サイヤマンユニバースAF グレートサイヤマンVSダーク・サイヤマン 作:無敵のカイロ・レン(邪悪な願い)
「ザイコーは……悟飯さんなのですか?」
数日前のことである。
トランクスはトキトキ都で襲撃者の調査を終えた時の界王神に対して、神妙な態度でそう訊ねた。
自分と同じ超サイヤ人であり、「彼」と同じ目をしていた謎の男。その人物の素性が今は存在しない「第十八宇宙のサイヤ人」であり、「ザイコー」と名乗っていた事実が明らかになった際、トランクスは自分でも何を言っているのかと思うような質問を投げ掛けたのである。
重苦しい空気に包まれた刻蔵庫の中で、時の界王神は数拍の間を置いて答えた。
「ええ……そうよ」
「……!」
トランクスの事情を知る者として、彼女は答え辛そうな顔をしながらも、肯定を返したのである。
トキトキ都で謎のサイヤ人ザイコーと対峙し、動揺を突かれた形で敗れてしまった今のトランクスの心には、彼の正体に対する疑念が延々と付き纏っていた。
思い出すのは、彼との対峙である。
雰囲気は刺々しく、こちらに向けてきた眼差しも酷く冷たかったが……ザイコーから感じた既視感は確かに、彼の師匠である孫悟飯そのものだったのだ。
しかし時の界王神が掴んだ情報によると、彼の正体は見知らぬ第十八宇宙のサイヤ人だと言う。
「どういうことなんですか……? 第十八宇宙とは、一体……」
「第十八宇宙──と言うよりも、十三から十八の宇宙は成り立ちからしてかなり特殊なのよね。言葉ではちょっと説明しにくいんだけど……」
そもそもの話として、世界に十八番目の宇宙があることなど聞いたことが無い。
初手から前提の知識を覆すようなその存在に困惑を隠せないトランクスに対しては、他でもない時の界王神自身も難しそうな顔で語っていたものである。
「そうね……貴方たちの住む十二の宇宙は、それぞれの数字の和が十三になる宇宙が対の関係になっているのは知っているわよね?」
「はい」
「その法則通り、十三から上の数字の宇宙には、対となる宇宙が無い。それは何故かと言うと、六つの宇宙は元々存在しなかった後発の宇宙だからなのよ」
「存在しなかった……?」
今の宇宙は全部で十二個となっているが、かつては全部で十八個あったと言う。今ではもう存在していない六つの宇宙──その概要を、時の界王神が一言で言い表す。
「可能性の宇宙……かつて、六つの宇宙はそう呼ばれていたわ」
「可能性の……よく、わかりません……」
「まあ、そりゃそうよね」
……要領を得ないその言葉に沈黙を返したトランクスの様子に苦笑しながら、彼女はわかりやすい表現に言い換えて説明する。
この辺りの配慮の良さや面倒見の良さは、ある意味神様らしくない彼女の美点と言えた。
「例えるなら、「タイムパラドックスが発生した時に発生する別の未来」に近いのかもしれないわね。悟空君たちのいる今の第七宇宙みたいに」
タイムパトロール隊員として、何よりトランクス自身としても身に覚えのある知識を例えに使ったことで、彼にも何となくだがその宇宙の成り立ちについて理解することができた。
「パラレルワールドが、独立した宇宙として成立した宇宙……ということでしょうか?」
「厳密にはそうじゃなかったりするんだけど……まあ、貴方にはそういう認識が一番わかりやすいかしらね」
元からあったわけではなく、後から発生した宇宙。
それはタイムマシンによって分岐するIFの世界と似た性質を持っていた特殊な宇宙であると、時の界王神は続けた。
「さっきは十三から上の宇宙には対となる宇宙が無いと言ったけど、言いようによっては十二の宇宙全てと対になっているとも言えるわね。第一から第十二宇宙のあらゆる可能性から成り立っていて……第十八宇宙には、地球や惑星ベジータもあったみたい」
「……じゃあ本当に、第七宇宙とよく似た宇宙なんですね」
その話を聞いたことで、トランクスはようやくザイコーと孫悟飯の関係について話が見えてきた気がした。
「残っていた資料は少ないけど……記録されていた歴史も大部分が一致していたわ」
第十八宇宙にも地球があって、サイヤ人がいて、色々な戦いがあった。
辿ってきた歴史が同じであるならば、巡る因果もまた等しい。そこに住んでいた人間もまた、共通するのが道理だった。
「……だからザイコーは、孫悟飯さんだと?」
「彼に相当する存在だったのは、間違いないわ。父は地球育ちのサイヤ人カカロットで、地球に現れたあらゆる脅威と戦っていた……驚いたわよ。彼の辿った人生は、ザイコーを名乗り始めるある時期まではほとんど貴方の知る孫悟飯君そのものだったから。悟空君が病死した正史の悟飯君の、ね……」
「…………」
故に、ザイコーは孫悟飯なのかという最初の問いは、YESでもありNOとも言えた。
彼の正体は「第十八宇宙の孫悟飯」という意味では正しいが、トランクスが未来の世界で兄のように慕い、師匠として導いてくれた「あの」孫悟飯ではないからだ。
そこにほんの少しばかりの安心と……落胆を感じてしまったのが、否定しきれないこの時のトランクスの心情だった。
しかし、彼もまた孫悟飯だと言うのなら、抱えて当然の疑問がまだ残っている。
此度のトキトキ都への襲撃。
何より冷酷無比にすら見えたあの冷たい眼差しは、たとえ宇宙が違えども「孫悟飯」がするものとは思えなかったのだ。彼がトランクスのよく知る彼と、同じ人生を歩んできたなら尚更である。
その疑問を口にするよりも早く、時の界王神が真相の続きを語った。
「だけど彼の場合は、悟空君が死んだ辺りから大きく変わったわ。まず彼は、人造人間との戦いに生き残った」
「……え」
トランクスのいた世界では未来への希望を少年に託し、単身で二人の人造人間に挑み散っていった英雄。孫悟飯という男の存在は、その後の彼の人生にも計り知れない影響を与えてきたものだ。
しかし第十八宇宙の孫悟飯に相当する地球生まれのサイヤ人、ザイコーはトランクスの知る彼と同じ運命を辿ることはなかったのである。
可能性の宇宙──最初に時の界王神が語ったその表現がこれ以上無く的確であったことを、トランクスは知ることとなる。
──コイツ、誰なんだ!?
突如として襲い掛かってきた襲撃者、「ザイコー」を名乗る
今の悟飯は彼と同じ超サイヤ人の姿に変身して応戦しているが、一見互角に打ち合っているように見えて彼自身の感触としては完全に圧倒されていた。
先ほどから攻勢に出ている筈なのに、こちらの攻撃が何一つとして通用していないのだ。
パンチもキックも気功波も、その全てが真っ正面から軽々といなされ、返す反撃でこちらは着実にダメージを与えられている。
力だけではなく卓越したバトルセンスと豊富な戦闘経験の程が窺える確かな技巧は、まるで父である孫悟空と組み稽古をしているような感覚だった。
その上で、彼は先ほどから全く本気を出していない。
繰り出される反撃は意図して手加減されたものであることが読み取れ、様子見と言うよりも何か、こちらの実力を試しているようにすら感じる。
そんな攻防の中で悟飯が抱いていた感情は、これほどの実力を持った正体不明の超サイヤ人に対する困惑だった。
ブロリーのように人知れず生き残っていたサイヤ人──にしては、若い気がする。
ならば第六宇宙からやって来たサイヤ人──にしては、雰囲気が苛烈に過ぎる。その殺伐としたオーラは、キャベたちには無いものだった。
そう言った印象を抱いた悟飯は彼が言った「俺はお前だ」という言葉が脳裏に過ぎり、怪訝に眉を顰める。
そんな彼の頬を、白装束の超サイヤ人が打ち抜いた。
「っ! ぐっ……」
「戦いに集中しろ。お前の本質はその内に秘めた野性だ。闘争本能だ。インテリを気取っても所詮お前はあの親の子供なのだ。そうだろう? 孫悟飯」
「……随分、詳しいじゃないか……!」
気付けにしてはキツい一撃を貰った悟飯は空中でバックステップを踏みながら距離を取ると、呼吸を整えて敵の姿を見据える。
対するザイコーは息一つ乱しておらず、やはり本気を出していないのは明白だった。
こちらのことを全てを見透かしたような眼差しに少しだけ苛立ちを感じた悟飯に対して、彼はボソリと呟くような声で返す。
「詳しいさ、誰よりも」
瞬間、彼の姿が視界から掻き消える。
「!?」
背後から衝撃。
蹴り上げられたのだ。反応できないほどの速さで。
体勢を整え、急いで背後へ振り向くがそこに敵の姿は無く、今度は左から側頭部に拳の一突きを浴びせられた。
「ツ……!」
「危機感が無いんだよ、お前も」
「な、に……?」
「ああ、お前の親父もそうだったな。この世界の
次の一撃を食らうまいと油断なく防御の構えを取る悟飯。
そんな彼に対してザイコーは高速移動を止めて自ら姿を現すと、一言忠告するように告げた。
「だから奴もこの俺に、あっさりと殺された」
「ッ!?」
悟飯がその言葉の意味を理解するよりも速く──凄まじい「気」の圧力が彼の身体を吹き飛ばし、地面を貫く勢いで墜落させていった。
気合砲。「気」の力で発する技としては基本的な攻撃の一つであったが、彼が軽々しく放ったその威力はあまりにも絶大だった。
おびただしい土煙を上げて撃ち落とされた悟飯に向かって、ザイコーは心底つまらなさそうな顔で呟いた。
「これでも本気を出せないのなら、そんなヒーロー……俺がこの手で消してやるよ」
おもむろに振り上げた右手のひらに、直径五十メートルにも及ぶ巨大なエネルギーボールを生成する。
地表にぶつければ、この地球は跡形も無く消滅することになるだろうその一撃。まるで空き缶をゴミ箱に放り捨てるような要領で、ザイコーは悟飯の沈んでいったクレーターの中にそれを落としていった。
空から地へと、黄金の光がゆっくりと流れていく。何の躊躇いも無くこの星ごと敵を消し去ろうとするその眼差しには、失望以外の何も映していなかった。
──そんな彼の翡翠色の瞳にほんの僅かな期待と喜びが浮かんだのは、地上に目掛けて放ったエネルギーボールの軌道が変わり始めた時のことだった。
地表に到達し、今か今かとこの星を焼き尽くそうとしていたザイコーのエネルギーボール。それに対してクレーターの中から閃いた一条の光が徐々に、徐々に空へと押し返してきたのである。
やがて閃光は青白い光として視認できるようになり、最終的にはエネルギーボールを貫通しながらザイコーの身へと襲い掛かってきた。
それに対してザイコーは、僅かに唇の端を吊り上げて応じた。
「やっと戦う気になったか、グレートサイヤマン」
そうでなくてはつまらん、と──ザイコーは襲い来るその一撃、孫悟飯の「かめはめ波」を宇宙の彼方へと弾き飛ばしながら呟く。
そんな彼の翡翠色の眼差しの先には、先ほどまで戦っていた黄金色の戦士ではなく、黒髪を逆立たせながら白いオーラに青白い稲妻を奔らせた新しい孫悟飯の姿があった。
老界王神によって引き出された、限界を超える
潜在能力を解放した孫悟飯が、鋭い眼光に先ほどまでは見せていなかった明確な敵意を宿して、ザイコーの姿を睨んでいた。
「お前……冗談でも済まされないぞ、それは」
今度は彼の方が忠告するように言ってきたその言葉は、先ほどザイコーが行った二つの振る舞いに対しての発言である。
一つは、自分のことをこの地球諸共消し去ろうとしたこと。
そしてもう一つは──「
彼の怒りの視線を受けながら、ザイコーはどこ吹く風と言った様子で表情一つ変えずに言い返す。
肩を竦めながら、嘲るように。
「なんだ、お前にとってこの星はそんなに大切だったのか。お前の技には全く気迫を感じないから、てっきりどうでも良いのかと思っていたよ」
「……なに?」
煽るような態度で、ザイコーは悟飯を見下ろして続ける。
「だってそうだろう? それほどの潜在能力を持っていながら、自分では何一つ磨き上げようとしないのだから。お前には守る者なんて無いから、何度世界の危機を経験してもそうやって怠惰でいられる」
お気楽なもんだな。ヒーローを気取っているが、お前は本当は、家族のことも仲間のことも、この星の平和さえどうでもいいと思ってるだろ?──そう続けようとしたザイコーの言葉は、途中で遮られた。
──その黒い瞳に怒りの炎を宿した孫悟飯の拳が、彼の頬を打ち抜いたからである。
「お前が僕の何を知っているのか知らないけど……余計なお世話だ!」
戦士としての本能に火を点けた悟飯の姿に、ザイコーは痛みの中で微笑みを浮かべた。
「孫悟飯……我ながら、扱いやすい男だ」
ペッと自らの血を吐き出しながら、ザイコーは黄金色のオーラを表出して構え直す。
地球を覆う青空の彼方で、究極の戦士と黄金の戦士による第二ラウンドが幕を開けた。
悟飯が本当に不良になる二次創作って昔は結構多かった気がします
ダーク・サイヤマンはいつの間にかクズロットネタにシフトしていった何とも言えない感情をコントロールできない……