サイヤマンユニバースAF グレートサイヤマンVSダーク・サイヤマン 作:無敵のカイロ・レン(邪悪な願い)
全王宮を取り囲む十二本の石柱は、僅か数日にしてその数を十本へと減らしていた。
第一宇宙及びその対となる第十二宇宙は十二の宇宙の中でも極めて評価が高く、人間レベルの格付けではそれぞれツートップとして神々の間でも善き手本となる社会が形成されていたものである。
かつて開催された力の大会への出場を免除されていたことからも、全王からの信頼も厚かった。
その二つが、何者かの手によって消滅させられたのだ。
その情報は事実として各宇宙の神々にも届けられており、一同はまるで全王のように簡単に宇宙を消し去っていく存在に対して怒りと恐れを抱き、自分の手で破壊してやると息を撒きながら己の担当宇宙に厳戒態勢を敷いていた。
全王自身もお気に入りの宇宙が次々と消されている現状には表情の読み取りにくいその顔にわかりやすく苛立ちを浮かべているほどであり、大神官は一刻も早く混乱を収める為に各方面から情報収集に当たっていた。
消滅した宇宙は超ドラゴンボールに願えば元に戻せる。しかし首謀者を排除しないことには復活させたところでまた同じことが繰り返されるだけだ。
だからこそ今は、一連の事件を引き起こした人物との接触が何よりも重要だった。
──トキトキ都から時の界王神を呼びつけ、久方ぶりの面会を行ったのもそれが理由である。
大神官専用の個室に彼女とその従者を迎え入れた後、彼は向かい合って常と変わらず紳士的な態度で応対する。
「大神官様から直接お呼びが掛かるなんていつぶりでしょうか?」
「急な召集に応じてくれて感謝します、時の界王神様」
前に会った時は大人の女性の姿をしていた筈だが、今は何故か子供のような姿になっている時の界王神の姿には色々と聞きたいことがあったが……世間話を早々に切り上げると、大神官は単刀直入に用件を告げた。
「第一宇宙と第十二宇宙の消滅……それを引き起こした人物には既に見当がついているのですが、貴方にはどうか、事が起こる前の時間軸の調査についてお願いしたいのです」
彼女が管理しているトキトキ都では、この宇宙で発生したあらゆる出来事が歴史として記録されている。
そこから事件が起こるより前の記録を辿っていけば、彼が犯人として当たりをつけている「破壊神ルアリス」の居場所がわかるかもしれないと思ったのだ。
そんな大神官の申し出に対して、物分かりの良い時の界王神は神妙な顔で頷いた。
「ええ。その件について、私たちにもお伝えしたい話があります」
「流石ですね。話が早くて助かります」
時の界王神は長年トキトキ都の管理を任されてきた優秀な神である。事が事だけに、既にこちらが命じるまでもなく彼女の方でも色々と調べてくれたようだ。
そんな彼女は背後に控えていた──青みがかった灰色の髪の青年にチラリと目配せすると、青年が一枚の巻き物を広げ、大神官の前に見せた。
「これは……ここで事件が起こる直前にあった出来事ですか」
「ええ」
巻き物の上に、ホログラムのような映像がぼんやりと映し出される。
それは数日前、トキトキ都で起こった出来事である。映像の中では目の前の青年と力の大会で見覚えのある青年によく似た白服の男が、共に見覚えのある黄金の戦士となって戦いを繰り広げていた。
そしてその映像は男が繰り出した拳の一撃に目の前の青年が沈み、男が何食わぬ顔で「刻蔵庫」の中へ入っていくところで途切れた。
「先日、トキトキ都が一人の暴漢に襲われました。そして刻蔵庫から「宇宙の年表」が奪われたのです」
宇宙の重要施設であるトキトキ都が、見知らぬ戦士に襲撃される事件が起こったのである。全王の拉致と宇宙の消滅という直近の事件と比べれば流石に霞んでしまうが、間違いなくそれも重大な出来事であろう。
しかしトキトキ都の襲撃という大犯罪を犯した戦利品が「年表」というのは、大神官には少し不可解に思えた。
「宇宙の年表……確か、各宇宙の歴史を詳細に纏めた書物でしたね」
「タイムパトロール隊員の間では教材の一つとして扱われているもので、時の巻き物のような特別な力は無いのですが……もしかしたらこの度の事件、それを奪っていった暴漢と関係があるのかもしれません」
実を言うとこの男が盗んでいったという宇宙の年表は、神の間ではそれほど貴重なものではない。
記載されている情報密度こそ濃いが時の巻き物やタイムマシンのように正史に影響を及ぼすような代物ではない為、それこそ「今の宇宙の状況を、手っ取り早く理解することができる」以上の代物ではなかった。
……しかしそれを、誰が読むかで話は変わってくる。
例えば数万年ぶりに蘇った誰かが、現在の宇宙の情報について一刻も早く探りたかったとしたら。
奇しくもそれは大神官の頭にある事件の首謀者の正体について、さらに補強する情報となって結びついていた。
さらに。
「暴漢の名前はザイコー。かつて全王様によって間引きされた、第十八宇宙のサイヤ人です」
時の界王神が語ったその情報に、大神官は天を仰ぎたい気分になった。
頭と胃が痛くなるような、そんな気持ちだ。
「第十八宇宙……ですか。確かにその人物は、今回の件とは深い繋がりがありそうです」
「大変でしたよ……第十八宇宙の情報はほとんど残ってませんでしたから。私の部下のトランクス──この子が直接顔を合わせてくれたから、どうにか検索を掛けることができました」
「トランクス?」
遥か昔に消え去りし宇宙、第十八宇宙。暴漢の正体が「サイヤ人」だったというのも驚きだが、その関係者が一度に二人も現れるなど流石に偶然とは思えない。
トキトキ都を襲ったというサイヤ人「ザイコー」と交戦し、生き残って情報を届けてくれた部下の功績を時の界王神が讃えると、トランクスと呼ばれた青年は謙虚に会釈した。
神に褒められているにしてはその顔色が優れないのは、ザイコーに敗れて宇宙の年表を奪われたことを恥じているからか、それともこの全王宮の居心地が悪いからか……恐らくは両方だが、色々な意味で後者の感情が大きいのだろうと、彼の心を読み取るまでもなく大神官には概ね察することができた。
「……そうですか、貴方があの……」
「えっ?」
「いえ、何でもありません。しかし実際に戦ったと言う者がいるのでしたら、彼女の捜索が捗ります」
「彼女?」
かつて孫悟空が未来の世界から全王様を連れてきた際に、第十宇宙の北の界王ザマスが犯した蛮行については把握している。その顛末と、被害者のことも。
誰よりも神に振り回され、狂わされた人生を送ったこの青年が今、何を思って神のもとで働き、時空の秩序を守る為に尽力してくれているのかはわからない。
しかし彼の人間らしからぬその高潔な精神には、大神官としても頭が下がる思いだった。
……寧ろ彼のような存在こそが、誰よりも神に向いている気さえする。
いつになくそんな感傷を抱いてしまうのは、これから対峙することになる相手がまさに彼と同じタイプの存在だったからだろうか。
破壊神になる前の──初めて会った頃の無垢な赤髪の少女の姿を思い出しながら、今度は大神官が考えを二人に告げた。
「私が今回の首謀者だと疑っている、その者の名はルアリス。そのサイヤ人、ザイコーの出身地である第十八宇宙の破壊神を務めていた魔女です」
その名前を聞いた瞬間、時の界王神からハッと息を呑む音が聴こえた。
トランクスの表情は読み取れない。しかし度々出てくる「第十八宇宙」という現在存在しない宇宙の名前に対しては、凡その事情を察したようで、その胸中は複雑そうに見えた。
それも、無理はないだろう。
その宇宙もまた、彼のいた世界と同じく全王様の決断によって消滅の運命を辿ったのだから。
「ルアリス……そう……やはりあの子の仕業なのね」
自らの宇宙と共に消滅した筈の破壊神が、何故今も生きているのかは定かではない。
しかしもし本当に彼女が生きているのだとしたら、一連の行動は全王様への復讐としてあまりにも一貫していた。
その手口も気になるところではあるが、こちらは「消滅」という現象を引き起こしている以上、彼女が攫っていったと思われるもう一人の全王様が関係していると考えている。
「二つの宇宙の消滅は、ルアリスが全王宮から連れ去った全王様の力を使って行ったものと考えています」
「そうですね……いくら破壊神でも、一瞬で宇宙を消すことはできませんから」
尤も、全王様の力を利用するという手段の方が宇宙を破壊するよりも難度の高い手口であったが、彼女の「鎖」の効力をその目で見ていた大神官としては想定される現実的なケースとしてそう考えていた。
もしもそれが正しいとするならば、今の彼女は全王様と同じく、あらゆる宇宙を消すことが自由自在だということだ。
それは大神官さえも恐れる事態だった。
「申し上げます!」
不意にこの部屋に部下が駆けつけ、片膝を突きながら伝令に訪れたのはその時だった。
神官アンゴル。ルアリスの捜索を命じ、大神官が各宇宙の調査に送り出していた部下の一人である。
「第七宇宙にルアリスが現れましたぁ!」
「ダニィ!?」
こちらの推測通り破壊神ルアリスの生存が確認されたのは良いとして、その場所が「第七宇宙」であるということに大神官は驚きの声を上げて振り向いた。
時の界王神が目を見開き、トランクスが息を呑む。
「凄い過剰反応ですね」
「……コホン……それだけ、予想外な報告だったのです」
もちろん警戒はしていたが、第七宇宙が次の標的になったのはこちらの誤算である。
ルアリスがこれまでに消してきた宇宙は、全王様が格付けした人間レベルのツートップだった。彼に対する復讐が目的なら、一位二位と来たら次は人間レベル三位の第五宇宙と、四位の第八宇宙が狙われる可能性が高いと読んでいたのである。
故に、全王宮の戦力はそちらの警備を重点的に固めていたものだが……ルアリスが第七宇宙に現れるのは想定外だった。
……もしくは力の大会による第七宇宙の躍進を知った彼女が、あの宇宙のことを全王様の「お気に入り」に加わったと判断した可能性があるが……だとするならばトキトキ都から高度な記録媒体である「宇宙の年表」を奪われたのは、彼女の行動を読みづらくなる意味で痛手と言えた。
「早速ルアリスを征伐しに出掛けます」
「大神官様自ら!?と申します!」
「相手が本当にルアリスなら、半端な神の力は寧ろ邪魔になります。案内しなさいアンゴル」
「あららら!」
兎にも角にも今は、発見した彼女を一刻も早く排除することが先決である。大神官は天使と同じく本来中立な立場で前に出ることはないが、今回は事が事なだけに全面的に動くことに躊躇いはなかった。既に全王様からも「やっちゃえ!」と許可を得ている。
尤も……それで簡単に排除できるような容易い相手ではないということが、破壊神ルアリスという「魔女」の厄介さにある。
純粋な戦闘力勝負に持ち込むことができれば大神官の相手ではないのだが……彼女と正面切ってぶつかるには、あらゆる意味で「人間」の助力が必要だった。
「トランクスさん……と言いましたね」
「……はい」
それを見越して彼を連れてきたのだとしたら、やはりトキトキ都の時の界王神様は優秀だと大神官は頷いた。
力の大会でも獅子奮迅の活躍を見せていたあのベジータの息子であり、彼自身も神との交戦経験が豊富。その上で如何なる理不尽な運命も乗り越えてきた高潔な精神を持ち合わせているとなれば、彼以上にルアリスと対峙するのに適した人材はいなかった。
「今更どの口が、と思われるかもしれませんが……どうか私たちにご協力ください。彼女を止めるには、貴方の力が必要なのです」
「俺が、ですか?」
破壊神よりも力の劣る自分に大神官が頭を下げて助力を頼んできたことに、トランクスはキョトンと困惑の表情を浮かべる。
大神官の態度には時の界王神も驚きの反応を寄越していたが、今はそれほどの事態なのだということを、二人は即座に理解した。
「……わかりました」
「ありがとうございます。では時の界王神様、しばらく彼をお借りします」
「は、はい。どうぞどうぞ!」
部屋から出て、早速現地へと向かおうとする大神官とトランクス。
そして戦いに協力することができない時の界王神は、言葉少なく応じた部下に対してその背中に呼びかけた。
「トランクス……気を確かにね」
「……わかっています」
心ここに在らずというほどではないが、思い詰めた様子の彼に感じることがあったのだろう。それを指摘することができる程度には二人が良い信頼関係を結んでいることを、大神官は嬉しくもあり、羨ましくも思った。
──そうして神官アンゴルによる案内のもと、破壊神ルアリスの目撃現場へと急行した二人は、無惨にも粉々にされた破壊神ビルスの星の姿を見つけるのだった。
ブロリーやバーダックが良い奴な世界もあるなら
アンゴルが無駄に偉そうな地位についてる世界があってもいいと申します!