個人的に好きな作品ゼオライマーを「機動武闘伝Gガンダム」みたいにしたら面白そうだなぁ~と思ったのが切っ掛けです。
もっと気軽にネタに振り切るつもりだったのに妙に細々として読みづらくなりました。
修復するのが面倒だったのでボツにしました。
ぜおらいま
――それは雷鳴轟く深夜の事だった。
ピシャリ。グァラグァラ。
まるで魔物の叫びのような雷の音は、怪しい光となって僕らを照らす。普段の僕であれば驚きで肩を跳ねらせていただろう。しかし今はそんな恐怖すら吹き飛ぶほど、目の前の恐怖を堪えるので精一杯だった。
「ゼ……ゼオ――」
「ゼオライマアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「父さん!」
「ゼオライマアアアア! アアアアアア!! アッ――――!!」
「先ほどからずっとこの調子……。マサキさん、お父様はもうおそらく……」
僕の父は持病が悪化し自宅で療養していた。父は何か理由があるらしく病院に行くことを躊躇っていた。それが災いしたのか、いよいよ以って父の身体は限界を迎えていた。
すぐに医者に来てもらい病状を確認してもらう。しかし彼らは首を横に振った。おそらく、父は長くは無いのだろう。
「ゼオライマアアアアアア!! があああ!!」
しかし、先ほどからずっと叫び続けている父の言葉は一体何なのだろうか。その言葉の意味を問いかけようにも、既に父には僕らの声は聞こえていないだろう。
僕は静かに、震えながら父の叫びに耳を傾けるしかなかった。
「か――覚醒させてはならん……!! ゼオライマーを……覚醒させては……!」
「覚、醒……? と、父さん、覚醒って何! ま、まさか覚せい剤を……!?」
「なるほど、覚せい剤を服用していたとなればこの狂気も納得がいきます」
「ち、違う……」
父さんが最後の力を振り絞るように否定した。僕と医者は顔を見合わせる。父さんが反応してくれた! まだ希望はあるのかも知れない。今ここではっきりと否定してくれさえすれば、父さんの薬物常習者と言う疑惑は晴れるはずだ。
「父さん、もう一度、もう一度はっきり言って! 父さんはヤク中なんかじゃないよね!?」
「……ひむ……ろ――氷室、博……士――――」
「父さんっ!」
虚空を掴むように上げた腕はその言葉と共にがくりと垂れる。父さんは思いこすことが無くなったかのように、安らかに瞳を閉じた。
僕は力なき父の手を握り叫ぶ。
「だ、駄目だ、父さん! まだ伝えなきゃいけないことがあるはずだ! 父さんは覚せい剤なんて使ってないよね!? その氷室って人が何かを知っているの!?」
「……もう、これ以上は無駄です。――ご臨終です」
目を開けてくれ、父さん!
暗雲を奔る閃光の駆け足が僕の声と重なる。僕の心にあったのは、悲しみか、それとも怒りか。一家から犯罪者を出してしまったとなれば、僕はこれから一人でどう世間に顔を向けて生きていけば良いというのか。握った手の先では未だ冷めない父の体温が伝わっていた。
暗雲は父の死と僕の先行きを憐れむかのように涙を流し始めた。悲しみの結晶は次第に滝のように勢いを増し、僕の沸き起こる怒りを見るようであった。
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「―――だからさ、Gクラスって呼べるようなのが出現したのは戦後に入ってからなワケだよ」
ロボットマニアのクラスメイトが友人たちと話をしている。かつて第二次世界大戦で使用された『鉄神(てつじん)』は今も世界の均衡を図る抑止力として各国が開発を進めている。そのような物にロマンを感じる人間はどこにでも居るものだろう。
父の死から数日。僕はいつもと同じように登校した。
もちろんどうするべきかとても悩んだ。家族の死をそう簡単に割り切れる僕ではない。何よりたった一人の肉親なのだ。せめてもう少しくらい父との別れを惜しみたかった。
それでも父は僕がいつまでもふさぎ込む事を良しとしないだろう。僕を片親にしてしまった事を誰より悔やんでいた父は誰よりも僕の幸せを一番に考えてくれていた。時々「お前が女の子だったらな……」などと呟いてた気もするが、気のせいだと思う。
父の亡骸は医者たちに引き取られた。果たして本当に覚せい剤を使用していたのかを検査するために僕自ら彼らに父の身体を解剖してもらうよう頼んだのだ。男手一つで僕をここまで育ててくれた父だからこそ、彼が汚名を被るような事は避けたかった。
父の葬儀は執り行わなかった。父には親族が少なかったらしく隠遁者のような生活をしていた父には親しい人も少なかったからだ。父自身、生前から自分の葬儀は行なわないで欲しいと常日頃のように言っていた。
だから誰一人として、クラスに僕の父の死を知る者なんて居なかった。こうして今日も何一つ変わる事無く日常は過ぎていく。けれども僕の日常は、父の死を境に少しずつ変っていくのだろう。
「全高60mを越える人型機動兵器の最大クラスのをそう呼ぶんだ。日本にゃ1台もないけどね」
「へぇ、詳しいなオマエ」
「それじゃあ全長58.0m、重量600.0t、最高飛行速度M(マッハ)20のボル○スVはFクラスって事なんだな」
「詳しいなオマエ!? あれ昭和のアニメだぞ!」
何気なく外を見つめていた僕の耳に彼らの話が聞こえてくる。鉄神には最小のAクラスから最大のGクラスまでが存在するらしい。日本がGクラスを保有していないのは軍備を縮小したのが理由だろう。戦争を放棄した国に過剰な軍事力は不要だからだ。
そういえば、かつて父も鉄神に関係する仕事をしていたと聞く。父は必要以上に語ることをしなかったし、今となっては詳細を聞くことも出来なくなってしまったが……。
「オイ、センコー来たぜっ」
「ほらお前たち、さっさと着席しなさい」
先生は皆が着席したのを確認するとゴホンと一つ咳払いをする。いつもとは少々様子が異なる様子に訝しんだが、それに気付いたのは僕だけではないらしい。
「あー、突然だが今日は転校生を紹介する」
その一言にクラス内がざわつき始める。男だろうか、女だろうか、その人物は美形なのか。隣の席同士で噂が始まり、こうなる事が分かっていたであろう先生はひたすらに静かにするよう呼びかけている。
けれど悲しみに満ちた今の僕には何の感情も沸かなかった。せいぜい思ったことと言えば、夏休みが近いこの時期の転入とは珍しい、くらいだろうか。
「うォっほん! えー、それでは氷室くん(・・・・)入りたまえ」
(氷室だと!)
氷室、それは聞き覚えのある名前だった。父が死の間際に言い残した、父に関係する何かの秘密を握る人物だ。
まさかこんな偶然があるのか。……否、流石に考えすぎだろう。あのときの父は発狂していた上に正常な判断が取れていたとは思えない。おそらく亡くなる前にお楽しみだったデリヘル嬢の源氏名か何かに違いない。博士と言うのは……そういうプレイだったのだろう。
そう心の中では思いつつも、僕の目はしっかりと、今から教室に足を踏み入れるであろう男(・)を待ち構えていた。
ピシャリ! 勢い良く豪快に開かれた引き戸が反対側へと叩きつけられ、瞬間取り付けられていたガラスが暴れるように飛び散った。いくら安全を考慮した割れやすい(・・・・・)ガラスと言えど、あそこまで綺麗に砕ける様はもはや漫画だ。
「――今日から世話になる、氷室美久だ。夜露死苦ゥ!!」
ドスの聞いた声が開かれたままの扉を通して廊下に響く。その声に何事かを感じ取った教師生徒たちは、僕らのクラスに向かって首を伸ばし覗き込もうとしている事だろう。
それでも僕らは誰一人としてそれを懸念する者はいなかった。……何故ならば、目の前に現れた威烈な眼差しを向ける美少女(・・・)の圧力に、誰もが思考を停止させていたからだ。
⊃天⊂ ⊃天⊂ ⊃天⊂ ⊃天⊂ ⊃天⊂ ⊃天⊂ ⊃天⊂ ⊃天⊂ ⊃天⊂ ⊃天⊂
マサキたちの学校に美久が転入した頃、時を同じくして南大西洋の遥か彼方に座する無人島では、ある組織の目論みが進行していた。
険しき岩礁が並ぶそこへ荒れ狂う波が、波が、攻め入るかのように叩きつける。陸路から遠く離れた海洋の果て。生命を感じさせ無い無機質な人工物だけが、絶海に君臨する海王(ポセイドーン)の城塞よろしく佇むばかりだ。
一面黒の天幕から除く陽光が海王城の陰影を浮き彫りにする。建築物から水平線へと差し向けられた数多の光は、獲物を今か今かと待ち構える鮫(けもの)の眼光のように爛々と瞬く。自ら死地へと赴くものは何一つ居らず、荒波だけがいつまでもさざめいていた。
様々な電飾が施された建造物の中は、世界でも類を見ぬ程の最新設備が揃っていた。あらゆる侵入者を逃さない万全のセキュリティはアメリカ合衆国のペンタゴンなどとは比較にもならない。来客の無い居城の厳重なる警備は、その実研究者を外へと逃がさないためのものである。
「将軍ゴルシード! 間違いありません、ドクター氷室は日本に戻っています」
頭部の半分以上を覆う特殊なヘルメットを被る兵士が自らの上司である男へと声を張る。肩までかかる長髪を下ろした男はオペレーターを務める兵士の下へと歩み寄った。
ゴルシードと呼ばれた男もこれまた面妖な冑(かぶと)を着飾っていた。兵士のヘルメットからさらに頭頂部を長くしたそれは、防護製だけでなく膨大な情報を処理できる装置が入っているのか。目元を覆った冑からはその真意を窺い知る事は出来ない。
「やはりな、私の予想は正しかったか。萌えブタの氷室の事だ、秋葉原でアニメグッズを買い漁ると踏んだ私の考えは正しかった」
ゴルシードはさも当然と言わんばかりに言い放つ。氷室という人物が何物かは分からないが、その様子からは彼らがよく知る人物である事は間違いなさそうである。
「どうします? 我々も遊びに行きますか」
「アホか貴様!」
ゴルシードの垂直に下ろされた拳がオペレーター兵の頭頂を捉え「いてっ!」と言う悲鳴が漏れる。ヘルメットを着用しているとは言え、小気味良い音は中々の威力があるようだ。
小突いて赤みを帯びた手を労わるゴルシードは、ばつが悪そうにオペレータ兵より視線を逸らし話を続ける。
「氷室を捕らえ、そしてゼオライマーの在り処を聞き出しに行くのだ。『次元ジョイント』が我々の手にある以上、ゼオライマーは役に立たぬはずだが……。あの氷室のこと、油断はできぬ」
ゴルシードの神妙な顔はいかにも氷室と言う人物を警戒している様が見て取れた。オペレーター兵はゴルシードの説明を聞き、何かを思い出すかのように嬉々として反応を示す。
「では、出すのですね、『オッパイザー』!」
「違ぁう、『デスパイザー』だ!!」
本日二度目の鉄拳が振りかざされる。そのやり取りは日常の物となりつつあるのか、周りの兵士たちも苦笑いを零していた。
「デスパイザー出撃準備! 氷室が何かをしでかす前に、何としても我らの手で『ゼオライマー』を奪い返すのだ!」
『ハッ!』
兵士たちは姿勢正しく敬礼を返し、各々仕事を全うするべく散っていった。オペレーター兵も「いてて……」と独り言ちつつも目の前のモニターへと視線を戻す。ゴルシードも気を引き締めながら、これから行なう作戦の行く末を静かに待つ。
暗闇が支配する巨大な空間に覇道を指し示すかのように照明が点灯する。外界へと通ずる道には未だ大きな壁が立ちはだかり、反対を向けばこれまた巨大なシルエットが物々しさを醸し出していた。
頭部には水牛を思わせる勇ましい双角と、見るものを萎縮させる悪辣極まりない顔が刻まれている。ずしりと構えた巨躯の内側には、敵を確実に粉砕するための数多の兵器が埋め込まれている。
その鉄神は、まさしくGクラス。
見掛け倒しなどではない。大きさを増せば増すほど不安定となる鉄神が堂々たる仁王立ちを披露する姿は、それを開発した者たちの底知れぬ技術力の高さが窺えた。
(氷室よ、せいぜい震えて待っているが良い。我々『鉄神帝国』を裏切った事、存分に後悔させてやるぞ)
将軍ゴルシードはかつての協力者であった人物へと笑いかける。忠誠心高い彼にとって、帝国を裏切る事は何よりも許せない行為であった。
「将軍大変です、デスパイザーの腕がもげましたぁ!」
「な、何!? 整備班は何をしている! さっさと取り付け直さんか!」
オペレーター兵が悲鳴に近い声を上げる。悪い笑みを浮かべていたゴルシードの表情は一変、予期せぬ事態に普段冷静沈着な彼も焦らずには居られなかった。
「しかしですね将軍、プラモデルじゃないのですからそう簡単に申されましても……」
「いいからさっさとせんかぁ!」
厳格な空気はどこへやら。格納庫(ハンガー)に中は慌てふためく整備兵たちの声で埋め尽くされる。腕をもがれた無感情の鉄神も、苦笑いを零すように虚空を見つめ続けていた。
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カラーン。コローン。
終業のチャイムがなる。起立、礼と速やかに済ませた生徒たちは早々に帰り支度を始める。僕も特に用事を待たせているわけでもなく、いつも通りに直帰する事だけを考えていた。
そんな時、ふと背筋が強張るのを感じた。何か恐ろしいものが迫るような、例えて言うなら背後からピッタリと強持てのお兄さんたちが歩み寄る感覚だろうか。この学校に不良と呼べる不良は存在しない。仮にいたとしても僕が標的にされるような因縁は無いはずだ。
「よォ、秋津君」
発条のように全身を跳ねさせた僕は、油の切れたゼンマイのようにギリギリと顔を振り向かせた。そこに居たのは、強持てのお兄さんや不良などにような野蛮な輩では無い。無いが、殺意の波動とでも言うべきか、明らかに常人のそれとは異質な空気を放つ美少女が立っていた。
「今日、ヒマだろ?」
ニィと笑みを浮かべる顔はやはり美少女。傍から見れば間違いなく仲睦まじい男女なのだろう。だがこうして相対している本人には、全身を固定されて目の前にギロチン刃をチラつかされている様に感じていた。
(うおおおお! 冗談じゃない、これは人殺しの目をしてやがる! 付いていこう物ならば何をされるか……!)
「す、済まないっ! 僕はこれから夕飯の支度をしなくちゃいけないんだッ!」
「んなもん俺んチで食っていけばいいだろ。お前に見せたいモンがあるんだよ」
み、見せたいもの……? 拷問器具か何かだろうか。これから僕を人気の無い地下牢に連れ込んでシバきあげるつもりなのだろうか。それとも、ペットと称した猛獣の檻へと放り込まれ被虐殺ショーを演じさせられるのか。
父の死でナイーブになっていたのか、僕は突飛な妄想に一人脚をガクガクと振るわせ始める。そんな僕の想像を知らない者たちは美女の誘いに緊張しているだけとでも思い込んでいるのだろう。
「はひ……な、にゃんで、僕なんでぅかぁ……」
上ずった情けない声を辛うじて放つ。少女はそんな様子など気にする事も無く、小奇麗な顔に微笑を浮かべて僕の顔へと覗き込む。
「俺はよ、ず~っと前からお前を知っていたんだぜ」
ずっと前から僕を知っている? 恐怖の中に生まれた一言は僕を正気へと戻す。彼女の言葉に、父が断末魔に零した名前を思い出す。
そうだ。『氷室博士』、父はそう言っていた。その名前が彼女の関係者なのだとすれば、彼女が僕と父の事を知っているのもおかしくは無い。
僕は怯えた目に力を込める。お前は父を知っているのか!
「ほう、いい目をしてやがる! ククッ、これは中々楽しめそうだ」
僕は美久に促されて彼女の自宅へと向かう事となった。彼女が一体何物なのか、父とはどのような関係を持っていたのか。僕が今朝まで抱いていた疑心は既に無く、彼女らと父に何らかの関係性があることを確信していた。
「な、何であんな目立たないやつが標的にされているんだ! 哀れ秋津よ……お前の犠牲は無駄にはせんぞ!」
「な、何であんな目立たないやつが美久様に気に入られているんだ! おのれ秋津よ、美久様にあんな事やこんな事をしてもらうつもりだな! 絶対に許せんぞ!」
彼女の素性を知るクラスメイトと知らない他教室の生徒たちは、二人の背を影から除きながら両極端な感想を零していた。勿論、そんな事などマサキと美久が知るはずも無かった。
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彼女に連れられたそこは趣き溢れるレンガ造りの洋館だった。彼女の家はお金持ちなのだろうか。のん気にそのような事を考えていると彼女が「こっちだ」と玄関とは異なるほうへと歩いて行く。先ほど想像していた光景を思い出し、僕は肝が冷える感覚を覚えた。
案の定と言うべきか、彼女は屋敷の暗がりへと立つとレンガ造りの壁の一つを押し込んだ。岩石が擦れるざらりとした音と共に目の前に地下への通路が開かれる。どのような仕掛けになっているかは分からないが今はそんな事などどうでも良い。
こいつ、地下へ連れ込んで拷問する気だ!!
「な、何だこれは! 僕に何をするつもりだ!?」
「……オイオイ、何を勘違いしてるかは知らないが落ち着けよ。お前が妙な気を起こさない限り俺から何か手を出す事はしねぇよ」
妙な気ってなんだよ。起こそうとしてるのはお前だろう! 力いっぱい叫んでやりたかったが彼女の威圧的な眼差しが僕の判断を鈍らせる。恐ろしい。僕はたった一人の少女に為すすべも無かった。
明かりの無い足元を転ばないように慎重に進んでいくと、次第に外とは異なる人工的な明かりが見え始めた。光が降り注ぐそこへつま先を着けた僕は、目に飛び込んで来た乗り物に目を見開いた。
「さぁ、乗れよ。心配なんか要らねぇよ。俺も一緒だ」
現代でも普及が進んでいないモノレール型の乗り物がこのような地下空間に存在するとは。ミニカー程の大きさの車両は二人乗車するのがやっとだ。どう考えても個人用の乗り物だが、それでもこれだけの設備を有しているとは、彼女は一体何物なのだろうか。
一瞬の振動と共に、ほぼ無音で進み始める車両。先の見えないトンネル内は道を指し示す誘導灯以外の他に認識できる物がない。さしずめ冥府へと攫われるペルセポネーの様な心持だ。残念ながら拉致目的は歪んだ愛だとも言えるが……。
「向こうじゃ親父がお待ちかねだぜ」
「親父……? 君のお父さんか」
「『氷室遼三(りょうぞう)博士』。俺の養父さ。お前の父親、昔俺の親父の助手をしていたらしいぜ」
やはり僕の予感は正しかったようだ。父さんが今際の際に言い残した『氷室博士』と言うのは彼女の父親だったようだ。しかし、彼女は今養父と言っていた。どうやら彼女も複雑な家庭状況に生まれたらしい。
握る手に力が入る。これから対面するのだ。僕の貧しくも満ちた幸せを奪ったかも知れない、その人物と!
僕らを乗せた乗り物は出発した場所と瓜二つなホームへと到着した。美久の後を追う様に長い階段を上っていく。先ほどとは異なり、通路には眩いばかりの明かりが並ぶ。
光をさえぎろうと腕を前に影を作る。美久は眩しくないのだろうか、ふとそう思った僕は無心で上を見上げて(・・・・)しまった。
(ウオオ! じ、純白っ!)
決して、そのようなやましい思いがあった訳ではない。完全に失念していた。彼女の衣服は学校の制服であり、女子生徒がスカートの着用を義務付けられている。花園に咲いた禁断の華は、白かった。
「何見てるんだテメェ!」
「ぐええー!」
ただならぬ(・・・・・)気配を察したのであろう、彼女は振り返ると同時に僕を蹴り落とす。周りに掴むものが無い階段の上を一直線に後転で滑り落ちる僕は、美久の女の子らしい恥じらいに気付く事は無かった。
⊃天⊂ ⊃天⊂ ⊃天⊂ ⊃天⊂ ⊃天⊂ ⊃天⊂ ⊃天⊂ ⊃天⊂ ⊃天⊂ ⊃天⊂
全身を傷だらけにした僕は、再び美久に付き従うようにある扉の前へと案内された。
「親父、俺だ。息子を連れてきたぜ」
『……入れ』
扉の隅に取り付けられた装置からは年老いた男の声が聞こえてきた。おそらくこの中に美久の父親が、僕の父を苦しめた元凶がいる。不安がる顔を無理やり引き締める。相手に飲まれるな、決して弱気を見せてはならない!
果たして、自動扉が開かれたそこに彼は居た。
目元の特徴的なバイザーは後頭部までぐるりと覆っている。白き外套(マント)に全身を包むその姿は、漫画に出てくる悪役にしか思えない。どこからか響くモーター音は異様な雰囲気を十二分に引き立てている。
……のだが、僕はその珍奇な格好などよりも、彼が立つ傍にある円錐台にどうしても目が入ってしまう。僕に別段そのような趣味があるわけでも無いし、かといって無関心と言うほどでもない。
だがしかし、そう言った類の問題では無いのだ。言うなれば「何故そこにそんな物が」と言う呆れであろうか。彼の愛用するであろう机の上は、日本のアニメに登場する美少女のフィギュアが所狭しと並べられていた。
「ようこそ秋津くん、待っていたよ。私が氷室だ……フヒヒ」
「は、はじめまして」
僕は思わず眉をしかめてしまった。よくよく見返してみると彼の格好はまさにコスプレイヤーのそれだ。僕の知る者では無いがきっと何かしらのキャラクターの衣装だろう。
彼との自己紹介を済ませた僕は拍子抜けし、それと同時についつい部屋中を見回してしまった。床材に使用されたリノリウムは本来であればワックスが清潔感溢れる光沢を見せるのだろう。だがそこに乱雑に敷かれた美少女キャラクターマットは足踏するのを躊躇わせる。コンクリートの壁に打ち込まれた巨大なタペストリーでは美少女が艶かしい肉体を惜しげもなく披露し、部屋にのさばるDVDケースは美少女ゲームのタイトルばかりだ。
どうやら僕はある意味拷問以上の仕打ちを受けている。頭痛と眩暈がしてきた。
ビィ――――ッ。ビィ――――ッ。
突如として鳴り響くけたたましい警告音。空間の天井に設置された警光灯が不安と焦燥を駆り立てるように部屋を赤く染め上げる。
氷室博士はしかし冷静に、落ち着いた態度を崩す事無く音声で機械に指示を送る。
「……キャッチした映像を中央モニターへ!」
『了解よ! 遼ちゃん♪』
可愛らしい女の子風の機械音声が博士へに応えると、部屋に設置されていた巨大なモニターが起動する。