IS神峰録 作:アリガートル
「真琴、調子はどうだ」
「大分良くなった。もう痛みも引いてるし」
脈拍も血圧も落ち着いている。どうやら本当らしい。この事を社長と束に連絡して、真琴に着いてる色々な管を外しながら暫く待つ。
「まぁぁぁぁぁぁくん!」
「馬鹿、まだ経過観察中だ!」
「へぶっ!?」
真琴に飛び込もうとした束を既のところで脚を掴んで止める。地面に顔から落ちた気がするがコイツなら大丈夫だろう。その後ろから社長が歩いてくる。久し振りにマトモな雰囲気を放ってやがる。
「真琴、調子はどう?」
「元気だよ龍姉」
真琴の頭を撫でながら、落ちている束を一瞥してまた撫でる作業に戻っている。
「いった~い、私じゃなかったら死んでた……」
「あ、起きた?義足の話ししてもいい?」
「起きてたけどさぁ、もっと!優しさとか!あるじゃん!」
「あ、そうなんだ。で?それが何か問題?」
ムキーッ!と言いながらも義足を持ってくる束。社長は空間投影で義足のデータを表示する。
「この前のデータを元にして義足は作られている。最初につける時に痛みがあるかもしれないが、最初だけだ。副作用としては神経系の負荷がある。それが痛みや頭痛として現れる可能性がある。理解したか?」
「分かった」
「まぁ、暫くは私らもついてるから安心してくれ。じゃあ、つけてくか」
束が持ってきた義足。黒一色だが、人工皮膚を貼り付けて違和感のないようにすることも出来る。接続部のカバーを外して、真琴の脚に取り付けていく。
「いくぞ」
「いっ……」
「大丈夫そうだな、次いくぞ」
「あでっ……」
両足を着けて、痛そうにしているが義足のデータ自体は問題無い。
「真琴、手を」
社長が手を差し出すと、それを取って立ち上がる為に意を決する。
「よい、しょっと!」
「おっ!」
「立った!立った!まーくんが立った!」
データを見ても異常なく作動している。このままバランスを覚えて歩行できるようになれば、晴れて真琴は大地に立てたと言って過言ではない。
「真琴、歩けそう?」
「手を離さないでね龍姉」
一歩、また一歩。真琴自身は2年ぶりの歩行だ。身体はまだ覚えているだろうが、本人の中の不安でイップスになりかねない。この調子でリハビリを継続するか。
「いけそうだね真琴!手、離すよ」
「大丈夫、いけるよまーくん!」
直立し、歩行する。人間ならば標準的に備えるその機能を一度は失った真琴が、取り戻した。それは喜ばしいことだ。社長や束の様に真琴を抱きしめて喜ぶのもいいだろう。
「タバコ吸ってくる。良かったな、真琴」
「ありがとう玲奈」
一仕事終えたんだ。タバコくらいでバチも当たらないだろう。甲板に出て、タバコを咥えてライターを出す。火をつけて一息。
「……信也さん、アンタの子供達はよくやってるよ」
▼▽▼
義足を着けてから一週間、玲奈の下でリハビリに励み、今では走ることも可能になった。龍姉と束さんはちょっと用事があるとして、あまり姿を見せていない。重工の製品に関すること、高校に間に合うように勉強を教えてもらいつつ、義肢の生活とはいえ、俺自身の体力も必要だとして、筋トレに励んでいる。
そう言えばと、中学に行かなくても良いのかと聞いてみたことがあったが、無国籍なら義務教育も無いとしてこうしてここで好きにできているらしい。
そんなある日、やたらクマを作った龍姉と束さんがリハビリ中の俺の所にやって来た。
「龍姉、束さん、そのクマは……」
「気にしないで!ちょっと昔を思い出して楽しくなっちゃっただけだから!」
「平均睡眠時間が2時間で1週間は馬鹿だったね!でも完成したよ!」
「玲奈、真琴借りていい!?」
「好きにしろよ。怪我させんなよ」
そう言いながらタバコを咥えて外へ出ていく玲奈。もしかして置き去り?
「じゃあ、行こうか!」
束さんに抱き抱えられて、何処かへ連れられていく。それはラボプラントの最奥、厳重な警備システム網に守られた場所にそれはあった。
「これは……」
「神峰重工の中で2年間停止中だった次世代型IS実証試験機を作る為の計画、アヴェンジャー計画があった。それを、他国の企業と共同して企業連を作り、世界的な実証試験用のプラットフォームを作るネクスト・オルタナティブ計画が発足したの。それがこれ、私達の次なる代替案、NA-00 ネクサス」
巨大な胴体、そこから伸びている箱を繋ぎ合わせた様な四肢。メインカメラを備える単眼の頭部。全身を灰色で統一し、非アンロックユニットの無い人の形を保った機体。
「ISって、女の人しか動かせないんじゃ……」
「大丈夫。真琴は動かせるよ、触れてみて」
言われるままに右手で触れてみる。なんで動かせるかの説明も理由もないが、やってみるか。
『システム通常モードを起動』
『パイロット認証完了』
そのまま背部装甲が開く。龍姉を見ると、乗ってみろと手で示される。言われるままに乗ると、やはり狭かった。
「義足を膝から先を外して接続して、手を入れる場所あると思うから探して」
義足を外して外の龍姉に手渡す。そのまま接続して両手をカップホルダーのような場所へ入れる。
「よーし、フィッティングをしよう。束、並列」
「はーい!開発者の私達なら、この程度朝飯前よ!」
そう言った通り、ものの数秒で終える。すると、装甲が一部変形していく。段々と接続されている機体の状況が馴染んでいき、五感が研ぎ澄まされていく感覚がする。網膜投影方式で全方位の視界が提供される。
「1次移行した気分はどう?最適化されたと思うけど」
『機体全部が俺の身体みたいに馴染んでる……すげぇ……』
右手を閉じたり開いたり、龍姉の誘導で歩いたりなどを行う。
「良い感じだね。体調はどう?」
「大丈夫、まだ何も無い」
「ん、じゃあ外に出ようか。ガレージ解放するよ」
ビーッ!ビーッ!とけたたましい音と共に重低音が響く。床が開いてカタパルトが現れ、数十枚の隔壁が順序よく解放され、海が見える。
「これ、飛ぶ時はどうすれば?」
「飛べって思ったら飛ぶよ。さぁ、行ってきな!」
カタパルトに固定され、Gも感じずに射出される。クソっ、頼むぜネクサス!
「おっ、おお……飛んでる」
『良いね、真琴。今そっちのことは見てるよ、データも取れてるし』
『いーね!いーね!ちょーいーね!そのまま色々やってみよう!』
ネクサスのデータがリアルタイムで表示される。スラスターの吹かし方や、上下移動したり姿勢制御の仕方を覚えていく。
『よし、基本的な動作は出来そうだね。帰ってきな、私達の限界が近いからさ』
その言葉で、射出されたカタパルトの場所へ戻る。無事に着地して龍姉の誘導で奥へ進む。
「ISの専用機は、待機状態に出来る。どんな形になるのかも、どんな色になるのかも、まだ分からないけどね」
ISの解除を思い浮かべてみれば、ネクサスは粒子化して消える。すると、脚の無い俺は空中にポンッと放り出される。それを見た龍姉と束さんが目を丸くするのが見えた。
「あっぶな!」
「あ、ありがとう龍姉」
龍姉が間一髪で受け止めてくれて、事なきを得たが危ない所だった。義足をつけて立ち上がり、今度からは義足を
ここに来て、龍姉と束さんは限界と言って撤収していく。そういえばネクサスの待機状態は?と探してみると、灰色の髪飾りになっていた。
「髪飾り、か」
「ふーん、ネクサスはそういうタイプだったか。ま、白黒メッシュに灰色とはオシャレじゃん」
一瞬、龍姉は真剣な顔をした後に、そう言って頭を撫でる。義足をつけて龍姉とはほぼ同じ位の身長になっても撫でてくるのだから、もうされるがままだ。
「眠い……まーくん連れてってぇ……」
「はいはい、自分で歩くよ束」
「やーだー!りゅーちゃんだってまーくんに運んでほしいくせに!」
「それはいつか姉権限でやらせるからいいの。束は駄目、ほら」
「すーぐそうやって差別する!私だってお姉ちゃんなのに!」
「じゃあ妹と仲直りしてきなよ」
「それは……ちょっと……違うじゃん……」
シュンとした束さんを龍姉は首根っこを押さえて連れて行く。それに続いてラボプラントを出ていく。
「あ、そうだ。それ、重工の外で使わないでね」
「分かってる」
「ん、流石は私の弟だ。おやすみ真琴」
「おやすみ龍姉」
「私は!?ねぇねぇ私は!?」
「おやすみ束さん」
「おやすみまーくん!」
二人の後ろ姿を見送ると、見計らったかのように玲奈が横に並ぶ。
「……そのIS、お前が目を覚ましてから建造開始したと言って過言じゃない。あの天才二人でものの数週間で試験用プラットフォームとして改修して組み上げている。いつか、その異常性が分かるときが来るだろうがな、感謝しとけよ」
「分かってる。龍姉も束さんも、凄い人だってのは」
「凄いどころじゃない。世界のバランスを変えかねない人達だよ。ネクサスを渡されたってことは、お前はもう社長からしたら戦力の一人として数えられる。これから更に忙しくなるぜ」
「龍姉の役に立てるなら、それで良いさ」
「……お前も、あの人の弟だな。それでいて、あの人達の息子だ」
何処か悲しそうに頭を撫でた玲奈が俺を抱き寄せる。その力は強くて、玲奈の心情を思って振り払うのを止める。
「お前は、自分の為に生きろよ」
「何だよそれ」
「自分の感情を燻らせ過ぎるなよ。溜め込むな、人を頼れ」
「……分かった」
「他から何て言われても自分を貫き通すだけの強い大人になれよ」
「頑張るよ」
「良い返事だ。今日はもうオフだ、好きに過ごしていい」
そう言って玲奈はタバコを取り出しながら離れていく。その頬を、一筋の涙が頬を伝っている様に見えた。