ハンドラー・ウォルター「621、レースだ」 ウマ娘621「……(コクリ)」 作:キサラギ職員
圧倒的な逃げなのか、プレッシャーかけて相手をへばらせるのか、ラストで猛烈な勢いで差すのか
多分全部できるしダートも行けるイカれた才能だといいなとは思う
続いたけどこれどうするねん続けられる気がしないゾ
ところ変わってコース外れ。観客席の傍らにて。
「……」
ウォルターは最初信じなかった。まさか、あの621がこんなところにいるはずがない。他人の空似であろうということとしか思わなかった。だがまるでこちらを知っているかのように言葉をかけてきて、なんとなく悟る。
「その呼び方をするのは、あなただけだ。ウォルター」
淡々とした無機質な喋り方。確かに621と似ているが……。
しかし、621という単語に対して的確に返してくる。こちらを知っているのではと思ったが、そんな奇跡的なことが合ってたまるものか。
ウォルターは心臓が嫌な動き方をするのを感じながらも、表情を崩さなかった。
「お前なのか……?」
「ああ、そうだ。カーラを殺し、チャティを殺した。紛れもなく“私”だ」
もはや確定でいいだろう。カーラ。チャティ。二人の殺害を認める発言を、こんな平和な国でするウマ娘がいていいはずがない。
こちらに視線を投げてくる“彼”と視線を繋いだまま、若干震える声で尋ねる。
「コーラルはどうなった」
「知らない。そのあたりの記憶は不自然にあやふやなんだ、許してくれ。だがこれは一つ言える。あなたを殺したのは私だ。企業に洗脳され意識が混濁していただろうが、銃を向け殺害したのは私だ」
「621」
「大勢を殺害してきた。幸いこの世界では、否、この国では……」
うつろな瞳でそう言葉を続けようとするのを、ウォルターが遮った。
肩に手を置くと、首を振る。
彼は確かに強かった。人間性をほとんど喪失しているからこその強さというものもあっただろうが、徐々に取り返すにつれて精神的なもろさも顕著に出てくるようになった。それを補佐したのは紛れもなくウォルターだ。
621、レイヴン。コーラルと人の共生を選んだ彼は、今は彼女であって、たった一人のヒトだった。平和な時を享受してきたこともあり、ウォルターと再会を果たしたことで過去抱いていた気持ちが噴出してきたのだろう。視線を外し、俯いてしまっている。
「621。もういい、わかった。621、お前は選んだんだな。選ぶことはいいことだ。何も選ばないやつは、何者にもなれない、何者にもなれないものは、全てに対する敵だ」
「あなたは優しい。この世界は優しすぎる。私のようなヒトに対してもみな優しくしてくれる」
淡々と、しかし嬉しそうに視線を上げて言葉を紡ぐ、621。尻尾が生えていたら左右に揺れているだろう。
ウォルターはため息を漏らした。
「621。自分を卑下するな。これはハンドラーとしてではない、一人の男としての言葉だ。621、話をしようか。俺は……俺が“思い出した”のはつい最近だ」
「私も最近だ。ごく普通の………女学生をやっていた。悪くない生活だったが、どうにも、思い出してからは慣れない。私は、闘争に憑りつかれているらしい………ああ、それでウォルター。あなたは、トレーナーなのか?」
ウォルターの首から提げられている名札を見て、621が言う。
ウォルターは、ああ、と小さく返事をした。
「前職は教師、今は転職してトレーナーだ。自分のキャリアについて他人事で語るのも奇妙な話だが……」
「それを言うと、女学生をやっていた私もおかしな気分だ………だがある意味では都合がいいのかもしれないな。この世界でパイロットで食っていくのは難しいことだ。ACならともかく、通常兵器はわからない。だが、身体的能力を活かせば稼げる」
「稼ぐ? 金がいるのか、621」
稼ぐ。それは621が必要としていたことだ。前世では、だが。ところがこの世界でも稼がないといけないという。
「両親が大病をしている。治すには……結局のところ金が要る」
「それは………俺が出せる金は、余りない」
貯金はないことはないが、では二人分の医療費を負担できるかというと怪しい。ウォルターは声を低くして答えた。払うつもりでいるらしい。
621が首を振る。
「必要ない。レースで活躍すれば賞金が出る。スポンサーを獲得できればもっといい。こんな私を産み、育ててくれた。あの両親には恩返しをしたい。自分の力で。そのために」
「私の専任トレーナーになってくれないか?」
「ああ、わかった。俺でよければ協力する。621」
「621ね、あなたらしい。だがこういう名前も持ってる」
「“レイヴン”」
レイヴン。渡り鴉。ウマ娘としての名前を名乗りつつ、かつて彼だった、現在彼女のその人物は、胸元に手を置いて挨拶をすると、その手を差し出した。
「621。これからよろしく頼む」
「ああ、こちらこそよろしく。ハンドラー・ウォルター」