IS神峰録 作:アリガートル
家族が疎ましかった。食事は全部栄養食で済ませていたし、家に帰ってもやることが無かったので夜以外は専ら外で過ごしていた。世界は停滞し、どうしようも無い程に倦怠感に包まれたこの世で、私はどうするべきか悩み続けた。
だが、ある日それは突然変わった。
篠ノ之 束との出会いだ。彼女は出会った時、既にISの計画を立てていた。それに私は初めて心を奪われる様な感覚に陥った。理論は完璧だ、後は作るだけなのだが、素材や資金、資材は学生である我々からすれば酷く手の届かないものだった。
そこで初めて私は両親に自分からお願いをした。
「お願いがある」
「……えっ!?」
「り、龍華!?」
こんな感じに酷く驚かれたし、一回体調を心配されたが設計図や作動原理を教えつつ必要なものを伝えると、一転して険しい表情へと変貌した。
「これは世界を変えてしまう様な代物だ。これは龍華が書いたのか?」
「私じゃないとしか言えない」
「……そうか。だが、こんなものが世に出てしまえば何から何まで変わってしまう。残念だが協力は無理だ」
「せっかく龍華が私達を頼ってくれたから、協力したいのは山々なんだけど……」
「あっそ。考えてくれただけでもありがとう」
世界を変えてしまう程のものを、作らせないのであれば、無理矢理にでも作ってやろう。世界なんて私達だけでも変えられることを証明してみせる。しかし、そこで呼び止められた。
「龍華、一つだけ課題を出す。その課題を合格すれば協力する」
「あなた……!?」
「課題って?」
「龍華ならもう設計図も書けるだろう?そのISに対抗出来るものの設計図を三つ、書いてきなさい」
「わかった」
「合格かどうかはこちらで判断する。いいね?」
「じゃあそっちの思い通りの結末だけだ」
「私を納得させられるだけの設計図を引いてきなさい、龍華」
無言のままに部屋を後にする。リビングを出て廊下へと足を運び、自分の部屋へ入る。そして、机と向かい合う。これに対抗するには何が必要か、対抗とはどういう事か、ましてや設計図段階の物に対する設計図を書く時点で頭おかしいとしか言えないでもない。
だが、やらねばならない。
まず最初に、ISの速さと防御力が最大の課題となる。最初に対空ミサイルの転用を思い付いたが、それでは機動力の問題から追い付くことは出来ても急激な方向転換が出来ず、頭の片隅に置いておくことにした。
そこからは夢中になっていた。久し振りにここまで没頭したと自分でも思う。私はそこから3日は寝ずに思考を続けていた。既に引いた図面は100を越し、そのどれもが自分で納得の行かないものだった。余りにも行き詰まりを感じ、食事と睡眠、それとシャワーも浴びようと部屋を出ると、弟とばったり会った。
「あ……龍姉……」
「その呼び方はやめろ。今機嫌が悪いんだからどっか行けよ」
押し退けて通り、着替えと共に風呂場へと赴き、シャワーを浴びてリビングへと出る。しかし、ここに来て頭に浮かんだのは航空機に対する最高の対空兵器は戦闘機であるという事だ。ISに対抗するにはISでしかなし得ない。
ともすれば、あの時父が言った事を考え直せば、世界を変えてしまう様な物に対するにはそれと同じだけの物をぶつけなければならない。であればそれ即ちISに対抗するにはISでしか無い。
なので、残念ながら二つだけ、理論上は落とせる物を書いて一つはISの設計図を書いた。これが、後に対IS兵器として成就するものであり、私の原点の一つである物になった。
▼▽▼
「……合格だ。私の言いたい事は分かってくれたかい?」
「ISに対抗するにはISでしかなし得ない」
「そうだ。龍華、それが世に出てしまえば軍事的なパワーバランスも、国家間の力関係も、企業や個人的な占有で混沌に陥る」
「でも合格した」
「ああ、だから協力は惜しまない。だけど、龍華はまだ中学生なんだ。例え龍華が否定しても私達は龍華を絶対に守るから、安心してほしい」
「あっそ。ありがと」
その後、集まった資材と束が作り出したコアを元にISの開発に取り掛かった。親はその時から忙しく色んな所に根回しみたいな事をしていて、恐らくこの後にやってくる世界規模の衝撃を緩和するべくして動いていたんだと思う。
そして、数ヶ月後にISは世界へ向けて発表された。
▼▽▼
神峰重工は素早かった。ISの研究部署を設立し、娘である龍華を利用してIS関連技術について開発を進め、加えて対IS兵器の開発部署を設立。二つの部署は新しく建造した海上プラントにて活動し、後にマザーベースと呼ばれ本社機能を有する第二の神峰重工本社へ変貌する事になる。
ISの発表の後に起きた白騎士事件では試作段階の対IS兵器群による海上プラントからの射撃により迫り来る弾道ミサイルの一部を迎撃、これを白騎士に擦り付けて隠蔽しつつ実戦的なデータの収集に勤しんだ。
また、白騎士の捕獲にやってきた米露中軍と白騎士の交戦を秘密裏に支援し、米海軍第七艦隊、露海軍太平洋艦隊、中海軍東海艦隊に対して広範囲に渡り戦闘結果の収集を行い、また水平線から対IS兵器による攻撃で何隻かを航行不能に陥れている。
ここに来て神峰重工は、ISに通常兵器では敵わない事を再度認識、独自路線に舵を切り対IS兵器の開発製造に注力することとなる。
一方の龍華は、軍隊を持ってしても倒せぬISに傾注し、束との密約によりコアの製造方法を知る。この密約はISによる世界規模の変革を起こした後の、恐らく狙われるであろう束の身を匿い続けるというものであった。
龍華の協力、またの名を龍華による開発が進み神峰重工はISの研究開発において常に一歩先んじていたが、海外からのIS関連技術の開示要求により一部を除き、国内外へ倉持技研と共に技術体系などを開示。しかしこれが後に国内外における提携企業の確保や友好的な企業関係を築く為の布石となっていた。
しかし、ここで神峰重工は対IS兵器に関しては倉持にすら漏らしておらず、その研究開発は極秘裏に進められた。対IS兵器関連技術は後に対外交渉の切り札となり、国家間外交での切り札とすらなった。
▼▽▼
ISの発表から四年後。宇宙開発は一向に進まず、アラスカ条約により既にISは地球上の管理下に置かれ始めていた。その事に対して束は非常に残念そうにしており、人間というものの価値を見失い始めていた。
「ねぇ、りゅーちゃん」
「何?」
「やっぱりさ、ISを作ったのって間違いだったのかな?」
「まさか。もしかして今更怖じ気づいたの?」
「ううん。箒ちゃんと家族が分かれちゃった。私がISを発表して、それを政府が重要人物の周辺を保護する名目で箒ちゃんを監視下に置く為に引っ越しさせたの。……多分、箒ちゃんは私の事を恨んでるよね」
「あっそ……束、私ね。退屈だった。束や千冬に会えて良かったと思ってる。今は全然明日が来るのを望んでる。世界を変えているのは自分達なんだって、不可能なんて無い……そう思える」
「……そっか。そっちの弟くんは?箒ちゃんとお友達やってたでしょ?」
「さぁ?泣いてるんじゃない?知らないけど」
「もっと仲良したら?」
「それ束が言う?」
「天災共、何を話している」
「この世界をどうぶち壊してやろうかってね」
「そうさね。私達が楽しい世界にしようかってさ」
「お前らがそれを言うと洒落にならんな。大方何か悪巧みでもしていたんだろう」
この時が楽しくて、いつまでも続けば良いなと思う程に眩しくて、どうしようもない程に今を生きている。千冬は今年、初開催のモンドグロッソに出場の予定だし、その為には私達も支援を惜しまないつもりだ。
重工の一部は既に私が主導で動かしている。この二人に負けず劣らずの天災であることは重々承知の上で色んな事をしている。
だからこそ、この先の未来が見たい。私達が変える世界を見てみたい。人はこれを狂気と呼ぶか、マッドサイエンティストと呼ぶか。そんなことはどうでもよい。
今はただ、未来の為に。