久しぶりです。
2人躯倶留隊でオリキャラが出ます。
黒い精子なしの呪術廻戦の世界では普通にモブだったとお考えいただけると幸いです。
「なぁ、嘘やろ……」
禪院直哉はただ一人廃学校の屋上に立っていた。
その眼下に広がる、今にも校庭を埋め尽くそうとしている黒い波。
頬に一筋の冷や汗が流れる。
制限時間は10分、全員校庭からスタートという条件で鬼ごっこは始まった。
だがもちろん禪院家の面々がタッチされたからと言って潔く負けを認めるはずがない。
そのために行動不能になるまでは捕まっていないと判断されるという特殊ルールが加えられている。
痛い目に合わせようと息巻く柄の面々に、直哉はただ一人完全に呆れていた。
元々あの覇気。勝てる訳がない。
父親が鬼ごっこというルールで了承したのもそれで初めて勝負になるからと判断したからだろう。
ならば戦おうと思うこと自体が適解ではないはずだ。
そう判断しただ一人全力最初から全力で逃げの姿勢を取り、開始とともに加速を重ね屋上まで飛んだ。
その結果がこれだ。
自分以外の一瞬でも戦おうとした柄はすぐさま全滅。
躯倶留隊も大半が生き埋めにされ、残った奴も次々に追いつかれている。
彼らがもう逃げようがないのは誰が見ても明らか。
「まさに津波みたいやな」
生き埋めにされればどうなるかはわからないが、まぁ行動不能にはなる。
父親のおかげで死にはしない、ゲームオーバーになるだけだ。
自らの勘が正しかったことに安堵し屋上へ津波のように精子たちを見やる。
「こりゃほんの数秒でここまで来れそうや。
精々親父に感謝するんやな、カスども」
男は校舎の中へと走る。
「かわいそうなこった」
「15歳のガキなんて本当はオレもいたぶりたくないんだぜ〜?」
「自分の不運を恨むんしかねーなぁ」
「残念だが殺すのは俺が生きにくくなるしギリギリを攻めさせてもらうがな」
黒い長髪に、釘崎野薔薇と近しい身長。
禪院陽花。
禪院真希にさりげなく聞いたけど、確かコイツだけが芻霊呪法の持ち主だ。
他の持ち主は老齢だったり戦闘員じゃないから気にしなくてもまぁ殺されはしねーはず。
この3日でオレが蓄えてきたのは、禪院真希、釘崎野薔薇の好感度。
そして高専にある図書館に置いてある全ての本の知識だ。
数万冊あったが10000体に分かれて3日で読破した。あいにく全ての知識をオレ一人が得られる訳じゃねぇから重要なところだけ共有してるし、オレ一人が全部わかってるとかそんな万能なやつじゃねぇが十分だろう。
その中でも人間の弱点、急所について読んだ100人のオレに指揮をしてもらって、ボロボロになっても攻撃し続ける。
出来れば殺してぇが一番いいのは勝手に自殺してもらうことだな。
意識が朦朧としちゃ自殺もままならねぇかもしれねぇ、抑えめにするか?
いや、確かに後で死んでもらえばいいんだから今は緩める必要はねぇな。
芻霊呪法で必要になるであろう金槌は没収してるし、久しぶりの遊びが出来る。
まだ幼いのに可哀想に。
えっと、人間の弱点は、頭、首、 胸、脇腹、股間ばっかだから……。
あー、オレ知識に基づいて人殴るの苦手かも知んねーなぁ。
女を蹴り上げ吹っ飛ばし、適当に繰り返す。
よし、コイツもコイツで呪力による防御は出来るみてぇだな。ならサンドバックにはちょうどいい。
お、口動かそうとしてんな。なんか言おうとしてるのか?
「ゲッ、ゲホ……、た、助けて……」
「無理だろ」
「ギャハハハ、コイツ漏らしてやがる!15にもなってザマァねえな!」
「あ、そうだ。
お前にやってほしいことあったんだ」
「やってくれるなら殺さねぇよ」
「……」
「で、どうすんの?やんなきゃ殺すけど?」
髪を掴んで見ると、女は泣きながら言う。
すっかり怯えてやがる、所詮は餓鬼だな。
「やる……。やります!
やります、から……!」
「あーそ、なら急げ」
大量のオレの中で、それは静かに執り行われた。
一方、禪院直哉と黒い精子の鬼ごっこは制限時間が残り1分になっても決していなかった。
直哉は校舎内を走り逃げることに全力を注ぎ、それを黒い精子が追いかける。
完全なスピードで黒い精子を軽く超える直哉を黒い精子が数を増やすだけで捕まえるのは正直困難だ。困難というか無理だ。
だが、それは今までの話。
残り1分になって精子はついに校舎内と校庭を一億体で埋め尽くす。
そして禪院直哉に残された場所は、屋上の僅かな床。
その床もすぐに埋め尽くされるだろう。
だが、それが禪院直哉の闘志に火をつける。
「もう逃げ場はねぇだろ!いい加減諦めろ!」
「諦めるのだけは嫌なんや!
まだ、ある!」
直哉は思い切り足を踏み込み、屋上から跳んだ。
しかし校庭も全て黒い精子が埋め尽くしていて足のつく場所もない。
だから直哉は空へ跳んだ。
元来投射呪法は自身の動きをコマ割りにしてそれに従った動きをする術式。ある程度は物理的法則を無視することが出来るが、完全には無視することはもちろん無理だ。
そんなことが出来れば五条悟のように宙に浮いたりワープすることが出来てしまう。
それが出来る五条悟は狂っているのだ、比べてはいけない。
だからその使い手である禪院直哉も、物理法則は無視することは出来ない。出来ないはずだった。
だがそこに現れた黒い精子という存在。前世で散々物理法則をガン無視してきた特級以上の能力を持つ化け物。
それと触れたことで、禪院直哉は新しい世界を見ることとなる。
直哉は跳んだ。
バネのようにステップを踏んだのちの最大跳躍。
もう逃げ場はない、落ちるしか手段はもう残っていない。
しかし、黒い精子に対し強い敵対心を持つ直哉は不可能であることを知りながら全呪力を込めてさらに右足を躍動させる。
摩擦により大量の熱が発生し、靴底から熱が伝わり、底は熱に溶かされていく。
「終わらせやせん!」
その言葉と共に、さらに空中で跳ねる。
元来不可能であった空中二段ジャンプを呪力と想像で無理やり行った。
直哉は不可能を可能にした。
「やった、俺は、やったんや」
「これで終わりだがな」
しかし神はいない。そのあとが続くわけもなく、校庭の黒い精子の中へと落下していく。
その瞬間に直哉の首にかかっていたタイマーが0になりけたたましい音を上げた。
全呪力を使い切った直哉が黒い精子のクッションの中へ墜落するのと、制限時間がなくなるのは完全に同時だった。
「ピッタ10分、か。
禪院直哉がただ怠いだけだったな」
気を失った直哉を地面に下ろし、精子は収縮した。
「これで終わり、ですね。
任務も終了、黒い精子と皆さんのイザコザも無事解決。
黒い精子さんが帰還して次第私は帰ります」
「ああ。
七海建人。この怪物を五条悟は野に放っているわけだが、お前はどう思う?」
「どう思うと言われましても。
こんなのこの世にいてはいけないでしょう。
上層部からも殺せと言われてるんですし、いくら高専の生徒と良好な関係を結んでいるといえど殺すべきです」
「だよな。
五条の餓鬼、どうせ生徒どもの起爆剤になるんじゃないかとか思って放置しているんだろう。
誠に困った坊主だ」
禪院直毘人と七海建人、彼ら二人で揃ってため息をつく。
呪具で学校の映像を映し、10分に及ぶ鬼ごっこを見ていたわけだが、こんなの最初の1分以降完全に直哉と黒い精子の追いかけっこだった。
まさか最初の最初でほぼ全滅するとは直毘人も七海も思っていない。
黒い精子により黒塗りの高級車に詰め込まれていく禪院家の面々に思わず七海は頭を抑えた。
だがその隣で、その面子を一人一人確認しながら皆が五体満足で生き残っていることに直毘人は胸を撫で下ろす。
故意でないとしてもつい数人殺してしまった、その可能性が僅かにあると思っていたのだ。
しかし体の動きには呪力が混ざっているし、間違いなく命は全員持っている。
全員を気絶させる程度の怪我で済ませた黒い精子に、正直感謝の念を抱かざるを得ない。
「お、電話だ。出るぞ」
デデンデンデデンという着信音に、直毘人はスマホを取り電話に答える。
七海はエヴァの音が急に鳴り出したため僅かに目を見開いた。
「なに!?
それは本当か!!
マジかマジか、マジでか!?」
呪具の画面とスマホの画面を何度も往復して凝視し、大笑いした後に七海の方を見てニヤニヤ笑う直毘人。電話はもちろん繋がれたままである。
七海はここでとんでもなく嫌な予感がした。
そしてもう一度ブワッハッハという巨大な笑い声をあげて笑ったあと、鬱陶しそうにする七海の肩を無理やり組む。
七海は帰りたい。もう関わりたくない。
だから御三家はクソだ。
そう思っても肩を組まれている現実は変わらない。
そして直毘人は、家全体に響くような大声で叫んだ。
「躯倶留隊が一人、由莉が反転術式を会得した。
今日は宴だ、お前も朝まで絶対に帰さん!!
寝床は用意する!」
耳のそばでキンキン響く大声に、すでに七海は会社員時代飲んでいた精神安定剤も帰りに買っていこうと心の底から決意している。
「なぁ、明日には帰るんか?」
「その予定だからな。
どうしてだ」
精子は縁側で涼んでいた。
季節は夏の初め。うるさい家の人達がいなければ風鈴がいい音を響かせているはずだ。
その隣へ、障子を開けて宴から離脱してきた直哉は胡座をかいて座る。
空を跳ねるという無理をして静かに肉離れを起こしていた右足も由莉の反転術式で完全に元に戻っていた。
肘を膝に乗せ、男はため息をつく。
「お前は、あっち側なんか?」
(あっち側、ねぇ。
おそらくあっち側というのはS級ヒーローのレベルなのか、それを聞きたいのだろう。
今のコイツでもA級ヒーローの強さはあるだろうが、S級には絶対に届かない。
それだけの強さの差がオレと直哉の間にはある)
そう結論づけて無言を貫く精子。
事実、そっち側ならなんだというのだ。
なにもする義務などはない。
「俺と1日1回、いや2回、毎日戦ってくれへんか?」
「なんだと?」
直哉の言葉に、思わず精子も目を見開いた。
せいぜい強くなる方法を教えろとか、一回本気で戦って見せろとか、そういうことを言われると思っていた。
まさか毎日戦えなどと言われることは夢にも思っていない。
そもそも彼の体が持たないだろう。
「まさかこっちの体のこと心配してくれてん?
それは平気や、由莉ちゃんに治してもらうからな。
呪力も体が痛んでなければ12時間で回復できる、だから頼むんや」
だが精子が考えているのは別のことで、直哉自身のことはどうでもいい。
残る上で問題は七海が許すわけがないということ。
朝になれば無理やりにでも回収され、東京校に送り届けられるだろう。
だからここに残ることは不可能だ。
なによりメリットもない。
「じゃあこれはどうなんや。
一億の体をまた半分に分けて、半分をこっち側に残す。
あとは、そっちのメリットやなぁ。
うーんと、いつでも人間ボコれるとか、禪院家のカスどもボコボコに出来るとか、そういうのでどうやろ?」
確かにそれはメリットだ。
そう考えた後、精子は一つ思い出す。
それを含めれば長期滞在も悪いことじゃない。
そもそも今回の目的も完全には達成していないのだ。ならこれを口実にして処理するのも一つの手。
数が集まるまでの辛抱だ。
オマケにさっき酒の席でも直毘人が残れと言っていた、いけるはずだ。
「オレが残る理由が出来た。
同時に、お前と戦う正当な理由もな。
ただ条件が一つある」
「ほんま!?
なんやその条件って、俺に出来ることならなんでもやるで!」
「その特訓に禪院家の全ての戦闘員を参加されろ。
直毘人はいいが、その他全てだ。
朝と昼の禪院由莉の反転術式で全員を治す、足りない分の呪力量はオレを食わせて補わせろ」
「それ、お前は減らないんか?
減りすぎたら戦いにならんと思うねんけど」
「お前が逃げに徹しないならオレは10万でリンチ出来んだよ、気にすんな」
「──そうやな、すまんかった」
目を瞑り俯いてなにかを考える男を精子は見て、首を傾げた。
無駄に明るい金髪が、障子からの光に反射して淡く光る。
だが精子はそれを見てもなにも思わない。
そもそも精子に人の心はわからない。所詮怪人だ。
それに対して直哉は人間。本来はわかり合うこともないし、こうやって話すこともないのだ。
やがてなにかが吹っ切れたのか、直哉はスッと立ち上がり言う。
「じゃ、明日から頼むで」
「条件は呑むんだな?」
「当たり前や、親父も特訓して欲しいとは思ってたんやろ?
なら僕が言わんとも勝手に事は進む。上層部にもうまく話通してくれるやろ。
逃げようとする奴がおったら首根っこ捕まえて強制参加させるから、安心しとき」
そのまま自室へと歩いていく直哉を見やり、精子は再びため息をついた。
思い出すのは昔の記憶、ブサイク大総統に家畜にしてやるよと言われた記憶。
まさか自分からその願いを出すとは追い詰められたものだ。
呪術もエグいな。
そう考えながら、精子は未だに由莉の周りでどんちゃん騒ぎになっている酒の席へと障子を開く。
あっち側の人間。
僕も強さを理解出来ちゃいない、それは罪だ。
戦う前から俺は奴の強さに気づいていた、だが今ではどうだ。
禪院家の全ての戦闘員がボコボコにされた事で、皆が強さを知っている。
今は俺も、有象無象と同じ咎人だ。
(強さの理由、純粋な呪力量と単純な術式だけなんか?)
わからない。
本当はもっとなにか隠している強さの秘密があるのかもしれない。
(弱いことは罪なんや。
強さを、強者を理解しないことは罪なんや)
1人、ライトスタンドの光の元で書き殴る。
強さの理由を。
自身がどうすれば強くなれるのか。
どうしたら、アイツに抗えるのか。
(あの時、俺は飛んだんや。
なにかが、なにかを変えられそうな気がするんや。
だから戦ってくれと頼んだ)
(だけど、いくらアイツといってもいつ悟くんに殺されるかわからへん。
悟くんも化け物や。
アイツの強さはわかってるはずやし、いつ危険視されてここから離されるかもわからへん)
強くなるためには、強くなるためには。
今はあっち側の黒い精子の力が必要だ。それに掴みかけている強者への足がかり。
今は1秒でも無駄にすることは出来ない。
残り滓みたいな呪力を練って、練度を上げる。
それの一部をちぎって、投射図法を使いさらに書くスピードを上げる。
だが使い過ぎれば明日の特訓に支障が及ぶ。無理は出来ない。
呪力が、呪力がもっと欲しい。
力が欲しい。
彼は淡い光と静寂に囲まれた中、徹夜で紙に言葉を、考えを、戦い方を、想いを、呪いを、書き殴り続けた。描き続けた。
これより2日後、禪院直哉は覚醒を迎えることになる。
直哉を強くしたかった。
直毘人が急に精子に寛容になったのは、言わずもがな由莉が反転術式を手に入れたからです。
自他を治療できる反転の持ち主は貴重なのでテンションがめちゃくちゃ上がっており、そのため禪院家の起爆剤に精子を仕立て上げようとしている。
この人にとっても禪院家の命は軽い。
禪院陽花、禪院由莉。
それぞれ15歳、13歳の少女。姉妹。
陽花は芻霊呪法を持っていたため禪院家の女性の中では大層な扱いを受けていた。しかし由莉は術式も持たずただ呪力量が人よりも多めの子供だったため普通に虐められていた。
由莉は戦力としてじゃなくて鬼ごっこに参加したはずだったのに、今回の件からは大事に扱われそうでホクホクしてる。
書いてて思ったけど普通に虐められてるって何事だよ。
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禪院直哉を強化したい。どこまで強化する?(下二つの選択肢にした場合、禪院直哉が結構綺麗になります)
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