IS神峰録 作:アリガートル
その日のマザーベースは慌ただしかった。ロシアの
龍姉の提案により、3社の人の出迎えをする事になった。最初に来たのは、ギガント社の輸送船ゴーレムだった。
「予定より少し早いな。そうだ真琴、ちょいと豆知識を教えてやろう。あのサイズだとスエズを渡れない、喜望峰周りで一月位は掛かってる。だがな、それだけ掛けてもあいつらは自分の所の製品は自分達で売り込むのを信条にしている。ここに来る担当者も技術屋の一人なんだぜ。大きいもの好きのイカレ野郎共さ」
着岸したゴーレムから、メガネとスーツ姿の女性が降りてきた。
「お久し振りです龍華さん。そちらの方は?」
「久し振りだねレーヴェ。この子は弟」
「神峰 真琴です」
「真琴さんですね。よろしくお願いします。私はジークリート・レーヴェです」
手を差し出されたのでそれに応じる。握手をすると、また龍姉との話に戻る。
「プラットフォームの完成を受けて私も途中で乗船しましたが、ああいう連絡は早めにお願いします」
「ごめんね、ついこの前出来たばっかりでさ」
「間に合ったから良かったものを……。今回は我が国で開発中の第三世代型の武装の一つ、とそれの拡大発展型の試作品を幾つか。それと、注文の装甲材とIS建造の為の資材を幾つか……」
「ん、ありがとう。荷下ろしはこちらでやっておくよ。先に外来者用の部屋に私物運んじゃって」
「分かりました。では、後ほど」
そう言ってヒールの音を響かせながら去るレーヴェさん。俺達も次の人を出迎えるために滑走路プラントに向かった。
「おっ、モスラが帰ってきたか」
「モスラ?」
「RAMPに依頼して作った大型輸送機だ。RAMPはその名の通りに航空機を作ってたが、エンジンやレーダー、アビオニクスや航空力学のノウハウをISに転用して、今じゃスラスターのシェアで五本指に入ってる」
『長い空の旅だったわ。悪くなかったわね』
『やぁビスナー、久し振り。元気だった?』
『そっちこそ。前見たときより元気そうで安心したわ。あら……その白黒のは』
『弟、ロシア語はまだ教えてないからさ』
『なるほどね。ラースタチカ・ビスナーよ』
「ラース……?」
「ラースタチカ・ビスナー、はじめましてってさ」
「神峰 真琴です」
『真琴だよ』
『ん、良い名前ね。あら、義手?』
『そう、内で作ったの』
『そうなのね。強い子に、いえ、強く不安定な子だわ。それを導くのは姉であるあなたの役目よ』
『分かってるよ、大丈夫』
輸送機から、同じような服装で銀髪の人が降りてくる。その人は龍姉を見て駆け寄ってきた。
『龍華さん』
『おっ、リェータ。元気だね、良いことだよ』
『龍華さんもお元気そうで何よりです』
『あ、弟さんですか?』
『そ、真琴っていうの。ロシア語はまだ分からないから』
「ラースタチカ・リェータ、よろしく」
「うえっ?あ、神峰真琴です」
「あれ?喋れたっけ」
「軍にいた時、少しだけ」
「なるほどね」
「オースィニは?」
『あれ?さっきまでいたはず』
『大方、散歩にでも行ったんでしょう。あの子の事だから、時間には間に合うわ』
『ん、ピアーズが来るみたい。そっち行くね』
『分かったわ、また後で』
置いてけぼりを喰らったが、龍姉はまた勉強しよっかと言って頭を撫でるばかりだった。最後はミニパクス・テクノロジーのCEOであるピアーズ・アンダーセン。龍姉とは昔からの知り合いらしいが、何だかまともな仲ではないようだ。
「今から来るピアーズはな、5年前に社長がぶん殴って更生させた奴だ。そこから知り合いの会社に入ると、経営者としての才能を発揮してそこのCEOを任される。そっからは才能の赴くままにリーダーシップを発揮して今のコングロマリットの大元、ミニパクスを立ち上げるに至るって感じだ」
「ハッハー!ピアーズ・アンダーセンの登場だ!久し振りだな龍華!玲奈も、いつも通り綺麗じゃないか!お!?車椅子の彼は……」
「やっほー、ピアーズ。弟だよ」
「遂に起きたのか!この寝坊助め!改めて、ピアーズ・アンダーセン。気安くピアーズおじさんとでも呼んでくれ!」
ガシガシと頭を撫でられ、続いて抱きしめられる。
「何かあったら頼ってくれ。これは番号だ、持っておけ。いつか役に立つかもだぜ真琴!」
「さぁ、みんな揃ったし時間を決めようか」
▼▽▼
会議に参加してくれとは言われたが、会議の時間もまだ1時間もある。部屋に戻ってから司令部プラントに行こうと思って車椅子を走らせる。すると、後ろから車椅子を押される。驚いて後ろを向けば、金髪サイドテールの人が車椅子を押してくれていた。誰?
「だ、誰ですか……?」
「ラースタチカ・オースィニ。ラースタチカの末妹、君に興味があったの」
「そうですか……」
「真琴、でしょ?白黒の髪、車椅子、左手が義手。龍華の弟、この前昏睡状態から回復したばかり。違う?」
「そうですけど」
「そう身構えないで」
オースィニさんは押していた手を止めると、正面に回ってくる。髪飾りをまじまじと見つめていて、服の首元から下着が見えそうになっていて目を逸らす。しかし、頬を両手で包まれて強制的に前を向かされる。
「動かないで。……そう、やっぱりその髪飾りが、例の……なるほど」
離れてくれたことにホッとしつつ、今度は目線を合わせて顔を覗き込んでくる。正確には、ネクサスを見つめているのだろうが、両手は抑えられててビクともしない。義手の方は右手よりも強いんだけどなぁ……!?仕方ない、龍姉も許してくれるだろう。
「駄目よ。そのISを使わないでね」
「何、でそれを?」
「あなたは、まだ世界に影響を与えてはいけない。だから、駄目」
そう言ってオースィニは俺の胸元へ顔を埋める。匂いを嗅ぐように息を吸う音がして、ぞっとする。
「龍華に似た匂い……でも、あなたの匂いだわ」
「な、何を」
「あなたは、あなたで随分茨の道を進みそうね。大変そうだわ」
「はぁ……!?」
そう言いながら、俺のことを胸元へ抱き寄せる。顔に当たる柔らかい感触に反射的に抵抗する。しかし、その力がどこから来るのか振り払えない。
パッと離されると、その表情には感情が見えない。その真っ赤な瞳は興味も無さげにこちらを見つめていた。こっちはまだ心臓バクバクだっていうのに。
「また会議で会えるでしょう。またね」
「な、なんだったんだあの人は……」
クルリ、と反転するとそのまま歩いていってしまう。本当に何だったんだろうか。ん?
「何だコレ」
新たに増えていた髪飾り。飛ぶ燕を象ったそれが、いつのまにかネクサスの下についていた。オースィニが着けたのだろうか?まぁ、着けていて不便でもないし着けておくか。
気付けば会議の時間になっていた。今はネクサスを展開した状態を皆で囲って、龍姉が紹介している段階だ。レーヴェさんもピアーズさんも日本語は分かるが、ビスナーさんは分からないのでリェータさんが通訳している。オースィニは黙ったままだ。
「基本的なスペックはさっきのデータを参照してもらえるかな。それで、このネクサス何だけど見ての通り
龍姉がそう言いながら、レーヴェさんの方を見る。レーヴェさんは何も言わずに、ただ眼鏡をクイッと上げていてた。
「機体のOSは私達で作って既に共有済みのArkOSを使っている。今の所のバグ報告とかは無いけど、これ以降に何かあったら報告を上げてほしい」
続いて、空間投影でネクサスのスラスター関連のデータが映される。
「スラスターについてはRAMPのものを使用。機体各部にこれを配置したお陰で、この大重量でも出力重量比は2.2を記録してる。一通りの試験でも良い成果を出してくれてる。そして機体のジェネレーターはミニパクスが。ネクサス自体は、出力にも容積にも余裕をもたせた設計だったけど小型大出力な物のお陰でまだまだ拡張性には余裕があるよ」
ラースタチカの人達は無反応、ピアーズさんはサムズアップしている。うわ、オースィニと目があった。
「では、ここからは私が説明させて頂きます。装甲素材であるグリッド086は我が社で製造されている建材、装甲素材です」
「建材って、家でも建てるのかい?そりゃパイロットには良いことだろうさ」
「はい。グリッド086はドイツ軍司令部の建材、装甲素材として使用された実績があります。また、アメリカ国内での試験の結果はこちらに」
俺にも配られた資料を読んでいく。アメリカ陸海空軍の総力でもって、適正な建築方法で建てられたグリッド086バンカーを破壊しようと試みたものの、地中貫通爆弾を持ち出してようやくといった具合である。また、標的として使用された際には機関銃に耐え、機関砲に耐え、戦車砲に耐え、艦砲に耐えたという。その桁外れの剛性はギガント社の巨大重機を建造する為に新たな素材を生み出す際に偶然生まれた物らしい。
ピアーズさんは片眉を上げて口笛を吹いていた。レーヴェさんはそれを無視して話を続けた。
「少なくとも、並みのISでは装甲を貫通することはありません。我が社で試験した所、第三世代型に搭載されているレールカノンにも耐えました。以上です」
「私達のスラスター、及び推進系は何ら変わありません」
「ミニパクスのジェネレーターも既存のものを使っている」
「ん、いいね。それで、プラットフォームを開発したということは、試験ができる。随時、試験を受け付けていこうと思う。今も、私達の変形機構を組み込んであるから、ちょっと見てて」
龍姉がネクサスに繋いである機器を操作すると、ネクサスの装甲が変形し、箱型の手脚は細くなった代わりに巨大なアンロックユニットを背負う形になった。
「イメージインターフェースを介した変形を行えるようになっているから、恐らくこういう定型の変形だけじゃなくて、操縦者の土壇場の発想でいくらでも変形したりするかもね」
その後、軽く質疑応答してプラットフォームの紹介は終わった。そこで龍姉は本題に入ると言った。
「AISW、対IS兵器の進捗はどうかな」
「ミニパクスが全力を傾けてハイパーセンサーを擬似的に再現してる。映像機器か投影するものは必要だが、全周視界を確保できてる。使用者への負荷は高いがな」
「ラースタチカはPICを再現したものをRPICと呼ばせてもらっています。再現度については慣性制御は置いておいて浮遊、加減速は可能です」
「シールドバリアー、絶対防御の非IS手段再現は電磁トーチカシステムで完全再現の可能性は見えています。しかし、限定的な展開になってしまう為に、今のところはまだ発展途上と言えます」
対IS兵器。既存の兵器を流用、発展拡大、またはISからのリバースエンジニアリングによって、ISによらないISの撃破手段を考えたものであり、各国でも研究がなされているが製品化出来ているのはここにしかない。
「うーん……正直、このまま研究開発は続けられそう?」
「ギガントは、電磁トーチカの改良、シールドバリアーの完全再現に大きな意義を見出しています」
「RAMPは手詰まりという感じです」
「同じくだ。使用者への負荷はどうしようもない」
「うーん……何だかなぁ。慣性制御はこっちでも研究してたけど、正直あれはオーバーテクノロジーも良いところだしなぁ。まぁ、ハイパーセンサーも同じく、か。シールドバリアーは何とかなりそうな感じあるけどね」
少し、会議が停滞する。行き詰まり、誰もが現状のやるせなさに唸るだけだった。
「AISWの基礎理論、または基本的な戦い方は高度を落とさせ、直射又は曲射火器によって地面に釘付けにし、そこを叩く。複数のAISWが連携し、また撃破可能なだけの火力を求められる」
「そうだね、ピアーズ。だけど、それだけじゃ足りない」
「やはり、ISに対するのはISというわけですか」
「そのためのネクサスですものね」
上を向いて、龍姉が溜め息を吐く。
「会議は終わりにしよう。どうにか出来ないものをどうにかするのは時間と技術だからね」
その言葉に、各人が資料を纏め始める。
「じゃあ、ここからはオフレコね」
その中で、いつも通りの龍姉がそう宣言する。その言葉に、誰もが手を止めた。
「1年後、世界初のIS男性操縦者が現れる」
「……what?」
ピアーズさんが、心底驚いたように声を絞り出す。
「そこに、真琴も送り込む。ついでにもう一人二人くらい見繕ってIS学園に送り込みたいね」
頬杖をついて、まるで面白くないと言いたげな表情で龍姉はまだ言葉を続ける。
「社内外を問わず、不穏な動きが多すぎる。今は野放しにしてるけど、必ず科学者が頑張らないといけない時代が来る。これは私の予想だけどね」
「……それを止める手立ては?」
「あるよ。幾らでもね。でも、それじゃあ駄目なんだよ。人はISを宇宙に飛ばさないといけない。束とも話してたんだ、今のままじゃいけないって」
「龍華、それは……今を壊すってことか?」
「んー……そうなるかもね。でもさ、ピアーズ。考えてよ。ハイパーセンサーも元は宇宙用、それなら兵器としてよりも宇宙開発に使ってほしいのが開発者じゃない?」
それまで黙っていたレーヴェさんが口を開く。
「私個人の意見です。これはギガント社の意向ではありません。あなたはそこまで考えてISのリバースエンジニアリングを?」
「そうだね」
「であれば、神峰重工だけでも出来たのでは」
「それじゃ駄目だよ。確かに、内だけでも可能かもしれない。でも、今は獅子身中の虫を抱える身。それまでは皆に頑張ってほしくてさ」
レーヴェさんはそれを聞いて、眼鏡を直して口を閉じた。
「それに、技術は広くあるべきだよ。こうして企業連として4カ国の企業が肩を並べているのなら、私はまだ希望はあると思うし、我々がいなくなってもバラ撒いた技術は残るからさ」
「まさか、死ぬつもりか?」
「まさか!端から死ぬつもりで生きてる奴はいないよ。申し訳ないけど、皆にはまだ私のわがままに付き合ってもらうよ」
龍姉が、ネクサスを指差す。撤収しろって事か。
「本当に、男性操縦者が……」
「
「私と束がそう望んだ。世界を変えることをね。じゃあ、ゆっくりしていってよ。帰ろう真琴」
ネクサスを撤収して、龍姉が車椅子を押してくれる。振り返って見上げたその顔は、どこか知らない龍姉の顔をしていた気がする。