TS転生聖女の異世界時代劇 作:メイリアー
転生したと思ったら、性別が男から女になっていて。
しかも何だか知らないけど、自分には聖女の素質があるという。
結果、物心がつく頃に私は“神殿”と呼ばれる聖女が暮らす場所へと住処を移した。
それからは、ひたすら修行と祈祷の日々。
前世の影響で男みたいだった口調はすっかり少女らしく。
聖女として、可愛らしい格好で儀式を行うことにも慣れてしまった。
まぁ、そこに至るまでの間には、それはもう私と周囲の苦難と苦闘の日々があったわけだけど。
終わってみれば、それもまぁいい経験だったと思えるものだった。
何より、聖女としての生活は中世風ファンタジー異世界でありながら何不自由のないものであったのが大きい。
毎日三食、美味しいご飯を食べ、お風呂にだって好きに入れる。
おつきの人が常にそばにいたり、風呂に入ろうとすると体を洗おうとしてきたりするのは玉に瑕だけれど。
それに、修行だって別に嫌というわけではなかった。
なにせ修行をすればするほど、聖女としての力はメキメキと育っていく。
前世ではゲーマーでオタクだった者の性として、そういうレベリング作業はぶっちゃけ楽しいことだ。
あまりにもレベリングが楽しすぎて、逆に周囲から修行しないでくれと泣きつかれたりすることもあったけどそれはそれ。
最終的に、歴代でも相当優秀な聖女に成長したんだから多めに見てもらいたい。
ただ一つだけ、正直きついなーと思うことがあった。
外出禁止という規則だ。
自分から家を出ないならともかく、家を出て遊びに行きたいときに遊べないのは言うまでもなくストレスである。
でも、規則なんだからしょうがない。
何度か脱出を計画したこともあったが、結局ヘタレな私はそれを実行することはできず。
気がつけば一人前の聖女として、神殿で祈祷と儀式をこなす日々を送っていた。
なんか、いつの間にか学校を卒業して就職していた気分である。
ただ、総合的に見れば、私は今の生活に満足していた。
食べるに困らず、皆が聖女として私のことをチヤホヤしてくれる。
私自身、自分が聖女としてそれなりに優秀であるという自覚と誇りもあった。
何よりこの世界は、私が見る限りではそれなりに平和で、大きな事件や災害、戦争もない。
前世は正直、大したことのない平凡な人生だったけれど。
今の人生はそれなりに満足の行く人生で、このまま聖女として一生を送るのも悪くはないかな―と思っていた。
そんな時だった。
私が聖女として身をおいている教会の信仰対象である女神様から、こんな神託が下ったのは。
『聖女リリア、市井に赴き人々を苦しめる悪を懲らしめ人心を正して周りなさい』
と。
ようは、人助けをして回れということなのだが、これってつまりアレじゃない?
時代劇にある世直しの旅みたいなものじゃない?
何より、外出禁止である聖女が人里に降りて旅をしても良いと来た。
かくして私は、この神託を交渉材料に周囲を説得し、世界中を見て回りながら人助けをする世直しの旅へ出発したのだった。
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旅といえば食事、各地の美味しいものを食べて回るのは旅の醍醐味という前世からの先入観により、基本的に小腹が空いているときに美味しいものを見かけたらちょっとつまんで見ることにしている。
聖女の体はファンタジーでできていて、美味しいものをどれだけ食べても太らない。
おかげで、特に前世はそんなこともなかったのに、今では私も立派な腹ペコキャラ。
今日立ち寄ったのは、街道沿いにある小さな茶店兼宿屋だった。
大陸全土に整備された“女神街道”には、こういった旅人が羽を休めるための宿屋が無数にある。
そのどれもが、基本的には個人の経営で成り立っているため、出している食べ物やサービスは宿ごとに異なる。
これがまた、それぞれの個性があって面白いのだ。
「はーい、お待ちしました。当店自慢の“結び団子”になっております。どうぞお召し上がりくださいね?」
このお店では、独自に考案したお団子を出しているらしい。
団子、といっても日本の和風なそれとは異なり、複数のフルーツを添えた現代的なスイーツのイメージに近い。
「ありがとう、いただきます」
いいながら、お団子を持ってきてくれた少女にお辞儀をして団子をいただく。
少女は、エプロン姿の十代半ばと思われる年頃の、黒髪の少女だ。
純朴さを感じさせる、可愛らしい女の子。
なんというか、こういうお店を切り盛りしている女の子だなぁって印象を受ける。
お団子は、中にジャムやクリームが入っていて、食べ進めるたびに味の印象が変わる。
フルーツのフレーバーも相まって、ちょっとしたパフェを食べているような気分だ。
「んん、美味しい……病みつきになってしまうね」
「本当ですか!? えへへ、お客さんみたいなかわいい女の子に言われると、何だか嬉しくなっちゃいます」
「貴方も可愛らしいと思うよ?」
そう言うと、少女は照れたように頬を染めて苦笑する。
まぁ、聖女たる私の容姿は、自分でも何このソシャゲのSSRって感じの見た目で抜群に優れている。
ニコって微笑むと、大体みんな照れてしまうから、二コポってあるんだなぁって変な感想を抱いたものだ。
「あの……お客さんはお一人で旅をしているんですか?」
「リリアで構わないよ。……ううん、今はいないけど同行者が一人いる」
「リリアさん……聖女様と同じ名前なんですね。ええっと、お一人じゃないならよかったです」
聖女リリアの名前は知られているが、そもそもリリアという名前事態はありふれたものなので、だいたいこういう反応をされる。
「最近、このあたりはちょっと治安が悪いので……あの、もし可能ならお食事を済ませたら、早めにここを離れたほうがよろしいかと思いますよ?」
「確かに、今から急げば日が落ちるまでには街に付くけど……いやだよ、街についたらまた礼拝で時間を取られる」
「あ、やっぱり巡礼の旅をされてるんですね……」
納得した様子で、少女はそうつぶやく。
今の私は教会のシスターとして、巡礼の旅を行っていることになっている。
これは珍しいことではなくて、そもそも女神街道ってのが教会の人間が巡礼を行うために整備されたものだ。
聖女の世直し旅も、巡礼といえば巡礼である。
……なので、街についたら一通り礼拝をしなきゃいけないんだよね。
せっかくのんびり旅をしているのに、街ではある程度仕事をしなきゃいけない。
だから理由をつけられるなら、私はいくらでも理由をつけて旅を遅らせるよ。
ただまぁ、今はそういう話じゃなくて。
これはなんというか……女の子の様子から、私はある気配を感じ取った。
「……だったらなおのこと、街に行くべきですよ。だってここは今――」
少女が、そう切り出した時のことである。
「お、何だ今日は、随分顔のいいシスターがいるじゃねぇか」
そういいながら、男たちが宿にやってきたのは。
……実を言うと、さっきから彼らが宿に近づいているのは察知していたのだけど。
指摘するのは無粋だから黙っていたのだ。
やってきたのは、明らかにチンピラという風体の男たち。
「ちょうどいいや、俺たちと少しお茶してかないか? へへ、美味しいモノ食べさせてやるからさ」
「おいおい、今はそんなことしてる場合じゃないだろ」
なんて話をしながら、複数人で私達を囲もうとしている。
いやはや、旅に出てからこういう光景は何度も出くわしてきたけど、彼らもまいどまいど懲りないものだ。
「店主ちゃん、彼らは?」
「あ、えっと……」
「店主ちゃんっていうのもなんか変だな……まあいいや」
私は、お団子の最後のひとくちをパクっと食べてから立ち上がる。
「こいつらちょっとぶっとばすからさ。終わったら名前、聞かせてよ」
「――へ?」
「……あ?」
その場にいた全員が、疑問符を浮かべる中。
私は、パンッと拳を打ち合わせて鳴らすのだった。
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――その日私の店にやってきたのは、少し変わったお客さんだった。
何が変わっているって、とてつもなく可愛らしいのだ。
白色の修道服――巡礼のシスターさんが纏うそれを身に着けた、私と同じくらいの年頃の女の子。
黒髪に、内側が赤みを帯びている不思議な髪型。
背丈は百五十あるかないかで、小柄。
でも、発育は私より明らかにいい。
小柄で細身なのに、一部はすごい存在感のあるスタイルだ。
巡礼のシスターさんというのは、別にそこまで珍しくはない。
一月に一人くらいは、そういう人が私の宿を通る。
私としても、シスターさんとお話をするのは楽しい。
シスターさんは、教会のシスターというだけあって信心深くて、それでいて清廉だ。
純真無垢というか、潔白というか。
とにかくどこか神秘的だと感じることが多い。
そんな人が、私の自慢の“結び団子”を食べると一様に顔をほころばせてくれる。
それがたまらなく嬉しかったのである。
だが、ここ最近はそんなシスターさんもほとんど店の前を通らなくなっていた。
そもそもお客さん事態がほとんど来ていないんだから当然だけど。
悪い人に騙されやすいシスターさんたちが、教会に言われてここを通らないようにしているんだろうというのは想像に難くない。
そんなときに、その人は私の店を訪れたのである。
リリアさんという名前のそのシスターさんは、びっくりするほど可愛らしい。
それと同時に、シスターさんとしてはかなり変わった人であるらしい。
礼拝を面倒だというシスターさんに出会ったのは、初めてのことである。
どこか世間慣れしている雰囲気があって、私のお団子も普通の旅人さんたちのように美味しく召し上がった。
だというのに、どこか不思議なほど神秘的な雰囲気を持ち合わせている人だった。
まるで、彼女と同じ名前の聖女リリア様はこういうふうに神秘的なのかな、と思わせるほどに。
聖女リリア様。
数百年教会に不在だった、聖女の称号を久々にに継承したお方。
聖女というのは、かつてまだ大陸に魔物が跋扈していて、今のように街道を人々が旅するなんてことができなかった時代。
人々を守護し導くために女神様が遣わせたという存在だ。
今では魔物もその脅威を潜めているけれど、それでも聖女という存在が特別なものであることには変わりない。
今代の聖女様は、歴代の聖女様の中でも最も聖女としての素質があるらしい。
平和になった今の世に、どうして聖女様が? という疑問に聖女としての素質が高すぎてうっかり出現してしまったからだというのがまことしやかに囁かれているくらい。
ただ、そんな聖女様がこんなところにいるはずがない。
だからリリアさんには、すぐにでもここを離れてもらいたかったのだけど――遅かった。
奴らが、またやってきてしまったのだ。
そいつらは、私から全てを奪おうとしてくる。
最悪な連中。
もしもリリアさんみたいな可愛らしい女の子が彼らに目をつけられたらどうなるかわかったものではない。
の、だけど。
リリアさんは言ったのだ。
“こいつらちょっとぶっとばすから”。
――と。
私は、最初それが何を言っているのか理解らなかった。
少なくとも、この時の私は。
それが、自分の人生を変える出会いになるなんて、ちっとも思ってはいなかったのだ。
TS転生者が旅をしながら、悪者相手に無双しつつ人々を救う話が読みたい書きたい!
これって要するに時代劇じゃね? というわけで書きました。
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