辛いワンタン麺 作:元祖決闘者狩り(征竜好き)
A田県、某所のせまいカードショップ。
そこでは遊戯王の大会が行われていた。寂れた田舎の大会なので参加者は6名、平均年齢は36歳前後と現代社会の闇の一部が伺える。
「対戦よろしくお願いします」
「がっちゃびんぐ!」
眼鏡をかけ極端に太っているか痩せていてのっぺりとした表情しかない他の参加者の中で一人だけ異質な雰囲気を纏った決闘者……否、社会不適合者がいた。
「お互いのデッキをカットアンドシャッフル!」
「え、いやあの勝手に人のデッキ触らないでくれます?」
不必要にスリーブを重ねたデッキを無駄に華麗な手さばきでシャッフルとカットを交互に繰り返す。
無論彼は真剣だ。相手の声など耳にしていない。
諦めたのか対戦相手の社会不適合者もデッキを丁寧にカットしていく。
このカードゲームをこの年齢、しかも大会は当たり前だがリアルでやる人種などまともな連中がいない。
少し話して通じないとわかったら諦めるのが正しい。
「「最初はグー、じゃんけんポン」」
互いに無言でエクストラデッキとサイドデッキの枚数を確認した後に先行と後攻を決める。
あまり喋らないタイプの不適合者がパー、誰が見てもおかしい不適合者がチョキ。後者がとったのは先行だった。(以後前者を闇牛、後者をとろ牛と称する)
「いくぜ!」
「はい……えっ!?」
勢いよく掛け声を出して手札をにらめっこするとろ牛に対して冷静に対処しようと自身の手札を確認した闇牛は驚きの声を挙げた。
(何で全部ブラックホールなんだ!?)
自分の手札が5枚全て通常魔法のブラックホールだったからだ。
無論彼は同名のカードが3枚までという基本的なルールは言われるまでもなく熟知している。
デッキは何度も確認しているがストレージと混ざっていないか、事前に運営側に提出しているデッキ内容と違いがないか何度も確認している。
こんなことは初めてであった。不適合者に限らず、人間は全く想定すらできないことに直面すると何もできないことが多々あるものだ。相手の何か妨害札はないかを問いかける視線にすら気付けず、呆然と5枚のブラックホールを見つめることしかできなかった。
「カードをセット!ターンエンド!お前の番だぜ!」
「え?あ?はい…」
「早くしろよ!遅延かよ!」
何度も手札誘発がないか確認していたのに反応を返さなかった闇牛にキレたとろ牛は勢いよくテーブルに拳を叩きつけて怒鳴った。
衝撃で無駄にスリーブを重ねたデッキが崩れデッキ内容があらわになる。全てがブラックホールだ。
「え!?な、なんで!」
デッキの所有者は更に混乱した。手札だけでなくデッキ40枚全て
が同じカードにすり替わっていたからだ。
「てめぇ!そこまでして勝ちてぇかよ!このクズ野郎!!」
「ごげぇぇぇぇ!!」
顔を真っ赤にしたとろ牛が立ち上がると同時に膝を腰に引き付け開放、見事なハイキックが混乱する闇牛にクリーンヒットした。
間抜けな叫び共に吹っ飛び、蹴りで折れた黄ばんだ歯がポップコーンのように飛び散った。
文句なしの1ターンキル。とろ牛の勝利である。
「いやー優勝、快勝!」
騒然となったカードショップでの出来事であったが、その後何事もなかったかのように大会は続行された。
2回戦は対戦相手がトイレで気絶していたため不戦勝、続く決勝戦はとろ牛のテーブル下で繰り出されるローキックのダメージでまともに決闘を続けられなかった相手の時間切れで見事なストレート勝ちだ。
「しかし優勝商品もそうだけど、今回の対戦相手は全員高いカード持っててラッキー!」
最初のデッキがブラックホールに全てすり替えておいたのを何を隠そうこのとろ牛の仕業である。2回戦の相手も相手が休憩タイムで人目のつかないトイレに移動した所に奇襲。ボディブローでくの字に折れ曲がった所にヒザ蹴り叩き込み伸ばしたのだ。
すり替えられたデッキと気絶した相手から奪った全てのカードに優勝賞品、ざっと合わせて20万近くになる。
とろ牛はこの手の手法で日銭を稼ぐ、いわばプロの決闘者であった。
元々は遊戯王は中学生頃にやめ、その後はのんびりと20〜50円コーナーにあるようなカードを漁るような楽しみ方をしていたが、就職に失敗し、何度もアルバイトや契約社員をクビになってからは金を稼ぐ手段として遊戯王を選んだのだ。
元々はA田県ではなく他県でプロの決闘者として活躍していたが、ライバルの少ない田舎をターゲットにするべく流れるように転々と活動をしている。
今週の稼ぎをトータルすれば80万、文句なしの戦績だ。
イカサマが当たり前のゲームだ。うまくいかない時は決闘者らしくリアルファイトで済ますがその場合は店のレジから迷惑料を少し頂く位だ。今回のように正方法で稼ぐ方が良い。
原付をウキウキで走らせるとろ牛の目の前に不思議な男が立ち塞がった。
(野良試合か…?)
見るからに社会に爪弾きにされたような容姿と風貌、決闘者である可能性の高さに原付から降りて備える。
先程の緩んだ表情や浮かれた雰囲気は鳴りを潜めている。一流の決闘者なら当たり前の技術をとろ牛は身につけていた。
「君は引力を信じるかね?」
「は?引力がなかったら、今頃は俺らはプカプカ宙に浮いてる所だぜ!」
「……それは重力のことじゃないか?」
「お前義務教育受けてないの?」
この場合、間違っているのはどちらだろうか?
リアルかファンタジーか、もしくは科学的に考えるかで答えは変わるだろう。
とろ牛は自分が正しいとしか思わないし、不審者はネタが通じないどころか頭の可笑しい奴に声をかけてしまったと頭を抱えた。
「まぁ良い…治験のようなものだ。いなくなっても問題ない奴なら誰でもいいか……」
(コイツ、急に話しかけてきたと思ったら小学生以下の知能をひけらかした後にブツブツ話しだしたぞ……殺しても問題なさそうだな)
コンクリートの上に一本背負いで叩きつければ1秒で殺せる。
殺害を決意したとろ牛に対して不審者は手を振りかざす。
カード手裏剣の類かと判断し、素早く左にバックステップをする彼はこの世界から姿を消した。
読んでいただき誠にありがとうございます。