ああ……マコト様にヒナちゃん……ありがとうブルアカ……それしか言えない……
久しぶりの執筆。期待しないで。
その日は随分と天気の悪かったことを覚えてる。
普段見上げるだけで気分を明るくしてくれていた青空が、真っ黒な雲に覆い隠される。そんなどんよりとした、お世辞にもいい天気とは言えないような空だった。
まるで自分の心象を表しているようだ、なんて変な感想を抱いたことも覚えていた。
昔から私は真面目さだけが取り柄だった。
クラスで役割を決めることになったらいつだって自分は委員長に立候補していたし、悪いことをしていたら誰だろうと注意して回っていた。おかげでついたあだ名は『委員長』。ぴったりのあだ名だと思った。むしろ褒め言葉とすら感じていた。
けれど、クラスのあの子たちはそう思って使っていなかったみたいだった。真面目さ“だけ”が取り柄。融通の効かない堅物。空気の読めないうざいやつ。彼女たちはそういう意味合いを込めて私を呼んで、笑って、陰口を言っていた。
次第にその行為はエスカレートしていって、気づいた時には『いじめ』と呼ばれるようなこともされていた。けれど自分はそれを辞めさせることはできなかった。その頃にはもう、自分は彼女たちに逆らえないよう徹底的に“教育”されていた。
その関係は学年が変わっても、私が正義実現委員会に入っても変わらなかった。むしろひどくなった。彼女たちの日頃のストレスの捌け口。もしくはただの暇つぶし。それが私だった。
怖いのに、嫌なのに逆らえない。声を上げることも助けを求めることも許されない。そんな状況で心はすり減っていき、最後の最後で自分が選んだのは“逃げる”ことだった。
嫌なものを全部投げ捨てて逃げる。荷物もほとんど持たず、トリニティ生の少ない方向を目指してただただ走った。どこかであの子たちに見つかるのではないか。私が逃げたことに気づいて追ってきているのではないか。そんな恐怖に駆られてがむしゃらに走った自分がたどり着いたのは、トリニティなんかよりももっと酷いと有名なゲヘナ学園領だった。
気づいた時にはもう遅かった。
急いで戻ろうにも来た道はわからないし、トリニティの制服はゲヘナの中ではよく目立つ。すぐにお金目当ての不良たちに囲まれてしまった。
お嬢様学校で有名なトリニティ生徒はゲヘナ生徒のお小遣い稼ぎの格好の的だってことは知っていた。正義実現委員会に入った以上、そう言った現場に立ち会ったこともある。けれど、いざ自分がそのような目に遭うのとは全然違った。
蘇る恐怖心。正義実現委員会で期待の新人だとチヤホヤされていい気になっていた自分はもうそこにはいなかった。ただ殴られるのを恐れてうずくまる子供が1人。くるはずのない助けを求めて泣いていた。
『随分と楽しそうじゃないか。害獣ども』
でもそんな自分をあの人は助けてくれた。
ゲヘナ風紀委員副委員長、戦華ヒバナ。正義実現委員会でも注意すべき重要人物としてマークされていた、ゲヘナ領の治安維持を担う番犬。
そんな彼女の背中は正義実現委員会のハスミ先輩やツルギ先輩と同じくらい大きくて、頼もしかった。
そんな彼女は噂と違ってずっと紳士的で、かっこよくて、優しくて────それ以上にトリニティとゲヘナに対して強い憎しみを抱いていた。
険悪な中であったトリニティ生相手だけでなく、同じ学園であるはずのゲヘナ生徒までも害獣と呼び嫌悪する彼女は、私と同じように虐められ彼女に助けを求めた子たち以外に対して、私達に向ける優しげな顔とは正反対の……いや、むしろ何の感情すら感じないような、全てが抜け落ちたような無表情で接している。そのことに気づいた時、私は強い恐怖を覚えた。
恐ろしかった。
神様のような人だった人が、途端にわからなくなって、もはや恐ろしさしか感じなかった。
あの人が風紀委員に反旗を翻すと言ったときも。
エデン条約と呼ばれる約束事を壊して台無しにすると言ったときも。
そして私を虐めてきた子達を捕まえてきたときも。
私はあの人のことがわからなかった。
だから裏切ってしまった。
これが私の目指した正義ではないと感じた……なんてただの建前で。本当に、ただ恐ろしかったから。
あの人が恐ろしくて恐ろしくてたまらなかったから。恩を仇で返す行為だと知りながら。罪悪感と恐怖を抱き抱えながら。
「やっほ。ぱっつんちゃん」
そんな相手に道端で突然声をかけられた私は一体どうすればいいんですか?
「やっほ。ぱっつんちゃん」
「ひぃぃぃぃ!?!?」
散歩していたら見覚えのある子がいたので声をかけたら思いっきりビビられた件。
いや、うん。ほんとただ知り合いを見つけて声をかけただけで特に何の用もないんだけど……
「……そんなに怖がることもないんじゃないかい?」
「ひぇぇぇ!ごめんなさいぃぃ!」
「おいおいおい、やめてくれないかい?これじゃあ僕が君をいじめているみたいじゃないか」
元正義実現委員会のぱっつんちゃん。いや、今は“元”ではなく正義実現委員会に戻ったのかな?
この子は僕がトリニティとゲヘナに対して反旗を翻した時、一緒に着いてきてくれた子で、結局トリニティ側っていうか正義実現委員会側に寝返っちゃった子だね。
「ゆ、許してくださいぃぃぃ」
「許す?ああ、あの時君が僕を裏切ってたこと?」
「やっぱりバレてたぁぁぁ!!殺されるんだぁぁぁ!」
「殺さないよ!?」
ああもう!人の目が集まってきた!ぱっつんちゃんを小脇に抱え人目のないところに移動する。通報されてそうだなー……うぅん。困った。
「ごめんなさいごめんなさい!お金なら払いますから!殺さないで!!!」
「ちょ、お、もち、落ち着け!」
「あぅ!?」
ぱっつんちゃんの頭をチョップで軽く叩く。
全く失礼な。この僕がそんな害獣どものようなことをするわけがないだろう。流石にアレらと同列に扱われるのは僕でもキレちゃうぞ?
「……すみません、落ち着きました。」
「まったく……」
「……本当にカツアゲしないんですか?」
「君の目に僕はどう映ってるんだい!?」
「げへn
「いい加減にキレるよ?」
「ひぃぃ!?」
君僕と結構関わりあったんだから僕がゲヘナとトリニティに対する極度のアンチだってことわかってるだろうに。わざとかい?流石の僕もプッツンくるよ?
「はぁ……見たことがある顔がいたから声をかけただけなんだけどね」
「…す、すみません……」
「まったく……それで?最近どうだい?」
「え……?どう、とは……?」
「学園生活だよ。虐められてたりはしないかい?今の僕はシャーレ所属だからね。あいつに頼るのは業腹だが……最悪シャーレで君を助けてあげることもできる。こんなテロリストには頼りたくないと思うけど……僕にできることならなんでも言ってくれ。できる限り力になろう」
「あ、え、だ、大丈夫です」
「あの後先輩方に相談に乗っていただきまして……私を虐めてきたあの子達もヒバナさんの件以来は居心地が悪くなったのか……それとも貴方がトラウマになったのか姿を見ませんし」
「それは…」
……ああ、よかった。
今更遅いってことはわかってる。僕が風紀委員副委員長をしていた頃にトリニティのトップに確認を取って“あの子”があの学園から姿を消し退学してしまっていることは知っていた。
だから、今更虐めが無くなってもあの子への罪滅ぼしにすらならないことはわかってる。そもそもトリニティなんて害獣の巣窟でいじめがなくなることがないことくらいわかってる。
けれど、それでも、僕の行動でその数が減って、あの子のような目に遭う子が減ってくれるってのは喜ばしいことだ。
……本当は、あの子がいなくなってしまう前にやるべきだった。今更遅すぎることくらいわかってる。自己満足だってことも。
それでも、それでも……
「本当に、良かったよ」
「っ…ヒバナ、さん……」
「おい!そこで何をしている!!」
「げ!?」
人目を避けて逃げ込んだ路地裏の入り口に立っているのは、ぱっつんちゃんと同じ制服をきた正義実現委員会の子。
おそらくあの場にいた誰かが僕にぱっつんちゃんがカツアゲでもされているのだと思って通報したのだろう。もう少し話していたかったが……面倒ごとはごめんだ。
「じゃあね!ぱっつんちゃん!また機会があったら会おう!」
「あ!ヒバナさん!」
「困ったことがあったらいつでもシャーレに来てくれていいからねー!!」
「待て!」
ああ、君のこれからに楽しい学園生活があることを願って。悪者である僕はスタコラサッサと退散するとしようじゃないか。
どうか君の未来に、透き通った青い青春の記録が在らんことを。
……ヒバナちゃんこんないい子だっけ…?
ヒバナちゃんは良い子なんです!
ただちょっと先生が嫌いではヒナちゃんの思いに対しても鈍感で「あの子」以外の他人に興味が薄くってトリニティ&ゲヘナに対して殺意むき出しなだけで良い子なんです!