サイヤマンユニバースAF グレートサイヤマンVSダーク・サイヤマン 作:無敵のカイロ・レン(邪悪な願い)
光をも超える速さで蒼穹を疾走していく二つの影。
それは、この星で激闘を繰り広げている二人の戦士の姿だった。
黒髪の戦士は孫悟飯。
黄金色の髪の戦士はザイコー。
二人は何度目になるかもわからない数の拳をぶつけ合い、引きつ離れつの交錯をダンスのように鮮やかに、時に荒々しく繰り返していた。
拳の先から伝わってくる痺れが、一瞬でも判断を誤れば一気にやられかねない緊張感を与えてくる。
そんな怒涛の攻防の中で、悟飯は改めて目の当たりにした敵の実力に驚嘆の声を漏らした。
「押し切れない……なんて奴だ。普通の
今の悟飯は自らが隠し持っていた潜在能力を限界以上まで引き出した究極の力を以て戦っている。
そのパワーアップの幅は超サイヤ人よりも遙かに高く、間違いなく戦士として一つの到達点を体現していた。
しかしそんな彼を相手にして互角の戦いを繰り広げているザイコーは、未だ黄金色の姿のまま何の変化も見せていない。
そのオーラに稲妻も奔っていなければ、髪が長くなってもいない。感じ取れる「気」の性質も人間のままであり、クリアな神の気でもなければ赤くも青くもなっていなかった。
今のザイコーは派生形態でもさらなる強化形態でもなく、あくまでも基本的な「
その事実に焦りを感じる悟飯に対して、黄金色のオーラを纏ったザイコーが返す。
「この力を自ら手放したお前に、あたかも超サイヤ人が格下の変身のように言われるのは心外だな。そもそも超サイヤ人の変身は、己の限界を超える為に必要な一つのきっかけに過ぎない」
悟飯の突き出した拳を左腕で受け流したザイコーが、お返しとばかりに右手の拳を振り抜き、悟飯の身体を吹っ飛ばしていく。
追撃に放った気功波を紙一重でかわした悟飯が、背後に回り込んで蹴りを放つ。
その蹴りを必要最小限の動作でヒラリと回避したザイコーが、カウンターの裏拳を悟飯に浴びせた。
そんな彼の攻撃を左手で押さえ込むように受け止めた悟飯に対して、即座に振り向きざまの回し蹴りが襲い、痛烈な一閃がダメージとして蓄積されていった。
「くっ……」
「俺の超サイヤ人には、限界の壁なんてものは無いんだよ。だから2も3も赤も青も、俺にとってはなる必要の無い無駄なバリエーションに過ぎない」
「……なるほど、僕のコレと、似たようなもんか!」
彼の語った自らの超サイヤ人の講釈は、悟飯にとっては納得できるものだった。
彼が普通の超サイヤ人の姿で戦っているのはあくまでもそれが彼にとってベストな姿だからという理由であり、今の悟飯自身もまた、同じような理由でそれ以上の変身をする必要が無い姿をしていたからだ。
すなわち、ザイコーにとっては普通の超サイヤ人こそが究極の姿であり、到達点だったのである。
それは「これ以上彼が変身してパワーアップすることはない」という意味で解釈すれば安心材料であったが──同時に彼が今までの自分の理解を超えた得体の知れない力を持っているという事実でもあった。
パワーアップの為の変身がそれ以上必要無いということは、変身によるエネルギーの消費や肉体への負荷も限りなく薄いということでもある。
手堅く、戦士として純粋に強い。その戦闘スタイルはやはり、悟飯の父である孫悟空に通ずるものがあった。
そんな感想を抱いた悟飯に対して、しかしザイコーは冷徹に告げた。
「いいや、違う。俺こそが、真の超サイヤ人なのだ」
「!」
緩急つけたフェイントで悟飯のハンマーパンチをかわしながら、横合いから殴りつけ、続く二撃目で蹴り上げてくる。
空高く打ち上げた悟飯の姿を見据えながら、彼はその両手のひらをおもむろに開くと、手首同士を合わせるような構えを懐の前で取った。
「くっ……なっ!?」
急いで体勢を整えた悟飯は、その構えを見て目を見開く。
それは彼を含む地球の戦士たちにとっては、あまりにも馴染み深すぎる構えだったのだ。
「……俺たち二人が作り上げてきた力が、その程度で終わるものか」
ボソリとザイコーがそう呟いた瞬間、彼の両手のひらの間に青白い光が唸りを上げて凝縮していく。
かつては武術の神と謳われた亀仙人こと武天老師が編み出し、数々の弟子に継承された今では悟飯の父孫悟空の代名詞とも言えるその技は──
「アタック・ビーム!」
手のひらに凝縮された潜在エネルギーは暴力的な光の波動として解き放たれ、驚愕する悟飯の身を目掛けて一直線に迸っていく。
光が通り過ぎていった場所には、星の欠片すらも残らない。
圧倒的なエネルギーの奔流が一瞬にして地球から遠ざかっていくと、その光の照射を終えたザイコーが無機質な翡翠色の瞳で空を見上げた。
孫悟飯は──まだ、健在だった。
受け止めれば彼自身はおろか、その爆発で地球さえ危なかった一撃を、辛くも回避することに成功したのである。
しかしその余波を受けたグレートサイヤマンのマントはボロボロであり、見るも無惨な姿になっていた。
使い物にならなくなったマントを外した悟飯は、それを地上に放り捨てながらザイコーの姿を見下ろす。
その額に薄らと冷たい汗を垂らしながら、彼は怒気を込めて叫んだ。
「な……何がアタック・ビームだ! どう見てもかめはめ波じゃないか!」
「…………」
ザイコーが「アタック・ビーム」と告げたもう少し何とかならなかったのかと思うほどに安直なネーミングの気功波は、どこからどう見ても「かめはめ波」そのものだったのである。構え方から解放されたエネルギーの質まで、見事なまでに洗練されたかめはめ波だった。
その技を何故彼が使えるのかという質問ではなく、何よりも真っ先に技名に反応する悟飯の反応は少しズレてはいるが、的確なツッコミだった。
そんな彼の言葉に対して、ザイコーは少しバツの悪そうな顔を浮かべながらも、吐き捨てるように言い返す。
「ふん……戦える力を持っていながら老いぼれた弱者のフリをして、強敵を前に何もしなかった卑怯者が付けた技名など呼べるか」
「……なに?」
「かめはめ波」という技の名前に対して、明確な嫌悪感を滲ませたその言葉。
悟飯の頭の中ではその言葉が刺さるような人物に全く見当が付かなかったが……もしもそれが、その技の名付け親でもある亀仙人に対して向けた言葉だとするならば──彼を偉大な武道家の先人として深く尊敬している悟飯からしてみれば、聞き捨てならない発言だった。
「それは……まさか、武天老師様のことを言ってるんじゃないだろうな?」
「ああ、確かそんな名前だったなあの爺さん。奴は唾棄すべき卑怯者だ」
「お前……!」
眉間にしわを寄せながら問い掛けた悟飯の問いに、ザイコーはあっけらかんとした態度で肯定する。
何故彼がかめはめ波を使い、亀仙人のことまで知っているのかはわからない。
わからないが……「コイツはとても嫌な奴だ!」と、ただ率直にそう思った。
少なくとも悟飯がこの数年で対峙してきた敵の中では、ぶっちぎりで不快に感じた相手だった。
そんな彼の心情を読み取ったように、ザイコーは口元を歪めながらさらに煽るような言葉を並べていく。
「卑怯者と言えば、お前の師匠もそうだったな? 死ぬ気でやれば自分一人でもできたことを、争い事が苦手な四歳児に押し付けて偉そうに師匠面していた情けない男が……」
「黙れ!」
その心に燃え上がった怒りが、激しい光となって悟飯の力をさらに引き出していく。
この男は、ピッコロさんまでも馬鹿にした──自分のことを言われる分にはケロッとしている悟飯だが、仲間や恩人への侮辱には人一倍敏感だった。
唸る右の拳が不気味に笑んだザイコーの頬を打ち抜き、響き渡る轟音よりも速い速度で左の拳が、もうの片方の頬を打ち抜く。
右!
左!
右!
左!
右!
左!
右!
嵐のように乱れ飛ぶ悟飯のラッシュが次々とザイコーを捉え、その締めとばかりに蹴り上げて吹っ飛ばした敵に向かって、悟飯は両手のひらを差し向けた。
「もうたくさんだ! これ以上訳知り顔で、みんなを馬鹿にするなっ!」
魔閃光──! 目の前で重ね合わせた両手の前方から、迸り出た金色の気功波が打ち上げたザイコーの身体に着弾していく。
激しい爆発が巻き起こり、大地は揺れ、周辺の雲一帯が吹き飛んでいった。
息が荒れるほどの全力攻勢の果てにトドメとばかりに撃ち放たれた攻撃は、まさしく必殺の威力を以て敵の姿を捉えたのである。
噴き上がった爆煙を油断なく見据えながら、悟飯は徐々に落ち着いていく思考の中で心なしか、いつも以上に怒りを感じやすくなっているような気がする自分自身の心の変調に気づいた。
……彼が何者なのか最後までわからなかったが、何も殺すまでしなくても良かったかもしれない。
冷静に立ち返った悟飯は、しかしそうしなければ間違いなく自分が殺されていたであろう今回の敵に対しては、間違った行動ではなかったと振り返る。
しかしその考えは、何もかもが甘かった。
「──っ!?」
驚愕に目を見開く。
魔閃光の直撃によって巻き上がった爆煙が拡散し、晴れ渡った時。
目の前にいたのは元々目元に刻まれていた傷痕以外には傷一つ無い、黄金色の超戦士の姿だったのだ。
「一応言っておく。俺はピンピンしているぞ」
おちょくるような口調でそう言いながら、ザイコーは肩に付着した埃を払う。
その言葉が示す通り、全力の魔閃光を受けた筈の彼は生きているどころか、全くと言えるほどダメージを受けていなかった。
「馬鹿な……お前は僕の魔閃光を、諸に喰らった筈……!」
自分でも罪悪感を抱いた程に、敵を完全に消滅させるつもりで放った渾身の一撃だった。それが直撃したところも、この目で間違いなく見届けている。
避けたわけでも、バリアを張ったわけでもない。
全身で攻撃を受け──その上で彼は、全くのノーダメージだったのである。
それは何故か? 答えは、あまりにもシンプルだった。
これまで対等に渡り合っていたかに見えた孫悟飯とザイコーの間には──隔絶した実力差があったのだ。
「怒れば怒るほど強くなるのは、どの世界の俺も変わらないらしい。だが……今のが全力なら、お前は絶対に俺には勝てない」
「……!」
信じ難い光景に肩を震わせる悟飯の前で、ザイコーは冷徹に残酷な事実を突き付ける。
唇を引き締め、鋭い眼光で悟飯の姿を見下ろすその瞳には──失望と嫌悪感が滲み出ていた。
そんな彼が、心底落胆したように呟く。
「所詮……ぬるま湯の世界では、本物のヒーローは生まれなかったということだ」
──そして次の瞬間、黄金の閃きと共に悟飯の腹部を甚大な衝撃が襲った。
今までとは比べ物にならない速さで突っ込んできたザイコーが、究極の力を解放した今の悟飯さえも反応できないスピードで一撃を浴びせたのである。
その貫手は文字通り、悟飯の腹部を貫通していた。
「っ……!」
「お前の実力はわかった。じゃあな」
激痛を激痛として認識することもできないまま、命が消えていく感覚が悟飯の神経を襲っていく。
貫いたその腕をザイコーが抜き取ると、糸が切れた人形のように全身から脱力した悟飯が重力に従って地上へと落下していく。
そんな悟飯の姿を無慈悲に見下ろしながら、ザイコーはその血塗れの右手を開き、介錯の気功波を放った。
「死ね」
手のひらから放たれた光の弾は、落下していく悟飯を目掛けて真っ直ぐに飛来していく。
既に戦闘力がゼロに迫っている彼の身に着弾すれば、その肉体は確実に消滅することだろう。
──しかし、結果としてその介錯が完遂されることはなかった。
彼が悟飯に対して放った光弾は、横合いから割り込んできたもう一つの気弾によって軌道を逸らされ、明後日の方向で爆発したからである。
そして次の瞬間には白いマントをはためかせながら緑色の何かがザイコーの前を横切り、地面に落ちるだけだった筈の悟飯の身体をさらっていった。
ザイコーはその闖入者に対してチラリと視線を向けると、深く息を吐いてどこか感慨深そうに呟いた。
「……やはり、お前は孫悟飯を助けるんだな。ピッコロ」
闖入者の名は、ピッコロ。
大魔王となるべくして生み出され、しかし地球を守る戦士となった誇り高き魔族にして──史上最強のナメック星人の降臨だった。
そんな彼が持ち込んできた一粒の仙豆によって、死を待つだけだった悟飯は一命を取り留めることとなる。
そしてザイコーは弟子の窮地を華麗に救ったその男の背中を静かに見据えながら、握り締めた拳に深い憎悪の「気」を纏わせるのだった。
(例のBGM)
怒れ怒れと言われ続けた結果、全方位に対して理不尽にキレ散らかすようになったダーク・サイヤマンがこちらです。