さなえ・ざ・ろっく! 作:幕張n
──朝、登校していたら校門の前でいきなり知らない人に話しかけられた。
いやまあ、こうやって話しかけてほしくて全身に大量のバンドグッズを身に着けて家から片道ニ時間の道のりを電車を乗り継ぎながら歩いて来たわけだけど……。
でも──。
「おはようございます!! あなたとってもロックですね!!」
「えっ……!?」
──こんなのどう言葉を返したらいいの……!?
制服のリボンの色からおそらく二年生、つまり一つ上の先輩。
そして、かなりの美人……。
顔立ちはモデルやアイドルみたいに整っていて、制服の上からでもわかるほどスタイル抜群。
さらさらのロングヘアーにはかわいいデザインのカエルのヘアピンと、とぐろを巻いたヘビみたいな髪飾りも着けていて、独特なセンスを感じる。
それに、たった一声でわかるほどの溢れんばかりの陽キャオーラ。
私なんかと違って明るいだろうし、美人だし、きっと色んな人から好かれて人気あるんだろうなぁ……。
誰かに話しかけられたいと思っていたのは自分だけど、いきなりこのレベルの人はハードルが高すぎる……!
で、でもこのまま黙ってたら無視してるみたいで感じ悪く思われるかもしれないし、な、なにか返さないと……!
「あっ、えっ、あ、ありがとう、ございます……?」
……と、とりあえずお礼を言ってみた。
ロックですね、ってたぶん褒め言葉だろうし、この返答で間違ってはいないはず……。
「はじめまして! わたし、二年の東風谷早苗と申します!」
「あっ、えっと、一年の後藤ひとり、です」
「ひとりさんというのですね! その背中のものはギター、ですよね? 軽音部の方ですか? それとも学外でバンドを?」
「あ、いや、特にそういうわけでは……。人前で弾いたこともないですし……」
「ふむ、そうですか。なら、純粋にギターが好きで学校にまで持ち込んできた、というわけですね! 素晴らしいです、なんという熱意でしょう! ギターはよく弾かれるんですか? あ、好きなバンドとかってあります? わたしはガールズバンドが中心なんですけど、最近だと──」
「…………っ」
──こ、こわいこわいこわい……!!
なんかめっちゃ話しかけてくるこの人……!!
え、陽キャってみんなこんな感じなのかな、それとも単にこの人の距離の詰め方が異常なだけ……?
「あはは、気づいたらわたしばっかり喋ってますね。なにはともあれ、同じロックを愛する者同士、ぜひお近づきになれたらいいなって思ってます! どうぞお見知りおきを、ひとりさん!」
「えっ、あっ、は、はい……こちらこそ……」
お近づきに、ってもしかして、私と友達になりたいってことかな……?
そっかぁ、友達かぁ。
えへへ、早苗さん好き。
「ウチらズッ友だよ、へへ……」
「おー! 距離の詰め方マッハですね!」
やっぱりギターってすごい……!
朝からいきなりこんなに綺麗な先輩に話しかけてもらえたし、なんだかよくわからないけど仲良くもなれたし、きっと教室に入ったらクラスの人たちにもいっぱい話しかけてもらえるよね……!
そうだ、教室に入ったらジャージの前も開けて中に着てるバンドTシャツも見せつけてもっとバンド女子感をアピールしよう……!
これで私もキラキラ女子の仲間入り、えへへ、今日から忙しくなるぞぉ!
☆☆☆☆☆
──な、なんで……? おかしいおかしい。
なんで誰も話しかけてこないの……?
え、もう放課後だよ……?
も、もしかしてアピールがわかりにくかったとか……?
いやでもギターほどわかりやすいものも無いし、現に早苗さんはあんなに食いついてくれたし……ま、まさかあえて話しかけられなかったって可能性は──いや、ないないないない。
もしそうだったら精神崩壊する……。
下校途中、近くにあった公園のブランコに一人腰掛けて、ぐったりと項垂れる。
作戦は完全に失敗に終わってしまった。
明日から一体どんな顔して登校したらいいんだろ……。
でもきっとこの公園に集う人たちも私と同じで孤独を抱えてるんだよね、あのベンチに座ってるサラリーマンだってきっと家庭内別居とか──ごめんなさい勘違いでした。優しい奥さんと娘さんが迎えに来て絵に描いたような家族団欒が繰り広げられていました勝手に私と同じとか言ってすみません……。
はぁ……。
結局、私の居場所はネットだけ……。
そんな現実を思い知らされ、私は再び顔を落として項垂れた。
と、そんなときだった。
「──おや、おやおやおや?」
「へ……?」
不意に聞き覚えのある声がして顔を上げると、そこには──。
「さ、早苗さん……」
いつの間にか私のすぐ前には、今日唯一私に話しかけてくれた人、東風谷早苗さんが私の顔を覗き込むように立っていたのだった。
「ふふっ。今朝ぶりですね、後藤ひとりさん。遠目からでもばっちりわかりましたよ!」
「あっ、へへ、どうもです……」
私みたいな存在感のない人間に気づいてくれるなんて、早苗さんってやっぱり良い人……。
それともこのギターケースのおかげかな、うん、たぶんそうだよね……。
クラスの人には誰からも話しかけてもらえなかったけど、でも、こうして早苗さんには話しかけて貰えたし、少しは勇気を出してギター持ってきた甲斐もあった、よね……えへへ。
「…………」
それにしても……。
改めて見ても本当に綺麗な人だなぁ……。それに、その……すごい大きいし……。
──って、あ、あんまりジロジロ見るのも良くないよね……。
同性だとしても、こういうところに視線を向けられるのは嫌かもしれないし……。
「お隣、よろしいですか?」
けれど、そういう視線には慣れているのか、それとも気づいていないのか。
早苗さんは少しも気にした様子もなく、ニコリ、とお日様みたいな笑顔を向けながら訊ねてきた。
「あっ、はい……! どうぞ……」
「ふふっ。ブランコに座るのなんて子供の頃以来です。なんだか懐かしい気持ちになりますね!」
「そ、そうなんですね、へへ……」
「そういえば、先程はなんだか物憂げな様子でしたが、何か考え事ですか?」
「あっ、いや、別に大したことじゃなくて……、年金問題──そう!昨今の年金問題について考えていたんです……!」
嘘ですほんとはただクラスの人に誰にも話しかけてもらえなくてヘコんでただけですごめんなさい。
「おー! 社会派ですね!」
けれど早苗さんは何の疑いもなく私の嘘を信じてくれた。
凄く純粋な人なのかな?
うぐっ、なんだか罪悪感が……。
「そういえば、今朝はいきなり話しかけてしまってすみませんでした、ついテンションが上がってしまいまして。妹にも暴走しすぎだってよく怒られるんです、あはは……」
「い、いえ! そんな……。私も嬉しかったですし、その……今日話しかけてくれたの、早苗さんだけだったから……。というか、高校に入学してこんなにまともに人と会話したの初めてです……」
「そうなんですか? たしか一年生でしたよね? 中学の友達とか一緒じゃなかったんです?」
「あっ、はい……。県外から電車と徒歩で片道二時間かけて登校してるので……」
「えっ!? そうなんですか!?」
まあ中学の頃はおろか今までの人生で一人も友達なんてできたことないんですけどね……。
それにけっこう色々やらかして黒歴史のオンパレードだったし、だから高校は絶対自分の過去を誰も知らない環境に行って青春をやり直そうって、そう思ってたのに……。
結局、入学して一ヶ月が経っても、未だに友達の一人もできないまま……。
うぅ、また悲しくなってきた……。
「それは心細いですね……。──っ! あの、ひとりさん!」
「ひゃ、ひゃい……!!」
パシッと、唐突に私の片方の手を取り、両手で包み込んでくる。
不意に触れられたので思わず驚いて声が上擦ってしまって少し恥ずかしい。
「わたしでよければ、ぜひ仲良くさせてください! 先輩後輩とか関係なく、お友達になりましょう!」
「えっ……!? い、いいんですか……!?」
「はい! 学年が違うのでクラスで一緒に何かをやったりとかはできませんけど、校内で見かけたらいつでも話しかけてきてください! わたしも、たくさん話しかけに行きますので!」
「ど、どうしてそこまで、私に……」
「ふふっ。だってお互いにロックを愛する同志ですし、それに同じギタリストですから! ロックを愛する人はみんな友達です!」
「え、早苗さんもギター弾くんですか……!?」
「あれ? 言ってませんでしたっけ。わたし、バンドをやってるんです。普段はストリートや近所のライブハウスでライブをしてて、場所は──」
と、その時だった。
「あーー! ギターー!!!!」
早苗さんの言葉を遮るように、その子は突然、私の前に現れた。
今後、私の人生に大きく関わることになる存在──大切な、かけがえのない仲間。
私の大切な居場所、『結束バンド』の生みの親、伊地知虹夏ちゃんとの出会い。
──この日から、私の運命は大きく動き出す。