サイヤマンユニバースAF グレートサイヤマンVSダーク・サイヤマン   作:無敵のカイロ・レン(邪悪な願い)

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ダーク・サイヤマンの邪悪な願い

 ──時は数分前に遡る。

 

 神官アンゴルの案内のもと、破壊神ルアリスが現れたと言う場所に到着したトランクスと大神官を待っていたのは見るも無惨に破壊された破壊神ビルスの星の残骸だった。

 ルアリスは既にその場にはおらず、大神官が一歩遅かったかと苦虫を噛む。

 しかしそこにはトランクスがトキトキ都で対峙した超サイヤ人の「気」の残り香が漂っており、彼らは予想通り、ルアリスとザイコーの二人が協力関係である事実を読み取った。

 

 それから北の銀河──遥か遠い地球の方角から、とてつもなく大きな「気」を感じ取った後の大神官の行動は早かった。

 

 破壊神ビルスの星を襲ったザイコーは今、地球にいる。おそらくはルアリスも一緒に。

 

 確信を得た大神官は自身の肩に手を置くようにトランクスに命じると、光を超える速さで地球への進路をとった。

 ウイスをも遥かに上回る移動速度は、数分もあれば目的地へと辿り着くだろう。迫る決戦に向けて緊張感を漂わせる中、トランクスはその道中で大神官に訊ねた。

 

 

「破壊神ルアリス、というのは……どういう神様なんですか?」

 

 

 トランクスも歴戦の戦士であり、大神官が途方もない実力を持っていることは、一目見て理解していた。あの天使ウイスの父だと言うのだから、その力は押して知るべきだろう。

 しかしそれほどの存在である彼がこうも警戒心を抱いている「破壊神ルアリス」という存在に、トランクスは何か得体の知れない不気味さを感じていた。

 そんな彼の率直な問い掛けに、大神官は昔の思い出を振り返るように答えた。

 

「ルアリスはとても優秀な……優秀な神でした。生まれは人間でありながら若くして界王の座に上り詰め、破壊神になる前は第十八宇宙の次期界王神候補として目されていたほどの逸材です」

 

 破壊神ルアリスの経歴である。

 通常、界王や界王神となる存在は「界芯星」という特殊な聖域で生まれた「芯人」が、長年の修行を積んだ果てに至るものである──という話を、トランクスは時の界王神から聞いたことがある。

 

 すなわち、基本的に神となる者は最初から神となるべくして生まれるものだということだ。

 

 その前提知識を鑑みると、大神官の語ったルアリスの経歴はそれだけでも既に驚嘆すべき話だった。

 さらにそこから破壊神となったと言うのだから、ただ者でないことだけは明らかだった。

 

「界王から、破壊神になったのですか?」

「確かに破壊神としても、彼女の場合は異色の経歴ですね。しかしそれ故に彼女は破壊神の中では独自の感性を持っており……私も彼女のことは、これまでに無い新しい風を天界に吹き込んでくれることを期待していました」

 

 人間から界王となり、界王から破壊神となったと言う混沌とした経歴。確かにそんなことができる逸材ともなれば、その特異さから大神官様からの覚えも良い筈である。

 そんなルアリスのことを語る大神官の横顔には、過去の自分が寄せていた期待を裏切られたことへの哀愁が漂っていた。

 

「……彼女は破壊神の役割を忠実にこなしていましたが、人間の事情にも界王神の事情にも精通しているが故に、その行動には常に相手への誠意がありました。破壊神として裁きを下す際にも極力殺生を避けるようにしていたようで、第十八宇宙の民からは「ルアリス様に破壊されるのなら仕方がない」と評されるほど、多くの信仰を集めていたと聞きます」

「はぁ……」

 

 見た目も可愛らしかったですからね……と付け加えた言葉は、硬派なトランクスには冗談として受け止めれば良いのか反応に困るものだったが、大神官の言葉の節々にはかつてルアリスという神に対して掛けていた期待の程が窺えた。

 だが、そうなると当然疑問が浮かぶ。

 

 

「そんな神様が何故、こんなことを……」

 

 

 人間の事情にも界王神の事情にも精通している誠実な破壊神が、全王を攫い、第一宇宙と第十二宇宙を消した。

 その事実が頭の中で結び付かず、困惑するトランクスの前で大神官は語る。

 

「実際のところは私にもわかりません。しかし彼女が我々……特に全王様に対して敵意を持っていることは間違いないでしょう。彼女はかつて、破壊神として任務をこなすその裏で──全王様に対するクーデターを画策していたことがあります」

「クーデター……反逆したのですか?」

「ええ」

 

 クーデター、すなわち暴力的な手段の行使によって引き起こされる革命である。

 破壊神ルアリスは第十八宇宙が存在していたその昔、全王の抹殺を計画したことがあると言う。

 それは優秀な破壊神として目されていた彼女が起こすにしては、あまりにも想定外な出来事だった。

 

「クーデターはライラ……ルアリスの対となる第十八宇宙の界王神が命を懸けて阻止したことで、計画の段階で未遂に終わりました。裏切りの破壊神ルアリスは、その日を最期に消滅した──というのが、私の知る彼女の最後の記録です」

「そんなことが……」

 

 人間として生まれ、界王を経て破壊神となり、全王に反逆して界王神に討たれた。

 

 そんな破壊神の生涯を聞いて──トランクスは何か、上手く言葉にできない感情を抱いた。

 

「彼女ほどの神が何故そのようなことをしたのか……真相は全て闇の中に消えたと思っていましたが……今になって本人に訊ねる機会が巡ってくるとは、皮肉なものです」

「…………」

 

 一言に要約されただけでも、脳内には様々な憶測が過ぎる濃密な人生である。

 今の彼女が何を思って暗躍しているのかはわからない。しかしトランクスの心の中では──彼女の心情に対して少しだけ理解できる自分がいた。

 少しだけ。

 ほんの少しだけ、思ってしまったのだ。

 

 全王様に逆らいたくなる気持ちは、俺にもわかると。

 

 

「……そういう神様も、いたんですね……」

 

 

 ──それはまだ、彼自身さえも自覚していない心の闇だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そして今、トランクスは大神官と共に件の破壊神と対峙していた。

 

 カッチン鋼で固められた、まだ着色もされていない吹き抜けの宮殿の中。

 破壊神ルアリスは二人の到着に唇を吊り上げると、その玉座から立ち上がって一歩、二歩と前に出てくる。

 その外見は大神官から聞いた通り、透明感のある可愛らしい美少女そのものだ。身体的な特徴は、左右の側頭部から山羊のような巻き角が生えている以外には地球人とほとんど変わらない。

 

 しかしその身からぼんやりと発せられている赤いオーラはまさしく破壊神そのものであり、彼女が人間ではないことを一目で表していた。

 

 そんな彼女を見て、トランクスは即座に超サイヤ人に変身して身構える。

 息もできない静寂が、睨み合った一同を包み込んでいた。

 

 

 ──三人が動いたのは、同時だった。

 

 

 神の気を纏った二人と黄金の気を纏った一人の姿が一瞬にしてその場から掻き消えると、空気が避ける音と拳を打ち付け合う音だけが各所から響き渡っていく。

 

 地球上の生命体では視認すらできない超スピードで玉座の間を縦横無尽に駆け巡り、三人は攻撃と防御の応酬を幾度となく繰り返していく。

 

 ルアリスが大神官の首を狙って右脚を振り抜くと、大神官は身を屈めてそれをかわしながら同時にアッパーを繰り出し、彼女の腹部に向かって拳を突き刺そうとする。

 ルアリスはそのカウンターを始めから予測していたように両腕をクロスさせてガードすると、衝撃を殺し切れなかった華奢な身体が宙へと打ち上げられる。

 その先に回り込んでいたトランクスがハンマーパンチを振り下ろすと、残像を残したルアリスが消えるように回避し、驚きに目を見開いた彼の背中から反撃の肘打ちを浴びせた。

 続く二撃目には彼の後頭部を目掛けて鋭い手刀を振り払ってきたが──トランクスは紙一重でかわしながらその右腕を掴むと、背負い投げの要領で地面へと投げ飛ばしていった。

 

「っとと……」

 

 カッチン鋼製の床に頭から叩きつけられそうになったルアリスは、軽やかな身のこなしで受け身を取ると、床につけた両手で跳び上がりながらバク転をするような動きで後方へと下がった。

 

「ふっ!」

 

 そんな彼女に向かって大神官が正面から急迫し、果敢にラッシュを仕掛けていく。

 一瞬にも満たない時間で繰り出される何十、何百発もの拳と蹴りを防戦一方に捌きながら、ルアリスは攻撃と攻撃の合間の僅かな隙を突くように、右腕から一閃を振り払った。

 

 その瞬間、僅かに目を見開いた大神官がバックステップを踏みながら距離を取り、彼女の斬撃から逃れる。

 

「あらら、避けられちゃったか」

 

 大神官の見据える先には、額から冷や汗を垂らしながらその右手に一本の剣を携えた少女の姿がある。

 彼女は虚空から剣を創造し、大神官の攻撃をギリギリまで引きつけた上で奇襲を仕掛けたのである。紙一重で直撃は避けたが、あのまま攻め続けていたら危ないと感じる一撃だった。

 

「大神官様!」

「……掠り傷です。大したことはありません」

 

 直感的に後退したのが功を奏したのか、彼女の一閃は大神官の纏う上着に一筋の傷を刻んだだけに留まった。

 そんな大神官の姿を見て、ルアリスは困ったように笑いながらその剣を顔の胸の前で構えた。

 

「相変わらず、理不尽な強さだね。私のテリトリーに入った今の貴方は、本来の力の一割も引き出せていない筈なんだけど……」

 

 神の力を封じる神、破壊神ルアリスは既にその力を大神官に向けて発動している。それは影響を受けたが最後、どんな神や天使だろうと神の気を自在にコントロールすることができなくなる脅威的な弱体化能力である。

 今の大神官も例に漏れずその力の影響下にあるのだが──弱体化させられて尚、彼は破壊神であるルアリスと対等に渡り合っていた。

 

 そんな彼は得物を手にした彼女に対抗するように、自身も手元に長杖を召喚すると油断なく構えた。

 

「以前会った時よりも、腕を上げましたね。やはり本物でしたか……本当に生きていたのですね、ルアリス」

「偽者だと思った? 残念私でした!」

 

 世間話でもするように語り合う二人だが、お互いを見据えるその眼差しはどちらも笑っていない。

 

 トランクスもまた背中の鞘から剣を引き抜いて構えるが、舞台の踊り子のような佇まいをしたルアリスの姿には隙が無く、迂闊には動けずにいた。

 

 そんな緊迫した空気の中で、大神官が問い掛ける。

 

 

「何故、第一宇宙と第十二宇宙を消したのですか?」

 

 

 破壊神ルアリスは、彼が「本当に優秀だった」と評するほどの存在である。

 当初の推測通り、改めて今回の事件の黒幕であることが判明した彼女に対して、大神官はその真意を訊ねた。

 その問いを受けたルアリスは、こうして接敵した以上、今になって隠すことはないかと素直に応じる。

 

「一言で言うと、「そういう気分だった」からだね」

「……何ですって?」

「だってムカつくじゃん! 全王様ったら人間レベルが高いだの低いだの……みんなが頑張って生きているこの宇宙を勝手に採点するなんてさ。だから消してやったんだ! 貴方が評価してる宇宙なんて、私の手に掛かれば全部ゴミなんだよって教える為にね」

「イカレていますね」

「そうかな? 私から見れば彼に王座を任せているこの世界の方がよっぽどイカレてるよ」

 

 二つの宇宙を消したことを一切悪びれることもなく、あっけらかんとした態度でそう語りながらルアリスは右手に携えた剣を振り上げ、その剣先を天井に浮かぶある一点に差し向けた。

 

 そこにいたのは彼女が造り出した鎖によって拘束され、ボロボロの姿で意識も失っている全王の姿だった。

 

「……!」

「隙あり」

 

 その光景に初めて気づいた大神官が僅かに動揺を浮かべた瞬間、ルアリスが一気に踏み込んで間合いを詰め、振り下ろした剣を大神官が長杖で受け止めた。

 

「はあっ!」

「おっと、危ない」

 

 その後ろではトランクスが大神官の杖とつばぜり合いの形になったルアリスの背後に回り込み、剣を振り下ろす。

 しかし、彼の繰り出したその斬撃は彼女の背中まで届かなかった。

 ルアリスは自身の背後から迫ってきた一閃に対して、もう片方の手に召喚した剣を以って受け止めたのである。

 

 右手の剣は大神官に。左手の剣はトランクスに。

 

 二刀流の構えになったルアリスは踊るような身のこなしで時に回転を交えながら、前後から挑み掛かる二人の武器に対応してみせた。

 

 そんなルアリスが、一度手にした攻勢を手放さないまま大神官に向かって語り出す。

 

 

「私は根本的に、この世界……と言うか全王様の決めたルールが受け入れられないんだよね」

「何を……!」

「貴方たち天使こそ被害者だと思うんだけど。それだけの力があるのに中立の立場を守らなければならない。守らなきゃ全王様に担当宇宙ごと消されるとか、どう考えてもおかしくない? そのせいで悪人一人懲らしめることもできないとかさー」

「……っ」

 

 

 一閃、ルアリスが振り抜いた右手の剣が大神官の杖を両断する。

 武器を破壊され、形勢の不利を悟った大神官が距離を取ろうと後退するが、その動きは見えざる力によって阻まれた。

 ルアリスによるテレキネシスが大神官の動きを妨害し、剣の間合いへと再び引き寄せたのである。

 

「逃げるなよ。せっかく再会したんだからもっと遊ぼう」

 

 そんな彼女は後方から大神官を援護するトランクスの剣を、左手の剣で片手間に捌きながら続ける。

 

 

「数年前も、貴方たちはザマスって界王に好き勝手されたみたいだね? 貴方たちの誰か一人でも助けてあげれば一瞬で解決しただろうに、かわいそうなことをするよ。ねぇ、トランクス君」

「……!」

「トランクスさん!」

 

 

 最後に向かって一瞬だけ振り返ると、ルアリスはトランクスに対して慈しむような……哀れむような眼差しを送る。

 その視線に動揺し、トランクスが僅かにたじろいだ瞬間、彼女は剣を握った左手から気合砲を放ち、彼の身体を吹っ飛ばした。

 

「ぐっ……! あ……」

 

 受け身を取ることができなかったトランクスは後方の壁に後頭部を打ち付けると、そのまま糸の切れた人形のように崩れ落ち、動かなくなる。

 

 あまりにも呆気なく気絶していった超戦士の姿を尻目に、一対一になったルアリスが大神官に向かって責め立てるように言った。

 

「……あの子、メンタルガタガタじゃん。私が言うのもなんだけど、どうして連れてきたのよ? 私の悪辣さ知ってるでしょ貴方」

「…………」

「自分の宇宙を消された人間が抱える心の闇に、気づかない私だと思った? あの子、ザイコーそっくりだよ。私が呼びかけたらこちら側に引き込めそう。貴方のそういう、人の心がわからないところは長年中立の立場に甘えていた弊害だね」

 

 本来のトランクスであれば、彼女の前で無防備に隙を晒すこともあっさりと意識を手放すことも無かっただろう。

 しかし「自分の宇宙を全王様に消された」という共通点が、彼の戦意を萎えさせていたのだとルアリスは指摘する。

 

 この戦闘の間、大神官の支援を重視してザイコーという名の「孫悟飯」を従えるルアリスに対して、一度も詰め寄ってこなかったのが良い証拠だと。

 彼自身としてはフルパワーで戦っていたつもりなのかもしれないが、トランクスはこの戦いに対して、明らかに熱意を持っていなかった。

 

 全王様を助ける戦いというものにモチベーションが湧かない彼の本心を、ルアリスは戦いながら見抜いていたのだ。

 

「大神官様、中立って何なんだろうね? アレも静観、コレも静観で肝心な時に何の役にも立たないじゃん。誰も彼も破壊神を超える力を持っているのに「そういうルール」だからと何もさせてもらえず、子供のお守りだけは無駄にさせられる……そう言えば、私のガイドも愚痴ってたっけ。もういないけど」

「……私は今、こうして貴方と戦っています。この時間こそが貴方の言う「肝心な時」だったということです」

「普段から行動を制限されてなかったら、もっと早く私を見つけられたのにね。くだらないルールのせいで宇宙が二つも犠牲になっちゃった!」

「いずれにせよ、天界の取り決めは今の貴方には関係無いことです。貴方はもう、第十八宇宙の破壊神ではない!」

「そうだね! そもそも担当していた宇宙が無くなっちゃったし、今の私は世にも珍しい「はぐれ破壊神」さ!」

 

 両手に剣を携えた二刀流のルアリスと、壊れた長杖を投げ捨てて無手となった大神官。

 そんな二人はお互いに加速しながらそれぞれの技を繰り出し、カッチン鋼に覆われたこの宮殿に甚大なダメージを与えながら立体的な軌道で駆け回っていく。

 熾烈を極める神次元の攻防の中で、それぞれが研鑽された技と煽るような言葉をお互いにぶつけ合った。

 

 そんな中で大神官は、彼女の行動の真意を理解する。

 

 

「やはり……憎んでいるのですか、全王様を」

 

 

 拮抗する力の衝突によって左右に弾かれた二人が、舞空術で間合いを見計りながら睨み合う。

 これまでルアリスは長々と合理的な言葉を並べて全王様の考えを批判していたが、そこには「理」だけではなく彼女自身の強い「感情」が宿っていることを彼は感じていた。

 

 それは、憎しみだ。

 

 あまりにも大きく、深すぎるが故に──その辺りの感情が薄い大神官には、一目では判断しかねたのである。

 今更とも言える彼の問い掛けを受けて、ルアリスは朗らかな微笑みを返した。

 

「んー……まあ、ぼちぼちかな。私たちの宇宙が消されたことに関しては、遅かれ早かれいつかそうなるとは思ってたから、そこまで気にしていないよ。私は(・・)ね」

 

 自身の担当である第十八宇宙を消滅させた全王様の判断自体は妥当なものとして受け止めている上で、破壊神ルアリスは含みを持った言い方で答える。

 

 そして彼女は、剣を手放したその右手で宙を漂う全王の頭を、おもむろに掴み取った。

 

 

「ま、それはそれとして……私は界王だった頃から、この子が王様の器じゃないとは思っていたよ。正直、先代が下りた時は貴方が後任に就くものだと思ってたけど……やっぱり世襲制って駄目だね! トキトキ都の資料でここ数年の記録も調べたけど、全王様のやり方は私がいた頃と何一つ変わっていなかった」

 

 

 ほら、返してあげるよ──そう言ってルアリスは、右手に掴んだ全王の身体を大神官に向かって豪快に投擲する。

 

 自身が捕らえた復讐対象を自らの手で手放すという行為を不審に思いながらも、その時の大神官が取ることができる行動は、一つしかなかった。

 

「全王様っ!」

 

 血相を変えて両手を伸ばし、大神官は投げつけられた全王の身柄をその腕で受け止める。

 しかしそれは、ルアリスの罠だった。

 

「……っ、これは……!?」

 

 全王に触れた瞬間、彼の身体を拘束していた光の鎖が意思を持ったヘビのように動き出し、瞬く間に大神官の全身を絡め取ったのである。

 

「ウヌボレスの鎖──自惚れた上位存在を捕まえる、ルアリスちゃんお手製の鎖だよ。名前は今付けた」

 

 全王様の為に存在する大神官にとって、投げつけられる全王を前にしては受け止める以外の選択肢はあり得ない。

 それがあからさまに罠だとわかっていても回避することができない、大神官の誇りと使命感を逆手に取った単純かつ悪辣な一手だった。

 

 

 ──動けない。

 

 

 この北の銀河に来た時からルアリスのテリトリーに入った大神官は、本来の実力の数十分の一も発揮することができずに苦戦を強いられていた。

 彼女が常時発動している「神を封じる術」はまさしく彼らの戦闘力差をひっくり返すものだと警戒していたが……全王と共にその身を拘束した彼女の鎖の力は、警戒していた以上におぞましいものだった。

 

 この鎖は、神の気がコントロールできなくなるどころの代物ではない。

 神の力そのものを奪い尽くすモノだ。

 

 鎖に雁字搦めにされた大神官は、全王と共に地に墜ちる。

 そんな彼の姿を真上から見下ろしながら、ルアリスは悠々と降下しながら言った。

 

 

「はい、また全王様に邪魔されました! ……それが貴方の唯一の弱点だよ。昔から何も変わってない」

「くっ……ルアリス……!」

 

 

 この時を想定して連れてきたトランクスは、今も気絶したままで動くことができない。

 力を完全に封じ込められ、こちらから打つ手を失った大神官は悪辣な卑怯者の姿を憎々しげに睨む。しかし地を這うような姿勢で足下から睨み付けられたところで、ルアリスはどこ吹く風と言う様子だった。

 

 そんな彼女は同じく足下に転がっていた全王の頭を踏み付けながら、左手に携えた剣を大神官の額に突きつけると──真顔で言い放った。

 

 

「そう、何も変わってないんだ貴方たちは。人間が何百何千と世代を重ねている間にも、神の世界には何の進歩も無い。長い目で見て改善の見込みが無いモノを破壊するのが、破壊神の役目でしょ? 破壊神たる者、相手が間違っているのなら格上が相手だろうと破壊しなくちゃ。そう言う意味では宇宙のどの破壊神よりも、あそこにいるトランクスの方が神様らしいと思うよ」

 

 

 これはあくまでも、破壊神として正当な行動であると──彼女はそう告げる。

 故に、全王様を襲ったのも普段の仕事の一環に過ぎないのだと。

 

 

「それが、かつて起こしたクーデターの理由ですか」

「逆に聞きたいけど……貴方はどうして、自分たちは破壊されないと思っていたの?」

「…………」

「使命に忠実な私らしいでしょ? あの時は姉さんに邪魔されたけど、今はその姉さんももういない。全王様が消しちゃったからね。おかげでザイコーも味方してくれたし、私にとっては良いことずくめだ」

 

 

 知ってみればそれは、あまりにも単純な話だった。

 この世界のバランスを取る為に、創造の前には常に破壊がある。

 今回はその対象が、全王と自分たちの番に回ってきただけだったのだ。

 

 なるほどそれは……誰よりも使命に忠実だったかつての第十八宇宙の破壊神ルアリスの姿と完全に一致するものだと、自らの最期に大神官はそう思った。

 

 

 

「さようなら大神官様。全力を出せないまま格下の神に破壊された、哀れな最強さん」

 

 

 

 今も昔と変わらず自らの使命を全うする為、破壊神はその刃を大神官へと振り下ろす。

 

 観念するように息を吐いた大神官は壁際で沈黙しているトランクスの姿を一瞥すると、彼女の邪悪な願いを後の者たちが阻んでくれることを祈り──その生命を破壊されるのだった。

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