ボツネタ集(二次創作編)   作:ばいどるげん

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個人的に結構好きで、続きを書きたかった作品です。
ただ時間的に余裕がなくなったのと他の連載作品の兼ね合いで書くのをやめました。

時間があったら続きを書きたい作品の一つです。


まどマギ

 

 

 ――シロとクロが螺旋のように続き、

 私はただただ。必死でその道を駆けていく。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」

 

 地面は無機質な市松模様が広がっていた。無色の光が差し込む先に縞模様の廊下が伸び、格子状の壁を抜けた先に代わり映えの無い二色の階段が高く聳えている。

 その階段の頂上に。唯一色鮮やかに色を放っていたのは非常口の誘導灯だ。

 どうして階段を上った先に誘導灯があるのだろうか。光が差していると思われていたそこは地下道だったのだろうか。

 

 所詮これは夢の中。だから私は何も考えない。――考える余裕も無かったのかも知れない。

 誘導灯の下には奇妙な形の鍵が掛かった鉄扉が見える。一歩、また一歩と、何の迷いも抱かずに階段を昇っていく。不思議と自分の今居るその場所が、どこかとても高いところに居るような気がした。

 

 扉を開けるなり向こうから吹き抜ける風が私の髪の毛を激しく撫でていく。重く感じた扉はただ私の力が弱かったわけではないらしい。

 

「――――ひっ!」

 

 余りにも残酷で。余りにも凄惨で。

 寒々しい程の静けさで張り詰めた回廊すら一瞬にして熱し尽くすかの様な地獄が、目の前を多い尽くす――!

 

 

 

「おらああああ!! てめーら何寝てやがる!! 誰が寝ていいつったコラァ!!」

 

「トモエさぁぁぁん、困るんですよねぇぇ!? そう何度もグリーフシードの支払いを延滞されるとさぁぁ!! こちとら慈善事業でインキュベーターやってるんじゃないんですよ!!」

 

「おい誰だこのサヤカとか言うバカ起用しやがったクソバカは!! 全く役にたたねーじゃねぇかよこいつ! 債権回収不可能ですよ!! ……って、こいつ採ったのオレじゃねーか!? アタシってホントバカ!!」

 

 

 

 ああ、なんとおぞましい事だろう!

 日本の闇を映し出すかのような光景を演じる白いウサギたち。彼らは私の存在すら目に止める暇さえなく目の前の仕事に追われている。

 罵り。憎悪。負の感情をこれでもかと言わんばかりに満たす狭苦しい部屋は、彼らの邪悪な炎に焚かれ凄まじい熱気を放っていた。

 

「くすん。……ひっく」

 

 ……消え入るように……すすり泣く声?

 私はやかましい罵詈雑言の中を掻き分けるようにその声の主を探す。目に留まったのは粗大ゴミとしか思えないほどボロボロになった木机だ。これまた相当な年代物のワープロを泣きべそをかきながら叩く一人の女性がいる。どうやら彼女で間違いは無さそうだ。

 OLさんは継ぎはぎだらけの制服だった。黒いカチューシャからみすぼらしくはねた髪の毛が哀れみを誘う。一目で分かるほど若く整った顔立ちだが、おーいおいと泣き続ける涙が薄化粧すら台無しにしてしまっていた。

 

「お仕事が終わらないよぉ。お仕事が終わらないよぉ……」

「おいこらぁ、×けみ×ら×ぁぁ!! 何ちんたら仕事してやがる!! このグズめ! お前が望んだ仕事もまともに出来ないっていうのか!?」

「お前をどん底から拾い上げてやった恩を忘れたのか!!」

「このペチャパイ!!」

 

 無表情にはち切れんばかりの血管を浮き上がらせウサギたちが一斉に彼女を罵り始める。

 罵る相手へと顔を向けながら手足を動かす彼らは何と器用なのだろう。話すときは人の顔を見て話せとは良く言われるが、何もこんなときまで律儀に実行せずとも良かろうに。

 

「ひどい……っ!」

「仕方が無いよ。彼女一人では荷が重すぎた」

 

 私が思わず同情を呟くと、――いつからそこにいたのだろう――ウサギ頭のサラリーマンの一人が私に声を掛けてきた。

 

「でも、彼女も覚悟の上だ」

「うえぇぇん……ペチャパイじゃないもん……! こんなのってないよぉ……っ!」

(そうには見えないなぁ)

 

 彼女は罵倒を一身に受けても、しかしその手の動きを止める事は無かった。怒りか悲しみか、キーを打つ手はカタカタと震えるも彼女は決して諦めようとはしない。

 

「諦めたらそれまでだ。……でも、君なら運命を変えられる」

 

 私は彼の顔を見た。無表情な真っ白なウサギ――のような、ネコのような不思議な顔――も私の顔をずっと見つめていた。

 ちょっと薄気味悪くなり私はふいに目を背けた。

 

「避け様の無い仕事量も、残業も。全て君が引き受ければ良い! そのための力が、君には備わっているんだから」

(絶対嘘だよっ!!)

 

 サラリーマンウサギは私の目の前に立つと胸に飛び込んで来いと言いたげに両手を広げる。私は流石に顔を逸らす事も出来ず、怪しげな目で彼を見た。

 

「だから、僕と契約して、派遣社員に――

 

 

 

 間違えた。『魔法少女』になってよ!!」

 

 

 

 

 

「ハッ!?」

 

 ぜぇぜぇと息を荒げて周りを見渡す。ぼやけた視界とぼけた脳は一瞬そこを見知らぬ場所を錯覚させたが、直ぐに自分のベッドの上だと把握できた。

 

「ゆ、夢オチ~……!?」

 

 私は今まで生きてきた人生の中で、これほどまでに夢でよかったと思う事はもう一生無いだろう。

 そして、これから起きるそれが、どれほど夢であったらと思う事も――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆まで説明する必要も無いだろう。

 そう、ここは君たちもよく存じている市立見滝原中学校だ。私は今とある重大な仕事のためにこの場所へと赴いている。仕事の詳細は後々明らかになるだろう。今は私の活躍を静観していて欲しい。

 

「しかし、やっとたどり着けた。この町は工業地帯が非常に多くて困ってしまうな」

 

 見滝原市は近年栄え始めた工業都市として有名だ。近々新幹線の開通や見滝原野球場の建設を予定したりと、これからの趨勢に期待せざるを得ない。

 しかし人々の心は反して穏やかだ。日中は仕事に追われる人々の忙しさが目に留まるが、それでもどこか田舎独特のほんわかとした雰囲気が伝わってくる。斯く言う私も彼らの暖かな心遣いに心をほだされてしまいそうだ。

 

「ママー、あの人のあたまー」

「しっ、見ちゃいけません!」

 

 仲の良さそうな親子が私の横を通り過ぎていく。

 誰かの頭がどうかしたのだろうか? 辺りを見回してもこれと言って特徴的な人物は見当たらない。幼い子供の想像力で見えない何かを見たのだろうか。きゅっぷい、わけがわからないよ。

 

 さて、いつまでも門の前に突っ立っている訳にはいかない。幾ら私が誠実なサラリーマンを思わせるスーツ姿でいるとは言え、生徒の授業中に訪問する大人と言うのは実に不審に思われがちだ。

 私は腕時計で時間を確認し時間きっかりに受付へと赴く。出来る社会人は時間厳守だ、これはどんな世界でも共通のルールである。

 

「おや、どうもこんにち……わっ!?」

 

 受付員は私の顔を見るなり肩を跳ねた。何か私の顔に付いているのだろうか? もしくは……私の背中に何か取り憑いているとか。ぶるぶる、想像したら僕まで怖くなってきたじゃないか。

 

「電話させて頂いていた虚淵(うろぶち)キュゥべえと申します。僕の背中に何か憑いていますか?」

「いや、背中と言うより顔……」

 

 やはり顔だったか! 私は少し安心したが、直ぐに少々不安を抱かずには居られなかった。私の顔に何か付いていると言うのなら、道中私は人々に恥ずかしい目で見られていたのではないのだろうか。一介の社会人として身だしなみに気を使えないとは赤面せざるを得ない。

 急いで顔や頭を手で探ってみる。しかし私の頭部を覆う柔らかな体毛と頭頂部から特徴的な両耳が伸びるだけだ。ひょっとすると耳につけている金環がイヤリングと思われたために悪印象を抱かせてしまったのか。私とした事が人の気持ちに対する配慮が欠けていたようだ。

 

「これはこれは……。誤解を招いてしまい申し訳ありません。これは勿論取り外す事が可能ですので、校内では自粛させていただきます」

「あっいや、そんなつもりでは無かったのですが……だけど、確かにはずして頂けた方が良いですね」

「勿論です。それでは、この金環は校内を出るまでは外して……」

「いやそっちじゃないですよ!?」

 

 はて、何がそっちではないのだろうか。きゅっぷい、わけがわからないよ。

 はっ、と思うなり私は腕時計を確認した。なんと言う事だ、大分時間が押し始めているではないか。このままでは私が彼女らの元にたどり着く前に昼休みが終了してしまう。

 

「申し訳ありません、もう時間があまりないためお先にご案内いただく事は出来ませんか! 授業中に彼女らの時間を割いてしまうことはエントロピー増大に大いに貢献してしまうでしょう」

「とりあえずその被り物をとってください。でなければご案内する事はできません!」

「被り物なんてしてませんよ! わけが分からないよ!」

 

 結局その後、私は他の係員たちに取り押さえられ学校から追放された。結局この時間私の目的の彼女たちに合う事は許されず、沸騰した湯が次第に冷めてぬるま湯へと変わるが如く、エネルギーを無駄に消費しただけで終わってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「はー! 今日も忙しい一日だったぁ」

「んもぅさやかちゃんったら。ずっと寝てたじゃない」

「ね、寝てませんよ! まどかさんったらお嘘がお下手ですわね!」

「よだれの跡が付いてますわよさやかさん」

「うぇっ!? そそ、それホント!?」

「うふふ、嘘ですわ」

「もう! 仁美のイジワル!」

 

 仁美ちゃんの冗談にさやかちゃんは笑いながら叱る。私もつられて二人のやり取りに笑ってしまった。

 放課後なり私たちは行きつけのファストフード店へときていた。さやかちゃんと仁美ちゃんは私もとても仲良くしてもらっている。友達があまり多くない私にとって、彼女たちは親友とも言える存在だ。

 

「しっかしさぁ、あの転校生変わってたよねー。流石のさやかさんも驚いちゃったよ」

 

 苦笑を浮かべながらさやかちゃんがジュースのストローに口を付ける。仁美ちゃんも朝の出来事を思い出し顔を引きつらせていた。

 勿論私も例外ではない。あのインパクトとギャップ(・・・・)は忘れたくとも忘れようが無かった。

 

 

 

 ホームルームが始まる8時30分。担任の早乙女先生が未だ教室にきていないにも関わらずクラスの全員はきちんと席に着いていた。

 これほど生徒がしっかりしているのは先生の指導が良いからなのだろう。早乙女先生はちょっと変な所はあるけど、皆に慕われている模範的な先生だと思う。

 しかしいつも明るく元気な彼女がその日に見せた表情は困惑に満ちた物だった。

 

「オホン! えー、今日は皆さんに大事なお話があります! ……ええ、とっても大事なお話なんですが……そのぅ……」

「……あれ、今日は彼氏の話をしないね? 結構続いてるのかな」

「でも何だか歯切れが悪そうだよ?」

 

 早乙女先生は良く新しい彼氏とくっ付いては別れてを繰り返している。私たちのホームルームでは先生の惚気話から始まるのが日課だった。

 私たちで先生が何日目で別れるか賭けをしていたと言うのに。予想が外れてしまった事は残念だった。

 

「いつもでしたらみんなも楽しみにしている私のカレの話をするところなのですが――」

(楽しみではないよ)

「今日は皆さんに転校生を紹介します……。そ、それじゃあ暁美さん、いらっしゃ――」

「オオオォォ―――ッス!!!」

 

 ズン、ズンと勢い良く床に足を叩きつけ、先生が言い終わるよりも早く一人の女子生徒が教室へとやってきた。

 黒く艶のある長い髪を黒いカチューシャで留め、威風堂々と開いた両脚は小さな仁王と形容するべきか。透き通るように白い肌だが興奮からか頬には仄かな赤みを帯びている。

 入室早々雄叫びを挙げた可憐な少女にクラスの誰もが絶句した。突然の怒号に他クラスの生徒もガラス張りからこちらへと顔を向けている。

 

「……そ、それじゃあ、自己紹介を……」

「暁美ほむらッス!! よろしくッス!!」

「うわっ、すげー……そのなんていうか」

 

 さやかちゃんの言いたい事は何となく分かった。彼女は別の意味で近づきがたい雰囲気を放っていた。

 目の前の暁美さんはすんごくエネルギッシュだった。ふんふんと鼻息が荒くし小さな体には熱血がひしめいているかのようだ。猫のように鋭くも丸い愛らしい眼には炎が灯っている。

 なんて言うのかな……燃え上がれ~って感じ?

 

 彼女の気合の入った自己紹介が終わるとみんなぱらぱらと拍手した。周りを見渡すと顔を引きつらせている子たちばかりだ。あのさやかちゃんですら思わず苦笑いである。

 

「……じろ」

「ひっ!?」

 

 そんな中で彼女は私の方に目を向けた。とっさに私は瞬時に目を反らすも、彼女はどうも私をガン見していたらしく、もう一度視線をあわせた際には満面の笑みを投げかけてきていた。

 

 

 

「あの子、まどかにガン付けてなかった?」

「ガン……と言うか、何だか気に入られてたような。まどかさん、暁美さんとはどこかで会った事があるんですの?」

「うーん、常識的には無いんだけど……」

「非常識な所で心当たりがあると?」

 

 さやかちゃんは怪しむ目で私を見つめてくる。仁美ちゃんも気になるのか不思議そうな顔で私の反応を待っていた。

 私が引っ掛かっていたのは今朝の夢の事だった。とある殺風景な建物の乱雑な一室で、彼女にとても良く似た女性が泣きながらタイピングをしていたと言うものだ。

 もちろんそんな物はとても信じられないしあからさまに偶然に違いない。ただ、とても綺麗な顔立ちと黒いカチューシャ、そしてちっぱい……スレンダーな体つきがとても似通っていたのだ。

 

「……ってわけで、夢の中で会った――と言うか見かけたんだ。あははは! 何言ってるんだろうね、私。そんなの明らかに偶然……って」

「……」

「……う、うーん」

「え、どうしたの二人とも」

 

 普段ならばこんな話など笑い飛ばすだろうに。二人とも目を閉じて腕を組み何かを考え込む様子だった。私は訳が分からず再度問い詰める。しかし何度聞いてみても曖昧な返事しか返ってこない。

 もうしばらく粘ってみると「そ、そうですわね。無関係でもありませんし……」と仁美ちゃんが先に折れる様子を見せた。さやかちゃんは相変わらず難しそうな顔をしていたが、仁美ちゃんの様子を見て諦めたらしい。

 

「そうだねぇ……まどかは他人事じゃないもんね」

「え? え? ち、ちょっと、本当に何の話?」

「え、えっとぉ……大した話ではないんですのよ?」

「ただあの転校生が異常にまどかばっかり見つめてたなぁ、と」

「なにそれこわい」

「むしろあんなに見られてたのに気付いて無かったのか……」

 

 思わず身震いせずにはられなかった。あまり積極的でない私は彼女の性格とは相容れないと思っていたため、私から彼女へ話しかけるような事は一度も無かった。それなのにどうして、暁美さんは私の事を気に掛けていたのだろう。

 

「これは……禁断の恋の形ですわね~!」

「仁美ちゃん笑えないよ!」

「けしからーん! まどかは私の嫁になるのだぁ~!」

「えっ、求婚? そんな、駄目だよさやかちゃん。私たちまだ中学生なのに……」

「って、うぉい!? そこはツッコむところ!」

 

 仁美ちゃんの悪ノリにさやかちゃんが反応し、誰にも渡さないと言いながら私の頬を撫で回してくる。それに私がボケて見せると私たちに笑顔が戻った。

 私たちはその夢と転校生の話題でしばし盛り上がった。その後は仁美ちゃんが武道のお稽古があるとの事だったので解散する事になった。

 

 

 

 

「……ふぅむ。どうやら迷ってしまったみたいだ」

 

 見滝原中学校から追い出された私は警察の目を逃れるために薄暗い路地裏へとやってきていた。本来ならば人間に姿が見られないよう存在を隠蔽する事が可能なのだが、流石に彼らの目の前で突如として消え去るわけにも行かなかった。あまり人間に馴染みの無い行動を取る事は今後の活動及び私の社会的地位も危うい。

 ともかくもう一度彼女(・・)と接近を試みるためにも早く大通りへと戻らなくては。今の時間帯ならばきっと彼女たちも帰宅しているに違いない。

 どうやら警察も持ってくる気配はなさそうだ。私はセンサーアイを光らせながら明かりのある方へと歩き始める事にした、丁度その時。何かが私の頬を掠めていった。

 

 

 

 

 さやかちゃんと二人になった私は彼女の希望でCDショップへとやってきた。さやかちゃんは幼馴染みである上条君を励ますためにいつも病院へとお見舞いに行っている。今日も彼に見舞い品のCDを見繕うつもりなのだろう。

 

「今日はどれが良いかなぁ……。ねぇまどか、何か良い曲知らない? 出来ればオーケストラで」

「それならさやかちゃん、これは?」

「えっと、なになに? ……ラプソディー、ジャンルは……シンフォニックメタルって、これメタルじゃん!」

「それじゃあこれは? ノーエフエックス」

「それロックだよ! 全然違うよ!」

 

 適当に手に取ったCDを渡すとさやかちゃんに一蹴されてしまった。さやかちゃんはお笑い芸人ばりにツッコんでくれるから面白い。彼女を知らない人はそのノリの良さに慣れるまで時間がかかるようだけど。

 彼女が真剣にCD選びに入ってしまったため私も一人で演歌のCDを色々と視聴していた。やはり幾三先生は最高だ。明るさの中に渋いコブシを響かせるソウルフルな歌声につい私一緒に口ずさんでしまいそうになる。

 

『……たすけて…………』

「ふぇ?」

 

 付けていたヘッドホンをはずし辺りを見回す。今誰かが読んでいたような気がしたけれど、気のせいだろうか……。

 

『たすけて……まど《ガッ》!! ぐおおおおお!?』

「ふぇ!?」

 

 今度は間違いない! 男性の声が助けを呼んでおり、マイクのノイズが入ったかと思うと突然野太い悲鳴を上げていた。

 

『僕を……たすけ《ガッ、ガガッ》ごわ!? しぬ、しんじゃう!!』

 

 間違いない。これは私に助けを求めてる。けれど一体誰が? どこからこの声は聞こえてくるのだろう……。周りの誰もが声には気付いていないようであり、すぐ近くにいるさやかちゃんも何も言ってこない。

 不思議に思いながらも声の場所を探っていたとき、ふと視界に一枚のCDジャケットが目に入った。そのCDは私が今その瞬間までずっと視聴していたものだ。そこに映るダンディーな顔を見た瞬間、私は声の主の正体が分かった。

 

 なるほど、それならば私にしか声が聞こえない理由も納得だ! 今この瞬間まで彼の最も近くに居たのは私と言っても過言ではない。きっと彼も大ファンである私だから応じてくれると信じて違わなかったのだ。

 この完璧な推理に間違いはない、あの助けを求める声はまさしく――――!

 

『た……たすけ、て……まど――』

「幾三先生が私に呼びかけている!! 行かなくちゃ、東京へ!!」

『違うよ!! 僕だよ! 助けてまどかぁ!! このままじゃ死んじゃうよ!!』

「きゃっ!?」

 

 突然声が大きくなったので私は驚きのあまり悲鳴を上げてしまった。周りの人々が何事かと私に目を向けている。私は恥ずかしさを覚えたため急いで一人店の外へと出ていった。

 

「」

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