【オール幻覚】ac6「約立たず共!愉快な慰安旅行の始まりだ!」 作:ハッピー志向
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アイスワームを無事に破壊し、ガレージに戻った621。
そこに一件のメッセージが届く。
「G13!G1 ミシガンだ!本日はお前に依頼を送る!最優先依頼だ!絶対に来い!以上!」
そう言ってスクリーンが切り替わり、依頼内容が書かれる。
【温泉集合】
○○─○○地区にある温泉に二日間滞在しろ!尚、今回の費用はベイラム及びアーキバスから出る!存分に遊ぶと良い!(ハンドラー・ウォルターも招聘しよう)
「ふむ、621、お前も先の作戦では相当消耗しただろう。費用も企業持ちだと言うし、行った方が良い。
……何、私も?ああ、勿論そのつもりだが。
……ふむ、完全義体?確かにカーラは持っているかもしれないが、何故?
……あぁ、分かった。用意しておこう」
旅館に備え付けられたガレージに二機のACが到着する。
G4 ヴォルタとG5 イグアスだ。
この二人は何度も機体が破壊されているため、今日は輸送用ACで移動した。
「よっしゃ!一番乗りだ!さっさと行くぞ、ヴォルタ!」
「イグアス、お前耳鳴りは大丈夫なのか?はしゃぎすぎんなよ!」
そう言いながら二人は旅館の扉をくぐる。
そこには、ロビーでお茶を飲みながら寛いでいるカーラ、ミシガン、スネイルがいた。
「おや、ビジターじゃないね、レッドガンのG4とG5かい」
そう言って片手を挙げるカーラ。
それと同時に、館内放送用のスピーカーからチャティの声が聞こえる。
「どうも、G4、G5、このような形での登場となってすまない」
その後カーラがぼやいているように、チャティ用の義体を使われた上に、容姿なども621に細かく注文をつけられていたそうだ。
しかしその注文を聞いている三人は揃って、誰かからの伝言のようだという感想を抱いていた。
ミシガンが茶を入れて二人を呼び止める。
「G4、G5!こちらに来て寛ぐといい!なに、この旅館は宇宙一と言うほどでは無いが惑星一くらいには安全な場所だ!ここでゆっくり英気を養うといい!」
スネイルがその横でうんざりしたような顔をしながら端末を弄っている。
「全く……もう少し声を抑えたらどうですか?これだから戦場上がりは……」
その時、カーラの持つ携帯端末が震える。
「へぇ、ビジターが今ようやくガレージを出たそうだ。少し遅れるかもしれない、と言っているね。ウォルターが」
それを聞き、ミシガンも聞き返す。
「ふむ、G13の拠点からここまでだとどれくらいかかるんだ?それ次第では予定を変更せねばならないが」
「ま、言っても2時間、ってところかね、普通に進めば」
「ふんっ、野良犬で2時間なら俺は1時間で着くね」
いつの間にか席につき、茶を飲んでいたイグアスがそう返す。
隣に座っているヴォルタが少し肩を竦める。ミシガンもやれやれ、と言った様子だが小言を言う気はないようだ。
と、そんな話をしていると地響きが起こる。
外を覗くと、レイヴンの機体が大きな音を立てながら着地した所だった。
「ほぉ、30分か、やっぱりやるね、ビジターは」
カーラがそう褒め、ミシガンも満足気に頷く。スネイルですら驚嘆の表情を示している。
イグアスは顔を真っ赤にしながら、俯いてしまっている。ヴォルタは流石に気の毒だと思いながら相方を見ていた。
そうして降り立ったACのコクピットから、二人が降り立った。
「……あぁー、狭かったー!全く、レイヴンは!私を吊り下げて運べばいいと思っていたなんて。確かに義体ですが、それでも生きているんですよ!いや、義体は生きていませんけど!」
揉みくちゃになりながら、621と義体を使っているエアがコクピットから降りた。
その光景を見て、カーラは大口を開けながら驚く。
「ビジター、君にはいつも驚かされるね。ボスがあそこまで驚いていたのを見るのは今日が始めてだ」
そう館内放送でチャティが語る。
その後、ウォルターやラスティと言った面々が集まっていく。
尚、呼ばれてもいないフロイトがメーテルリンクを引き連れてやってきた事で、スネイルが頭を抱えたことも記載しておく。
「任務は終わらせた?終わらせたでは無いんですよ、全く……!予定がない?予約もないです!本当に、あなたという人は……!」
そうして各々が一度、部屋に荷物を置きに行こうとする時に、レイヴンはラスティに呼び止められた。
「……戦友、荷物を置いたらロビーに集合して欲しい、これは誰にも言ってはならない。特に女性にはな。では、またな。戦友」
キャリーケースを持ったウォルターが、621とエアを連れて部屋に向かう。
エアは周囲の物に夢中な様子で、置いてある壺に触ろうとしてウォルターに制止されている。
「……ん、何だ?621?後でⅤ.Ⅳラスティに呼ばれている?……ふむ、他言無用、女性には特に……?そうだな。いや、お前の好きにすればいい。旅なのだから、楽しめばいいさ」
ウォルターのその言葉を聞き、621はロビーへ向かっていく。
「あれ、レイヴン?どこへ行くのですか?」
エアが621が反対側に向かっていくことに気づき、呼びかける。
「まぁ、放っといてやれ。あいつにも友達が出来たんだろう」
エアはその言葉を聞き頬を膨らませる。
(友達が、出来たのですね。レイヴン。私以外にも……)
ロビーに621が着くと、そこにはラスティとイグアス、ヴォルタがいた。
「あ?!野良犬?てめぇも来んのかよ?」
621が首を傾げると、ラスティが横に来て説明を始める。
「……戦友、依頼内容を簡潔に言おう。超高難易度の依頼だ。報酬は秘境の地。ハンドラーやミシガン総長に気付かれずに、およそ5m超の壁を乗り越えなければならない。勿論、ACを用いずにだ」
椅子に座って寛ぐヴォルタも話す。
「G13、お前の腕は信用しているが、このミッションは簡単では無い。足を引っ張るならば抜けてもらおう」
ヴォルタの対面に座るイグアスも話す。
「足を引っ張るに決まってんだ。野良犬風情が、さっさと抜けてもらった方がありがてぇんじゃねぇかな」
それにラスティも反応する。
「しかし、今回のミッションは増援も期待できない。出来る限りの人数は必要だ。……大丈夫さ、戦友ならば必ず望んだ結果を出してくれるだろう。やってくれるな?戦友」
621が頷いたとき、ロビーの入り口側から大声が聞こえてきた。
「はっはっはっ!あの面々を相手に覗きとは、思い切ったことを考えるものだ!面白いではないか!なぁ、V.Ⅰ!」
ミシガンに肩を組まれているフロイトはうんざりした顔で言う。
「正直、あまり気乗りしないんだが。私には関係ないし、部屋に戻れないだろうか」
そう言うが、ミシガンはその肩を離そうとしない。
「そう言うな、お前が入れば丁度六人になる。そうすれば秘伝の作戦を用いて、成功率を限りなく上げることができる!どうだ?興味が湧いてきただろう?V.Ⅰ」
そのミシガンの台詞に、フロイトも悩んだ顔をする。
「よし!この六人でかかればどんなミッションも容易にこなせるだろう!」
それぞれの表情は違えど、こうして一致団結した男たちが不可能ミッションに挑む。
少し後、風呂場で裸になった六人の男たちがいた。
「V.Ⅳ、女性達が風呂に入っていったのを確認したか?」
「ええ、ミシガン総長。……あなたの秘伝の作戦とやらを知れるのが楽しみだ」
そこでミシガンは集まった五人を見渡す。
「……どいつもこいつも良い面構えだ!よし、作戦を発表する!その作戦とは……ピラミッドだ!」
それを聞き、そこにいる殆どの人の表情が変わる。勿論、落胆である。
「いいか、風呂場というのは足場が総じて不安定だ!だからこそ、樹大枝細、そういったコンセプトで向かう必要がある!壁の高さから考えても、縦に三人分積み上げなければならない!より安定を取ったこの形こそが最善と言える!」
その場にいた者の表情も少しは明るくなる。
「G1、しかしだな、それでは一人しか見れないのではないか?」
そうフロイトが発言する。
「ほう、V.Ⅰ、貴様も見たくなってきたか?安心しろ、一番上に乗る人間をローテーションすれば問題あるまい」
そこでイグアスが言う。
「よっしゃ!一番は俺だ!野良犬、てめぇはせいぜい下で俺たちの土台になりな!」
「ほう、威勢がいいな!G5!しかし、この作戦の一番目はもう決まっている!G13!貴様がこの作戦の一番乗りに相応しい!」
イグアスの顔が歪む。
「まずG5、貴様では身長がネックになる!それだけでない!体格差を見た時、最もこの中で土台として適していないのがG13であることは明白だ!」
イグアスが不承不承ではあるものの頷き、ラスティとヴォルタも同意している中、フロイトは少し目を細めて、怪しそうにミシガンを見つめる。
「よし!作戦開始だ!総員、配置につけ!」
それぞれ戸惑いながらもピラミッドが出来上がっていく。
一列目にラスティ、ヴォルタ、イグアスが並び、二列目にフロイトとミシガン。その上によじ登るのは621である。
尚、全員が裸である。傍から見れば気が狂った集団とでも思われるだろう。
「G13!気を付けろ!滑って死んだなど笑い話にすらならんぞ!」
そうミシガンが激を飛ばし、ようやく621は頂上へ辿り着く。
しかし、そこで621が見た景色は、理想郷などでは無かった。
「……何?!戦友!誰もいないだと?!」
その時、地面に大きな衝撃が走る。
旅館の向こう、女風呂の方角からシンダー・カーラがACに乗って表れたのだ。
そして間を置かず、男風呂の方角からも白い無人機体が表れる。
「不味いな!G13!怪我しないように早く降りろ!」
「おい!野良犬!てめぇ何してんだ?!折角俺らが足場になってやってんだからせめて一つくらい何か良いもん見ろや!」
「気を付けろ!イグアス!俺らが下手に動くと倒壊する!」
それぞれが三者三様の言葉を発する中、女風呂の方から女性の声が聞こえた。
「独立傭兵レイヴン!そこで何をしているのですか!?」
その声を聞いてラスティが言葉を発する。
「V.Ⅵ メーテルリンクだ。彼女も温泉に浸かりに来ていたのか……」
「そちらからV.Ⅳ ラスティの声が聞こえました!G1のミシガン総長もですね!そっちに行きます!逃げないでください!」
それをメーテルリンクが言う間にも、621は足場から降りて逃げようとしていた。
そして621が上から動いたことで、他の五人もそれぞれ立ち上がり、逃げようとする。
そこで、ACの腕がにゆっと伸び、621を捕まえた。
「レイヴン、風呂場で走るのは危ないですよ」
ACのスピーカーからエアの声が鳴る。
そしてカーラも、丁寧にイグアスとヴォルタを捕獲していた。
「こっちも二人捕まえたよ、残念だったね、ビジター達」
その間にラスティ、ミシガン、フロイトの三名は風呂場を脱出する。
ミシガン、フロイトはそれぞれ抜け道を使い、無事に逃げ延びたが、正直に出口から出たラスティは、メーテルリンクとかち合って捕縛されている。
よって現在、裸にありものの浴衣を着させられた三人はロビーで正座している。
621はエアが捕縛後、そのまま部屋に連れていかれてしまった。
その三人を見張っているのはカーラ。三人が正座した姿を見てケラケラ笑いながら饅頭を食べている。
メーテルリンクは現在、逃げ延びたミシガンとフロイトの二人を探している。
様々な場所を探したメーテルリンクは、宴会場に着く。
そこには、一人で料理を食べているスネイルがいた。
「スネイル隊長、ここにいたのですね。ミシガン総長とフロイト隊長を見かけていませんか?」
スネイルは気だるげに返事をする。彼からしてみれば一人で料理に舌鼓を打っていた所に突如闖入者が入ってきた形なのだ。
「あの二人が何かしたのですか?」
メーテルリンクは肩を震わせ返事をする。
「風呂場覗きを主導しながらもまんまと二人とも逃げ延びたのです……!絶対に探し当ててみせます!」
スネイルは適当に生返事しながら、部屋の隅にある襖にチラリと目線を寄せる。
「私には関係ありませんね。もし見つけたら報告して差し上げますので、早く出ていって貰えませんかね?」
少し不機嫌そうにそう言うと、メーテルリンクも背筋を伸ばして返事をする。
「はい!すみませんでした、スネイル隊長!どうかよろしくお願いいたします!」
そう言って彼女は足早に立ち去っていく。
「……さて、そこにいる二人のことを報告するか、悩みますね」
そうスネイルが言うと、襖から慌ててミシガンとフロイトが出てくる。
「待て待て!共にアイスワーム戦を成し遂げた、いわば戦友ではないか!」
「私はここのG1に唆されただけだ。告発するにしても彼だけで頼む」
スネイルは悩む素振りを見せながら、手で二人を呼び寄せる。
そうして来た二人を対面の席に座らせると、手に持っているグラスをミシガンの方へ差し出す。
「ほぉ!くれるのか!ありがたい!」
そうミシガンが言うと、スネイルは手を振りながら
「そんなわけがないでしょう。ほら、あなたの横に瓶があるじゃないですか、それをここに注ぎなさいと言っているんですよ」
「む……酌か、まぁ、しょうがあるまい」
そう言ってミシガンが酒を注ぐ。
「フロイト、あなたもこの料理を取り分けて私に渡しなさい。ほら、箸はそこにあるでしょう」
フロイトも不承不承という形ではあるが従う。
「……ふむ、なるほど、これが慰安旅行ですか。確かにいいものですね、この景色は」
そうやって働く二人を見ながら、スネイルは嫌らしく笑う。
話はロビーに戻る。
結局二人を見つけられなかったメーテルリンクがロビーに戻り、そこに座っている三人を説教している。
「おい、野良犬はどうしたよ、あいつにも必要だろうが、その説教がよ」
そうイグアスが不満を垂らすと、メーテルリンクも確かに、と言った表情をしてカーラの方を向く。
「まぁ、いいじゃないか、ビジターは。今頃あっちでもこってり絞られているだろうし、何より、ビジターは女の体になんて興奮しないからね。それはあんたらも何となく分かっているだろう?」
確かに、と言った表情に全員がなる。
カーラはその表情を見て思いつく。
(ふむ……ミシガンはこうなることまで見越して、ビジターを頂点に置いたんじゃないかね……だとしたら、フロイトを抱き込んで不確定要素を減らしたのも、こうして馬鹿騒ぎの説教が始まることまで予測済みだった?……まぁ、深読みしすぎかもしれないけどね、ミシガンらしくない行動が続いたし、そうかもしれないけどね)
「そうだろうな」
ウォルターがそう言う。部屋に戻ったエアと621の会話を聞いて発した言葉だ。
「確かに唆されたのかもしれませんが、だからといって覗きはいけないことです!」
そうエアが621を後ろからホールドしつつ言う。
「ああ、そうだろうな」
「……慰安旅行だし、少しくらいならいいと思った?ああ、まぁ、そうだろうな」
「悪友ばっかりです!レイヴン!ミシガンやらラスティやらの言うことばっかり聞くのは良くありません!せめて私に相談してください!」
「……あの二人はある程度信頼している?ふっ、そうだな。私も、ある程度は信頼しているよ、621」
「信頼とこれは別問題ですよ!レイヴン!ほら!こっちの話も聞きなさい!」
そうやってわちゃわちゃと揉み合うエアと621、それを眺めながら、ウォルターはふと別のことを考える。
(ヴェスパー部隊主力のフロイト、彼はアイスワーム戦の間、何をしていた?彼の乗ってきたAC、あれは破壊というより捕縛に向いている機体のはず……)
彼は、これから先のルビコンの戦火を誰よりも早く認識していた。
が、それはまた別の話ではある。