廻り廻れ黒い◯子   作:天廻シーカ

9 / 9
遅れました。VS真人です。


9 主人公の椅子取りゲーム

「――虎杖くんは」

「――もう出ましたよ」

「ありがとうございます」

 

(映画館の屋上にいたには人間で、すでに改造されていて死んでいた。

 死んでいながら何かの術式で動かされて為し崩し的に戦うことになってしまった。

 敵は強くそして趣味が悪い。子供の虎杖くんに付き合わせていい相手じゃない)

七海建人は、彼の言っていたことを思い出しながらネクタイを締め直す。

 

『ナナミンも無事でね』

『ナナミンってなんですか……』

 

果たして、私は無事に帰れるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

(おお、改造人間が殺されてるね。それなりの手練れか?)

真人は縮小した改造人間を口の中に詰め込み、ごくりと飲み込む。これも最近開発した格納法だ。吐き出すという手間はあるが、戦闘中にじゃまになるということがない。

 

 

「趣味が悪い。

 こんなものをけしかけても私を倒せないでしょう、いい加減出てきてくれませんか」

「もーう、人間の遺体を弄ぶなんてひどいねー。あと俺は子供。

 人間だったら小学校行く年齢だよ?」

「ですが呪いです」

 

下水道の先からヒョコっと顔を出した真人に対して七海は厳しい言葉を投げかける。

(そりゃないって。こっちはまだ餓鬼だよ?なのに大人が慈悲なく戦っちゃうなんてさ。

 まるで、そっちが悪役みたいじゃない?)

真人はにんまりと笑い、改造人間の種を喉からつまみ出す。七海は鉈を構え、腰を落とし敵を見据える。

 

「じゃあいきますよ」

「いいね、実戦演習といこうか!」

 

至って平穏な日常の、底は揺れ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無為転変!どうだい、このウォール!!」

「趣味が悪いですね」

 

(うーん、せっかく作った人間壁が壊されちゃうなぁ。

初めて作ったわりには薄皮みたいに簡単に破れちゃったし、呪力の込め方とかに工夫が必要なのか?

まー、どれもこれもちょうどいい強さの呪術師が来てくれたからよかった。五条悟だったら強すぎて困っちゃうし、逆に弱すぎると俺が勉強できない。

勝てるちょうどいい強さだ、チュートリアルとしては助かるよね)

 

バキャリ。

呪力でガードした真人の左腕が鉈でへし折られる。

(防御が叩かれた部分だけダウンするみたいな感じかな?)

後ろへ飛び、折られた手を軽く振って元に戻してから七海に笑いかけた。

 

 

「そういう術式?」

「他人任せで抽象的な質問は嫌いです」

「あーそうそう、でも話すのは嫌いじゃないんでしょ?

 俺たちには言葉があるだろ?話しながらやろう」

「厄介ですね」

 

(スーツは何か考えてる。おそらく俺に対する対処法とかを報告とかとすり合わせて考えてるんだろう。

 まあ、そんなこと関係なく俺はお話ししたいんだけどさ。

 とにかく今はインスピレーションが欲しい)

静かに見定める七海にかまわず、真人は言葉を進める。

 

「ねえ、幻影の呪霊って知ってる?」

「最近現れたといわれている呪霊ですね。それがなんですか」

「もう、この世界そのものが奴の生得領域内なの。

 ただアイツは世界そのものを生得領域とする代わりに自我と自身の安定した存在を失った。

 だいぶ昔の話だから俺はそんなことした理由については知らないけどね。

 ともかく、今この世界はゲームの中になってると考えるのがいいよ」

「……そうですか」

「もーう、お話しって言ってるのに俺がしゃべってばっかりじゃん。

 俺も今のは全部聞いた話だけどさ。

 ーー本題に入ろう。奴の術式は、記憶や意志を現実化することなんだって。

 例だと……、平安時代に出来た昔話、猿蟹合戦とか桃太郎とかがノンフィクションって言えばわかるかな?

 そのとき幻影の呪霊は存在してたみたいだ」

「……何が言いたいんです?」

「幻影の呪霊の形に、この世界が引っ張られてたってこと。

 そして今回の顕現じゃまだこの物語の主人公は決まってない。

 それを踏まえてみれば、今この状況、どっちが主人公になれるかなんて明白じゃない?」

 

真人が一瞬で棍棒化させた腕を七海へ振り下ろす。

(さっきまでよりも、速い!)

即座に七海の鉈により受け止められる腕。だがその力を抑えるには力が足りず、しかもそれが伸びたことにより七海は壁まで吹っ飛ばされる。

(いいねいいね、最高だ!

 初めて使った技でも、なんでも現実に出来る!)

 

「もうこの世界は漫画なんだよ!小説なんだよ!物語なんだよ!

 そんな世界で餓鬼を本気で虐める大人が主人公だと思ってんのか、驕り野郎!」

(この物語に、正義は一つだけでいい!)

七海建人が起き上がる前に、足を蹄に変化させて迫った真人はそのままの勢いで黒く変色した棍棒状の右腕をぶち当てた。

 

壁が破壊されたことによる砂煙の中、真人だけが立ち上がる。

(失敗した。どうせならもっといろんなこと試してから殺すべきだった。

 そこそこ強そうだったのに、もったいない)

真人はそんなことを思案しながら背中を向けて歩き出す。同時に、右腕がなくなっていることに気づいた。

「まじ、かよ?」

さっきまでなかったはずの黒い呪力の塊が、膨張しながら七海の胸ポケットから溢れ出す。

棍棒の形だった真人の腕は黒い塊に覆われて波打ち、そして取り込まれた。

 

「危なかった。ありがとうございます」

「たく、変なのに絡まれたな。味方ならおもしれぇが敵なら怠くてたまらねぇ」

(本当に傷一つなく受け止めている。黒い精子も特級なのがよくわかりますね)

眉をひそめ、ため息をつく。七海はなんだか自分がちっぽけに見えてきている。

ただ、自身も並の特級呪霊だったら問題なく祓えるのを知っているため単純にこの二人がおかしいということには理解できていた。

 

(あれを受け止めてしかも喰らったか、化け物め!)

真人は右手を再生し、舌なめずりをする。

そして人型をなした黒い塊を睨みつけファイティングポーズをとった。

(まさかその呪力量、個体数で抑えてくるとは思ってなかったけど、やっぱりいるんだね、そっち側にも)

 

「へぇー。君、面白いね、うざいけど」

「それはこっちのセリフだ、バカ餓鬼。

 常識知らんのはいいことだが、雑魚がそれやると死ぬからな」

 

 

 

 

真人は膜状にした改造人間で追い込みながら槍状に尖らせた改造人間を腕から射出し、黒い精子を狙撃する。精子はそれに当たりながら,そのまま食って呪力を増加させる。

(いーや、何回見てもおかしいだろそれ。

 なんで受けた方が回復すんだよ。ま、それも勉強したけどさ。

 ともかくこっちの奴も飛び道具は基本無効か)

精子の質量攻撃を体を紙状にして回避した真人は、思わずため息を吐く。

と同時に精子に触れ、改造。だが改造された個体もそのまま生きている精子に食われ、個体数自体は復活。

なんなら無為転変で与えた呪力分精子は増えている。これは流石の真人も嫌な顔を隠せない。

(こっちは個体数少ないはずなんだけどね……。先生の見立てだとまともに戦えるか怪しいとかじゃなかったか?)

 

「驚いた。一気に巨大化してからの攻撃とか、そっちもそんなに変形できるんだね」

「お前ほどじゃないがな」

「それもそうだね」

 

(奴の術式、人間だけじゃなくてこっちにまで作用すんのかよ。

 俺が生まれるのはいいが、同時に結構な数の俺が消滅する。俺が消えるのも運ゲーだな。

 別に俺が消えたところで他の俺も同じ思考してるから問題ないが、ハズレクジは引きたくないもんだ)

黒い精子も自身が改造されるとは思っていなかった。真人の無為転変の対象は一定以上の呪力のある生命。そして、基本人間にしか発動しないそれは受肉体と呪霊のハーフに近い体の構造をしている精子すらその対象としていた。

だが、それで話が変わるかと言ったら何も変わらない。

無為転変も、改造人間による攻撃も、なんなら自分の体を変形させての攻撃も無効化されるなら、真人に打つ手は残っていないはずだった。

 

 

 

 

だが、呪霊陣営の精子が、幻影夜行の主人公が、その筋書を狂わせる。

 

 

 

 

「領域抽出!」

「っ!!」

真人は手を銃の形に変化させ、二本の指で精子を突き刺す。開かれた口の中で掌印が結ばれる。

危険を察知し分裂する精子。だが、真人はその黒い体を群体ごと改造しそのまま取り込んだ。

(ーーまじか、高専の資料にも存在しない術式の使い方だぞ、それ!

 先人どもが1000年で積み上げてきた呪力ノウハウをいとも容易く超えてくるんじゃねぇ!)

精子は半分になった自身の個体数をサイズを二倍にすることで見た目上は維持しながら、距離をとって真人を睨む。

 

「人の体内で術式を展開するとか、何で出来んだよ。

 イカレてんのか?」

「イカレてないと呪術なんて使えないだろ」

「それもそうだな」

 

呪術の中で最高峰なのは領域展開だ。それと並んで領域展延。これが出来る人間や呪霊は完全に規格外として扱われる。

そして真人はそれを知っていた。

だから、領域展開が出来なくても精子には勝てるように開発した。

 

『領域抽出』

掌印を結んだ状態で他人の体に自分を繋げることで、その空間自体を領域の対象にした。

いくら人体の外殻があるとはいえ相手は呪力で保護された密度の高い物質だ。領域展開とどちらが難しいかといえば甲乙つけ難い。

だが、真人は知らなかった。

それが難しいということを知らなかったために実現してしまったのだ。

幻影夜行により海底に竜宮城が構築されるように、領域と同等の難易度と思われる行為を真人はすでに完全にものにしていた。

 

「ってわけで、もう帰ろうかな。

 知りたいことも知れたし、もうお線香はあげたくないしね。

 じゃあねー。あ、それとひとつ。

 殺した人間の数、案外忘れやすいんだよ?」

「チッ」

真人の術式は焼き切れているため、しばらくの間無為転変を使うことはできない。それは精子にもわかっていたから捕らえるつもりだったが、天井を砕かれたうえその隙に体を変形されて逃げられた。

 

「で、なんでお前は戦闘に参加しなかった?」

(そりゃそうか、これは私でも聞く)

「あなたが一端の大人だからですよ」

七海は落ちてくる瓦礫を十劃呪法で破壊しながら答える。

 

「へぇ、本当のところはどうなんだか。

 ピンピンしてるじゃねぇか」

「あなたのおかげですよ」

 

七海の本心は黒い精子にはわからない。

だが、なにかあるとは察知した。

(幻影夜行にも注意がいるのかもな)

そう思いながら、精子は瓦礫にぶつかり分裂した。




真人はインスピレーションと幻影夜行が噛み合ったことにより原作より強化されています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。