ハンドラー・ウォルター「621、レースだ」 ウマ娘621「……(コクリ)」   作:キサラギ職員

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誰か私の代わりにこのネタを煎じてくれ


1、出会い

 炸裂。耐久限界を迎え、空中で何度も爆発を起こすそれは、狂気に取りつかれた科学者達が作り上げた機体であった。

 大気圏に突入しようとするザイレム甲板にて、激しく傷つけあった二機は、ついにその終局を迎える。

 

『621………』

 

 満身創痍の機体―――HLA826は着地すると、ゆっくりと右腕のコーラルレーザー照射装置を構え、チャージする。

 

 落ちていく(Fall)船の上、かつての仲間同士が殺し合う。それは地獄のような光景であった。

 

『使命を………友人たちの……遺志を……』

 

 対する機体は、身動き一つせずその様子を見守っていた。敵対する意思は既になく、ただ落ちていく船上にて、相手の動きを見つめているだけだ。こちらも機体にダメージが入っており、各所の装甲が溶けてしまっている。

 

『………』

 

 攻撃しろという命令が脳裏をよぎる。企業に植え付けられた洗脳による影響だ。

 しかし―――――彼には見えていた。

 “彼”の横に、光が。

 

『………そうか……621……』

 

 装置が、銃身が、降ろされる。チャージされていたエネルギーが四散する。

 

『お前にも………友人が、できた……』

 

 人間性を失い、人格さえ危うかった“彼”は、この戦いの中で“友人”を見つけることができたのだ。

 それは他ならぬHLA826の搭乗者ハンドラー・ウォルターの功績でもあり、誇らしかったことであろう。普通であれば。それが落下する船上でなければ。

 ウォルターはどこかほっとしたような、嬉しさを滲ませる、戦場では不釣り合いな声を絞り出した。

 HAL826のメインカメラから光が失われる。

 ザイレムは限界を迎えていた。各所で爆発が起き、空中分解しつつある。急いで脱出しなければ、巻き込まれ、ルビコンの塵と化すことだろう。リミットはもはやなく、故に救助等できるはずがない。

 

『ウォルター……! レイヴン、行きましょう!』

 

 ルビコニアンのエアの声に突き動かされるように機体が踵を返すと、滑走し始める。アサルトブーストに点火し、高速で離脱する。

 

 

 

『これで、いい……』

 

 

 

 その様子を感じ取っていたウォルターは体の力を抜いた。機体は動かず。外気温は急激に上昇し、ACの推力では加速して離脱することも叶わない限界点を既に超えている。

 友人たちの遺志を果たすことはできなかったが、“彼”はそれを選んだのだ。

 コーラルとの共生。それは修羅の道だ。いずれ破綻する性質を備えたそれと暮らすことは、できない。そう信じたからこそ、修羅の道を選んだ。しかし、“彼”は違う道を選び、己は負けた。

 不思議と後悔はなかった。企業に脳を弄られ、コーラルで催眠状態に陥ったというのに、今ははっきりと意識が保たれている。

 機体が空中に投げ出され、重力に引かれていく。

 

 最後に見たのは、空中で青い光を放って離脱していく、“彼”の機体だった。

 

『お前は……折れるなよ…………621………』

 

 手を伸ばす。大空高く舞い上がっていく鴉には、届かなかった。

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 朝起きて、髭を整える。

 ハンドラー・ウォルターは出勤の朝を迎えていた。

 

 何の因果か、近頃前世の記憶を思い出した。曰くこの世界にはウマ娘がいて、コーラルはない。というよりも地球だった。それも相当昔の。人類が月にギリギリ到達したくらいの科学力しかなく、ルビコンどころか火星に人類を送ることすらできていない。己が一生かかってもルビコンには到達しないことがわかると、なんとなく肩の荷が下りると言うものだ。

 ハンドラー・ウォルター。初老に差し掛かったその男は、スーツを着込み、寮を出た。

 トレセン学園。ウマ娘の教育機関に勤める中堅トレーナー。それが今の彼であった。

 

 記憶を思い出した時は困惑した。幸い休日だったのでじっくり考える時間はあった。

 

 この世界、あるいは時代にコーラルはない。破綻も無い。そもそも人類が宇宙にほとんど進出していない。戦争はあったし、飢餓も病もあった。要するに、今まで通りということだ。

 今いる国、日本は平和な国だ。ルビコンでの出来事がまるでサイエンス・フィクションのように感じられるが、あれは紛れもなく現実で。そして、自分が大気圏に突入し焼け死んだことも覚えていた。

 やり直せというのだろうか。この世界に神様がいるならば、それは相当に残酷で厄介な性格をしていることだろう。

 さて、季節は春。

 ウォルターは、サングラスをかけ、観客席からコースを見ていた。

 仕事は仕事だ。過去は過去。思い出したところで………という割り切りができるのは彼の美点であった。

 だが、しかし。

 その娘を一目見ただけで唖然としてしまう。

 

「………」

 

 他人の空似だろう。そもそも、性別が違う。そもそも、人間ですらないウマ娘だ。

 というのに、レースで圧倒的な強さを発揮して、ライバルをごぼう抜きしていくその娘から目が離せない。見ていると、次々とトレーナーが声をかけては撃沈されていく。

 

 声をかけるべきだろうかと思っていると、目が合った。

 

「………」

「………」

 

 その娘は、かつての彼の容姿によく似ていた。銀色の髪の毛。赤い瞳。痩せた体。けれど耳は人のものではなく、尻尾まで生えている。

 

 

「………“ハンドラー・ウォルター”……?」

「……お前は……621か……?」

 

 

 ここに時空を超えた数奇なる出会いと、“イレギュラー”等と呼ばれることとなる名ウマ娘の大活躍劇が始まるのであった……。

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