IS神峰録 作:アリガートル
少しだけ昔話をしよう。俺の名前は
第二回モンドグロッソを両親達と見に行ったんだ。千冬さんが出場するからって。そこで俺達は神峰重工の情報を盗むために誘拐された。
神峰重工はIS関連技術で世界シェアが5本指にも入る程の企業で、代々続いていたものを俺のお父さんが継いで今に至っている。その重工の企業秘密などを社長夫婦から強奪しようとしたのだが、テロリスト達は失敗した。
ドイツ軍や警察により俺達の誘拐先などを特定、しかしテロリストは失敗した時点で用済みと判断して建物ごと爆破、俺は奇跡的に生き残ったものの先に述べた通りの重傷、両親は死亡した。
……らしい。
この事件のあらましは医者から伝えられたものであり、事件当時に日本に残っていて無事だった姉は、連絡を受けてこちらに向かってきているらしいが、折り悪く仕事で海外にいたらしくまだ到着しないという。
とは言ったものの、俺自身は2年の昏睡くらいで後遺症は無いし、記憶喪失により腕や足を喪った喪失感は無いもののそういうものだと受け入れる事もできた。
俺が目覚めて何日経ったかは分からないがある日、姉が到着したと連絡が入った。主治医か担当医らしいメガネの先生がそう告げて、その数分後に走る足音がしてから扉が開け放たれた。
「真琴!」
白い髪、青い瞳。扉を開けた姿勢のままこちらを認識すると、ボロボロと泣きながらこちらを抱き締める。
「良かった……本当に良かったよ……」
痛い程に抱き締められ、抱きしめ返す腕も動かないまま。
「龍華さん、今の真琴くんは……」
「ごめんなさい、私……でも……」
「分かります、そのお気持ちは。落ち着いて、そこに座ってください」
ここ数日の経過を報告し、現状の説明から入った。その後にリハビリのプランが立てられる。それは経過を見つつ臨機応変に対応する事になっている。どこまで出来るか、何が出来るかはまだわからないから、らしい。
暫くその話をした後に、先生はこれで終わりますと言って退室した。
「……真琴、昔の事は何も覚えてないんだっけ」
声も出ないので頷く。
「うん、分かった。ありがとう。大丈夫、真琴の事はちゃんと守るから、だから、声が出るようになったら龍姉って呼んで……昔みたいに……」
そう言って頬に手を添えて額を合わせる。龍姉はその後、また来るからと言って部屋を出ていった。一人残されて、やれることもないので眠ることにした。
次の日に、龍姉が大荷物でやって来た。
「ごめん真琴、ちょっと騒がしいかも。それと、ちょっと色々と検査させてもらうね」
続いて先生が入ってきて、ベッドから移されて運ばれる。その後に様々な検査を行い、暫くしてからまたベッドに戻される。
「今のはね、真琴の身体測定を兼ねた精密検査だったの。術後の後遺症の心配も無いみたいだし、これで義肢が作れる」
そう言って、龍姉は俺を抱き締める。しかし、やはり俺の左腕や脚が無いことを確認してまた泣き始める。
「り……ねぇ」
「真琴……?」
「ご……め……ん」
面食らった顔から、また大粒の涙を流して龍姉は抱き締めた状態で大泣きする。
「ごめん、ごめんね、こんなお姉ちゃんで、こんな、ごめん」
泣き疲れたのか、龍姉は未だ涙を流しながら眠ってしまった。龍姉の心臓の音を聞いていると、眠くなってくる。それに身を任せて瞼を閉じる。
目が覚めると、書き置きが一つ。
寝ちゃってごめんね 数日来れないけど
絶対にまた来るから リハビリ頑張っていこうね
また一緒に暮らせるように
それから、リハビリの毎日だった。残った右腕を使うのは、最初は難しかったけど、先生曰く若いからか筋肉の萎縮が少なく早期にリハビリが終わるかもしれないという。物を持ったり、箸を使ったりと細かい作業から入り、自力での姿勢変換などを行っていた。リハビリの過程で声が出るようになり、発話の練習もしている。
万事順調に事は進みつつある。
俺の物語はここから始まる。