サイヤマンユニバースAF グレートサイヤマンVSダーク・サイヤマン 作:無敵のカイロ・レン(邪悪な願い)
──グレートサイヤマンの正体は、孫悟飯である。
……知っている者たちからしてみれば何を今更という話であるが、意外にもその真実を知っている者の数はあまり多くない。かつて開催された天下一武道会では不可抗力もあり孫悟飯が自ら正体を晒す一幕があったものだが、当時は彼の正体が広まることを気遣ったピッコロの親切心──と調子に乗っていたミスター・サタンへの戒めによりテレビ局を含む全てのカメラを破壊された為、幸いにも彼の正体が世界中の人々に広まる事態にはならなかったのである。
会場にいた人々も直後のベジータや魔人ブウなどの騒動でグレートサイヤマンの正体どころではなくなった為、その後もみだりに情報が拡散することはなかった。その点に関して言えば、かつての事件はスクール時代の悟飯にとって都合良く働いていたのだ。……凄まじく不謹慎な話になるが。
そういうわけで今でもグレートサイヤマン=孫悟飯の真実が頭の中で結びついている者は、家族を含む身内以外にはハイスクール時代の旧友ほか一部の者たちだけとなっていた。
「悪は絶対許さない! 正義の味方、元祖グレートサイヤマン参上ッ! とうっ!」
──だからこそ孫悟飯は、必要とあらば今でもヘルメットとコスチュームを纏い、町の悪を砕くグレートサイヤマンとして今日もサタンシティの平和を守るのだ!
「あ、貴方はグレートサイヤマン!」
「ここは私が引き受ける! 君たちは安全な場所へ逃げるんだ!」
「凄い……噂通りの、凄いダサさだ!」
「早く逃げるんだぁー!!」
「は、ハイッ!」
「よく見たら素敵なデザインでした!」
なんだか懐かしいなこのリアクション……と、ヘルメットの裏でそう思いながら孫悟飯はこの日、朝っぱらから銀行強盗に勤しむゴロツキたちを成敗する為、空の彼方から参上していた。
そんなことをしているからもちろん、彼の出勤時間は大ピンチである。
学生時代には多少時間に遅れても融通が利いたが、立派な社会人となった今となっては遅刻は割と洒落にならない問題である。しかしそれでもなお孫悟飯という男は困っている人を見かけたら損得勘定抜きに助けずにはいられない性分であり、生まれついての善性の持ち主だった。
しかし──最近のサタンシティは、妙に治安が悪い。
今週の朝だけでも、彼が対処した事件はこれで五件目になる。彼は出勤の際、ほとんど毎朝小悪党たちの悪事に出会していた。
ハイスクール時代のサタンシティもまた、お世辞にも治安が良い方とは言えない町だったが、それでもここ数年はある程度落ち着いていた筈なのだ。
それには魔人ブウとの戦いで一度地球人類がサタン以外絶滅した後、ベジータの機転により「魔導師バビディが地球に来てから死んだ者たちを生き返らせてくれ。うんと悪い奴を除いて」とナメック星のドラゴンボールに願った結果、ポルンガ基準ではあるが本当にどうしようもない人間が地球からいなくなったのが影響していたのだろう。
悟飯がグレートサイヤマンとして出動する機会が以前より減ったのは、彼自身が結婚や子育て、仕事に忙しかったのが一番の理由であるが、そもそもの話として町自体の犯罪件数が減っていたからというのがあった。
──それが今になって、再び悪事を働く人間が増えている。
考えられる要因の一つとしては迫る天下一武道会への賑わいに浮ついた者たちが羽目を外しすぎた、というのがあるのかもしれないが、その理屈だけでは考えられない異常事態が現在この町を襲っていた。
「おうおうグレートサイヤマンさんよォ! 今は覆面ヒーローと言えばキャプテン・チキンの時代だぜ!?」
「時代遅れのコスプレ野郎には引導を渡してやるぜ! 俺たちがニューヒーローだギャハハハ!」
「む……」
過去にも数々の悪党を打ちのめしてきたサタンシティのヒーロー、グレートサイヤマンを前にしても強盗たちには全く臆する気配が無い。
それは彼らがよほど、自分たちの力に自信があるからだろう。確かに彼ら三人の強盗団の体格は良く、サイヤマンよりも筋肉質に見えた。
そんな彼らは武器を持たずして、自らの拳を以て威勢良くグレートサイヤマンへと掴みかかってきた。
そのスピードは──速い。
──そう、速かったのだ。一般的な地球人の中で比較すれば、異常なまでに。
具体的に言えば悟飯の妻であるビーデルに匹敵するスピードとパワーである。ケチな銀行強盗にしておくには惜しいとすら感じる、彼らの戦闘力だった。
「せい!」
「ガッ!?」
最初に飛びかかってきた男のパンチを必要最小限の動きでかわしながら、悟飯はすれ違い様にその首筋へ手刀を入れる。
もちろん最大限の手加減はしているが、何をされたのかわからぬまま気絶していくその男の皮膚から感じた手応えは、一般人にしては妙に固い気がした。
「よくもアニキをヤッたなー!」
強盗たちの中で一番体格の良かった男が一瞬にして倒されたことで、激昂したロン毛の男がこちらも素手で挑んでくる。その男は「俺は蹴撃のケリーマン! 俺の神速流星脚から逃れられた奴はいねぇ! グレートサイヤマン! 今日が貴様の最期だァーッ!!」と無駄に濃いキャラ付けをしながら飛び上がって蹴りの連打を繰り出してきたが──悟飯はそれを正面から潜り抜けると、彼の顔面を軽いノックのような裏拳で打ち抜いていった。
「ぐふっ……!?」
「無意味に飛び上がるのよくないよ。隙だらけになるから」
別に彼の蹴りなど喰らっても痛くはなかったのが、あまりにも隙だらけだったのでついでにその技の弱点を指摘してやりながら昏倒させていく。
「ヒャハハハッ! お前こそ隙だらけだぜ!」
そんな悟飯の背後へと最後の一人が回り込み、首筋目掛けて手刀を振り下ろしてきた。見た目はいかにも毒を塗った短剣でも舐めていそうなイかれたモヒカン男だったが、こちらも武器は自らの拳である。
「甘い!」
「ドアラッ!?」
もちろん最初から彼の気配に気づいていた悟飯に不意打ちとして機能することはなく、彼の手刀が到達するよりも速く、悟飯が振り向き様に放った手加減アッパーが彼の顎をかち上げ、一発でノックアウトさせていった。
これで三人全員の制圧が完了。一部始終を見ていた銀行職員たちはヒーローの圧倒的活躍に対して盛大な拍手と熱い賞賛を贈呈してくれた。
「すっげーこれがグレートサイヤマンかー!」
「速すぎて何をしてるのか見えなかったわ!」
ヒーローとしての行動に見返りを求めたことはないが、町の人々から賞賛を受けるのは素直に嬉しい。大人になってた悟飯の中でも子供らしく高揚する気持ちは今でも残っており、グレートサイヤマンとしてしばらくその余韻に浸りたい気持ちもあった。
しかし、グレートサイヤマンは孫悟飯である。それ故に、長居は無用だった。
「警察にはよろしく言っておいてくれ! では諸君、さらばだ!」
「ありがとう、グレートサイヤマン!」
「悟飯さん、今日はお仕事遅れないでくださいねー!」
「……さらばだー!」
グレートサイヤマンの正体は、世間一般にはそれほど広まっていない。
しかし誰も知らないわけではない為、知っている人は知っている奇妙な情報網が形成されていた。
出動時間が危険域に差し掛かっていた悟飯は逃げるようにその場から飛び立つと、この日予定していた講義の場所へと飛翔していった。
そして飛びながら、呟く。「今日の相手も妙に強かったな……」と。
根本的に強さのレベルが違う悟飯が、彼らに対して遅れを取ることは無い。
しかしこの頃また対峙することが多くなってきたサタンシティの小悪党たちから感じる「気」が誰も彼も異様に強くなっていることを、悟飯は不審に思っていたのだ。
先ほど彼らの戦闘力をビーデル並みだと思ったが、しかし彼らの拳や蹴りからは彼女のように武道家として真面目に鍛えた形跡を一切感じなかった。その身に宿る「気」を全くコントロールできておらず、誰も彼も力と技のバランスがチグハグ過ぎた。
しかしそんな小悪党たちの力でも、大多数の一般人たちからしてみれば馬鹿にならない脅威である。
そのテレフォンパンチはコンクリートだって貫けるし、拙いフォームで走る速さは車の法定速度をも上回る。だからこそ彼らのような存在は銃やナイフと言った武器を必要とせず、今朝のように素手で大胆な犯行に及ぶことができたのであろう。
「彼らだけじゃない……サタンシティに住んでる人たち全員の気が一斉に強くなってるんだ。……なんか、サタンお義父さんまで強くなってたし……」
不可解な事象である。
サタンシティの、力の無い人々に起こった異変はこれまで地球を守ってきた戦士にとっては影響を感じにくいものであり、それ故にこれまでは対して重要視していなかった。
しかし何度かその異常が発現した者たちと対峙していく度に、悟飯は彼らの力から違和感を感じていた。
それは、いわゆる一つの既視感のようなものだった。
自分でも上手く引き出しきれていない力の発現──その現象には何より、彼自身が当事者として覚えがあったのだ。
脳裏に思い浮かんだのは他人の潜在能力を引き出すナメック星の最長老様と、老界王神様の力だった。
まさかそんなことないだろう、と……過った思考を笑い飛ばした次の瞬間、それは起こった。
──空の端に黄金の光が煌めくと、突如として飛来してきた「何か」が飛行中のグレートサイヤマンと衝突し、彼の身体を地面へと墜落させていったのである。
「……っ、なんだ……!?」
あまりにも唐突だった為に、避けることも防ぐこともできない一撃だった。
いや、それだけではない。
視界に亀裂が走り、僅かにぼやける。その一撃にグレートサイヤマンのヘルメットが砕かれ、軽い脳震盪を起こしたのである。
効いている……何者かに攻撃されたのだと理解した頃になって初めて、悟飯はその人物の「気」を感知することができた。
「ス……スーパーサイヤ人……?」
それは彼にとって馴染みのある、超サイヤ人特有の「気」だった。
脳震盪から復帰した悟飯は砕けたヘルメットを取り外すと、空を振り仰いでその人物の姿を視界に捉えた。
──黄金色に逆立った髪は、やはり超サイヤ人の姿だった。
しかしそれは悟飯の知るサイヤ人たちの特徴とは、いずれも合致していなかった。
まだ内なる力を解放していない為、その戦闘力の程は定かではない。
だがそれでも、先ほど喰らった彼の蹴りは悟飯の意識を一瞬で「戦士」に変える危機感を抱かせていた。
「誰だ? 悟天でもトランクスでもお父さんでも、ベジータさんでもない……お前は……」
表情が確認できる高さまでゆっくりと降下してきたその男は、腕を組みながらその翡翠色の目で立ち上がった悟飯の姿を見下ろす。
その目の色と黄金色の髪はまさしく超サイヤ人の特徴であり、目元には歴戦の戦士であることが窺える一筋の傷痕が刻まれている。
身長や体格は自分と同じぐらいであり──そんな彼は、悟飯の質問に不敵な笑みを浮かべて答えた。
「俺か? 俺はお前だよ、孫悟飯」
「何……?」
要領を得ない、その返答。
困惑する悟飯の姿を不躾な視線で眺め、感情の読み取れない声で呟く。
「それが噂のグレートサイヤマンか……コスチュームのセンスは悪くない。悲しいほど腑抜けているのが残念だが」
正義の味方グレートサイヤマンのコスチュームに対して意外にも好感触の反応を見せた彼は、しかし身構えた悟飯の姿を見てその目に失望の感情を宿す。
いきなり攻撃してきた上に好き勝手に批評してきた彼に対しては温厚な悟飯も少しイラッと来たが、感情を言動に起こすよりも先に彼は自らの名前と、その目的を告げた。
「俺の名はザイコー。お前を試しに来た」
「──ッ!? なっ……」
ほんの、一片。
ザイコーと名乗った男が内なる「気」を軽く解放しただけで、悟飯はまるでこの世界が割れていくような錯覚を覚えた。
彼の姿は依然超サイヤ人のままだ。2でも3でもゴッドでも、ゴッドの力を宿したブルーでもない。
しかし解放されたエナジーは、明らかに普通の超サイヤ人のそれではなかった。
今まで感じたことの無い身震いするような何か、とてつもない「気」の発動に悟飯は言葉を失う。
そんな彼に手招きしながら、ザイコーは言った。
「さあ、力を見せろ孫悟飯。お前も自分自身の神と巡り会えたのだろう? 親父殿やベジータのように、俺をがっかりさせるな」
グレートサイヤマン史上最大の戦いが、今始まる──。
ようやく主役登場です
本作のフォーマットは大体例の映画です……はい……