東堂の記憶マシマシです。
なんだこいつ?
上から落ちてきたと思えば突如好きな女のタイプを聞いてきた。
まあいい、どうせただの変態の一種だろう。
前世ならほっときゃ勝手になんかの怪人になってそうだし、こんな奴は前世から見たことがある。怪人にいた。
だが、好きな女のタイプねぇ。ここはあえて答えてやろう。
「ケツとタッパのでかい女だ」
瞬間、筋肉ダルマの身体が震え始め、その震えはだんだんと大きくなる。
どうした、これは正解か、ハズレか?
食うには一番美味そうだから言ったんだが、タンパク質多そうだし。
だがコイツは携帯電話のバイブのように小刻みに震え続けている。
なんだこいつ、オレの想像以上に気持ち悪いぞ。
小刻みに震える大男を見つめながらオレも臨戦体勢に入った。
「俺、高田ちゃんに告る」
「ふーん、いいんじゃね?振られると思うけど」
「相変わらず冷たぇなあ。でも俺はやる」
「逆になんでお前は付き合えると思ってんだ、体格的には釣り合ってるかもしんねぇが性格は合わねぇだろ」
黒井は、そんなことを言いながら俺の後ろを着いてくる。
なんだかんだコイツは優しくないふりをして俺たちのことを考えてくれているのだ。
縁の下の力持ち、だが俺以外の奴は気づきもしない。つまらん奴らだ。
だがお前の努力は俺が知っている、俺が知っていることに意味がある。
0と1は違うのだ。
「やらない後悔よりやる後悔だとは言うだろ?マッキーも言っている」
「マキャヴェリの言葉な。マッキーとかどこの油性ペンだよ」
「ごめんなさい。私、好きな人がいるの」
振られた。
振られるとは、心の奥底、何処かではわかっていた。
俺が高田ちゃんの美しさとは釣り合っていないことを。
彼女の隣に立とうとせず、その美しさに思わず尊敬の念を向けてしまった。
その瞬間からこの恋はとっくに終わっていたんだ。
「好きな人が俺って可能性は」
「ないだろ。あったら振られないぞ」
体育座りで落ち込む俺の頭を黒井はわしゃわしゃと撫でる。
慰めてくれているのだろうか、俺は餓鬼ではないんだが。
「お前が高田ちゃんを大切にしてたのは彼女にも伝わったはずだ。
好きな人がいるってことは、彼女も彼女で心は疲弊している。彼氏との一回一回の会話に全精力を注いでるんだから。
それを少しだけでも支えてやれた、お前が好きだと言ってやったことでな。多分。
その事実はお前にとって不十分の幸せか?」
そうか。
彼氏がいたとしても、俺は高田ちゃんの幸せの一欠片の土台にはなれたのかも知れない。
彼女の幸せの一欠片を支えられるのならば本望だ。
何故なら俺は彼女が好きだからだ。
「ありがとう。
俺も振られたのになんだか幸せな気持ちになれた。
ありがとう、ラーメン奢るから食いに行こうぜ?
高田ちゃんの幸せの一部になれたことを記念してな!」
「お、マジで?
なら遠慮なく奢って貰うぜ。
替え玉も食ってお前の財布の中すっからかんにんにしてやるよ」
「俺の方が食うから見てろ」
「くっそ、絶対オレの方が食ってやるからな……!」
「西中の大猿と小猿、か……。あの時結局お前の方が食ってたし」
「お前なんの記憶辿ってんの?」
「おいどうするオレ、想定外の化け物に出会った」
「いや知らねぇよこんなわけわからん化け物どうすりゃいいんだよ」
「変態すぎる、オレの手に負えねぇ。てか触れたくねぇ」
「どうやら俺たちは、“親友”のようだな……!!」
「「「!!!」」」
マズイ、名前も言ってない変態に親友扱いされている。
まだ一言しか発していないのにだ。
そもそもオレの女の好みは食ったら美味い女の好みだ。
おそらくコイツの考えている性癖というものとは全く別物なのに、わけわからん歯車が綺麗に噛み合って地獄が作られてしまった。
てかなんでこいつ泣いてるの?純粋にキモいぞ。
「ここで再び邂逅したのも一種の縁だろうな、死合をしよう」
「待て、オレは今五条悟と……」
「関係無し!」
筋肉ダルマのタックルをモロに受けてオレは吹っ飛ばされる。
クッソ今のタックルで十数体オレが死んだ。
許さねぇ!
おい……、五条悟はどうなってる?
相手からの攻撃、これは縛り違反じゃないのか?
いや、そもそも攻撃ってなんだ?
「どうした黒井!
お前の実力はこんなもんじゃないはずだぞ!?
もっともっと、もっと本気を出してくれ!」
「おい待て」
「テメー、一瞬頭にデコピンさせろ」
「ほんとに弱くやる、警戒するな」
「──?親友の願いだから別にいいが」
恐る恐る、軽くデコピンを加える。
縛りの罰は全く起こる気配がない。
どうなってやがる。
「そういやお前、名前は?」
「東堂葵だろ、忘れたのか?」
「ハナから知らねぇし」
「じゃあ続きを殺ろう!」
再びタックルを食らって吹き飛びながら考える。
縛りを考えてみたが、残念ながら東堂からオレへの攻撃は縛りに抵触しない。
『1.お互いがお互いのことを殺せるようになるまで互いに相手の仲間と思っている存在を攻撃しない。
2.お互い相手のことを尊重する』
最初は1に抵触していると思ったんだが、縛りを結んだのはオレと五条悟の間の話でお互いというのはこの2人になる。
そのせいでアイツの大切な仲間であろう東堂葵はこちらに攻撃できてしまうのだ。
それはとんでもなく良くない、だってオレは五条以外に危険な奴がいてもこの縛りで一方的に攻撃出来ねぇんだからな。
だが、オレから東堂へのデコピンは通ったし、縛りに抵触しなかった。
これはどういうことだ?
「おい、東堂!人に攻撃するということはどういうことだ!?」
「おいおい、親友なんだから攻撃じゃないだろう?」
「すまん、お前にとっての攻撃ってなに?」
「人を害することだ」
「人を害するってどういうことだ?」
「人に殺意を持って攻撃したりすることだ!今はじゃれ合いだ、害しあっているわけではない!」
そうか。
完全に理解した、最高か?
この世界が殺し合いに溢れていたことに感謝。
この縛り練習試合や特訓ならば“抵触しない”!!!
なんなら本気で殺す気で攻撃しなければおそらくだが抵触しない!
罰起きてるけど気づいてないだけかもしれないが、おそらくそうだ。
この世界で殺し合いがいっぱいあったせいで五条悟の攻撃の認識がそうだったんだろう。
ならエビル天然水が反応するレベルの殺意を向けなきゃ大丈夫ってこっだな!
よっしゃ!
「これは練習死合、いいな!」
「ああ、やるのか黒井!」
「おうよ、精子津波!」
守りを固めた筋肉ダルマに、一万体に分かれたオレが一気に流れ込み埋め流す。
一万体といえど金属バットが殺すのに苦労した100体の100倍。
そのパンチ力は鉄筋くらいなら軽く捻じ曲げられる。
「東堂大丈夫!?」
その言葉と共に撃ち込まれる銃弾に、オレが複数殺される。
銃撃音の鳴った方を見れば銃をこちらに向けた黒服の女が一人立っていた。
うん、この東堂とかいうやつよりは雑魚だ、後で削ろう。
あくまで殺意はない。超能力の種類、ここでいえば術式を知りたいだけ。
あくまで殺意はない。それをオレに言い聞かせる。
殺意を持ったら罰が発生するからそりゃまあ必死にな。
ただ前世の天然水のおかげで少し制御が出来てるのがありがてぇ。
オレは怪人だが、やっぱり生きたいという気持ちが一番先行するみたいだ。
『止まれ』
オレの身体一億体が、ガチンと一瞬にして固められる。
ヤッベ。
この声の術式、オレ全員に作用している!
おそらくあの山の方にいる奴らにまで作用してんな、無事かアイツら。
よし動いた、止まるのは一瞬だけだな。
だがこの一瞬で一気に形成逆転されたらやべぇから注意しなきゃな。
「お前、ひとまず止まれ!」
「おい止まりやがれ人間かわかんねぇけど!」
動き出した瞬間にパンダと女が殴りかかってくる。
クッソ、またオレが100体近く殺された。
1億体しかいねぇのに傷つけんなよ!
「今は東堂との練習試合だ、よそ者は関与すんな!」
「ならそもそもよそ者はウチの敷地内で暴れんな!」
今度は空に飛んでいる鳥らしきものから餓鬼二人飛び降りてくる。
なんだこの世界、変態しかいねーじゃねぇか。
パンダに筋肉ダルマに、学生のくせに銃使ってる餓鬼とか、動き止められる餓鬼とか、変な鳥とか。
なんだこの魑魅魍魎の変態グループ!!
「伏黒、釘崎!!
コイツは呪霊じゃねぇ!私にも見えてるし多分人間だ!
しかも今東堂との練習試合って言ってるし、東堂もコイツに埋もれながらアイルビーバックしてる!
攻撃するとしても怪我しねぇくらいに軽くやれ!」
「マジっすか」
「真希さんは思いっきりぶん殴ってるじゃないすか!」
「伏黒はともかく釘崎は魂への攻撃だから殺意が高すぎる!
こいつ呪霊じゃないからガチで殺しちまう!
あくまで釘を刺すだけな、マジで!」
「わかりました!じゃあアンタとりあえず歯ァ食いしばれ!」
『芻霊呪法 共鳴り』
カーンという乾いた音と共に共に響く、オレの体内の激しい痛み。
1億のオレがその痛みに思わず動きを止める。
おかしい……!!
オレ自身は攻撃を食らったのは外側にいる一体だけだ。
それなのに全員にダメージが入った。
まさか、まさかだが。
さっきの言葉みたいな作用が、オレ全員に伝わるのか!?
となるとコイツはオレ一体を殺せるなら全員を殺せることになっちまう!
マズイマズイマズイ!!
オレ一体の強さは子犬以下だ。一万体といっても釘とかは普通に刺さる体の強度だし、上がってるのは基本攻撃力!
体の表面が釘刺さられねぇ程硬くなってるわけじゃねぇ!
だが今はそれを悟られるのが一番マズイ!
それがバレたらいつでも即死確定だ。
絶対に避けなきゃならねぇ。
これはオレ以外のオレも思ったみたいでラッキーなことに動きを止めたのは一瞬だけ。
その後数発パンダと女に殴られ、銃を喰らったところで初めて動きを止める。
これで完全にはバレてねぇはずだ。
クッソ、ヤバい天敵に出会った、冷や汗が止まらねぇ。
体を再び一体に戻し、東堂葵へ向き直る。
肝心の東堂は腕と肋骨を折ったようで満身創痍。
逆にこんなふうになって立っていられるのが奇跡だろう。
「無事か?」
「無事だ」
「「「「いや無事じゃねぇだろ」」」」
「おかか」
なんでこいつマジでピンピンしてんだ、口から血を吐いてるし体ボロボロなのにメンタル強すぎるだろ。
さっさと病院行け。
オレが怪我させたってなると普通にダルいんだよ。
「で、なんなのアンタ。
東京校にこんなやついたなんて初めて知った」
「いや真依、私もコイツ知らねぇから。
というか呪霊ではないみてぇだけど、お前なに?」
「オレは黒い精子。
昔の呪術師の受肉体で、今は五条悟と協力関係結んで東京校で暇を潰してる。
受肉体なのにこんなちんちくりんの体になったのはマジで知らん。
なんでなの?教えてよお姉ちゃん」
「いや私も知らねぇし、お姉ちゃんやめろぶん殴るぞ」
眼鏡の女に話しかけたら警戒心が少し弱まった気がする。
お姉ちゃん呼び警戒解くのにいいな、やりすぎるとぶん殴られそうだから注意が必要だが。
で、東堂をどうするか。
「お前マジで病院行ってくんね?特訓の練習試合なのに、怪我されても困る。
後遺症だって残るかもしれないしマジでオレの心痛むからさ」
「大丈夫だ安心しろ黒井。
俺はこれから高田ちゃんの握手会へ行く。それまでの辛抱だ」
「はいはい家入さんのところに行きましょうね〜」
「うめ〜」
いつの間にか担架を持ったパンダがマスクをした男と共に東堂をぶっ倒し、建物内へ運び込んでいった。
結局なんだったんだアイツ。
さて、ここに残った女三人と男一人とオレ。
この気まずい空気をどうやって捌ききって知識を得ようかねぇ……。
東堂葵……1億体の精子相手に1分近く耐えたすごい人。黒い精子の名前を聞く前から何故か黒井という名字が頭に浮かんでいて、女の趣味を聞いたために急に親友としての存在しない記憶が浮かび上がった。この人の趣味もケツとタッパのでかい女。
黒い精子……自分を害しうる術式持ちを見つけてめちゃくちゃヒヤヒヤしている。1億体もいるのに100体死んだだけでイライラする超ケチでもある。お金で考えればそのケチ具合がわかるはず。というか1億体でこれって術師側大丈夫だろうか。
その他大勢……変な名前の変な生き物を見つけて困惑している。パンダと真希が呪霊でないと見破ったのはお互いの境遇、特性から。今のところ東堂のお陰で黒い精子に敵対心はない。
殺す気は無い練習試合だけどうっかりやっちゃったっていう精子にとって幸せな展開にはしないのでご安心ください。