばしてください。


La bande foible le tertre occupera,
Ceux du haut lieu feront horribles cris,
Le gros troupeau d'estre coin troublera,
Tombe pres D. nebro descouuers les escris.

--Nostradamus Quatrain 56, Century 8



ミレニアムサイエンススクール編
5.ミレニアム学園は滅亡する!! プロローグ


 

『超古代文明』

 

『その存在は、はるか昔から人々に囁かれてきた。

 

 朽ち果てた廃墟の奥、光すら届かぬ海の底、雲を超えた空の果て、降り積もった砂の下。それらが噂される場所は様々だが、ただの空想だと切り捨てられない遺跡群が見つかっている。

 

 未知の言語で記された書物、使われる場所のない硬貨、水晶で作られた不可思議な偶像、存在しえない精密機器。

 

 かつてそこに高度な文明が、技術が、歴史が、存在したことを証明するかのように、謎に満ちた遺物が現在に至っても発見され続けている。

 

 自分たちこそが唯一にして最も優れた存在であると考えたい人々は、それらが捏造されたものだと声高に主張するかもしれない。

 

 しかし私は断言する。私たちの足元に高度な先史文明が存在したことは、誰にも拒むことのできない真実なのだと。

 

 今月のMMRは超古代文明とその遺物について特集した。それらの恐るべき実態について調査するべく、アビドス砂漠の――』

 

“月刊オカルト雑誌M.M.R(Mysterious Matters Revealed)”。

 表紙からして怪しげなにおい漂ってくる奇妙な雑誌をながめながら、先生はいつにもまして長いうなり声をあげていた。

 

「“うーん…まさかそこまで気がついていたなんて”」

 

 それは先生の机の上に未処理の事務書類が詰みあがっているせいもあるが、いちばんの関心ごとはもちろん月刊MMR…ひいては、その著者である樹林ルリについて考えていたからだ。

 

 大人のささやかな悪戯心が気に障ってしまったのか、彼女に即ブロされてからはや数日。

 

 仕事の合間に彼女の雑誌をこそこそと読み進めていった先生の興味は、彼女の持つ神秘への深い造詣に惹かれてますます膨れ上がっていくばかりである。

 

「“…こんなに気になってたら仕事なんてできない!”」

 

 先生はこれ見よがしに叫ぶと、再び連邦生徒会の文化室に足を運ぶべく立ち上がった。

 

「どこに行こうというんですか、先生」

 

「“ユ、ユウカっ……!”」

 

 が、秒で着席させられた。

 

 先生を制止したのは、連邦捜査部(S.C.H.A.L.E)に所属するユウカだった。

 肩に食い込んだユウカのか細い指からは、少女のものとは思えないほどの強い力が加えられている。まるで「さっさと仕事を片付けろ」という気持ちがありありと伝わってくるかのようだ。

 

 しっかりとした性格をしているユウカは、先生が山のように書類をためているんじゃないかと定期的に見回りに来る。そしてお小言をいいながらも、片付けるのを手伝ってくれる。先生にとって、とてもありがたい存在だった。今を除けばだが。

 

 先生は、今日がユウカの来る日だということを忘れていた。

 積みあがった書類を前にしてはもはや言い訳できることはない。先生はいまから机に拘束され、80cmちかい紙の塔が消えてなくなるまで、淡々と手を動かすマシーンに改造されるのだ。

 

 先生は我が身に降りかかる理不尽を嘆いた。

 

 キヴォトスを救う大きな闘いを乗り越えたのに、その先に待っていたのは自由ではなく、山積みの書類仕事だなんて。嗚呼、やはり人生とは苦難の連続であり、そこに抗う意味などないのだろうか。ばにたす・ばにたーたむ(すべて虚しいもの)なのだろうか…。

 

 

 否だ。

 

 

 大人である先生がこの程度で絶望するはずがない。

 先生は数多のスマホゲームで限定ガチャに立ち向かっては爆死し、また立ち向かっては爆死してきた。先生はそのたびに人生に、この世の全てに虚しさを感じてきた。

 

 だが、最後には必ずその虚しさに打ち克ってきた。

 

 出るまで回せば、勝ちなのだ。

 課金をすれば、無料なのだ。

 

 今まで先生は多くの虚しさに襲われてきた。

 だが、決してそれに負けたことはなかった。

 

 抗い続けることこそが、虚しさに立ち向かう唯一の方法なのだと、先生は信じていた。

 

 そうだ。

 物事には不屈の心をもってあたるべきであり、それこそが人生を虚しさから解放させる唯一の方法なのだっ!

  

「“実は人に呼ばれてて…樹林ルリちゃんっていうんだけど”」

 

 ゆえにしれっと嘘をつくことで、先生は場から逃れようとした。

 

 先生はダメな大人だった。

 とにかく書類仕事がしたくなかった。先生は生徒たちを救うことにかけては全力を尽くせるが、こと生徒に関わらないものごとに関しては、まるでやる気のなくなるダメな大人だった。

 

 目の前のユウカはなんだかんだで優しいので、真摯かつ大胆に頼み込めば、大抵のお願いは聞いてくれると先生は知っていたのだ。

 

 加えて言えば、紙束より人を優先すると言うのはまさしく教師の鑑であるといえないだろうか。

 

 間違いなくこの言い訳は通る。

 

 そんな確信を持ちながら、先生はユウカの反応を待った。

 

「仕事が先に決まってるじゃないですか」

 

 先生は泣いた。

 

 そこらの自販機で売っている加糖練乳たっぷりの黄色いコーヒーもどきくらいに甘い先生の予測は、あっさりと裏切られた。

 

 「締切が今日までの書類をため込みすぎたのは先生ですよね」とユウカから告げられた時、正論を前にして人はこうも無力さを感じるのかと、先生は悲しくなった(“仕方がなかったんだ! 急にイベランがきたから!”)。手足を宙に投げ出して泣き叫び、赤ん坊のように駄々をこねようかと真剣に頭をよぎった。

 

「というか、キバヤシさんなら事情を話せば融通してくれると思いますよ」 

 

「“え、知り合い?”」 

 

「ええ。あの人はセミナーにとっては恩人ですから。…というか先生、まさか迷惑かけて呼び出されたとかじゃないですよね」

 

 確率的に非常に疑わしい。

 

 そんな冷たい目つきが突き刺さり先生は思わず頭を抱えた。彼女がユウカとまで知り合いである可能性など、先生はまるで計算していなかった。

 

 このままでは今月の先生の財布より薄っぺらな噓がばれてしまう…。

 

 ならばいっそのこと正攻法で突破するしかないと、先生は事情を打ち明けることにした。

 

 

 ユウカは「うわ……」とつぶやいた。すべての感情がそのひとことにつまっていた。 

 

 

 それでも息抜きがてらにはちょうどいいとでも思ったのか、ユウカは彼女について教えてくれた。ちなみに彼女の私的な連絡先をねだってみたが、そもそも彼女は知らなかった。

 

「キバヤシさんといえば、やっぱり深い洞察力ですよね」

 

 どこか自慢げな目をしながら、ユウカは語り始めた

 


 

 ユウカが彼女のことを恩人と認めたのは、ミレニアムサイエンススクール(以下、ミレニアム学園)の問題児であるコユキが反省部屋を脱走したときのことだった。

 

 キヴォトスのなかでは歴史が浅いながらも、ミレニアム学園はキヴォトス三大学園の一つとして君臨している。

 

 研究者志向の学生たちが集うこの学園は最先端技術の発信地として知られており、政治、経済的にも強い存在感を示している。他学園の者が次々と発表されるミレニアム製品に飛びつくのは、珍しくない光景だ。

 

 そんなミレニアム学園の行政を司るセミナーは、当時大混乱に襲われていた。

 

 ただでさえ学園内の予算は逼迫しているというのに、なんとセミナー名義の債権(お金みたいなものだ)が他学園で無尽蔵にばらまかれるという、金融崩壊まったなしの事態が発生していたからだ。

 

 会計であるユウカのもとに仔細不明の債権証書が、しかし正当性のある債権証書が大量に持ち込まれてしまったとき、ユウカは思わず悲鳴を上げそうになった。いや、というか思い切り上げた。

 

 さらに運の悪いことに、セミナーの会長であるリオが所用で不在だった。

 常日頃から忙しい人物であり、それでいながら秘密主義であるリオ会長は、今どこで何をしているのかわからないという状況が多々あった。

 

 ゆえに、対処を仰ごうにも仰げなかった。というか、仮にリオ会長がいたとしても、ユウカは自分は報告役にはなりたくなかった。たぶんやる羽目になるけど。

 

 そんな事情はさておき、とにかく、セミナーの幹部であるユウカとその友人であるノアは、事態の対応に追われていた。

 

 支払いを求める外部の者へどう対応するのか。 

 謎の債権の出所はいったいどこなのか。

 この問題の責任は、発端は誰にあるのか。

 こんなことリオ会長にはなんと釈明すればいいのか。

 

 処理するべきタスクが山積みになってしまった結果、学園の管理者であるセミナーはひどい有様だった。

 

 刻一刻と目減りしていくミレニアム学園の資金に胃を痛めながら、ユウカたちは事態の現状把握に追われていた。

 

 彼女があらわれたのは、そんな時だった。

 

「話は聞かせてもらった……」

 

 (バンッ!)と勢いよく扉が開け放たれ、ユウカたちは目を向ける。

 

 そこにはすらりとした少女が立っていた。

 

 漆黒のヘイロー。切りそろえられた暗い髪。宝石のような青い瞳を色付きの眼鏡で隠している。

 

 ともすれば目を奪われそうになるほどの神秘的な雰囲気とともに、樹林ルリはユウカたちを見据えていた。

 

 突然の部外者の登場に怒りの声をあげようとしたユウカだったが、あまりに堂々とした彼女の態度を見て、何かあるのではないかと思わず息を呑んでしまった。隣にいたノアも同様だったようで、二人は身じろぎすることもできずに彼女をながめていた。

 

 ただ部屋の隅で待機していたリオ会長の警備ドローン(Autonomous Mobility Armed System)だけは、その姿を記録したとたん慌ただしく通信を始めていた。

 

 しかしそんなことを気にするまでもなく、キバヤシは声を荒げていた。

 

「ミレニアム学園は――滅亡する!!」

 

「「な、なんですってー!?」」

 

 声を荒げたキバヤシと、響き渡るユウカたちの驚愕の声。

 

 ユウカが彼女のことを恩人と認めたのは、それからだった―――

 

 


 

 

 「キバヤシさんはその後、滅亡を防ぐためには~とかなんとかいいながら、私達がすべきことを手早く指示して、真犯人を教えてくれました。まあ最終的には陰謀の話になって、変なことを言い散らして警備ドローンに連れさられましたけど」

 

 そう語るユウカはしみじみとした目をしていた。

 絵面がひどくて感慨深くなれないなと先生は思っていたが、とりあえずユウカが楽しそうだったのでよしとした。それはさておき、以前のこともあり、先生はもう待ちきれないといった様子でユウカに尋ねた。

 

 「“もしかしてだけど、予言とかを残してたりしない?”」

 

 「えぇ…? いや…どうでしたかね。うーん、ちょっと待ってくださいね……」

 

 ユウカは携帯を取り出すと、人並み外れた記憶力をもつノアに連絡をする。

 

 しばらくたった後、ユウカの携帯が鳴り響き、画面には4行の詩が送られてきていた。

 

 

 幽かな者たちが手を結び地を占める 

 偉大なる者は恐怖に叫ぶ

 外なる悪しき者たちへの苦悩

 学術都市の傍らに記された、宿命的な失墜よ

 

 ――ノストラダムス 百詩篇第八巻 五十六番

 

 

 予言にうなる先生と、不思議そうに首をかしげるユウカの姿が、そこに残されていた。

 

 




ミレニアム学園の陰謀はノストラダムスに予言されていた…?

衝撃の真相を解明するべく、キバヤシはミレニアム学園の奥地へと向かった――!
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