サイヤマンユニバースAF グレートサイヤマンVSダーク・サイヤマン   作:無敵のカイロ・レン(邪悪な願い)

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ダーク・サイヤマンと邪悪な破壊神

 迫る天下一武道会に向けて、開催地として馴染み深い南国パパイヤ島では着々と大会の準備が進められていた。

 ミスター・サタンというスーパーヒーローの登場以来、地球人類からの天下一武道会の注目度合いは年々増大しており、それに伴って各方面からはサタン当人を含む多くのスポンサーが集まっていた。そうなれば大会運営に扱われる予算も年々贅沢になっていくものであり、今も準備中の武舞台会場では増設された客席とモニタースクリーンのさらなる大型化のほか、大規模な施設の改修が進行していた。

 

 ──故に、会場の工事を日夜行っている名も無き労働者たちがその「異変」に最初に気づいたのは、必然だったと言えるだろう。

 

 

「なあ……俺たち、あんなの建ててないよな?」

「あ、ああ……なんだアレ?」

「なんか……悪魔の神殿みたいで不吉だべ……」

 

 その日も会場に機材を運搬していたヘルメット姿のネコ型獣人たちが、海岸の向こう側にそびえ立つ見覚えの無い建造物を指差して一様に首を傾げる。

 彼らの多くは二十年以上も前からパパイヤ島の工事業務に携わってきたベテラン業者たちであり、天下一武道会の武舞台を華やかに舞う武道家たちを縁の下で支え続けてきた正真正銘のプロフェッショナルである。

 故に会場周辺の施設の大半は彼らの手によって建造されたものであり、いつだって親方の指示を忠実に守ってきた。雑な仕事は決して行わず、時に無茶ぶりとも言えるオーダーさえも期限内に間に合わせてきた男たちだ。

 

 そんな彼らが見覚えの無い建造物──近海にそびえ立つ巨大な漆黒の宮殿の存在にこれまで気づくことができなかったのは、本来ならあり得ないことだった。

 

 それもその筈……その宮殿は彼らが自分たちの作業に集中していた間の、ほんの半日にすら満たない僅かな時間の合間で新しく建造されたものだからだ。

 

 それは、彼ら建造のプロフェッショナルの日々の労働を嘲笑うかのような──まさしく神の御業であった。

 

 

 

 暖かな陽光が照りつける南の海の上。

 ラウンジから身を乗り出せばパパイヤ島に建造された天下一武道会の会場も一望できるその場所に、赤髪の少女──第十八宇宙の破壊神ルアリスの姿があった。

 パパイヤ島の近海にそびえるその漆黒の宮殿は、彼女の一人作業によって数時間で建造された居住施設である。

 材料として使用したのは、彼女がかつて管理していた第十八宇宙の中でも有数の強度を持つ金属「カッチン鋼」である。先ほど誰かが「まるで悪魔の神殿のようだ」と言ったが、実のところ宮殿全体が漆黒の色をしているのは単にカッチン鋼の原型色がそうなっているからという以外に理由は無く、創造主であるルアリス自身もこの色には「なんか不気味な感じになっちゃった……」とマイナスイメージを抱いていたぐらいである。

 

 数時間前のことである。

 ルアリスは天下一武道会の会場が近くに見えるこの近海を訪れると、どこからともなく1㎦に及ぶ金属の塊を洋上に召喚し、それを目にも留まらぬ早業で研削して宮殿の造形に加工。自身が住む為の居住施設を自らの力で作り上げたのである。

 今のところは窓も付いておらず着色も飾り付けもしていない為、宮殿と呼ぶには些か神聖さに欠けていたが、その辺りの仕上げは追々行っていく予定である。

 

「だけどちょっと広くしすぎたかな? 壊すのと違って物を作るのは難しいんだよねぇ……」

 

 自らが創造した宮殿の中に入り、玉座の間として設定した大広間に足を踏み入れると、ルアリスは殺風景極まりない室内の光景にああでもないこうでもないと唸りながら不満げな声を漏らしていた。

 インテリアを並べたとしても、玉座の間だけでも天下一武道会の武舞台会場をゆうに上回る広さをしたその空間は、彼女が一人で寛ぐにはあまりにも過剰なスペースだった。

 しかしこの宮殿自体を失敗作として破壊してしまうのも、せっかく頑張って作ったのに勿体ないと思ったルアリスは、しばし長考するとポンと手を叩いて妙案を思いついた。

 

「そうだ! ここは玉座の間じゃなくて、闘技場として使ったら良いかも! 御前試合とか色々やってみたいし、ここなら丁度良い広さだね!」

 

 子供のようにキラキラと瞳を輝かせながら、そう言ってルアリスはおもむろに後ろへと振り向く。

 そんな彼女が見上げた視線の先には、淡い色の光で形成された鎖によって、幾重にも雁字搦めに拘束された姿で宙に浮かんでいる──全王の姿があった。

 

「力の大会の武舞台と比べたらこれでも大分小さいけど、ほんの数人戦うぐらいなら十分だよね。君はどう思う全ちゃん?」

「…………」

「ああ、もう聴こえてないか。残念」

 

 鎖に繋がれた全王は、先日全王宮から攫ってきた「未来から来た方の」全王様である。そんな彼は今、目を閉じて物言わぬ屍のように意識を失っていた。

 しかし彼の姿を見つめるルアリスは、自身の吐いた言葉とは裏腹に全くと言っていいほどに残念そうな顔をしていなかった。

 寧ろ笑顔すら浮かべている彼女は、この宮殿を建てる数時間前から彼が気絶していることを理解していた上で飄々と話し掛けていたのである。それは全王という存在に対して、明確に悪意を持った態度だった。

 

「全ちゃん……全ちゃんか。ふふっ、良かったねー全王様。身分の壁も気にしないで、無邪気にあだ名で呼んでくれる友達ができて。このルアリス、感無量ですよー」

 

 大広間の天井付近でシャンデリアのように浮かびながら淡い光を放っている全王の下に、まさに南の海をイメージしたフラダンスを優雅に踊りながらルアリスは歩み寄っていく。

 嬉しそうに語り、屈託の無いヒマワリのような笑顔を浮かべている彼女だが、しかしそのサファイアブルーの瞳に薄らと宿していたのは、慈愛とも忠誠心とも形容し難い潜在的な狂気だった。

 

「友達は大切にしないといけないよね。特に私たちのような存在にも気さくに付き合ってくれる人格者は、とっても貴重な存在だ」

 

 フィギュアスケートのようにくるりとその場でターンを決めて腰元のパレオを翻したルアリスが、咲き誇る花々の姿を表現するようにその両手を高らかに広げていく。

 するとその瞬間、天井付近に浮かんでいた全王の身体が、彼女の手元に向かって吸い込まれるように引き寄せられていった。

 

 破壊神ルアリスが扱う多彩な術の一つ、シンプルなテレキネシスである。

 

「見た目は無邪気で可愛らしい、愛すべきぬいぐるみのような全王様。今日もお付きの人たちを振り回す傍若無人な貴方は、しかしその振る舞いの裏では誰よりも思慮深く、この宇宙の在り様について考えていました。その小さな身体に何者をも超越した力を持つ貴方は、大局的な視点から民に寄り添う厳しさと優しさを兼ね備えた偉大な王様なのでした。嗚呼、全王様! 全王様万歳! 私たちの神!」

 

 踊り子のルアリスは、ミュージカルのように芝居がかった口調で一頻り全王様を称える文言を語り終えると、最後に締めとばかりに両手を挙げて万歳三唱をする。

 そんな彼女は晴れやかな顔で深々く一礼すると──足下まで引き寄せた全王の身体を、思い切り蹴り飛ばした。

 

 

「はい、全てウソです。あはっ」

 

 

 豪快に振り抜かれた少女の華奢な右脚は全王の顔面を抉るように打ち抜くと、彼の身体を一キロ近く先にある大広間の壁に向かって一直線に叩きつけていった。

 

 数秒後、ルアリスは何食わぬ顔で瞬間移動のような速さで彼のもとへと近寄ると、カッチン鋼製の壁にめり込んでいた彼の頭を足を掴んでスポンッと抜き取っていく。

 

「ごめんね全ちゃん、足が滑った。わざとだけど」

 

 自らの顔の前まで引っ張り上げて誠意の欠片も無い謝罪をすると、ルアリスはまじまじと全王の顔を見つめて呟く。

 

「うーん……駄目だなぁ。全王様、もう目覚めそうにないや。君に消された姉さんたちの分ももっと苦しめてやりたかったんだけど、初手から飛ばし過ぎちゃったかな? 私もザイコーも、拷問とかそういうの苦手なんだよね」

 

 先ほどの蹴りは彼女としては意図的に痛みを与えることを重視した一撃であったが、元々意識を失っている今の全王には今更それを受けたところでこれ以上苦悶を浮かべることも無かった。

 ルアリスとしても、無反応な相手を痛めつけることに快感を抱く性癖を持ち合わせているわけではない。つまらなそうに溜め息をつくと、困ったように肩を落とした。

 破壊はできても拷問が上手いわけではない自らの不器用さに自嘲するルアリスだが、しかしそう呟いている間にも彼女は足下に叩き落とした彼をその靴底でグリグリと踏みつけていた。

 

 それは彼女としてはほぼ無意識的に、意図せず行っていた虐待的な行動だった。

 

「あっやば、またやっちゃった! 身勝手の極意じゃないけど、全王様を見ているとどうしても身体が勝手に動いちゃうなぁ……こんなの私の趣味じゃないんだけど……」

 

 思っていた以上に、私は君のことを嫌っていたみたい──そう呟きながらルアリスは、自らが行っていたはしたない行動に頬を赤らめながら全王の身体をリフティングのように蹴り上げると、そのままテレキネシスで天井付近の虚空へと戻していった。

 

「コレはもう大切な備品なんだから、うっかり壊したらザイコーに怒られちゃう。だけど身も心もズタボロにされた全王様の姿って絵になるよねー……うっとりする」

 

 自らの作った玉座の上に脚を組みながら腰を下ろすと、ルアリスはボロ雑巾のように傷付いた姿で宙に漂う全宇宙の王の姿を恍惚とした表情で鑑賞する。

 

 何ならいつまでも眺め続けていたい気分だったが、彼女にとっての至福の時間はそれから間もなく幕を閉じた。

 

 それはこの星の外側から、光を凌駕する速度で飛来してくる客人たちの接近を知覚したからである。

 

 

 その瞬間、ルアリスは全王に向けていた視線とは違った爽やかな笑みを浮かべ、恋い焦がれる乙女のように来訪者たちの到着を待った。

 

 

 予想通りの人物が二人、着色前の彼女の宮殿に訪問してきたのはそれから数分後──丁度、海の向こうに広がる荒野でザイコーが破壊神ビルスやウイスたちと戦い始めたのと同じ頃だった。

 

 

 

「ようこそ私の宮殿へ、大神官様。そして、我が盟友孫悟飯(・・・)の愛弟子──トランクス王子」

「……っ!」

 

 

 

 空から天井を突き破って豪快に入場してきた二人を、ルアリスは玉座に座ったまま笑顔で出迎える。

 侵入者の一人は大神官。

 そしてもう一人は青みがかった灰色の髪が特徴のタイムパトロール隊員、トランクスだった。

 開口一番その心に揺さぶりを掛けるように言い放ったルアリスの言葉に、トランクスはあまりにも人間らしい動揺を浮かべる。

 そんな彼の感情を落ち着けるように、大神官が一歩前に立って口を開いた。

 

「トランクスさん、彼女から目を逸らしてはなりません。破壊神ルアリスは……」

 

 その身体から気の遠くなるような年月によって洗練された「神の気」を放出しながら、大神官はルアリスの一挙一動を見逃すまいと意識を集中させていく。

 破壊神、そしてガイド天使をも遥かに上回る彼の力は、本来その「気」を解放するだけでもルアリスを瞬殺することができる。

 一人の存在が持つにはあまりにも過剰すぎるが故に、彼はガイド天使たち以上に中立の立場を貫く必要があった。

 そして今まさに、破壊神ルアリスという神の世界を滅ぼし得る存在を前に、その力は解放を許されたのである。

 

 しかし。

 

 

「神の力を封じる」

 

 

 初手からルアリスを消滅させようと差し向けた大神官の「神の気」の暴流は、玉座まで到達することなく霧のように消失していく。

 その実演風景にトランクスが目を見開き、大神官が苦々しげに眉を顰める。そんな二人の姿を見て、ルアリスは楽しそうに玉座から立ち上がって告げた。

 

 

「ザイコーも同じ力を持ってるよー。だから彼には身勝手の極意も、我儘の極意も通じなかった」

「!」

「自信満々で破壊しに行ったみたいだけど、ビルスはもちろんウイスもヤバいんじゃないかな? また一人、君の子が死ぬね!」

 

 

 全王に反旗を翻した二人の無法者は、入念な下準備を以てこの日を迎えていた。

 大神官は決して彼女を侮らなかったが、もう一人の「人間」の超戦士についての見積もりが甘かったことを、彼は最期まで後悔することになる──。

 

 




 今回はそんなにヘイトする気はありませんがそれはそれとして蹴り飛ばされる全王様。
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