【IF】アヤベさんの妹に転生したけどこれキャラ崩壊する奴じゃんってなる話 作:煎餅さん
ちなみに夏休みの時の話。
簡潔に状況を説明するならば、私はウマ娘の世界に転生した。
転生物の作品にはよくある話だが、まさか自分がその当事者になるとは思っていなかった。自分自身もその手の作品を好んで見ていたし、そういう事を夢想して楽しんでいた時期も当然あった。
でも自分が実際にそうなるとは思わないじゃん。
さらに言えば、どうやら私はアドマイヤベガの妹に生まれたらしいのだ。
だが待って欲しい、彼女の妹は死産であった筈。そんな妹の枠に生まれて大丈夫なのか。この世界の神様はその辺の管理ちゃんと出来てるのか心配になる。まぁ現状の私にはどうしようもないのだけど。
まぁ兎にも角にも、生まれてしまった物は仕方がない。というか、ぶっちゃけ本来なら居ない筈の妹枠に生まれた事以上に、下手すればそれすら霞む程に特筆すべき点がこの世界にはあった。
この世界のウマ娘、滅茶苦茶デカいのだ。
——☆☆☆——
「ザーガ、おはよう! 今朝の気分はどう?」
目が覚めて、最愛の妹にそう声をかける。何よりも真っ先に、それが私の毎朝のルーチン。
私の妹は、所謂未熟児というものらしい。小学生になったというのに、彼女の身長はウマ娘でいう所の二歳児やそこら程度しかない。ヒトで言えば平均身長ではあるのだが、彼女はウマ娘である為に判定としては未熟児の扱いになる。
そんな事もあって、彼女は生まれてからずっと検査を受けている。けれど結果はウマ娘としては未成熟だけど、ヒトを基準にするとお手本のような健康体。さらに言えば、検査結果では理論上普通のウマ娘と同じだけのパワーが出せるらしい。
もしかして、私の妹はすごいのかもしれない。そうでなくても、健康であるなら小さな妹は愛しい存在に変わりはなかった。
「おはよう姉さん、今朝もすこぶる良好よ」
そう言って、私を見上げる妹。
容姿は全く同じなのに、私達の身長差は実に五十センチ近くはある。私を一回りか二回りほど小さくしたのがザーガだ。
「今日が終われば夏休みだねぇ。明日は朝からお祖母ちゃんのお家に行くけど、準備とかは大丈夫そう?」
「ん、大丈夫。荷物は纏めてあるから平気よ」
「そっか、何かあったら私が持ってあげるから。遠慮なく言ってね?」
「いや、身体の大きさが違うだけで私も力あるから……」
そんな風に言って彼女は遠慮するが、未だに彼女の身体が健康にどんな影響を及ぼしているのか定かではない。なので実のところ、彼女にこの辺りの選択権は無いのだ。必要に応じて、私が彼女を抱き上げて移動する事も視野に入れている。
そういえば彼女はお父さんと同じで、所謂お金持ちという雰囲気を苦手としている。明日の移動もその事でザーガが要望を出したらしいが、歯牙にもかけられず却下された。こればかりはお父さんも、気持ちは分かるけれど許可出来ないと一蹴していたのは記憶に新しい。
お祖母ちゃんのお家から車で送迎があるのだが、それを公共機関を利用して行けないかとザーガは要求したのだ。しかし残念ながら、ウマ娘としては異例の小ささを誇るザーガを両親は目の届かない場所で公共の場に出るのを避けたいと考えた。結果として却下と相成ったわけだ。
「みんな過保護過ぎよ……私は大丈夫なのに」
「仕方ないよ、ザーガみたいに小さいウマ娘は初めてらしいし。もうちょっと大きくなる頃には研究も進んで、何も問題が無いのかとか分かるらしいから。それまでの辛抱だよ」
そしてもはや口癖となった彼女のその言葉に、しゃがんで視線を合わせつつこれまた何度も口にしている言葉で返す。不服そうにする彼女を掴み寄せて、一瞬感じた抵抗も無視して抱擁してやる。こうしてやれば、もう彼女は逃げられない。
ザーガの力は確かに他の同年代ウマ娘達に匹敵する。しかしこういう組みつきの場合、身体の大きさというアドバンテージを覆すには足りないのだ。ずるいと分かってはいるけれど、こうした方が早いのもまた事実。こうして強引にでも納得させないと、暗い雰囲気のまま学校に行ってしまうのだから仕方がない。
「さ、朝ごはんを食べて学校に行こう? 終業式に遅れちゃう」
そう言って立ち上がり、彼女に微笑みかける。
そして彼女は顔を朱く染めて、何かを小さく呟いた。何を言ったかは聞こえなかった、これ程小さいと耳の向きを合わせないと聞こえないのだ。まして位置に差がありすぎた。
けれどきっと言ったのは照れ隠しなのだろうという事は、彼女の顔を見れば明らかであった。
さて、終業式を終えた私達は翌日の夏休み初日を移動に費やし、お祖母ちゃんのお家へとやってきた。
厳密には別荘の一つらしいから本当のお家ではないらしい、けれどそれでも私達のお家より大きい。加えて普段のお家が和式の平屋だから、洋式の御邸は新鮮だった。
何よりプライベートビーチの存在は大きい。周囲の目を気にせず、それ処か私達しかいない環境で遊べるのは本当にいい気分だ。ザーガは不思議と気後れしている様子だったが、そもそも初日に水着を用意していない事が発覚して、近所の街まで買い物に行く羽目になった時点で今更だ。
ちなみにザーガがスイムスーツを選ぼうとしたので、結局選ぶのも私がする事になった。今後この子が衣服を選ぶ時は常に一緒の方が良いかも知れない。
そんなこんなで私達が着ているのはお揃いの、とは流石に行かない。百十センチ前後しか無いザーガは、服を脱がせると数少ない私との差異があった。お腹の中の臓器が身長に対して詰まりすぎているため、寸動の様な外見になってしまっているのだ。私と同じくビキニにパレオという恰好は、そんな彼女には少々厳しいだろう。
そういう事で彼女にはワンピースタイプの水着を着せている。私と同じく青を基調としたもので、腰周りにはフリフリのフリルスカートが付いたカワイイ物だ。あまり落ち着かない様子ではあったが、自分で選べなかった彼女が悪いのでここは無視する。
とはいえ実のところ、あまり二人で一緒に遊べる事も多くない。
ビーチボール遊びは体躯の都合、どうしても私が有利になる。他の身体を動かす遊びも同様で、水遊びも私が起こす水飛沫は彼女にとっての津波に等しい。
最終的に砂遊びに落ち着き、その後ザーガがちゃっかり購入していた水鉄砲での水遊びが出来たのは幸いだった。
そうして遊び、時に学んでを繰り返していれば見慣れないバスが近所の道を通って行った。それもかなりの数で、何事かとお祖母ちゃんに問えばトレセン学園の夏合宿なのだそうだ。近隣で行われ、その際に普段私達が使っているプライベートビーチも彼女達に開放されるらしい。一般人はもちろん、メディアの侵入も出来ない為に彼女達の夏休みにはピッタリなのだそう。
そして、その時ふと思いついた。これはザーガの為にもなるかもしれない。
思いついたならば即実行。念のためお祖母ちゃんやお母さんたちに相談はして、最後にザーガにも提案をしてみれば意外に乗り気。「分かった、準備するね」と簡素ながらも明確な肯定の後、あっという間に体操服へと着替えてしまった。
「私達に、走り方を教えてください!」
そして偶然知り合った、というか向こうから話しかけてきたトレセン生三人組に頼み込んで、私達はこの夏から未来への第一歩を踏み出し始めたのだった。
───☆☆☆───
結論から言ってしまおう。
私、意外と才能があるかもしれない。
「貴女たちの入学がまだまだ先だというのが惜しいですね、来年から入学というなら既に契約の事前準備をさせて欲しいぐらいですよ」
「それ、さりげなく不安になるからやめてトレーナーさん!?」
少なくともこの場に集まっているトレーナーさん達のお眼鏡には適ったらしく、私の体格も合わせて驚愕で場が支配されていた。 まぁ私もたぶん同じ立場なら、対格差に圧倒的な差があるのに併走する姉と同等の速度で疾走すれば驚きもするだろう。
「こうやってちゃんと走るの初めてだったけど、ザーガも脚が速いのを知れてちょっと安心した。……というか、もしかしてザーガの方がちょっと速い?」
そして姉からもそんな風に言われて、そういえばと思う。ただどちらかと言うと、姉さんが若干走り難そうに感じた。走り方の差か、体重含む体格の差かは不明だが。
しかし事実として、砂浜を400m走って結果は私の三バ身勝ちという圧勝。姉さんから微妙にジェラシーの波動を感じて、若干気後れしてしまう。
「もしかしたら、アナザーベガさんはダート適正があるのかもしれませんね。アドマイヤベガさんと比べると後方に飛ぶ砂が少ないですし、その分が確り推進力に回っている結果と考えるのが妥当でしょう」
そして監督してくれているトレーナーさんからそういわれれば、なるほどと納得する。その言葉に姉さんからのジェラシーも鳴りを潜め、しかし直ぐに不服そうな表情を浮かべた。
「それじゃ、ザーガは砂の上を走るの?」
「いえ、あくまで適性があるだけです。それに現時点での話ですし、芝での状態もまだ見ていませんから」
人に依ってはダート軽視に聞こえかねない発言だが、今回の場合は姉妹が同じ路線で走れない事への不安や不満だとこの場の全員が理解して居た。そこは先ず一安心。
しかしダートか、この結果は少し意外だった。確かアプリのアドマイヤベガはダート適正がGだった筈で、魔改造でもしない限り走れたものじゃなかった。私が魔改造アドマイヤベガの因子を継いでいるのか、はたまた別の何かなのかは不明だが。まぁ留意しておくに越したことはないかも知れない。
「ですが何よりも驚いたのは、その外見で通常のウマ娘と遜色ない速度を出せている点です。見た所無理をしているわけでも無いですし、先ほどチェックさせて頂きましたが熱も持っていないので健康そのもの。どこまで走れるのか見届けたいですねぇ」
代表監督者のトレーナーさんがそう言って、周囲に居た野次ウマトレーナー&ウマ娘達からは「確かに」とか「私も一緒に走ってみたい」といった声が聞こえてくる。この身体な以上は仕方が無いが、これは妙に目立つことになりそうだと感じる。
年頃の女の子が夏休み中の出来事をクラスで共有しない筈が無いし、それが珍しい物ならば周囲に伝播しない理由も無い。将来的には忘れられていてほしいが、どうなることやら。
さて、その後の事だが何故私が姉さんと遜色ない走りを出来ていたか。その結論がトレーナーたちから出た。
結論から言えば、パワーが同じな以上は後は身体の使い方やスタミナの差が出てくる所、諸々の事情を鑑みてそこに殆どの差が無い事が判明した。どういうことかと言えば、これでも乙女として生を受けたので言うのは憚られるが要は総体重が関係しているらしい。
身体の部位毎の重さがそもそも違う以上、その部位を動かすのに使う消費エネルギー総量と出力される推力エネルギーも違う。その結果面白い事に、動く量は同じでも総合的に消耗するエネルギー量で言えば姉さん達(この世界では)普通のウマ娘の方がずっと多い。ならスタミナ面では私が有利かと言えば、そうではない。
そもそも、スタミナを何処に貯蔵しているかと言えば身体だ。その中でも脂肪と言った物が主な貯蔵元になるのだが、私は身体が小さい分それらの総量が少ないのだ。結果として消耗するエネルギー量が少ないとしても、最終的に枯渇するタイミングはそんなに変わらない程度でしかない。
グダグダと説明したが、要はどちらも総量と時間経過毎に数値で見れば差がある様に見える。だがそれらを全体で100として見る%グラフで表現すれば推移は同じになるという事だ。
例を挙げれば私は100、姉さんは200のスタミナがあるとする。同じ距離を同じ速度で走るのにお互いに消耗するのが私が10で姉さんが20なら、%グラフ的にはどちらも同じく10%しか消耗していないという事になる。
もちろん体格差から来る歩幅等も考えたが、これも先ほど上がった体重が関わってくる。体重と走行中に発揮するパワー、それらを総合した場合脚に掛かる負荷を考えると実は私達の歩幅にそこまで差は出難いらしい。流石に数十センチ規模で差は出るが、その程度なら私がそれを上回るのに必要な脚の回転数も飛躍的に跳ね上がるという事は無い。
なんならその辺りのフォームを変に乱すと、途端に故障の可能性が顔を覗かせるとの事だった。その為に本格化を迎えてスパートを仕掛けられるだけの身体が出来たウマ娘には、真っ先にフォーム矯正指導が入るらしい。本能に任せてスパートをすると飛躍的に故障率が跳ね上がるらしく、過去にそれで数人のウマ娘を巻き込みその全員が生死を彷徨う大事故が起きたらしい。怖すぎる。
まぁ本家ウマ娘世界でもありえなくない話だろうけど、それでも自重に差があるから必然的にこっちの世界の方が同じ速度な分被害はデカいだろう。純粋に質量は凶器だからね。
あれ? この理屈で行くと、私ってそもそも一緒に競争できるのだろうか。純粋な質量差で言えば巻き込まれればほぼ確定で死ぬ自信しか無いのだが。
一緒に走る事を楽しみにしている姉には悪いが、その辺で残念なお知らせをしなければならないかもしれない。
少しだけ、気が重いなぁ。
続かないです(鋼の意思)(スキルじゃないから誤字ではない)