さなえ・ざ・ろっく!   作:幕張n

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よろしくお願いします。


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 ──東風谷早苗。

 

 東京都は世田谷区、芸術に音楽、サブカルチャーの街として知られる下北沢にて生まれ育った生粋の下北ガール。

 

 それがわたしです。

 

 家族構成は父、母、わたし、それから双子の妹の四人家族で、住まいは間取り2LDKの賃貸アパート。

 両親は共働きで、あまり裕福な家庭とは言えませんが、それでも家族四人、細々ながらも楽しく暮らしています。

 

 そんな、なんてことない普通の家庭で育ったわたしですが、小学五年生になったある日のことです。

 

 ──”誕生日おめでとう、娘たち。お父さんからの誕生日プレゼントだぞ〜!”。

 

 そう言って父がくれたのは、日本の大手楽器メーカーのロゴがデカデカと印刷された縦長の大きい段ボール箱。

 それを、わたしと妹は目をキラキラと輝かせながら夢中で開けます。

 

 ──そこに入っていたのは、ストラト系のボディが特徴的な、黒いエレキギターでした。

 

 真っ黒なボディに黒のピックガードが付いた、2ハム仕様のパシフィカ。

 様々なバリエーションのあるパシフィカの中でも、それはエントリーグレードの一つとされる初心者向けのギターで、価格は三万円台。大手メーカーのエレキギターにしては、かなりお手頃価格なモデルでした。

 

 父が言うには、せっかくだからもっと高いギターを買ってあげたかったんだけど……、とのことですが、娘二人に同時に二本贈るとなるとこの価格帯が限界だったそうです。

 けれど、当時のわたしたちはその価値もよくわかっていなかったし、廉価版とはいえ小学生が初めて持つには価格的にも性能的にも充分すぎるものでした。

 

 そんな光り輝くような新品のギターを夢中になって見つめるわたしたちに、父は穏やかな口調で語りかけます。

 

 ──“実はお父さん、昔はバンドを組んでギターを弾いていたことがあるんだ。色々あって、もう自分のギターは手放してしまったけれど、それでもギターを弾いている時間がたまらなく楽しかった事実は変わらない。だから二人も、これをきっかけにギターに興味をもってくれたら嬉しいな”

 

 その時の、かつての思い出に浸るような父の顔は今でも覚えています。

 きっと父は、本当にギターを愛していたのでしょう。

 けれど過去に何らかの葛藤があって、自分でギターを弾くことはやめてしまった。

 それでもギターを弾く楽しさはずっと忘れらずにいて、自分の娘たちにもその楽しさを知ってほしい。

 おそらく、そんな思いがあったのだと思います。

 

 そうしてそんな父の期待に応えるように、わたしたち姉妹はものの見事にギターの魅力に取り憑かれてしまい、それから毎日欠かさず何時間も練習するようになり、気づけば……。

 

 

「──いえぇぇーい!! みなさん、盛り上がってますかぁぁー!! これからもわたしたち『守矢神社』をぉー! レッツ信仰ぉぉぉーーぅッ!!」

 

 

 ──“Foooooooooooooo!!!!!!”

 

 こうしてバンドを組み、家の近所のライブハウスを借り切って小規模なワンマンライブを開催するほどには、すっかりバンド活動にのめり込んでいたのでした……。

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 と、そんなこんなでバンド活動も軌道に乗り始め、チケットノルマも余裕を持って達成できるようになってきた今日この頃。

 月日が過ぎるのは早いもので、この秀華高校に入学していつの間にか一年が経ち、わたしは二年生になっていました。

 

 若葉の緑が顔を出し始めた五月の通学路。

 その日、いつものように妹と並んで登校していたわたしは、校門の前でとある出会いを果たすのです。

 

「うへへ……これでどこからどう見ても完璧なバンド女子、この格好で教室に入ったら、きっとたくさん話しかけてもらえるぞー、うぇへうぇへ……」

 

 ……そこには、何やらぶつぶつとひとりごとを呟きながら歩く一人の少女がいました。

 それも、かなり人の目を引くピンクジャージ姿。まあ下半身は普通に学校指定のスカートなので、きっと上着のほうもジャージの下には普通に制服を着ているのでしょう。

 

 うちの高校は私立で割と校則もゆるいですし、制服の上からパーカーを着てくる生徒だってたまにいます。

 だから、そこそこ目立つとはいえ、このぐらいならまだそこまで気にするほどのことでもありません。

 

 ですが。……ですが!!

 いったい何なのでしょう、アレは……!!

 

 両腕にはロックバンドのライブやフェスの物販などで見かけるラバーバンドを大量に身につけ、さらに肩にかけたトートバッグには同じくバンドグッズと思しき缶バッジの数々が所狭しと敷き詰めるように付けられています。

 そして極めつけはその背中に担がれたギターケース!

 

 そう、あれはまさに……。

 

 ──どこからどう見てもロックを心から愛する熱心なバンド少女!!

 

 そうです、きっとそうに違いありません!

 人の目も憚らず、あんなにロックな格好をして登校してくる生徒は、少なくとも今までの学校生活では一度も見たことがありません!

 秋葉原とかでたまに似たような人は見かける気はしますが、そんなことはどうでもいいですね!

 

「果苗、果苗、見てくださいあの子……!」

 

 と。

 わたしは隣を歩く我が双子の妹、果苗にそっと耳打ちします。

 顔も背格好も体型も丸っきり同じで、家族ですら外見だけで見分けるのは不可能と言い切るほどそっくりな我が妹、果苗。

 そんな彼女は、わたしに耳打ちされると「うわぁ……」と、なぜか引き気味の表情で応えるのでした。

 

「す、すごいね、アレ……。よくあんな格好で登校できるね……」

 

「はい……! 物凄くロックですね!」

 

「……うん、まあロックかどうかはさておき、とんでもない鋼メンタルの持ち主なのは間違いないだろうね」

 

「そうですね! 何者をも恐れぬ鋼の精神……、ロックスターとなるには欠かせない資質です!」

 

「うーん、なんか微妙に話が噛み合っていないような……?」

 

 果苗がなぜか困ったように苦笑しますが、特に気にしないことにします。

 そんなことよりも──。

 

「決めました、わたしちょっとあの子に話しかけてみます!」

 

「え……!? いや、やめときなって早苗……!あれ絶対関わったらヤバい人だって!」

 

「はい! 常識に囚われないヤバいぐらいのロック魂を秘めていそうでわくわくしますね!では、行ってきます!」

 

「あ、ちょっ……! もぅ、この暴走姉! あたし先に教室行ってるからねー!」

 

 と、何やら戸惑っている様子の妹を背にして、わたしは視線の先のロック少女へと向けて走り寄ります。

 そして──。

 

「──おはようございます!! あなた、とってもロックですね!!」

 

「えっ……!? あっ、えっ、あ、ありがとう、ございます……?」

 

 ──と、それがわたし、東風谷早苗と彼女。

 後にわたしが所属するバンド『守矢神社』と肩を並べ競い合うことになるバンド、『結束バンド』のリードギターにして、”ギターヒーロー”こと、後藤ひとりさんとの初めての出会いになったのでした。

 

 






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